ドイツらしさの主流 ラミー2000

ドイツらしさの主流 ラミー2000
ドイツらしさの主流 ラミー2000

仕事が終わってホッと一息ついた一人の時間、自分にとって柱となる万年筆はどれだろうと、常時インクを通している13本の万年筆を見ながら考えています。

それはこの中にあるのか、それとも敢えて欠けたままに10年以上放っているあの万年筆なのか。
あの万年筆とは何なのかはまだ言えないけれど。
そんなふうに個人的なものとして万年筆について考えるのは、実は楽しい悩みなのです。
自分にとっての1本も決めることができない私とは違って、自分にとっての1本をはっきり持っている人は結構いるのだと、皆様のお話をお伺いしていて知りました。

それはもしかしたら万年筆を売る側の人間である私と、買う側である皆様との立場の違いに関係があるのかもしれません。
やはり売る側の人間としては個人的な好き嫌いは交えず、公平に全てのメーカーの万年筆を見なくてはいけないという気持ちが無意識のうちに働いていて、個人的な万年筆でさえも序列をつけてはいけないと思っているからなのだと思うようになりました。

私の師匠の中の一人にラミー2000が自分の持っているものの中で最高のペンだと言う人がいます。
ヘミングウェイやビンテージの逸品を含めて100本にも届こうという人の最高のペンがラミー2000だと言われた時、それは話のネタなのではないかと思ってしまいましたが、どうも本当のようです。
2万数千円の価格のラミー2000が数万円、中には10万円以上にもなる万年筆よりも良いというのをその人なりのジョークなのだと思ったのです。

ラミー2000が悪いペンだと言っているのでは決してありません。
ラミー2000は1966年に誕生した万年筆で、2000年まで通用するペンとしてラミーがまさに社運を賭けて発売した万年筆でした。
ほとんどの万年筆メーカーが社内でデザインしたものを製品化するのが一般的でしたが、ラミー2000では、当時新進気鋭だった工業デザイナーだったゲルトハルト・ミューラーを起用しました。
2000の名に偽りなく、当時最も先進的なデザインで、今もまだ最もユニークな存在の万年筆です。
ラミー2000が最高の万年筆だと言った先ほどの方は「非常にドイツ的な万年筆やな。」とラミー2000を評しています。

ペリカン、モンブランもとてもドイツらしい万年筆だと思われていますし、私もそう思っていますが、ペン先が大きなクラシックスタイルの万年筆が多くラミー2000のドイツらしさと、他のクラシックスタイルのドイツらしさとはかなり方向が違っています。
シンプルで一切の装飾のないモノトーンのラミー2000は1940年代に起こったバウハウス運動の流れを汲んだデザインで、戦後のデザインだと言えます。
それに対して、ペリカン、モンブランのクラシックな万年筆のデザインは戦前のデザインと言えるのではないかと思います。

万年筆以外の製品では、私たちはラミー2000のようにモノトーンでシンプルなものをドイツらしいと思っていたはずです。
しかし最もドイツの万年筆らしいと思われているペリカン、モンブランはそうではなく、万年筆が他の世界とズレがあることに気付きました。
ラミー2000は異端なのではなく、最もドイツ的なデザインの主流を体現している万年筆だったのです。

その方のラミー2000は1975年に手に入れてずっと愛用しているとのことで、ペン先のイリジュウムは見事に美しく平らにすり減っていました。

⇒ラミー2000