ペンのシンプルなデザインについて考える

ペンのシンプルなデザインについて考える
ペンのシンプルなデザインについて考える

十数年前にある先輩ショップオーナーを訪ねたことがありました。
情熱に溢れた語れることの多い人で、5時間近くご自分の仕事や夢について語ってくれて、大変勉強になり、その言葉の中には私に影響を与えたものもあります。
規模はかなり違うし、雲の上の人だという距離は縮まっていないけれど、自分も同じような立場になって、よくその人のことを思い出します。
その人が言っていた、「万年筆も靴や服、鞄のようにデザインで選ばれてもいいのではないか、なぜ何十本も試し書きして選ぶ必要があるのか」という言葉がとても印象に残っていて、私もそういうふうに万年筆がなればいいと思っていました。
でも万年筆がデザインでなく、試し書きによって選ばれるのには実は理由があって、ペン先の状態が不安定だからに他ならない。
どの万年筆もインクを入れたら気持ち良く引っ掛かりなく書くことができることを約束してくれたら、書けるかどうか心配せずに安心してデザインで選ぶことができるのに。
私が万年筆の販売においてペン先調整は必要なスキルだと思ったのはその辺が理由で、その先輩の言葉がずっと自分の中に残っていたからだと思います。
気持ち良く書けるかどうかは店に並んでいる時点でクリアしているので、当店では好きなデザインのものを選んで欲しいと思っています。
実際はお客様のデザイン的な志向をお聞きして、それに沿うものを私がご提案することが多いかもしれません。

でもデザインの認識にズレがあることもあって面白く思います。
例えばシンプルなデザインのものが好みですとおっしゃられた時に、まず私たちはラミー2000のような何の飾りのないものをイメージして、お勧めするものがラミー一辺倒になったりします。
でもシンプルなデザインの意味は実はそうではなくて、デザインに凝っていない万年筆らしいデザインのものもそこに含まれることもあるようです。
ラミーももちろんシンプルだけど、それはシンプルなデザインに凝っていてある意味シンプルな存在ではない。
それよりも国産のパイロットカスタムヘリテイジのような万年筆がシンプルなのだと聞いて、私も納得できました。

私たちはそのクリップを見ただけで、もしかしたらボディエンドのラインを見ただけでどのメーカーのどの万年筆か言い当てることができるけれど、普通はパイロットカスタムヘリテイジを見ても、それがパイロットであることなど分からないと思います。
ラミーはもちろん、ペリカンやアウロラなどデザインに特徴があって一目でそれと分かるけれど、パイロットなど国産の万年筆のそれとは分からないところが、デザイン的にシンプルで、デザインとしてそれを選ぶ心が大人の選択ひとつだと考えると、国産の万年筆のデザインがとても魅力的に感じます。

国産の万年筆は書き味を重視した時に選択するものだと思い込んでいたけれど、このように考えるとデザインとして選ばれてもいいのだと思い、国産の万年筆を見直すようになりました。
その書き味や道具としての機能は一流である国産の万年筆のデザインも何か誇らしく思えるようになってきました。

⇒パイロット カスタムヘリテイジ912