モンブラン146と龍玄手本集

モンブランマイスターシュテュック149を使い始めて、149と146の違いについて考えるようになりました。

149は太軸で、とても楽に持って書くことができるけれど、どちらかと言うとサラサラっと書く走り書きに向いているのではないかと思います。この万年筆で書くと、私の場合はどうしてもこの万年筆の文字になります。きっと149にはコツのようなものがあって、私はまだそれに気付けていないような気がします。

そして146は、149に比べるとかなりコントロールしやすいので、文字の細部にまで神経を配ってきれいな文字を書くことができる。そのコントロールのしやすさは、細めの字幅でも体感できますが、特に太字で真価を発揮します。

そもそもモンブランの太字は、縦線が太く横線が細いスタブっぽい形状をしています。そのため少しペン先をひねるとインクが出にくいこともありますが、面白い文字が書ける、書いていて楽しいペン先です。146はコントロールしやすく、書く時にペン先を紙に合わせやすいので、より楽しめると思います。

146に限った事ではありませんが、ここぞという時に自分なりにきれいな文字が書ける万年筆に出会えたら、それは幸せなことだと思います。

そういう万年筆との出会いの場でも、当店はありたいと思う。

今は自粛していますが、当店では月に一度、堀谷龍玄先生にペン習字教室をしていただいているので、なるべくきれいな文字を書けるようになりたい。発送する万年筆に添えるために、毎日お客様へ手紙を書いているので特にそう思います。

今まではどうやって書けば自分の文字がサマになって上手く見えるかということばかり考えて、連綿などを入れて書いていたけれど、最近では違った考え方をするようになりました。

なるべく気負わずに、自分らしく書く。その方が読む方に気持ちが伝わるような気がするし、見苦しくないような気がする。何よりも書いている自分がその方がいいと思う。

今では楷書で1文字ずつ、丸っぽい字を書いています。149も<M>を選んだし、最近太めの字幅のものを好んで使っているので、そういうことも文字に表れているのかもしれません。万年筆も、太くてどっしりした文字が書けるペンを多用する傾向にあります。

手紙はそんなふうに書いているけれど、自分のクセを殺して書くペン習字も大切にしています。

先に書いたペン習字教室の堀谷先生とは、もう10年以上という本当に長いお付き合いをさせていただいています。

その先生に監修していただいて、万年筆で書くことを楽しみながらお稽古するための、「龍玄手本集」が完成しました。

このお手本集の特長は、基本的な文字の他に、様々な万年筆を持ち替えてそれぞれのペンの特長を生かしたお手本を収録しているところです。

セーラー長刀研ぎ、ペリカンM1000、M800スタブ研ぎ、ウォール・エバーシャープのフレキシブルニブ、パイロットフォルカンなど、ペン先は知っていても筆致はあまり見る機会がないと思います。そんな特殊ペン先を使って原稿用紙に書いたものもあって、字幅のイメージも出来るし、ぜひ真似したいと思いました。

個人的には地名のお手本があって、これも大いに気に入っているけれど。

様々な万年筆を持っている人、これからいろんな万年筆を使ってみたいと思っている人に参考にしていただけるものになっていて、当店で販売する意義のあるお手本集になったと思っています。

⇒Pen and message. 「万年筆で書く・龍玄手本集」

デルタの遊び心を感じるキャップ式油性ボールペン

気に入ったボールペンは仕事を楽しくしてくれます。

いつも万年筆をご紹介していますが、書くことを楽しくしてくれるものなら区別せずにご紹介したいと考えています。今回は、ユニットを付け替えると、1本で万年筆にもボールペンにもなる筆記具のご紹介です。

ネットゥーノの「1911コレクション」がその万年筆にもボールペンにもなる筆記具です。

万年筆はスチールペン先で、しっかりした書き味で使いやすいのですが、私はこのペンを敢えてボールペンとしてご紹介します。

このペンは凝った構造のボールペンユニットをつけると、キャップ式の油性ボールペンになります。ちゃんとリフィルを筒に通してセットする仕様で、この一体感や完成度の高さは、もしかしたら不必要なことなのかもしれないけれど、遊び心を感じさせてくれます。

キャップ式の水性ボールペンなら乾燥を防ぐという目的があるので珍しくはありませんが、キャップ式の油性ボールペンということ自体が遊び心があると思います。

回転式やノック式の方がスピーディーに芯を出して使うことができますが、万年筆のようにキャップを回して外し、書き始める方が優雅な感じがしますし、油性ボールペンなのでキャップを開けっ放しにしていても、ペン先が乾かないので小まめにキャップを閉めなくてもいい。

適度な太軸で、このペンなら長時間の筆記も快適に書けそうです。華やかなデザインですが、実用的なものでもあります。

ネットゥーノという名前は、万年筆の歴史の中で、何度も出たり消えたりしてきました。

イタリア、ボローニャにある老舗の万年筆/ステーショナリーの店「ヴェッキエッティ」がオリジナルの万年筆をネットゥーノというブランド名で発売して、それは古く1911年のことだそうです。

ヴェッキエッティのすぐ近くの噴水広場に海王神ネプチューン(イタリア語ではネットゥーノ)像があり、それがネットゥーノの名前の由来になっています。クリップにあしらわれた三又の槍はネプチューン像が掲げている槍がモチーフになっています。

ボディのシルバーのリングには、ボローニャの象徴であるポルティコ(柱廊の歩道)があしらわれています。

もう10年前になりますが、ル・ボナーの松本さん、分度器ドットコムの谷本さんとボローニャを訪ねて、この像を見ました。ヴェッキエッティにも入って、万年筆を買いましたが、今ここでその名前に出会えるとは。

このネットゥーノ1911コレクションは、今はなくなってしまったデルタの雰囲気を感じます。

デルタの元社長ニノ・マリノ氏がネットゥーノのブランド所有者から依頼を受けて製品化したのがこのネットゥーノ1911コレクションで、ニノ・マリノ氏の再起をかけたコレクションでもあります。

デルタは、一時は一世を風靡し、イタリアの名門万年筆メーカーのひとつに数えられるほどでしたが、倒産してしまった。

いろんな事情があったと思いますが、ニノ・マリノ氏の元に元デルタの職人が集まって、デルタらしさに溢れたネットゥーノ1911コレクションをまた作ることができました。

私はニノ・マリノ氏の再起を応援したいと思いました。

個人的な思い入れもあるけれど、このネットゥーノ1911コレクションは、書くこと、仕事をすることを楽しくしてくれる筆記具で、当店はこういうものを紹介したいと思いました。

⇒ネットゥーノ 1911コレクション

好みの中心にいる万年筆~アウロラ88ゴールドキャップ

良い万年筆とは人によってそれぞれで、これが一番というものは絶対にありません。

人がブログやSNSなどで良いと言っていることは関係なく、自分がいいと思うものを自分の好みで見定めるべきだと思っています。

それは、私が当店を始めた時から一番伝えたいと思って、発信し続けてきたメッセージでもあります。

例えば私が考える良い万年筆の基準は、「使う人の心に影響を及ぼして、生き方をも変えるようなモノであること」です。

良い靴を履くようになると、その日の自分の行動や天気を今まで以上に気にかけたり、足の運びや所作が丁寧になったり、服装にもこだわりを持つようになります。それと同じように、良い万年筆はその人の他のステーショナリーや持ち物を始め、書く文字など、美意識を作りモノの好みや行動に影響を及ぼすのではないかと思います。

私の場合アウロラ88クラシックは、自分のモノに対する好みを完全にひっくり返してしまった万年筆でした。

黒ボディに金キャップという、万年筆では最も力強いと思う配色。工業デザイナーマルツェロ・ニッツォーリが1940年代終わりに8の文字をモチーフにデザインした丸く滑らかでありながら力強いフォルム。

それを使い始めて、ブルーブラックやブラックのインクを使いたいと思うようになったし、革製品なら、洗練された光沢のあるクローム鞣しの革よりも、タンニン鞣しのオイリーな革を好むようになりました。何よりそれらがこの万年筆に合うと思ったからです。

そうやって一つの万年筆を中心として、モノの好みに統一性がとれてくる。それはきっと服装や鞄などにも広がっていくのだと思います。こういう現象を何と言うのか分かりませんが、私の場合は88クラシックが自分の好みの中心にいることは確かです。

最近こういう存在のモノ自体が少なくなったけれど、金キャップに黒いボディは大人の男性のための万年筆だと思っていました。

多くの人が若い時は、おそらく30代くらいまでは金よりも銀色の金具の万年筆を好み、洗練された色のあるものに惹かれるのではないでしょうか。

アウロラ88クラシックが大人の男性のためのペンと思ったのはそのためで、ある程度年齢を経た男性がこの万年筆に惹かれることが多い。

といっても最近は、男性のためのモノ、女性のためのものという表現をすること自体時代遅れになっているので、決して女性が使ってはいけないと言っているわけではありません。

その時の人とのやり取りなど思い出や、自分だけのストーリーがあるものは何物にも代え難い大切なものになります。そういう万年筆は手放すことができない。

値段などは関係なく、自分の想いが、その万年筆を私にとって良いモノにしています。万年筆は、そんな想いを象徴したモノとしていつも持っていられるものだと思います。

いつか手に入れたいと長く憧れて、自分がそれを使うのに相応しい年齢になってついに手に入れることができたと思える万年筆は、あるうちに買わないといけない限定品ではなく、必然的に長く存在し続けている定番品になります。そんな万年筆をもっと紹介したい。

アウロラ88クラシックは、そんな風に思うのに相応しい、自分の好みの中心にいて、影響を及ぼす、今では希少な万年筆だと思います。

⇒アウロラ88クラシック

手帳をきっちり書く

若い頃仕事が面白くなかった。

一日は長く、ただ店に立って時間が過ぎることばかり考えていて、自分はこんなふうにあと40年近くも生きていくのかと思うと気が遠くなりました。

でも根が単純なせいもあって、シンプルに考え方を変えてみたら、同じだった毎日が変化したのです。

それは本当にシンプルなことで、楽をしようと思わず、前向きに、積極的に仕事に取り組もうと考えました。

仕事が「やらされるもの」から「自分で見つけて楽しみながらするもの」になったら、同じ職場、同じ時間なのに急に自分の周りが明るくなりました。

その気持ちは手帳の書き方にも表れていて、手帳を楽しみながら書くようになり、手帳の使い方を自分で考えてきっちりきれいに書けたら、充実感を感じるようになりました。

当時は万年筆をまだ使っていなかったので、安いボールペンの中で書き味が好きなものを使っていたけれど、万年筆で書くようになって、手帳を書くことがさらに楽しくなった。

どんな手帳でも、そのフォーマットを自分流に使いこなす工夫が必要です。

それができるようになると、手帳はとても大切な仕事のツールとなって、仕事を楽しくしてくれるものになると思っています。

正方形オリジナルダイアリーは、自分なりの工夫がしやすいダイアリーです。

ダイアリーは予定を書くものだけど、その多くはToDoを書くものだと思います。

ウィークリーダイアリーを例にとります。

その日に完結できる短期のToDoはそれぞれの日付欄に書けばいいし、1週間でするようなToDoは右ページ日曜日下の4分割のどれかをそれに当てます。

右ページの4分割のスペースがこのダイアリーの特長で、私はこの4分割にそれぞれ専用の項目にしたいと思い、「ORDER・WRITE・THINK・WORK・MEMO」のゴム印をハンコ屋さんで作ってもらって、それぞれの項目に押しています。

「ORDER」は、お客様からいただいた注文内容を書いておき、納期の連絡など忘れないようにします。

「WRITE」は、その週に書かなければいけない原稿。

「WORK」は、具体的な作業。

「MEMO」はそのままで、覚えておきたいことを書きます。

1つ多いですが、THINKは、右ページ一番下のチェックボックス付きの項目をその場所にしていて、その週に結論を出さないといけないことを書きます。

こんな風に使うようになったら、他に代わるものがなく、毎年並んでいく背表紙を見るのも楽しくなります。

仕事を楽しくするためのダイアリー、仕事を楽しんでいることを象徴するダイアリーに、正方形オリジナルダイアリーをぜひ試していただきたいと思います。

*正方形オリジナルダイアリー2021年・ウイークリー

*正方形オリジナルダイアリー2021年・マンスリー