木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ

木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ
木の効用 セーラー銘木シリーズとオマスコイーバ

様々な考え方があると思いますが、万年筆と人との関わりを、仕事道具と趣味的な遊びの道具と生き様を反映するものという3つに分けて私は考えています。
人それぞれ万年筆に求めるものが違っていて、だから選ばれる万年筆が違ってくる。
木の万年筆は趣味的な遊びの道具だと思っています。
それは磨いて艶を出す楽しみをまず第一に思い描くからです。
最初はなかなか光らないけれど、我慢して磨き込むうちに少しずつ艶が出てきて、気が付くとピカピカになっている。

もちろん実用的な効用も木のボディにはあります。
寒くなってくると、万年筆のインク出が多くなってきたとか、キャップの中にインクがついているという相談を受けることが多くなります。
冷たい外気の中にあった万年筆が温かい室内に入った時にインクタンクの中の空気が温まり、膨張してインクを押し出そうとします。
現代の万年筆のペン芯は、その溢れそうになるインクを受け止めるようになっていますが、どうしてもインクの出は多くなってしまいます。

また持ち運び時のショックで、空気膨張によってペン芯に溜まったインクがキャップ内に落ちてしまうこともあります。
一番多い万年筆のボディの素材、アクリルやプラスチックは熱を伝えやすいのは否めず、エボナイトや木は熱伝導率が低く、万年筆内の温度が変わりにくいと言われています。
セーラーの伝統のある万年筆のシリーズ、銘木シリーズがこの時期に復活したのは、木の温かみを冬の方が感じやすいということもあると思いますが、冬のインク出量の変化対策に木のボディが有効だということも理解してのタイミングなのだと思っています。

この万年筆の用途は、細字のみの設定、勘合式のパッチンキャップ、小型のボディなどから手帳やメモに書くための万年筆。
ポケットにいつも差していて、一番手が触れる機会の多いペンを使うほどに味わいの出る木で作りたいというセーラーの意図があります。
旧銘木シリーズは中字のみのペン先、大きく重ため(28g)のボディで、ゆったりと机に向かって書くイメージだったので、万年筆が一番よく使われるシーンの時代による変化に合わせたコンセプトの変更です。

木の万年筆は趣味的な遊び道具と申し上げましたが、銘木シリーズは趣味的な部分とポケットに差して、メモなどの使い易いという仕事道具としての機能性を兼ね備えたものになっています。
オマスコイーバは、最近では見られなくなってしまった遊び心のある面白い限定万年筆で、こういうものが久し振りに発売されたと、個人的にはとても喜んでいます。

面白い木目のボディはジリコテウッドで、その色合い、サイズもコロナサイズの葉巻そのものです。
ジリコテウッドのボディとバーメイル(スターリングシルバーに金張り)の金属部を持つボディは遊び心に溢れていますが、箱も凝っています。
葉巻のヒュミドール(保管庫)として使うことができるように、湿度計が内蔵されていて、鍵までついています。
この万年筆は間違いなく趣味的な遊びの要素を持った万年筆だと言えますが、イタリアの万年筆にはそのような余暇を楽しむような、仕事から離れたところで使うような万年筆、仕事中であっても遊び心を忘れないようなものが多く存在します。
イタリア製の万年筆に、多くの人がそれを期待したからだと思いますが、きっとイタリア人のライフスタイルが反映されたものなのではないかと思っています。
長い昼休み仕事場から家に帰って食事の後何か書き物をする時、週末日本のようなレジャー施設のないイタリアでは家で過ごす時間も長く、そういった時間をより楽しむためのもの。
そのようなイタリアでの生活も思い描くことができるのが、イタリア製の限定万年筆で、オマスコイーバはその期待に応えた万年筆です。
どちらの万年筆もそれぞれのメーカー、社運を賭けた勝負に出たものだと思うけれど、万年筆の世界を遊び心のあるものにしたいという願いがこもったものであるような気がして仕方ありません。