カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~

カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~
カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~

海外の万年筆では私は経験がないですが、国産の万年筆はカートリッジインクを差して使う方が書き味が良いのではないかと思うことがあります。
パイロットシルバーンやキャップレスはカートリッジインクでは爽快な書き味を持っているけれど、他社インクではその感動が薄まりますし、コンバーターのインク吸入量が少ないので、頻繁にインクを吸入することになります。

パイロットの極軟ペン先フォルカンも純正インクの粘り強さがあってこそ、その柔らかさを生かせるものだと思います。
プラチナも流れが良く書き味が良くなる黒インク、にじみのないブルーブラックと色によって性格の異なるインクが用意してあって、用途に合わせてインクを使い分けることができますので、色にこだわらなければカートリッジインクの使用の方が便利です。

セーラーは万年筆のインクの中で最も黒い黒インク、くすみのある渋いブルーブラック、発色の良い強め青と魅力的な色をカートリッジインクで用意しています。
これらを考えるとわざわざ国産万年筆でコンバーターを使ってボトルインクを吸入しなくてもいいのではないかと思うこともありますが、そういうわけにはいかないのでしょう。
私が受けている感覚が正しいとすれば、カートリッジインクで万年筆の調子が良くなるのは、それだけ国産メーカーは厳密に自社インクに合わせた万年筆作りをしているということなのだと思います。

考えてみるとカートリッジインクの万年筆へのはまり方も海外のもの、特に大多数を占めるヨーロッパタイプのカートリッジを使う万年筆の場合、浅く、軽くて頼りないような気がします。
それに対して国産メーカーのものはどれも適度な力を込めて差す必要があって、しっかりと差り、抜けてしまう心配のいらないものばかりです。
この辺りも国産メーカーは緻密にカートリッジに合わせた万年筆作りをしていると思わせてくれるところです。

使っている万年筆が国産のもの、海外のもの問わずカートリッジ派という様々な色から好きな色を選ぶ楽しみを放棄している少数派閥の人がいて、私もその一人だと思うけれど、好きなインクの色を選ぶよりも書きやすさや外出時のインク交換の手軽さを優先した人たちに実用一辺倒のカートリッジインクを趣をもって使うことができるものをご紹介いたします。

カンダミサコの小長持ちです。
小さな長いものを運ぶための革小物で、カートリッジインクでなくても、クリップや印鑑なども入れることができます。
素材は使い込んでいくと艶の出るブッテーロ革で、こういう小さなものに上質な素材を使うところがカンダさんらしいと思います。
鞄や大型のステーショナリーとは別に、こういうアイデアの面白いものを本気で作るところは工房楔の永田氏にも感じられる遊び心だと思っています。

⇒カンダミサコ 小長持ちカートリッジケース

特別調整万年筆アウロラスタブ調整

特別調整万年筆アウロラスタブ調整
特別調整万年筆アウロラスタブ調整

昨年6月から始めたペリカンM400細字研ぎ出しは、M400を手帳に使いたいけれど太くて使えないという現状を解決することになり、当店の万年筆としては異例のヒットとなりました。

皆様がいかに太すぎるペン先の万年筆に不満をお持ちで、細くしたいと思っているかということが分かり、大変勉強になりました。
そしてそれぞれのペンの特長を見極め、需要があるのに存在しないもの作り出す、当店のペン先調整、特別調整の考え方に賛同いただけたということにも大きな意義がありました。

そのペン先の特長に合致していて、もっとその万年筆を生かすことができて、使い勝手を良くなる特別調整を施した万年筆として、アウロラオプティマスタブ調整もご提案いたします。
スタブとはペン先を平らなヘラ状に研ぎ出し、縦線を太く、横線が細く書けるようにしたペン先です。

このペン先を生かすように握って、縦横差のある線で文字を書くと特長のある文字を書くことができて、書いていてとても楽しい万年筆になります。
アウロラはペリカンほどインク出が多くなく、程良いインク出が特長でもありますが、スタブペン先だと細くあってほしい横線にキレが出て、縦横差が出しやすくきれいな線を書くことができます。

実は私は、スタブペン先は日本の文字、特に縦書きには向かないと思い込んでいました。
縦が太く、横が細い線アルファベッドに向いていると思っていたのです。
しかし、通っている書道教室の先生が硬筆習字に使う万年筆を私に依頼してくれて、調整について話を詰めていくうちに、縦線が太く、横線が細いスタブ調整に行き当たりました。

漢字は縦線よりも横線の方が多いものが多く、漢字を潰さずにスッキリと書くために横線の細さが必要でした。
アウロラの<F>のペン先、国産では<中細>くらいの万年筆をスタブ調整してみると、金ペンらしい柔らかい書き味でいながら、付けペンのヘラペンのようにキレのある文字を書くことができますので、これは万年筆のひとつの理想的な形なのかもしれないと思っています。

今回スタブ調整のベースとして、アウロラオプティマをピックアップしましたが、同じペン先のアウロラ88も同様のペン先調整をすることができますし、他にスタブ調整に適したものがあればご提案していきたいと思います。

⇒AURORA 新企画”スタブ研ぎ”特別調整万年筆 オプティマ

~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様

~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様
~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様

月3回、定休日に書道教室に通っています。
教室は板宿にある積水書道会で、妻と通える書道教室を探していた時に、インターネット上に情報が少ないこの業界において、ホームページを開設していた数少ない教室のうちのひとつでした。
自作されたというホームページから、窪田三奎先生の人柄も伝わってきたし、時流を読んでホームページで情報を発信しているという姿勢も、他の書道の先生と違っていて、この先生から習いたいと二人の意見が合い、通うようになって半年が経ちました。

最初、自分の仕事については話していなかったけれど、先生と話しているうちに、自分が万年筆を仕事にしていることを言わなければならなくなりました。
教室では毛筆を習っているけれど、宿題でペン習字の宿題が出て、次回添削してもらうということをしていて、万年筆での硬筆習字の話になることも多い。

今まで満足して使える万年筆に出会ったことがないと先生が言われるので、試筆できるものを数本用意して、その中から好みに合うものを選んでもらいました。
様々なものを試していただいた中で、先生はパイロットカスタム743<中細>を選ばれました。
フォルカンや細字軟などの柔らかめが選ばれると思っていたので少し意外でしたが、ペン先調整に関しても私には意外なお申し付けがありました。
カスタム743<中細>の縦線の太さは先生のご使用に合うようですが、横線を細くして欲しいと言われました。
縦線が太く、横線が細いスタブ形状のペン先はアルファベットや横書きの文字に向いていて、縦書きの日本字や行書などには向かないと思っていましたので、先生の指示に少し驚きました。
でも今練習している毛筆の楷書も縦線が太く、横線が細くなっていることが多いし、漢字には「壽」のように横線がやたらと多い文字が結構あって、それらの文字をすっきりと書きたいということでした。

パイロットカスタム743<中細>のペン先をスタブにしたものが、窪田三奎先生の愛用の万年筆になり、先生の硬筆書道で必ず使われるようになりました。
硬筆書道においてのカスタム743の良さは、ボディのバランス、持ち応えの他に、柔らかい書き味と、滑りの良さ、そして筆圧を加えたり、抜いたりして文字に強弱がつけられる粘り強さにあるようです。

筆圧を込めて文字を強くすることを先生はペン先を割る、と言いますが、本当にペン先が割れるまで筆圧を掛けてはいけませんが、ペン先を割ってもそれに応えてくれる柔らかさと限界の高さに貢献する粘り強さがこのペン先にあって、これだけのペン先を備えた万年筆は少ない、と私も思います。

窪田先生からのお墨付きをいただいて、カスタム743を真剣に書く人のためにもっと勧めたいと思うようになりました。

⇒パイロット カスタム743

書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~

書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~
書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~

本を読みながら頭を切り換えて、すぐに自分の課題について考えることができたら素晴らしいけれど、実際は考えようと思わないと考えることができず、インプットとアウトプットを同時進行させることは私にはなかなか難しいことに思えます。

最近本を読むことよりも何か考えていることの方がはるかに多く、今はそういう時期なのだと思っているけれど、年々その時間が長くなっている。
若い頃は、貪欲に本を読んで自分に色々なものが蓄積できる貴重な時間だったと懐かしく思えます。
自分の中に何もなくても、出し過ぎて空っぽになったとしても、アウトプットし続けないといけない時は必ずやってくる。それまでは何でも詰め込んでその時に備えるべきだという事を、今までの経験で思います。
47歳で、自分の店がひとつのターニングポイントを迎えている私は、家でも、通勤中でも考えないとけないことがいくつもあって、少々手に余るけれど考え続けるしかありません。

考えるということは、書くということが必ずではないけれど伴います。
一巡り考えたり、考えに詰まったりした時にノートに書いてまとめるとまたそこから進展することがあるし、思考を蓄積するためにも、考えたことは書かないといけないと思っています。

最近はノート、メモ帳に大和出版印刷のiiro(イーロ)を使っていてそこに書きだしたものをシステム手帳に清書します。
そんな時に使う万年筆は、大きめのものではなく、ペリカンM400サイズの万年筆で、小さな万年筆で文字の形を気にせずに書きだすのにとても向いていると思っています。
逆に手紙などはある程度大きな万年筆の方が使いやすく、自分なりのきれいな文字が書きやすい。
頭の中にあるものをバーッと書く、あるいはポツポツと書くには手の力で書く小さめの万年筆の方がいいということなのかもしれません。
ノートに書いたものを清書する手帳用の万年筆もあまり大型のものよりもM400サイズの万年筆の方が使いやすいのではないか、多くの人がM400を手帳用に使いたいのではないかと思って、M400の<EF>をさらに細く削り出して、国産細字程度にした「M400細字研ぎ出し」は、先日の蔦屋書店のイベントでも多くのお客様からの反響があり、発売当初から感じていた手応えが裏付けられました。

ノート用の少し太めの<M>か<B>の字幅のM400、手帳用の細字研ぎ出しのM400。この2本が今まで経験して蓄積したものをアウトプットしていかなければならない世代の実務を支えるものになると思っています。
当店にはちょうどM400サイズの万年筆2本収めることができるペンケース、WRITING LAB.オリジナルペンケースピノキオというものがあり、今回のM400サイズの万年筆を2本使うのにぜひ一緒にお使いいただきたいと思っています。

素材はキメが細かく、手触りの良い栃木のサマーオイルを使用しています。使い込んだり、ブラシ掛けなどのお手入れによりかなり艶の出てくるとても良い革です。
2本の小ぶりな万年筆を、コートやジャケットのポケットに入るくらいコンパクトに持ち運ぶことができますので、仕事と関係のない本を読む時間がくるまで、このセットを相棒に、生みの苦しみを乗り越えていただけたらと思っております。