一本だけというわけにはいかない万年筆の使い分け

一本だけというわけにはいかない万年筆の使い分け
一本だけというわけにはいかない万年筆の使い分け

恩師に手紙を書く時も、仕事について考える時も、立ったまま手帳に書き込む時も、1日を振り返ってコーヒーでも飲みながら日記帳に向かう時も1本の万年筆だけでこなすことがかっこいいのではないかと、万年筆屋をしていても未だに思います。

そんな万年筆はまさに生涯の友であり、その人にとって代え難いものだと思います。
生涯の友に相応しい万年筆だと私がイメージするのは今の心境ではペリカンM1000です。
手帳も書かないといけないので、ペン先はEFを選択します。
ペリカンM1000はペン先が極端に柔らかいので、筆圧を抜いて手帳に書く、強弱をつけて手紙を書くという使い方ができます。
シガーのように太くて長いペリカンM1000をシガーケース型ペンケースSOLOに入れて持ち歩く。
そんなふうに万年筆と付き合うことに憧れます。

でも10数本を用途に応じて使い分けているのが現実で、それぞれに出番があることを思うと、私は1本だけを使い続けることができる人間ではないようです。
数多くある万年筆をいろんなカテゴリーに分類できますが、私は大きく二種類に分けることができると、自分の使い方から勝手に思っています。

ひとつは25g以上の重量がある大型と言えるレギュラーサイズ以上の万年筆と、それ以下の重さのコンパクトな万年筆。
そのままでは単なる大きさの違いによる分類ですが、その違いは万年筆の使い方、使用感を左右する重大なものであると言うと少し大袈裟ですが、万年筆を選ぶときに考慮してもいいことだと思っています。

手紙や原稿用紙を書く時に使いたくなる万年筆と、メモ帳やノートに使う万年筆とはいつの間にか使い分けしていて、例えばいつもメモ書きに使っているペリカンM450を手紙に使うと何か座りが悪いような、文字が軽いような気がしたり、ノートにいつも手紙で使っているペリカンM800を使ってみると持て余すような感覚にとらわれることがあります。

それは他の人の共感を得られるかどうかは分らないけれど、単純に大きさが違うだけではない、と思うようになりました。
ペリカンM800は大きくて重量があるので、机に向かって長時間書き物をするのに向いていて、M400はコンパクトなので、胸ポケットに差して携帯するのに向いているという説明を今までお客様にしてきました。
用途としてそれは間違っていないと思っていますが、その理由はもっと深いところにあるのではないかと思います。

M800やパイロットカスタム845など大きな万年筆・レギュラーサイズの万年筆は重量があって、手の力を抜いて、その重さで書くようにするととても楽に書くことができます。
重量があるので力を入れなくてもインクがよく出てくれて、より滑らかに書くことができる。
大型の万年筆が長時間筆記しても手が疲れない机上用の万年筆だと言われるのは、このあたりにあります。

それに対して小型で軽い筆記具、M400やM600は机に向かわなくても扱いやすい、極端に言うと立ったままでも使いやすい。
その筆記具の重さに任せて文字を書かない人、身近なところで言うと万年筆でも毛筆のように腕で文字を書くような人にはこの軽い万年筆の方が向いているのかもしれません。

レギュラーサイズの万年筆は便箋や原稿用紙に、小型の万年筆をノートやメモ帳に使いたくなるのは、そのインク出も関係があるのかもしれません。
便箋や原稿用紙は表面だけの筆記なので、裏写りなど気にしなくても問題ないですが、ノートは裏面にも筆記するため、あまりインクが出すぎる万年筆は向いていません。そのため直感的にインク出が多くないものを選んでいるのかもしれません。
レギュラーサイズの万年筆としてはペリカンM800、M1000、パイロットカスタム743、823、アウロラマーレイオニア、デルタドルチェビータ、ビスコンティ、オマスミロード、パラゴンなどなど、昨今の万年筆の中心はこの辺りにあるようです。

ノートやメモに合った万年筆はペリカンM400、M600、パーカーソネット、国産の1万円クラスなど、こちらは実用品的で簡素だけど渋い存在のもの。
アウロラオプティマや88、セーラープロフィット21、パイロットカスタムヘリテイジ912など国産2万円クラスはそのどちらにも分類していませんが、どちらでも使う人の采配で役目を与えることができるものだと思います。
私はアウロラ88クラシックはインク出の多さから、机上用に役目を与えています。

皆様それぞれが、それぞれの万年筆に与える役割はこれにとらわれる必要はもちろんありませんが、万年筆選びのご参考にしていただければと思います。