手帳用の万年筆を選ぶ

手帳用の万年筆を選ぶ
手帳用の万年筆を選ぶ

先日、ほぼ日手帳に書き込むための万年筆として、パイロットのシルバーンを選びましたが、シルバーンを選ぶまでにいくつかの候補がありました。

私の手帳用の万年筆の条件として、細くくっきりした線が書けて、インクの出を少なく絞ることのできるということが第1の条件でした。
第2には机に向かって、座った状態で書き、ペンケースに入れて持ち歩こうと思っていたので、細軸ではなく持ちやすい太軸のものを選びたいと思いました。
それらの条件に合う万年筆として、シェーファーレガシー、VLR,パイロットカスタム845、プラチナブライヤー、セルロイドなどの細字を挙げて、毎日楽しく思い悩んでいました。
最終的にシルバーンにしましたが、どの万年筆も机上の手帳書きに適したものだと思っています。

シェーファーレガシーとVLRは首軸に埋め込まれたペン先の形が独特で、硬い書き味をイメージさせますが、細字のものでもサラッとした爽快な書き味を持っていて、いつも気になる存在のペンでした。
特にレガシーはキャップの尻軸への入りが深く、先端に近い所を握って書く人にもバランス良く持つことができます。
カスタム845は名品とも言える、パイロットの定番万年筆の最高峰で、非の打ち所のない万年筆だと思っています。
エボナイトのボディに漆塗りというのも魅力で、手にピッタリと着くような手触りの良さがあります。
この太軸で、大きな堂々とした万年筆を細字で手帳に小さな文字を書くという欲求も耐え難いものでした。
机上で、ペンケースに入れて携帯するという私の都合の手帳用万年筆選びでしたが、手帳用万年筆というとシステム手帳などのペンホルダーに入れることのできる細軸のものが選ばれることが多いと思います。
最近細軸の万年筆で良いものが少なくなってきましたが、パイロットのデラックス漆はかなり古くからあるモデルですが、しっとりとした書き味と漆塗りのボディを持つなかなか味わい深い、渋い万年筆だと思います。
漆塗りのボディを持ちながら、1万円台という価格を実現しているのは、漆塗り技法の量産化ができたパイロットならではのものです。
あまり取り上げて話題にされることのない地味な万年筆ですが、手帳用にもお勧めの万年筆です。

手帳用の万年筆と言っても、特に決まった定義があるわけではなく、それは使っている人の事情によって様々な条件があると思います。
日々のビジネスにおいて、手書きよりもキーボードに向かっている時間の方が多い方がほとんどで、手書きができる貴重な機会が手帳を書く時間です。
書いていて楽しいものを選びたいですね。

デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

デルタ  ドルチェビータ ピストンフィリング登場
デルタ ドルチェビータ ピストンフィリング登場

様々なバリエーションがあるドルチェビータシリーズに新製品ピストンフィリング(吸入式)が発売されました。

これまでドルチェビータには様々なバリエーションがありましたが、今回のピストンフィリングは正統進化版とも言えるもので、愛用者の人たちの声に答えるものになっていると思います。
このピストンフィリングの一番良いところはドルチェビータのスタイルを変えず、ピストン吸入機構化を実現しているところです。ボディサイズは以前製造されていたオーバーサイズとほぼ同じで、ミディアムよりひとまわり大きくなっています。
吸入式だから万年筆として優れているということは全くなく、その良さはおもしろいということに尽きると思います。
それは自動巻きの時計とクォーツの時計との違いに近いかもしれません。

万年筆が好きな人で今やドルチェビータを知らない人は少ないと思います。
ドルチェビータミニが女性をターゲットにしたペンとして発売された時、そのとてもインパクトのあるボディカラーとシンプルで分かりやすいコンセプトで、万年筆に興味を持っていた女性たちにすぐに受け入れられた記憶があります。
この万年筆を持つと生活が楽しくなるというドルチェビータのメッセージは、物によってライフスタイルを変えることができると信じられていた当時の世相と重なって大ヒットしました。

確かにドルチェビータは持ってみたいという、「物」としての魅力と生活を変えてくれるのではないかというインパクトを持っていました。
ミニで女性たちの心を捕らえたデルタはすぐにミディアムサイズを発売し、男性たちの心も捕らえました。しかしドルチェビータが商業的に本当に成功し、多くの人に知られることになったのはこのミディアムの発売後しばらく経ってからだったと思います。
このドルチェビータシリーズが注目されよく売れた時、他の万年筆メーカーはきっと大いに悔しがったのではないでしょうか。
特に新しい試みや工夫があるわけではなく、デザイン的にも新たなものがあるわけではないですが、鮮やかなオレンジ色のボディとドルチェビータという今までの万年筆にはなかった印象に残る名前で十分でした。
オレンジ色のボディカラーの万年筆は以前にも存在していましたが、当然ドルチェビータほどの人気は得ていませんでした。
ドルチェビータの成功は、目の付け所を変えた単純な施策によってより大きな効果を得たように感じ、そこにイタリアらしさを感じました。

ドルチェビータはそのデザインばかりが取り上げられていますが、実用的にもとてもまとまった堅実な印象の万年筆だと思っています。
ペン先が柔らかいわけではなく、どちらかというと硬めで、極上の書き味といった味わいではありませんが、しっかりとしていて、ビジネスシーンでも使うことのできる実用性を持っています。
ミディアムの太いボディはデザインにおいても安定感のある印象を与えてくれますが、実用的にも持ちやすく、愛用のペンとしていつもペンケースに入れている方も多くおられます。
それはデザインだけが飛び切り良いイタリア万年筆の代表のように述べられがちですが、M800,146、オプティマなどと並んで、万年筆の定番と言っても恥ずかしくない存在感を身に付けていますし、一本は持っていたい万年筆です。

司法試験の万年筆

司法試験の万年筆
司法試験の万年筆

司法試験を受ける人たちが勉強する、当店からも近い大学の法科大学院で合格した先輩が、後輩たちに「筆記具は万年筆がいい」と語ったという話を学生の方から聞きました。
その大学の法科大学院では万年筆が流行っているようで、受験生の方が来店される機会が多くなりました。
確かに長時間(最長で4時間)ぶっ続けで、しかもすごいスピードで書き続けなければならないという極限の状態は万年筆がその本領を発揮する場面なのかもしれません。
ある人によると、万年筆と普通のゲルインクのボールペンを比べた場合、書くスピードが1.5倍になり、後半になってもそのスピードは落ちないそうです。
そんな司法試験に合った万年筆を実用に徹した国産万年筆の中から、コストパフォーマンスに優れたものをいくつかお勧めしたいと思います。

用途が決まっている場合の万年筆選びで一番重要なのは、字幅の選択です。
答案用紙の罫線高さから考えて、細字から中字あたりが適当だと思います。極細では引っかかりが強くスピードを出して書きにくくなりますし、太字では文字が潰れてしまいます。
細字なら調整はインク出を多めに、中字なら少なめにすると良いと思います。筆圧や好みに合わせて選択しましょう。

軸(ボディ)の太さは、あまり細すぎるものは必要以上に力が入ってしまい、長時間の筆記では疲れてしまいますし、日々の勉強で手が痛くなってしまいます。ある程度の太さが必要だと思いますが、購入時にじっくり試し書きをして自分の手にあったものを選びましょう。

また、インクの問題も重要です。
書いたばかりの時に手が当たってインクが流れてしまうのを防ぐために、それが気になる方は、少しでも乾きの早い顔料インクを選ばれています。
このインクを使うとペン先が乾きやすくなり、使わないときはすぐにキャップを閉める習慣付けが必要ですが、有効な手段だと思います。

万年筆に使うことができる顔料系のインクは、セーラーの極黒(きわぐろ)とプラチナのカーボンインクがあります。
どちらのインクもボトルとカートリッジがあり、経済的にはボトル(別売りのコンバーターが必要)、携帯性ではカートリッジが優れています。
顔料系のインクは普通の染料系のインクと違い、粘度が高いため書いているとインクが降りずに上に残ってしまう「棚吊り」という現象が起こることがあります。インクが出にくくなったら、万年筆を軽く振ってインクを落とすことが必要です。また、プラチナのカートリッジは中に金属の玉が入っていますので、棚吊りを防いでくれます。

顔料インクのボトルとカートリッジ両方を使うことができる万年筆は、セーラーとプラチナですので、司法試験の万年筆として私がお勧めするのはこの2社になります。
プラチナ「3776」のシリーズは、ペン先が硬く、力を入れて、早く書く方に向いています。
その中で、3776バランス18金は今年発売された新製品です。
ペン先の素材を14金から18金にグレードアップされていますが、そのメリットは書き味の良さに尽きます。
長時間使うものですので、より快適に使うことができるものを選んで欲しいと思っています。
「プロフィット21スタンダード」はペン先が21金仕様で、書き味が格段に良くなります。
少し細めのボディですので、重さが気になる女性の方にお勧めの万年筆です。
「プロフィット21」は、スタンダードよりも太めで、大きなボディになりますので、男性の方にお勧めします。
ペン先が大きく、書き味はさらにしなやかになりますので、書くことがより楽しくなると思います。

司法試験にお勧めの万年筆としていくつかの万年筆を選びましたが、インクの出、書き味など好みに合わせた調整を施すことによって、よりご自分の道具として使いこなせるようになると思っています。
万年筆を使うメリットは、他の筆記具に比べ線に抑揚が出て美しく見える、力を入れなくても字が書けるので手が疲れにくい、書き味を楽しめるなどですが、ひたすら字を書かなければならない受験生の方のストレスを軽減し、勉強を楽しくしてくれるものだと思っています。

プラチナ ギャザード(画面中央)

セーラー プロフィットスタンダード
セーラー プロフィット
プラチナ カーボンインク
セーラー 極黒

ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティ オペラ エレメンツ
ビスコンティ オペラ エレメンツ

ビスコンティの定番モデル、オペラがモデルチェンジしました。
単なるレジン素材変更によるカラーリングの変更と思われるかもしれませんが、コンセプトを始めとして全てが変わったモデルチェンジだということを知っていただきたいと思っています。

オペラエレメンツは、古代哲学で地球の構成要素と考えられた、地(ブラック)、水(ブルー)、空気(イエロー)、火(レッド)をそれぞれのボディカラーで表現しているとのことで、そのカラーに絡む白いラインは精気を表しているのかもしれません。
私たちが大切にしなければならない地球、そしてその地球と調和して生きていくべき生命というテーマがオペラエレメンツに込められていると思っています。
シリアスで深遠なテーマを代表するペンに与えたことがとてもビスコンティらしいと思いましたし、このようなテーマを世に問うのがビスコンティに敬意を感じるところでもあります。
このペンを使う人はきっと自分のことだけでなく、世界のこと、この地球のことも考えて生きているのだというビスコンティの思いも感じ取れるペンになっています。
新作オペラエレメンツを見ると、マーブル模様で、イタリアらしい、つかみ所のない美しさを持った前作から一転して、そのカラーリングの力強い美しさにまず目を見張ります。
ボディシェイプは前作同様、スクエアリングサークルフォルムという四角い断面を持つボディになっていて、これがデザインの上の特徴にもなっていますが、実用的にも意外な持ちやすさに作用しています。

キャップの開閉はフックロックセーフ機構という、ワンアクションでキャップを開閉できるとても便利でスマートなシステムを新たに採用しています。
これは以前に開発されていたシステムを名作限定品デヴァインプロポーションで改良して採用し、デヴィーナブラックに継承されているシステムです。
キャップが開閉しやすいという実用以外にも、キャップを短くすることで、バランスの美しいデザインに仕上げるのにとても有効なものです。
インク供給方式はカートリッジ、コンバーター両用式という平凡なものですし、ペン先も柔らかくも硬くもない標準的なもので、太字も設定されていないということでも分かるように、いわゆる万年筆マニアをターゲットにしたものではなく、たくさんの小物の中でのバランスを考えて投資する人のためのペンだと思います。

78,750円という価格は安いものだとは言えませんが、あえてマニアックな仕様に凝ることをせずに一般的なものを採用したことで、この万年筆をどういったものにしたいかという、ビスコンティのメッセージが伝わってきます。