2020年のペン・ANTOUマルチアダプタブルペン

何か仕事をする時に、その目的を見誤ると上手くいかないということを経験してきました。

商品を企画する時は、お客様の喜ぶ顔をイメージできないと失敗します。

このペンはその仕様やデザインなど目に見えるところよりも、こんなふうにお客様に楽しんでもらいたいというイメージから生まれたのではないかとさえ思えます。それほど優れた企画だと思うし、ペンの業界に風穴を空けた痛快な存在だと思っています。

個人的な話になりますが、今年の、特に前半は休みの日でもあまりどこかに出掛けることをしていませんでした。

半日も家にいるとウズウズして、出掛けずにはおれない私でも、比較的家にいることができたのはANTOU(アントウ)のペンという遊び道具があったからだと思います。

ANTOUというのは、台湾中部 台中近郊にある金属加工業の中小の工場の集まる地区の地名です。

その地元の名前をブランド名にしたシリーズの代表的なペンが、様々な替芯を使うことができるマルチアダプタブルペンです。

私は地名が好きで、その地名が名前になっていることにも想像力が掻き立てられ、その製品を冷静に見ることができなくなってしまいます。地元の路線バスの行き先表示の地名をみているだけでも全然飽きないのは、少々度を越してているのかもしれないけれど。

話をANTOUに戻すと、マルチアダプタブルペンは替芯を先端でつかんでいるため、芯の長さや形に捉われずに使うことができます。その機構には他にも良いことがあって、芯のガタつきがありません。

ボールペンに純正でない芯を入れると、芯の先端部とボールペンの口径に部分に少し遊びが出来て、書く度にカタカタ細かく揺れて気になることがあります。

これが起こらないということは、書くことに集中したいと思う人にとってかなり重要なことです。

このボールペンを手に入れてから、何の芯を入れて使うか、文房具店の筆記具売り場でいろんなペンを見るのが楽しくて仕方ありませんでした。その度にペンを買っては替芯を取り外して、ANTOUに入れて楽しみました。

国が違っても、楽しいと思うことは変わらないのだとこのペンで知りました。

これで何か書かなくても、そうやって自分にとってのベストな替芯を決めるのが楽しく、ペンの楽しみは書くだけではないと教えてくれた。

アントウを使っている人同士でこのペンの話をすると、様々な替芯の情報交換ができて、それも楽しい。

そんなANTOUボールペンCミニに新色が追加されました。

青藍・唐紅・橙の日本の伝統色の3色展開で、日本や台湾のものなら、こういった漢字の色名であってほしいと思います。

ミニは長さが短くなりますので、その分使うことができる替芯に制約がありますが、少し短くなって、そのプロポーションがかわいらしくなりました。

このミニ専用の「シャープペンシル機構」も一緒に発売されました。

ボールペンの替芯と同じようにペンシル機構を先で掴む方法です。

ペンシル機構の発売で、ANTOUがボールペン以外にもさらに幅広い用途で使うことができるようになりました。

ANTOUのペンの存在により、全てのボールペンが、このペンの素材に見える。多くの人に使ってみていただきたい、いい商品だと思っています。

⇒ANTOU(アントウ)TOPページ

優れたペン先を装身するための鞘・こしらえ

マイカルタ・グリーン×カスタム743

日本の万年筆は海外のものと比べると、デザインにあまり個性がないと言われます。黒いプラスチック軸に、オーソドックスなデザインの金クリップがついているものが多い。海外のペンは個性的なデザインのものが目につくので、それらと比べて見ると少々無個性に感じてしまいます。

しかし、それは日本の万年筆の良さが分かっていない感想なのかもしれません。

日本の万年筆は外観という表面的なところに個性を持たせるのではなく、その書き味に個性を持たせていると考えると、非常に奥深い、大人の楽しみのある存在だと思えてきます。

それは何かの味を感じるのに近く、刀の刀身の微妙な形や刃文の違いを味わうような感覚に近いのかもしれない。

それだけではないけれど、日本の万年筆の在り方は刀と近いと思っています。

私も常に、ペン先を書き味良く調整しながらも、ペンポイントが美しい姿になるように調整したいと思っていて、それは万年筆を刀のような存在に近づけたいという想いがあるからです。

国産万年筆では、パイロットカスタム743の書き味は特に素晴らしいと思っています。

当店でもし万年筆を何かお勧めして下さいと言われたら、まずカスタム743FMをお勧めします。その中でも最も様々な用途に使うことができて、書き味も良いFMをお勧めすることが多い。

カスタム743は他の多くの万年筆と同じく、黒い樹脂軸に金色のパーツがついていて、デザインに個性的なところはありません。

しかし粘りがありながらも柔らかい、極上の書き味のペン先がついています。この万年筆はこのペン先だけで、完成していると言ってもいいかもしれません。

カスタム743を見ていると、黒金のこのメーカー仕様の軸が刀の保管時に使う白鞘のように思えます。良いペン先には刀のこしらえのように、それに見合った装身をさせてやりたい。

国産の万年筆を、そのペン先の性能に見合った立派な軸に収めたいというのが、工房楔の永田さんに当店オリジナルで作ってもらった万年筆銘木軸こしらえの始まりです。

今回のこしらえは、工房楔の永田氏が木ではなく、マイカルタに挑戦したという点でも面白い存在です。

マイカルタはコットン(パッカーウッドは木)をフェノール樹脂で固めたもので、その手触りは革に近いものですが、非常に硬く、丈夫な素材です。

工房楔の永田氏はこの硬いマイカルタのために、刃物の刃をいくつもダメにしながら、木を削る何倍もの時間をかけて削り、こしらえを作ってくれました。二度と作らない、というのが作り上げた永田氏の感想でもあります。

滑りにくい独特な手触り、重量感、時間の経過とともに馴染んでいく光沢と、触り心地。

マイカルタはナイフのハンドルや銃のグリップにも使われてきた素材で、木とはまた違うタフな魅力がこの素材にはあります。

⇒Pen and message.オリジナル 万年筆軸・こしらえ

いつかは149~その後~

先日(10/23)いつかは149」というタイトルで、お客様のNさんと交わした、自分たちがそれぞれの目標を達成したらモンブラン149を買おうという約束について書きました。

モンブラン149がそういうことに相応しい万年筆だと思っていたからしていた約束だけど、結構反響があって、色々な人が色々な話をしてくれました。

お客様のSさんは、同感だけど今すぐに買いなさいと言ってくれた。

仕事についていろんなことを教えてくれる小児科医のOさんは学生の時に、それに見合った人間になるために、自分を高めてくれるものとして149を使い始めた。

Hさんは高校の時に、私も知っている近くの文具店で手に入れた149を学校でも使って、先生に驚かれた。

約束を交わしたNさんは、10月23日の文章を読まないだろうと思っていたけれど、何かに誘われるように普段は見ない当店のホームページを見てそれを読んだそうで、すぐに店に来てくれました。不思議なこともあると思いました。

あの時Nさんは校長になったら149を買うと言っていた。今は教頭先生をしていて、校長になるための勉強を149でしようと考え直して、買いに来てくれたのでした。

Nさんはいつもキャップを尻軸につけて、ペンのかなり後ろを持って書きます。

かなり大きい149はその書き方に向いています。学生の時はラグビーの選手で、教師になってからも監督を長くしていたNさんの手に、149はよく合っていました。

約束した時、私は何を成したら149を買うかを言わなかったことをNさんは覚えていました。

私はこの店を立派な万年筆店にしたいと今も思っていて、それを象徴するものとして、149を「今」手に入れようと思いました。

Nさんのようにペンの後ろを持って書かないけれど、私ならキャップをつけずに書いてちょうどいいくらいなのではないかと思いました。

最近太めの万年筆の書き味の良さ、インクの濃淡の味わいを伝えたいと思っているので、<M>を選びました。私の用途に149の<B>はさすがに太すぎる。

濃淡が出て、でも日常の用途にも使うことができる、この万年筆に合うインクとして選んだのが、二人とも当店のオリジナルインク冬枯れだったのも面白かった。

私はウォール・エバーシャープデコバンドのフレキシブルニブを愛用していますが、このペンだけとても大きくて、私の持っているペンの中では異色の存在でした。

そんなデコバンドの相方となるペンを探していたので、149をデコバンドとセットで使いたいと思いました。

普通の万年筆と比べると柔らかいペン先のデコバンドと、対照的な硬めのペン先の149で、それぞれ足りないものを補い合って、極端な話デコバンドと149さえあれば、自分の全ての用途はこの2本で済むと思いました。気分によっていろんな万年筆を使いたいという気持ちはそれでは済まないので、結局いろんなペンを持ち替えながら使うことになるとは思うけれど。

2020年は、日本にとって輝かしい年になるはずでしたが、変な年になってしまった。

波乱に富むであろう新しい時代2020年代のはじまりに相応しい象徴的な年だったのだと思うけれど、この149を持って、2020年代を乗り切りたいと思いました。

⇒モンブラン149

新しい世代の万年筆観

万年筆は金ペンであってほしいというこだわりを捨てることができなかったために、TWSBI(ツイスビー)を真剣に扱うのが遅れてしまった。

仕入先の株式会社酒井さんにご協力いただき、神戸ペンショーでは毎回ツイスビーを販売していたけれど、店舗ではあまり扱えていませんでした。

でも最近来店される若いお客様方に教えてもらったり、今年の神戸ペンショーでのお客様の反応を見ていて、真剣に扱うべきだと思いました。

若い人や、インクの好きな女性のお客様が、同じくらいの値段なら金ペンの黒金国産万年筆よりも、デザインが楽しそうなツイスビーを選ばれています。若い人は金ペンにこだわっているわけではないので、私が金ペンにこだわっても、時代から取り残されていくだけなのかもしれない。

それが今起こっている現実で、せっかく今の時代に万年筆店をやっているのだから、時代を反映して今のモノも扱うべきだと思います。

それはラメの入ったシマーリングインクや、強烈に光るシーンインクに対しても同じことが言えます。

頑固な店主のこだわりを貫くのも店のあり方としていいのかもしれないけれど、私は当店を平成の遺物にしたくないと思っています。

そう思ったきっかけは昨年10月台南ペンショーの視察のために訪れた台北で文具店を何軒も見て回ったことが大きく影響しています。

どの店も新しい感覚でステーショナリーを扱っていて、12年間私が自分の店の中で奮闘している間に時代は確実に変わっていることを実感しました。

時代から遅れたくないと思いましたし、それを取り入れることで店もリフレッシュされて、長く続くことができる気がしました。

ツイスビーはECOとダイヤモンド580を扱っています。

どちらも軸内でインクがチャプチャプするくらい大量のインク(2ml)を吸入することができるピストン吸入式の万年筆です。

特にダイヤモンド580は、ヨーロッパで古くから作られている万年筆の良いところを参考にしていて、バランスの良い万年筆に仕上がっています。

ECOは今までの万年筆の価値観とは違い、分解用の赤いスパナが付属するなど遊び心に溢れていて、万年筆を気どりのない日常的なものにしてくれます。

万年筆がファッションであるヨーロッパとは違い、万年筆で字を書くことを楽しむ土壌が台湾にはあって、その感覚は日本においての万年筆のあり方に近いような気がします。

万年筆の新しい流れが、アジアを中心に起こっていることの象徴がツイスビーの万年筆なのです。

ペリカンのカジュアルな万年筆も1つご紹介いたします。

ペリカンM205ストーングレー。毎年発売されるインクオブザイヤーと色を合わせて発売される、比較的手に入れやすい価格の限定品で、このシリーズのステンレスペン先の書き味は素晴らしい。

ステンレスなのに柔らかく、ちゃんとペリカンの書き味が感じられます。万年筆ならではの柔らかい書き味がステンレスペン先で味わえるお勧めのカジュアルな万年筆です。

時代は変わっています。

いつまでも古い価値観にしがみついて、自分が良いと思うものだけを世に問い続けることにこだわっても、忘れられていくだけなのかもしれない。

それよりも今の感覚のモノと自分ができることをミックスして世に問う方が楽しく、前向きな生き方のような気がします。

⇒ダイヤモンド580スモークローズゴールドⅡ

⇒ECOホワイトローズゴールド

⇒M205ムーンストーン