中屋万年筆 シガーモデル

中屋万年筆 シガーモデル
中屋万年筆 シガーモデル

中屋万年筆の漆塗りのモデルは、他のどの万年筆にも似ていないオリジナリティのあるスタイルを持っていて、今大変人気がありますが、今までなかったものを作るのは相当な勇気が必要だったと思います。
万年筆が売れなくなって、大量生産品は黒いボディに金の金具という定型の形に戻らざるを得なかったことに危機感を感じたプラチナ万年筆が少量生産で、より物の良さが分かる人のために万年筆を作りたいという狙いで中屋万年筆をスタートしたのは2000年です。

当時、海外の限定万年筆のブームが高まっていて、それらは日本にもたくさん入っていて、日本の万年筆は一部のものを除き、書き味以外に対抗できる要素がありませんでした。
創業当初、中屋万年筆はプラチナと同じセルロイドの万年筆、ブライヤーの万年筆、そしてエボナイトの素地をそのまま使用したオリジナル万年筆だけで、中屋万年筆も創業当初から今のスタイルが確立されていたわけではなく、それは少しずつ出来上がっていったものだと私は感じていました。

技術もデザインも全てがプラチナから譲り受けた、あるいは借りてきただけのもので、特長と言えば使い手の書き癖を判断してカルテにし、調整するというところのみでした。
新しい万年筆ブランドが立ち上がっても、特長が調整だけというのは心許ないスタートでしたが、中屋万年筆には客様の声が作り手に直接届くクリニックという強みがありましたし、メールの問い合わせには中屋万年筆の社長が直接当たりましたので、お客様がどういうものを求めているのかを全員が生の声として把握することができたのだと思います。

そういった声を小規模で小回りが利く中屋万年筆は実現可能でした。
お客様方の意見を参考にしたのか、中屋万年筆のオリジナルモデルは少しずつ進化し、それはデザイン担当の吉田紳一氏の加入と同時に、一気に形になっていったのは偶然ではないと思います。

そんな中屋万年筆のデザインアイデンティティを最も現しているシガーモデルは、クリップもキャップリングもない、とても潔いデザインです。
万年筆のクリップというのはポケットに差して固定する以外には転がり防止という役目がありますが、デザインにおいてはポイントにも制約にもなっています。
このクリップをなくしたことで、シガーモデルの流麗なデザインが可能になり、今までの万年筆のデザインを超越したものにしています。
シガーモデルにはロングとポータブルという2つのサイズがあります。
ロングは全長163mmで、尻軸にキャップをつけなくても十分な長さがあり、ボディだけで143mmという普通のペンが尻軸にキャップをつけたサイズに近くなります。

キャップをつけなくてもバランスが良いというのは、書くことにおいて思った以上の恩恵があって、重いキャップをつけない自由自在に扱える感覚はデスクペンに近いと思います。
ポータブルはペンケースにも入るサイズで、全長が149mmです。
キャップを尻軸につけることも可能ですが、キャップをつけずに立ち気味の角度で出先でどんどん使うというような使い方が向いているようです。
この2つのシガーモデルはボディサイズ以外に、首軸の長さが違っていて、ロングは首軸を握って使い、ポータブルは太めのボディを握って使うことになると思います。
中屋万年筆のペン先はプラチナと共通(刻印違い)で、その書き味などは同じです。

インク出の少なめの細字はカッチリとした文字を手帳やノートに書くのに適していて、中字以上はインクの出る量も多くなりますので、ノートや便箋などその太さに見合った使い方になります。
ペン先が硬いというイメージの強いプラチナ(中屋万年筆)の書き味は今ひとつと思われていますが、それは使ったことのない人の先入観で、本当はその硬さゆえの気持ちいい滑りを持っていますので、中屋万年筆でも書くことを十分楽しむことができます。

中屋万年筆の漆塗りのペンは大切に仕舞っておいて一年に一度使うお正月の重箱ではなく、毎日必ず使うお椀のような存在だと思います。