バゲラシステム手帳とペンケース~夜Ⅱ・庭~

バゲラのペンケースは、私たちや革製品に詳しい当店のお客様方にも、相当なインパクトを与えた作品でした。

同じような形のペンケースは他にもあるかもしれませんが、革の組み合わせやステッチの使い方など、ひとつの造形作品のような印象を持ちます。そしてそのセンスこそが、このペンケースのオリジナリティだと思いました。

ペンケースの次は何を作りましょうか、と高田さんが聞いてくれましたので、それならバイブルサイズのシステム手帳を、と答えました。

ペンケースと同じようにシステム手帳は大切に思っている人が多く、バゲラさんのペンケースのようなシステム手帳を望んでいる人は自分以外にもいるはずだという確信がありました。

そしてペンケースとセットで持ちたくなるシステム手帳が完成し、今年の3月から販売を開始していますが、やはり気に入って下さる方が多くおられます。

「夜Ⅱ」は、「夜」というコンセプトのシステム手帳に使っていた高田さん秘蔵の革がなくなってしまいましたので、革を変えて「夜Ⅱ」として新たに作っていただいたものです。

牛革のヌバックを揉んで風合いを出したものをメインに、ペンホルダーにはパイソン、ベルトとベルトループには斑の大きく違うクロコを使って、濃厚な夜の雰囲気を纏ったものになっています。全て手縫いで作られていて、一筆書きのように通されたシングルステッチが景色になっています。

「庭」のコンセプトでもバイブルサイズのシステム手帳とペンケースが出来上がりました。

アンティーク風にパティーヌ加工したアンティークゴートをメインに、ベルトはクロコ、ベルトループには渋い色のオーストリッチ、ペンホルダーはパイソンの革を使用しています。

エキゾチックレザーを贅沢に使いながらも自然の中にあるような色彩にまとめられていて、草花と土の庭の風景がイメージできるものになっています。

大量生産品ではなく、限りのある革を使って1つ1つ時間をかけて作っているため、1つのコンセプトで多くても10数冊しか作ることができません。

途中からバゲラさんのシステム手帳とペンケースにシリアルナンバーを目立たないところに入れてもらうようにしています。

バゲラの高田さんご夫妻が出来上がるたびに持参してくれるひとつひとつのものとの出会いは私たちにとっても特別です。

お花やお菓子を持ってきて下さることもあって、出来上がった作品を納めてくれる時間自体が特別なものになっています。

バゲラの革製品はひとつずつ特別な想いと時間を経て、お客様の手元に渡る。

ひとつひとつの時間と想いを刻んだシリアルナンバーはこういうものにこそ合っていると思います。

当店は自分たちの仕事と気持ちのペースに合ったモノに出会えたと思っています。

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速やかにさりげなくメモを取るためのジョッター

生活の中で、最小の動作で速やかにメモを取りたいと思うことが多いと実感します。移動中のバスや電車の中でアイデアを思い付いたり、やることを思い出したりした時には、すぐにメモに書いておきたい。

それらをまた思い出そうとすると時間がかかってしまうし、もしかしたら二度と思い出せないかもしれません。

スマホのメモ帳に書いておいてもいいかもしれないけれど、私の場合はあまりスマホは開けない方がいいと思っています。

私たちの仕事は、情報を得ることも大切ですが、オリジナルの発想力も大切だと思っています。

インターネットの中の広い世界を知らずに、自分の頭の中だけと対話していても限られたモノしか生み出せないと言われるかもしれないけれど、何かを考える時にスマホを見て上手く行ったことがありませんでした。

それよりも、普段お客様方と話したり、色々なものを見たり聞いたりしていることがインプットで、自分の中に既にあるそういうものを集めて形にしていくことがそれぞれの事情に合ったオリジナルのアイデアを生み出すことなのかもしれないと、この齢になってようやく思うようになりました。

だから歯を磨いている時や風呂の中など、無心になれる時ほどメモを書きたいと思うシーンが訪れるのだと思い当たりました。

そういった私なりの事情があるので、なるべくスマホは開けず自分の頭の中だけで考えたい。そうなると、アイデアは手で何かの紙に書いておく必要があります。

「ジョッター」は、とても使いやすく古くから使われている趣のある文房具です。

メモを大切に考えているので、当店もジョッターをオリジナルで作りたかった。そしてどうせ作るなら、当店なりのアイデアのあるものを作りたいと思いました。

当店がこだわってよく使う革、サドルプルアップは光沢のある美しい銀面を持った革です。サドルプルアップで色々な商品を作りたいと思っていたので、ジョッターにも採用しました。

ジョッターを取り出すだけで速やかに、さりげなくメモが取れるよう、ペンホルダーを付けました。

ペンホルダーには細めのペンを入れるようになっていて、ファーバーカステルクラシックコレクションのボールペン、ペンシル、パーフェクトペンシルなど直径10ミリ前後のものをイメージしました。

こういう用途にファーバーカステルを持ち出してくるのも当店のこだわりで、実用性はもちろん、デザインも良く、こういうものをメモや手帳に使っていただきたいと思っています。

メモとしてのコンパクトさと、書き込める面積のバランスの良い、M6システム手帳のリフィルがセットできるようになっています。

手帳リフィルを使うことで、メモが散逸せずにメインのM6手帳に綴じることができます。

手帳に挟んでおくのにもいいサイズ感ですし、男性でしたら服のポケットにも入ります。

メモという言葉にロマンを感じて大切に思っています。1つのメモが形になって発展し、大きな仕事となっていくことがあるからです。

⇒M6サイズジョッター

ペリカンM800グリーンデモンストレーター発売

モンブランとペリカンはよく比べられて語られることが多いと思います。

世界にはたくさんの万年筆があるけれど、この2つの会社に関してだけは、売上が1位と2位というわけではないのに、ペリカン派とモンブラン派に分かれて論争されている。・・と言うとさすがに大げさだけど、お客様と話をしていると両派に分かれる気がしています。

どちらもドイツの老舗メーカーで、現在もハードな仕様にも耐えうる良い万年筆を作っています。

しかし2つの会社が辿ってきた道はあまりにも違っていて、対照的にさえ思えます。

モンブランは早い段階でファッションブランドの傘下に入って、筆記具のメーカーと言うよりもファッションブランドと言える存在になっています。

ペリカンはあくまでも文具メーカーであり、多くの一般ステーショナリーや学童用万年筆も作っています。

モンブランが目指す万年筆のあり方はファッションのアイテムにもなる万年筆で、ペリカンは文房具の中のひとつとしての万年筆を示してきました。

私たちはもしかすると、モンブランというブランドに対してエリートの象徴を見て、対するペリカンに庶民性を見ているのかもしれません。

ペリカンの定番モデルには、縞模様やクリップにあしらわれたくちばしなど遊び心があって、シンプルで真面目な雰囲気のモンブランとは少し違います。大人の余裕のようなものが感じられて、惹かれる方も多いと思います。

勝手に庶民の象徴に祭り上げてしまったペリカンですが、その使用感は万年筆の王道と言えるものだと思っています。

今のペリカンの最も代表的な万年筆「スーベレーンM800」は、硬すぎないガッシリしたペン先と適度な重量感のある万年筆で、最もリラックスして自然に書ける万年筆の筆頭だと思っています。

何も気にせず書くことに集中できる万年筆は、モンブランで言えば149ですが、ペリカンはそんな万年筆を149の半分の価格で作っています。

コロナ禍の影響はペリカンにも強く作用して、一時は全く流通していない状況が続いていましたが、今年になってやっと戻ってきました。

やはりペリカンのない万年筆売場は寂しいし、万年筆のお手本だと信じているM800を皆様にお勧めできないのは不本意でした。

定番モデルも少しずつ揃うようになってきましたが、最近の話題は限定生産品M800グリーンデモンストレーターです。

M800の縞模様は、生産の効率化・耐久性の向上を目指して透明部分がブラックに変更され、インク残量が見えなくなりました。インク残量を確認しながら万年筆を使いたい人にはM800グリーンデモンストレーターの発売はとても有難いと思いますし、何よりも大量のインクの存在を感じながら書く安心感を味わわせてくれます。

万年筆は豊かでラグジュアリーな雰囲気を味わえるモノが多く、その部分に憧れる人も多いかもしれません。しかしペリカンは万年筆は書くための道具、筆記具であることを常に忘れず、自分の手を動かして仕事している我々庶民のものであり続けようとしているように思います。

⇒Pelikan M800グリーンデモンストレーター

ペンスポット・ボルトアクションボールペン「gate811」

私が車の免許を取るために自動車学校に行っていた時は、ミッション車が標準的で、オートマチック車に乗れる時間はわずかでした。オートマは操作がとても楽で、ミッションのようにクラッチ操作をミスしても、ロデオのようにノッキングすることがないので、その時間を楽しみにしていました。

でも乗っていた車は2台目までミッション車で、それは運転を楽しむというよりも、オートマよりも値段が安いから、そして燃費が良かったからでした。

オートマの性能がそれほど良くなかったのかもしれませんが、ミッション車に乗るのが普通の時代でした。

しかし、気がついたらオートマ車がほとんどで、ミッション車の方が珍しいくらいになっていました。

車を走らせるために変速レバーをガチャガチャと動かしたり、渋滞の時はクラッチを調整する足が疲れるミッション車が当たり前だったのに、今ミッション車は趣味で乗る車になっている。

書くことも似たような状況かもしれません。

昔はパソコンなんて職場になく、商品を発注するにも紙に手書きをしてファックスを送らないといけなかった。何かする時は手書きをするということが普通でした。その時はもっときれいな書面でファクスを送りたいから、活字にしたいと思っていたし、はじめて自分が書いた文章をプリンターで印刷した時は、別人が書いたようにきれいで、とても嬉しかった。

でも仕事ではコンピューターに打ち込みすることが当たり前になって、手書きの書類を見ることはほとんどなくなりました。

気が付いたら手書きをしなくても生活は成り立つようになっていて、日常的に手書きをする人は、好きで書く人・書くことが趣味だと言える人がほとんどになっていました。

私もそうですが、書くことが好きな人は万年筆だけでなく、どんな筆記具を使ってでも書いていたいものです。

むしろたまにボールペンを使ったりするのも気分が変っていいと思いますし、仕事中は私でも万年筆よりもボールペンの方が使いやすいと思います。

だから当店はボールペンも提案したいと思います。

時計作家のラマシオンの吉村恒保さんが作るボールペン ペンスポットgate811が久し振りに入荷しました。

ハンドメイドの時計やジュエリーの製作もしながらなのでなかなか出来上がらず、前回から1年近くの月日が過ぎてしまいました。以前軸中央にあったリングがなくなって、継ぎ目のない一体型構造にモデルチェンジしています。

芯を出す時は、車のシフトレバーを操作するようにノックして芯を出します。そして芯を交換する時はレバーを取り外します。

全てのパーツが吉村さんの時計作りのように1つずつ削り出して作られていることを知ると、このボールペンがいかに手間を掛けて作られているか分かります。

適合する芯は、絶妙な滑らかさを誇るパイロットアクロインクボールペン芯が使われていて、吉村さんはよく分かっている方だなと思います。

小振りなサイズはM5手帳のペンホルダーに収まることを意識したからですが、このサイズ感がこのペンを小気味のいいものにしていると思います。

ミッション車を思わせるボールペンgate811は、私たちの時代のミッション車ではなく、趣味で乗るスポーツカーのシフトゲートを思わせるものであることは言うまでもありません。

⇒真鍮ボルトアクションボールペン Gate811

オマスの精神を受け継ぐASC(アルマンドシモーニクラブ)

ASCのペンを扱い始めました。

老舗であり、マニア受けするペンを作っていたオマスが2016年に廃業して、セルロイドなどの部材を引き継いだのがASCの創業者カルタ・ジローニ氏でした。

本当はオマスの名前も引き継ぎたかったそうですが契約の関係で叶わず、ブランド名をオマスの創業者の名前をもらいアルマンド・シモーニクラブとしました。

ちなみにOMASという名前もオフィチーナ・メカニカ・アルマンドシモーニの頭文字をとったものです。

カルタ・ジローニ氏をそこまで駆り立てたのは、他のメーカーとは一味違う、尊敬に値する万年筆メーカーオマスへの愛情だったのでしょう。

ASCはアメリカの会社で、メイドインイタリーのオマスとは違う、各部品を専門業者で製作する分業による現代のペン作りをしています。しかし、オマスへの愛情、イタリアのペンへの憧れには変わりなく、オマス愛を隅々まで行き渡らせたゴージャスなペンを世に送り出しています。

ASCのペンはオマスのペン作りの精神を受け継いだメーカーだと分かるのは、それぞれのペンの書き味の味わい深さから窺うことができます。

柔らかいペン先にエボナイトのペン芯の書き味は、大量生産品では出せないいい味を持っています。

スチールペン先の最も安価なスタジオシリーズでも、そのデザインのまとまりの良さ、透明感のある素材を使ったその姿はオマスのペンを彷彿とさせます。

ボローニャシリーズは、まとまりの良いデザインをセルロイドを使って高級感を与えたオマスらしいASCならではのシリーズで、非の打ち所のない完璧な仕上がりの代表的なシリーズです。

オマスの三角形の断面を持つ衝撃作360を現代流にアレンジしたのがトリアンゴロです。

360はシンプルな装飾のほとんどないペンでした。三角形というインパクトのある姿に装飾は必要なかったのでしょう。

トリアンゴロは、透明なセルロイドを使って細部を洗練させた、ゴージャスでインパクトのある姿のペンに仕上がっています。

当店もオマスへの愛情は強かった。

オリジナル万年筆を作ったり、イタリアの本社を訪ねたりするほど力を入れていましたので、オマスの廃業は当店にとってもショックな出来事でした。

私がオマスを知ったのは、1990年代でした。

他社がしていない木軸のペンにも積極的に取り組んでいましたし、イタリアの上質な革を使ったペンケースも作っていました。

ほとんどのブランドが、黒、青、ブルーブラックのインクしか作っていない時代に、様々なカラーインクを発売していました。

他のメーカーの一歩も二歩も先を行っていた、取り組み方が全く違うメーカーで、それがオマスらしさになっていました。

私は主に万年筆を扱っていますが、昔からインクはもちろん革製品についても、万年筆と組み合わせて考える習慣があり、今思うとオマスの影響かもしれないと思います。

そうやってオマスの影響を受けて、オマス愛を持っている業界関係者はたくさんいるだろう。

今でもオーバーサイズのパラゴンの書き味を覚えています。ライバルはモンブラン、と自信満々で言ったオマスのCEOの言葉に、味のあるパラゴンの筆記感が重なりました。

私たちに影響を与えた万年筆メーカーオマスはASCのペンの中に生きていると信じています。

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