ル・ボナーのペンケース

ル・ボナーのペンケース
ル・ボナーのペンケース

タフで骨太な仕様のものに強く惹かれますが、このペンケースの魅力はそれだけでなく、使い込むことで分かる、使っていくうちに増してくる愛着というものも持っています。
私が今まで見てきたペンケースは、ほとんどが高価で上質で繊細な革は使っていましたが、その作りは頑丈だとは言えないものでした。
新品の時、とても美しくしっかりとしたものが、1年もするとクタっとしてしまうことにがっかりしていました。
ペンケースというものは使い込むとただ古くくたびれてしまうものだと思っていましたが、作る人が変わると一生ものにもなり得るということを知りました。
それは革小物職人と鞄職人の違いということよりも、目指すものの違いなのかもしれないと思うようになりました。
どこかの下請けで仕事を請け負っているわけではない独立系の職人は、自分の名前をかけて作るその作品が全てで、その作品の評価が運命を分けてしまいます。
それだけ物作りに真剣になり、全身全霊をかけて行われます。
その独立系の鞄職人の物作りの姿勢がこのペンケースの一番の見所になっているとも言えます。

それは革の縁の処理にも表れています。
革小物職人が作ったものの多くは、へり返しという革を薄く削いで折り返して縫う処理をしていますが、このペンケースはコバ磨きという処理をしています。
へり返しは新品の時、繊細で美しく見えるかもしれませんが、薄くした革は擦り切れやすく、縁が擦り切れてしまうと修復が難しく、使えなくなってしまいます。
コバ磨きの処理でしたら、染料を塗って磨き上げることで、縁を元通りに復元することができます。
このペンケースに使われているブッテーロという素材は滑らかな手触りと使い込むごとに艶を増す上質で強い素材で、こまめに磨くことで表面がとても艶やかになり、美しい光沢を放ちます。
乾いた布で日常的に磨くことも有効ですし、濡らした布を硬く絞って磨き上げるのも革の艶を復活させるのに役立ちます。
そんな風に大切に使うことにも、無造作にハードに使うにも耐え得る素材だと思います。
そんな素材、ブッテーロを背中合わせに2枚重ねて、ペンケースとしては最高の強度を持たしています。
オーバークオリティとも言える仕様のため、フラップ部などは硬くさえ感じますが、使って馴染ませていく楽しみがあります。

私はこのペンケースの3本差しを2つ持っていて、それぞれにお気に入りのペンを入れて、毎日交換して使っています。
そう考えると3本差しというのはちょうど良く、細字、中字、太字と持って歩くことができるので、仕事に行くときこのペンケースを1つ鞄に入れるといいわけです。
自分の持っているペンを全て持ち出すことのない私にとって、この3本差しのペンケース、なくてはならない存在になっています。
モンブラン149までの大きさを入れることができるスペースがありますので、このペンケースに入らないペンは少なく、どのペンも適度にホールドしながら、取り出しもしやすくなっています。

直して使うことが前提になっている鞄職人のペンケース、大切な万年筆を安心して預けることができる、長年使うのに値するクオリティのものだと思います。

ル・ボナー ペンケース

プラチナ ブライヤー

プラチナ ブライヤー
プラチナ ブライヤー

あまりコレクションする習慣のない私が、初めて字幅を揃えて持ちたいと思った万年筆がこのプラチナブライヤーでした。

私が万年筆を仕事にするようになった時にはすでにあって、特に目立った存在ではなくあまり省みられることのないものでしたが、使ってみてその良さが分かりました。

それはデザインなどからは想像することのできなかった満足感、使うたびに喜びを感じることのできるものでした。
私にとってこの万年筆はあまり人が使っていないものを使いたいと思って使い始めた、憧れの存在というものではありませんでしたが、万年筆観を変えてくれるものになりました。
プラチナの万年筆はどれも、文字を書くのに必要最低限のインク出で、硬めのペン先で滑りを出すという味付けが頑なに施されています。
それはもしかしたらお店での試し書きでは良さが分かりにくいものかもしれませんが、万年筆を実用の道具として使っている人の多くが、ご自分の万年筆のインク出が多過ぎることに多少なりの不満を感じていることを考えると、とても実用的な仕様だと思います。

ヌルヌルといった書き味は持ち合わせていませんが、使うための万年筆を頑固に作り続けているのがプラチナです。
ブライヤーという素材は、多くの万年筆メーカーが取り組んできた比較的よく使われてきたものですが、現在継続して定番品として作っているのはプラチナだけだと思います。

シャクナゲ科の植物の杢の部分は、木目が複雑に渦巻いていて面白い模様を呈しますが、硬さもあるため、万年筆などの筆記具にも適している素材だと言われます。
ブライヤーは熱にも強く、筆記具に使われるずっと以前からパイプのボウル(葉をセットする部分)に使われる素材でした。
強度だけでなく、使い続けることで手の油で磨かれてとても美しい光沢を見せることから、見て、磨いて、吸って楽しむパイプ文化を形作ったのはブライヤーという素材があったからだと思います。
この万年筆に使われるブライヤーは拭き漆という技法によって仕上げられています。
漆を布につけて、拭くように素材に馴染ませる技法で、手触り、光沢が自然な風合いに近いこの万年筆の良さに一役かっている技法です。
実用的な文字を書くためのプラチナのペン先システムと、見て、磨いて楽しむことができるブライヤーのボディ、女性のお客様は実際少数ですが、男性のための万年筆がこのプラチナブライヤーだと思います。

手帳書きにインク出をさらに絞ってペンポイントを細くした細字、ノート書き用に中字、太い文字が欲しい時に使う、インク出をできるだけ多くして、筆記角度に合わせてペンポイントに面を作った太字と用意して、どのペンも布でピカピカに磨き上げて、3本差しのペンケースに入れて持ち歩きたいというイメージを持たせてくれる万年筆だと思っています。

プラチナ ブライヤー

アウロラ オプティマ

アウロラ オプティマ
アウロラ オプティマ

多くの人がこのペンのデザインを気に入って使い出したのではないかと思います。
というのも、私自身がこのオプティマの控えめな華やかさから香るインテリジェンスを強く感じるデザインに惹かれて使い出したからです。
他のイタリア製の万年筆と違って、強烈すぎない、とてもスマートで洗練されたセンスをアウロラの万年筆に感じていますが、オプティマは最もそれを端的に表している万年筆だと思っています。

そんなスマートな洗練された万年筆をアウロラが作ることができたのは、アウロラがあるトリノという土地柄なのかもしれません。
フィアットの本拠地であり、ピニンファリーナ、ベルトーネ、イタルデザインなど多くのカロッツェリアが存在し、OA機器で一時代を築いたオリベッティも拠点を構えたイタリア有数の工業都市であり、世界的に成功を収めた多くの製品を生み出し、イタリアがデザインに優れた工業製品を作る国だという印象を与える役目を果たした街、それがトリノでした。

歴史的な遺構が残る過去に生きる街にある他の万年筆メーカーと違い、優れた工業製品が街中で作られていた街で繁栄していったアウロラが、洗練されたセンスの良いもの作りをしているのも当然なのかもしれません。
パーツメーカーから供給を受けて、アッセンブリーしたものを製品として発売しているメーカーも多く存在する中、全てオリジナルパーツで作り上げているアウロラというメーカーはとても貴重な存在であり、安心してmade in Italyを手にしているということが言える数少ないもののひとつだと思います。
全て自社で製作されたオリジナルパーツを使って製品作りをしていることは、アウロラの書き味や使い勝手が独特で、他のどのメーカーにも似ていないところにも表れています。
オプティマをデザインが気に入って使い始める人が多いのではないかと言いましたが、その使い勝手は意外に硬派で、本当に使い込んでいく人のための万年筆といった、一筋縄では馴染まない道具を連想させるところがあります。

エボナイトのペン芯は使い出したばかりの時、なかなかインクがしっかりと出てくれないことがあります。
2週間(目安)ほど我慢して使うとインクが安定してしっかりと出るようになり、さらに馴染むと豊かにインクが流れてくれるようになるという、使い込んで馴染ませる過程が必要です。
アウロラが硬いペン先をこのエボナイトのペン先に組み合わせている理由は、オプティマがここまで育って、初めて分かるのかもしれません。
そんな難しいところのあるオプティマですが、使い込んで愛用のものになった時、手放せない何物にも代え難い物になってくれると思います。

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硬派な道具 「シルバーン」

硬派な道具 「シルバーン」
硬派な道具 「シルバーン」

机に向かって一日を振り返りながら手帳に書き込むための、私なりの手帳用の万年筆をいろいろなものから検討しました。
自分の中に蓄積された知識を引っ張り出して考えましたが、パイロットシルバーンになるとは私自身も意外に思いましたが、今ではこの万年筆で文字を書くのがとても楽しく感じられます。

シルバーンはどちらかと言うと地味な印象の万年筆で、話題になることもありませんし、あまり持っている人を見たことがありません。
しかし、あるパイロットのペンドクターが愛用しているのは知っていましたので、きっと玄人好みの渋い万年筆だというイメージはずっと持っていました。
私はもともとシルバーンのような、古臭いデザインのものに惹かれる性質で、そんな中に何か別格のものを宿しているものが好きです。

シルバーンの場合、その大きなペン先がとても魅力的に感じられました。
その特徴的なペン先は首軸の半分はあり、そこにとても力強い骨太な書くための道具といった印象を持っています。
そのほとんどがボディに貼りついているペン先の形態からは、見た感じの印象からすると硬い書き味に思いますが、使ってみると意外にも動きの大きいペン先で、柔らかい書き味だと分かりました。
柔らかい味わい深い書き味と筆圧に応じてインクの出かたをコントロールできるところは、この独特な形のペン先の恩恵だと思っています。

ボディはスターリングシルバーです。
最近のスターリングシルバーのボディのペンはコーティングされているものが多く、最初の輝きをいつまでも保つ意味ではそれは非常に有効なのかもしれませんが、それは銀の良さを半減させていると思っています。
純銀のボディを使い込んで、だんだん渋い風合いに変わっていくところも銀の楽しみだと思いますので、銀の万年筆にはあまりコーティングはして欲しくないと思います。
それに銀独特の粘りのある触感が損なわれ、コーティングによって滑りやすくなってしまいます。
パイロットの万年筆の多くに言えることですが、キャップの尻軸への入りが深いところもこの万年筆の良いところです。
それは書いている時にキャップがグラつかず安定しているということにも役立っていますが、バランスの良さにも非常に貢献しています。
バランスの良さは長時間の筆記でも疲れないということになるのですが、思った通りに操ることのできるコントロールのし易さにも繋がります。
コントロールのし易さと言えば、シルバーンのペンポイントはボディを断面的に見た中心に位置しています。
これはコントロールのし易さと言う点で、結構重要なことなのかもしれないと思っていますが、けっして多数派ではないようです。
パイロットにはコンバーター70という他社のものに比べて容量が多く、片手で操作できるプッシュ式のものがありとても便利ですが、カスタムシリーズ全てに使うことができるこのコンバーター70をシルバーンでは使うことができません。
ボディ尻軸付近がかなり絞ったデザインになっているところが災いして入らないようで、ゴムチューブの入ったコンバーター20とインク容量の少ないコンバーター50しか使うことができません。
実用的にはカートリッジの方が使いやすいと思います。
私はインクの色にあまりこだわりのない方なので、迷わずカートリッジで使っています。
デザインの華やかさやスマートさ、趣味的な要素などは持ち合わせていませんが、実用的に万年筆に必要な要件を全て高い次元で満たしているシルバーンのような万年筆が私はとても好きですし、多くの方に使っていただきたい万年筆のひとつだと思っています。

パイロット「シルバーン」