シュランケンカーフの長寸ペンケース

シュランケンカーフの長寸ペンケース
シュランケンカーフの長寸ペンケース

色々なサイズの万年筆を持っていますが、握ったり、書いたりしていて、喜びが大きいのはやはりオーバーサイズの万年筆です。
大きなペン先、それによる豪快な書き味。オーバーサイズのペンが書きやすい時は、やはりペン先が大きいと書き味が良いな、と思ってしまいます。
実際は小さなペン先の万年筆でも書き味がすごく良いものもあるし、ボディが大きくなくても持ちやすいものもあります。
しかし、手がペンの重みで書くことを覚えてしまうと、ある程度の大きさ、重みのあるペンの方が机に向かってまとまった文字数を書く時には書きやすいと思います。
と言っても私が書く文字数は一文で1000文字前後のものがほとんどなので、もっと長文を書く人にどうか分からないけれど。
重みで書ける万年筆のボーダーラインは20g台後半以上、直径13mm以上の万年筆で、ペリカンM800やパイロットカスタム743、845、パーカーデュオフォールドセンテニアル、アウロラ88クラシックなどなどたくさんありますが、これらの万年筆よりもひと回り大きな万年筆がオーバーサイズの万年筆ということになります。

オーバーサイズの万年筆の魅力は、ペン先に代表されるその大きさですが、困ることがひとつあります。
家や職場に置いたままで持ち歩かなければ気になりませんが、それを収納するペンケースがないということです。
オーバーサイズの代表的な万年筆モンブラン149やペリカンM1000などオーバーサイズを代表するペンを収めるケースならまだありますが、それらよりわずかに大きくなると難しい。
中屋万年筆シガーロングやセーラー100周年島桑などの万年筆をいれるために長寸ペンケースをオリジナルで作り、2011年から断続的に販売しています。
一時期大きなペンの需要が静まっていましたので、止めていた時期もありましたが、また収納するペンケースに困っているという話を聞くようになり、今年になってからダグラス革で製作し、今回はシュランケンカーフで作ってみました。
ダグラス革は使っているうちに艶が出て、シワなどもサマになる革ですが、中身に応じて伸びてくれるシュランケンカーフの使いやすさも捨て難いと思いました。
当店にはまだ入荷していませんが、最近発売されている大きな万年筆と言えばパイロットのカスタム漆です。このカスタム漆を収納するケースがなく困っている人が多いようです。
長寸ペンケースのダグラス革でも入らなくはなかったですが、革の性質上出し入れがしづらかった。シュランケンカーフ仕様だとさすがにそういうことはなく、革の柔らかさもその使いやすさに影響しているようです。
留め具やフタなどのないとてもシンプルな仕様ですが、ペンを取り出す時、収める時など所作にこだわりたくなりそうなペンケースです。

⇒長寸用万年筆ケース シュランケンカーフ

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⇒2011.5.13「オリジナル長寸用万年筆ケース完成」

工房楔のペンシル

工房楔のペンシル
工房楔のペンシル

何ごとも強情を張って無理を通そうとするのは良くない。モノの通りを理解して、自然に行動したいといつも思っています。
筆記具はそれぞれ合った用途があって、使い分けることで作業がスムーズに進みます。万年筆はインクで書く筆記具なので、消すことができない清書用の筆記具ということになります。手紙や葉書、書き残すことを目的としたノート、手帳への筆記がそれにあたります。
しかし、私は今まで万年筆屋をしているということもあるし、万年筆で書くことが好きだということもあるけれど、原稿の草稿のようなものも万年筆でしていました。
でも最近は、無理して万年筆を使おうとしなくてもいいのではないかと思うようになりました。

アイデア書きの道具として万年筆が向いていないのは、手を止めて考えている時間が長いとインクが乾くからです。だから今までギリギリまで考えて一気に書き上げるという、万年筆を使う前提の書き方をしていたのだけれど。
まだ頭の中にあるものを自覚していない時にとりあえず紙に向かうしかない時は、万年筆の出番ではない。万年筆で書くことによって、それが確定したものに感じると言うと大袈裟かもしれないけれど、万年筆のインクが強過ぎるように感じることがあります。
そういう時にペンシルで書いてみるととても気が楽で、はかどるような気がします。
気軽に何でも書けるので没原稿も多くなったけれど、原稿の草稿、下書きを書く時に今はシャープペンシルを使うことが多くなりました。

シャープペンシルを真剣に使うようになって、自分の用途に合ったシャープペンシルを探してみると、なかなかシックリくるものがないことに気付きます。
筆記具を長く扱ってきて、いつも思っていたことはシャープペンシルは学生向きのものが主流で大人向きのものが少ないということでした。
国産の筆記具メーカーのその傾向は顕著だし、輸入筆記具はボールペンがあっても、シャープペンシル自体が輸入されていないモデルがたくさんあります。
手に入る良いシャープペンシルは、カランダッシュ、ファーバーカステル伯爵、ペリカン、ヤードレットなどしか見当たりません。
そんなシャープペンシル不足の中、工房楔はシャープペンシルが充実していて、貴重な存在だと思っています。
0.7mmペンシルは控えめでオーソドックスなデザインだけど使ってみるととても握りやすく、意外と太さも確保されています。
平凡で奇をてらっていないフォルムに好感が持てるけれど、こういうスタンダードなデザインのモノは以外にも少なくなっています。
見栄えもする新デザインで太めのグリップ感が心地いい0.5mmと2.0mmは、すべてのパーツがオリジナル仕様で、工房楔の永田さんが長年温めてきたものを理想を追究して仕上げたものです。
こういったよくできたペンシルが、模様や木肌を見て楽しめ、使い込むと艶が出たり、手触りが良かったりする銘木であるというところに、木の価値よりもペンシルとしての出来の良さが工房楔のペンシルの価値だと思っています。

恒例の工房楔のイベントを今年も9月23日(土)、24日(日)に開催いたします。
ペンシルもたくさん出てきます。皆様にも考える道具としての工房楔のペンシルを手に入れていただきたいと思っています。

⇒工房楔/ペンシル・エクステンダー

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日本の万年筆

日本の万年筆
日本の万年筆

夏は、特に8月は日本的なものに惹かれます。日本について考える機会が多い月だからだと思います。
原爆によって多くの方が亡くなった日。終戦記念日、お盆など、私たちが日本の過去や亡くなった人たちについて考える機会の多い月です。
外は暑くてカンカン照りなのに、どちらかというと内省的な気持ちになる様々なことを振り返る月だと思っています。

そんな月に、手紙や原稿を黒インクで縦書きして、万年筆を愛用する者なりのやり方で日本的な心を大切にしたいと思います。
冬枯れのインクは書いた後に黒味がスッと紙に沈む薄めの黒なので、ノートいっぱいに書いても暑苦しくならず、今の季節に使う黒としてちょうどいいと思います。名前も涼し気です。
インクの宣伝になってしまったけれど、日本の万年筆について考えたかった。

日本は万年筆王国だと思っています。
良質な万年筆を作る3つのメーカーが健在だから。
それぞれのメーカーの違いは、私は書き味の個性だと思っています。パイロットは筆圧の強弱によりインクの濃淡の出る仕様になっているし、セーラーはスイートスポットをはっきりとさせた仕上げで正しい書き方で書くととても気持ちよく書けます。プラチナはインクの出が一定で、筆圧が変わってもインク出に影響を受けずに均一に書けると思います。
それぞれのメーカーの特長はバラバラですが、共通して目指しているのはきれいな文字を書くことです。思想の違いはあるけれど、国産3社で優劣はなく、書き味の違いのみ存在すると思っています。

国産3社の100年の歴史は日本の近代文房具の歴史そのもので、老舗文具店の歴史もそれと重なる。これだけ長い間、生産と販売の仕組みが続いてきたことはすごいことだと思うし、業界の努力によるものだと思います。
当店はたった10年の歴史しかないけれど、この10年で学習したことは、自分たちのスタイルを変えたくなければ新たな顧客を探し続けなければならないし、同じ顧客に対して商売していきたければ自分たちが変わらなければならない。それだけモノの移り変わりが早いと実感しました。
私も自分のやり方を変えたくないけれど、そんな危機感をずっと持っています。

それにあてはめて考えると、国産3社と販売店などが100年間同じ形態で続いていることは奇跡に近い。
日本という閉ざされた国土にいると世界の動きは感じにくいし、これは私の勝手な思い込みかもしれないけれど、日本の万年筆、文房具が更に100年、200年と永遠に続いて欲しいと思っているからこそ、何も変わらない業界に焦りを感じています。

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KWZ(カヴゼット)インク

KWZ(カヴゼット)インク
KWZ(カヴゼット)インク

ホームページに掲載する以前からKWZインクはご来店のお客様によく売れていました。
新しく出たインクのブランドを慎重に見極めようとするよりも、積極的にご自分の好みの色を見つけようとする感じの方が多く、意外に思いました。
新しいものをどんどん取り入れる方も、モノ選びに慎重な方もどちらもこのインクを気に入って使っているので、これはもしかして流行なのかと、錯覚するほどでした。
KWZインクのどこに人気があるのかと考えた時に、私は色作りが支持されているのではないかと思っています。
ブルーでも微妙に違っているものが13色(古典インク、ノーマルインク込み)もあって、色作りが絶妙で、それぞれの色を好む人が必ずいるのではないかと思えます。

KWZインク開発者のコンラッド・ズラヴスキー氏はポーランド・ワルシャワ工科大学の研究者で、熱心な万年筆愛用者であり、実験でも万年筆を使っていました。
ある時、大切な実験データを書いたノートにフラスコの液体をこぼしてしまい、データが消えてしまうという悲劇を経験して、消えないインクを調べているうちに保存性に優れた没食子(IG)インクにたどりつきました。
同じ研究者である奥様とともに試行錯誤して、新しいIGインクを開発して2015年KWZインクを立ち上げました。
KWZインクの興りが、ウォーターマンの万年筆の興りに近いものがあって、失敗が新しい発想の源泉になるのだと改めて認識するエピソードです。

KWZインクの特長は、酸化鉄が紙に定着することで、高い保存性を発揮する古典インク(IGインク)があることと、微妙な色違いで同じ系統の色がいくつもあることです。
KWZインクのブルーの微妙な違いを見て、自分もこの中から自分好みのブルーを選んで使いたいと思いました。
古典インクで#1から#6まで(#4は欠番)、ノーマルインクで#1から#5まで、それぞれのブルーにセンスが感じられ「なかなか分かっている」と唸らされます。
保存性が高いということと、書いた後しばらくすると色が黒っぽく変化するというところに惹かれてIGインクのブルー#3を全ての万年筆の入れて使ってみています。

IGインクで注意しないといけないのは、普通の染料インクよりも酸性度が高いということです。
金ペン先でない万年筆、首軸先端付近(インクが付きやすい所)に金属が使われている万年筆には腐蝕の恐れがありますので、注意して使われた方がいいと思います。
古典インクはどのインクも、出が渋くなるものだと思っていましたが、KWZインクは渋くなりませんでした。
アウロラ、ペリカン、パイロット、ファーバーカステル、どのメーカーに入れても快適にお使いいただけると思います。
インク専門メーカーのインクを使うことは、メーカー純正ではないために自己責任ということになるけれど、私の場合使っていて不具合は起こっていません。
自分好みのブルーをKWZインクによって手に入れることができて、とても嬉しく愛用しています。

KWZインクの古典インク(IGインク)には3種類あります。
IGアーカイブインクは、高濃度のIron Gall成分を含むインクで、最も高い筆記保存性があります。「IGブルーブラック」がこれにあたります。
IGLインク「IGマンダリン」と「アステカゴールドIGL」は、Iron Gall成分を抑えた、色の変化を楽しむインク。
その他のIGインクは、中程度のIron Gall成分を含み、筆記保存性があります。

*KWZ Ink「水性筆記インク」
*KWZ Ink「没食子インク(IG・IGL)」

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