パーカー51~金ペンへのこだわり~

51歳になる記念にパーカー51を買うというお客様がおられて、面白いと思いました。

私は今年53になるので53のつく万年筆があればと思いますが、今のところそんな万年筆はないようです。数字のついた万年筆で、今後私が買えるとすれば、米寿でアウロラ88くらいになってしまいました。

パーカーが自社が40年代から70年代の長きに渡って作った万年筆 51を復刻したのには、昨今の万年筆への反発のようなものを感じます。

最近の万年筆の価格は高くなりすぎました。

その結果、豪華で充実した軸に、価格を抑えるためのスチールペン先が付いているというものが多く発売されてきました。抑えたと言ってもスチールペン先にしては高額に思えるものが多かった。

個人的な感覚ですが、万年筆のペン先は金であって欲しい。お金をかけるのならペン先にお金をかけて、軸や箱はシンプルにして価格を抑えて欲しい。古くからの万年筆愛好家である私たちの世代の人はそんな風に思っていて、ペン先以外が豪華な万年筆を何となく受け入れがたく思っていました。

老舗万年筆メーカーであるパーカーはその空気を察知して、私たちのような万年筆愛好家は、パーカー51のような万年筆を求めていると考えたのではないだろうか。

昨年パーカーの兄弟会社でもあるウォーターマンが、名品エキスパートの18金ペン先仕様を3万円代という価格で発売したのにも、そんな意図があったのかもしれません。

実際、ボディはシンプルで、オーソドックスなデザインで、金のペン先を備えた日本の書き味の良い万年筆が海外でも高く評価されていて、人気があるそうです。

3万円台という、ある程度の年代の人にとって比較的手頃な価格の万年筆でお勧めできるものは、パイロットカスタム743、プラチナブライヤー、セーラープロギアの限定品など、国産万年筆だけになってしまっていましたので、パーカー51やウォーターマンエキスパートの存在は、店にとっても販売の幅が出て大歓迎でした。

人気の万年筆は、装飾があって趣味心をくすぐったり、ファッションの一部になるようなものが多いけれど、違うものがあってもいい。

万年筆が今のパソコンのように仕事の中心だった時代の万年筆、パーカー51は実用本位のシンプルなデザインで、その装飾のなさが今新鮮に見えます。

ペン先の大部分を覆った首軸は、クラシックな印象で、デザイン的に大きな特徴になっていますが、ペン先を保護したり、乾きにくくすることにも貢献していて、実用的な意味もあります。

万年筆が趣味・楽しみの道具である現代、こういう万年筆もあるべきだと思いますし、今まで万年筆の価格を吊り上げ続けてきたメーカーは、きっと厳しい時代になる。

やっと求められていたものを世に出したのだと、パーカー51の発売で思いました。

⇒パーカー51(パーカーTOPへ)

ル・ボナー絞りペンケースとペントランク(仮名)

私はル・ボナーさんのペンケースや鞄によって、良い革というものを知りました。

それまで革の良し悪しというのを知らず、革であれば使ううちにいい味が出てくると思っていました。でも実際はただボロボロになってしまう革もあった。

でも13、4年前、万年筆の魅力にハマったル・ボナーの松本さんが作り出した「絞りペンケース」で、ブッテーロ革と出会いました。

ブッテーロ革は、ちゃんと手入れして使い込むと美しい艶が出てきます。それを実感してからは、そればかりを使うようになりました。

手入れと言っても大したことではなく、傷がついたらブラシをかけるとか、たまに乾いた布で軽く磨くだけですが、これだけで革は輝きを取り戻してくれます。

革靴と同じように、むやみにオイルを塗ると革がベタベタして、かえって汚れが付きやすくなってしまいます。そして元々革に含まれている油分と混ざって、固まってしまう。革をダメにするのは大抵ホコリで、それをきれいに払うブラシ掛けが革の手入れとして最も有効ということを知りました。

ブッテーロの絞りのペンケースも、そんなふうにやり過ぎずに手入れをするときれいな艶が出てくるし、深い傷がついてしまった場合でも、硬く絞った布で水拭きするとたいていのものは目立たなくなります。

13年以上作り続けてもう定番になっていますが、このペンケースの構造を松本さんは短期間でよく作り上げられたと思います。

ペンを入れる室の部分は、型を当てて圧力をかける絞り技法で成形されています。ブッテーロの革を2枚重ねて絞ってあるので、室の部分はかなり硬く頑丈です。

ブッテーロを2枚重ねて絞るには特別な機械が必要で、それを持っている職人さんはあまりいませんでした。この13年でその数少ない職人さんが高齢で引退されたため、松本さんが苦心してその技術を実用化されました。その方法を下請けの職人さんに伝えて、今に至っています。

1本差しの絞りのペンケースにストレスなく出し入れできるのは、ペリカンM800やモンブラン146のようなレギュラーサイズの万年筆です。

オーバーサイズの万年筆でも、ペリカンM1000は出っ張りがなく、比較的細目なのでクリップを斜め後ろに回せば入れることができます。モンブラン149になるとリングが太いため入りません。

149で言うと、3本差しの両サイドの室には入れることができます。中央は少しタイトなので、ペリカンM800などのレギュラーサイズがぴったりです。

現在、松本さんは万年筆が10本入る「万年筆のトランク」を企画されていて、先日試作品を見せていただきながら打ち合わせをしました。

芯となる木の枠から作成し、全ての縫製を松本さんが手縫いで仕上げるという今までになかった企画です。

この仕事への取り組みを見ていて、絞りのペンケースを商品化した時のように、松本さんの情熱に火がついたことが分かりました。

皆さんがそれぞれ大切に思っている万年筆だからこそ、大切に使いたいと思う革のケースに入れて持ち運んで欲しい。万年筆を愛してやまない鞄職人の松本さんらしいモノがまた生まれようとしています。

ペントランク(仮名)は6月頃発売の予定です。

業界を華やかにしてくれた「趣味の文具箱」

私たちの仕事は、万年筆やステーショナリーの楽しさを伝えることです。

これまでそれぞれのお店やこの業界に携わる人たちがその努力を続けてきたので、ステーショナリーは私がこの世界に足を踏み入れた時と比べものにならないほど華やかで、多くの人に注目してもらえるものになりました。

その中で、日本で唯一のステーショナリー専門誌「趣味の文具箱」が果たした役割は非常に大きく、この雑誌がなかったら、この業界もどうなっていたか分からないと思っています。

「趣味の文具箱」は、年4回発行されている、万年筆などの筆記具やステーショナリーの専門誌で、新製品情報やお店の紹介、マニアックな使いこなしなど、万年筆やステーショナリーを深く掘り下げた本です。

万年筆やステーショナリーがまだごく一部の人の楽しみだった2005年に突然現れ、ステーショナリーが趣味になり得るということを示して、私たち文具業界にいる者は勇気をもらい、励まされました。

私はこの店を始める直前の2007年のvol.8から執筆陣に加えていただき、細々と記事を書かせていただいてきました。

書いた文章は拙かったと思いますが、万年筆の楽しさを伝えるということを自分なりに考えて毎回書いてきました。お客様に接する第一線である店の人間が書いた記事は、ステーショナリーの現状を伝えるものになればと思っていました。

生まれたばかりの小さな店にとって、日本で唯一の専門誌に店名を載せていただいた効果は大きく、趣味の文具箱を見てご来店して下さる方も多く、本当に有難かった。おかげで当店は今こうして存在できています。

最新刊vol.56では、清水編集長と井浦さんが店に取材に来て下さり、「飛んで行きたい文具店」で紹介していただきました。

取材が一通り終わった後、さまざまなリフィルを使うことができる台湾のアントウのペンの話で大いに盛り上がりました。清水編集長と当店3人が使っているので、使えるリフィルの情報や工夫など、子供の頃のゲームの裏技のように全員が目を輝かせて話していたのが面白かった。この話に井浦さんは入れなくて、持っていないことを悔やんでいたけれど。

2月9日に、趣味の文具箱など趣味系の雑誌を多く発行していた枻(エイ)出版社が事業に行き詰まり、民事再生法の手続きをとりました。

お客様方の情報入手の手段や価値観の変化により、出版業界は苦しんでいたのかもしれませんが、趣味の文具箱は他にない唯一無二の存在で、それがなくなるはずがない。

競争のない領域を見出して、存在し続けている趣味の文具箱と当店を私は勝手に重ねて見ていました。その情報を知ってから、趣味の文具箱や清水編集長、井浦さんを失うかもしれないという悲しみのような感情で沈んでいました。

ほどなく連絡があって、受け企業が現れて、趣味の文具箱の継続が決定したそうです。

ひとまずこの業界にとって大切な存在を失わずに済んだ。

時代の流れは逆の方向に向かっているのかもしれないけれど、それと闘える力と存在し続けることができる輝きが、趣味の文具箱にはあると思っています。

今回のことで、大切にしないと失うかもしれないという時代の厳しさを思い知りました。何ひとつ欠けてはいけない。協力し合って、ステーショナリーを盛り上げていかなければいけないと、改めて心に強く思いました。

カンダミサコ~様々な革で作ったペンシース~

カンダミサコさんの商品を当店が扱い始めて11年になります。

ル・ボナーの松本さんに連れられてカンダミサコさんがお店に来られた時、ご紹介いただいたペンシースの取り扱いを即決しました。

松本さんの太鼓判もあったけれど、それまで万年筆を収めるケースというのは重厚なものばかりで、肩の力が抜けていてカジュアルなカンダミサコさんのペンシースがとても新しく思えました。

当時神戸市灘区にある一軒家を借りて工房としていたカンダさんは、修行していた鞄工房から独立したばかりで、まだあまり知られていませんでした。

でもそれから仕事が軌道に乗って、元町に引っ越しをされて工房兼自宅を構えられています。

当店も始めたばかりでしたが、お互いに10年以上仕事を続けてくることができました。

当店で扱っているシステム手帳や他の革製品の多くをカンダミサコさんが作ってくれていて、他のお店にないオリジナリティを手に入れることができています。

当店の雰囲気、目指すものとカンダミサコさんのモノ作りの相性が良かったから今のような関係ができたと思っているし、人間的にも共感できるので、話していて楽しく、何でも言い合えるから長く関係を保ってくることができたのかもしれません。

3年前から、その年限定の革を選んで、期間限定品として様々なものを作るということをしています。今年も企画していますが、昨年の神戸ペンショーではそれとは別に、様々な革を使って1本差しペンシースを作るという実験をしてみました。

お客様の反応も良く、自分たちも面白いと思いましたので、人気があったクードゥーとゴートヌバック、それに追加してダイアリーカバーで使ったミラージュ革で作っていただきました。

クードゥーは、きれいと汚いの間と言えるくらい傷やシミの多い野性味溢れる革で、個体差が激しい革ですが、今はこういう革が求められているのだと実感しています。

ただきれいなものではなく、こういう革を求める人が多いというのは、ステーショナリーがより高い次元のものになってきていることを表していると思っています。

ゴートヌバックは、アパレル系のメーカーが使ってもおかしくないような洗練された美しい革です。当店も一昨年、このゴートヌバックを限定革として使いましたが、何を作ってもサマになる革だと思いました。

ミラージュは、曲げると色が変わるプルアップレザーで、これは完全に私の好みで選んでいます。

トラやムラもありますが、濃い茶色の色合い、ねっとりとした手触り、濃く深いような光沢が何とも言えず好きなので選びました。この革でもいろんなものを作りたいと個人的には思っています。

定番のシュランケンカーフも、色数がたくさんあってタフで使いやすく、好みの色を見つける楽しみがあります。個性的な革の限定仕様ペンシースも、どんなペンと合わせるか、考えるのを楽しんで欲しいと思います。

ペンシースも10年以上販売してきて、万年筆の世界でも定番的な存在になってきたと感じます。それほどたくさんの方に使っていただいていると思う。

ペンはなるべく何かで保護しておきたい。ペンシースは、常にこの中にペンを入れておいて、使う時だけ取り出す、ペンの洋服のような存在になったと思っています。

⇒カンダミサコ1本差しペンシース 「クゥードゥー」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ゴートヌバック」

⇒カンダミサコ1本差しペンシース「ミラージュ」

⇒ペンケースTOP