特別調整の万年筆

特別調整の万年筆
特別調整の万年筆

私の仕事はルーペの中に見えるペンポイントの形を頭の中にあるいくつかのもののどれかに近付けるという、言ってしまえばとてもシンプルな仕事です。

しかし形を思い描くことができても、それを目の前の小さな玉に造形できるようになるには何年もかかりましたし、道具も必要でした。
調整をするようになって10数年、それをちゃんと仕事にして8年、頭の中にある理想的な形をはじめから示したものを買っていただけるようにしてもいいのではないかと思いました。
自分は万年筆の販売員だと思っているので、自分の形に研いだペン先を前面に押し出して見せることに、何となく気恥ずかしさのようなものがありました。
私にとってペン先調整はその万年筆を書きやすくするための、なるべくさりげないものだったのです。
しかし、自分ができることで需要がありそうなことを告知した方が、当店にもお客様方にもメリットがあるのではないかと思い、特別調整万年筆を世に送り出すことにしました。

頭の中にある理想的な形のうち、需要が高そうで実用的にも意味がある「細字研ぎ出し」と「太字の丸研ぎ」をペリカンの万年筆にしてみました。
それぞれのペンの適正に合った研ぎだと思っています。

M400は手帳用に相応しい万年筆だと思いますが、ペン先が太く、インク出が多いところが難点で、手帳に使いたいけれど使えないと思っていた人も多かったと思います。
そこで、ペリカンM400<EF>をベースに手帳に使える太さ、国産の細字くらいの太さに研ぎ出しました。
大変実用的で使用頻度の高いペンを示すことができたと思います。

太字はピタリと筆記面を合わせて書くととても書き味が良いけれど、太くなればなるほどペン先の向き、筆記角度などを気にして書かなければ書き出しが出なかったり、インクがかすれたりします。
ペン先の向きや角度をそれほど気にせずに大らかに書くことができるものとして、太字丸研ぎを用意しました。
従来の太字のスイートスポットにピタリと合った時のヌルヌルとした書き味は少ないけれど、紙へのペン先の置き方に神経質にならずに書くことができるものになっていると思います。
それに、大きなペンポイントが丸くなっているのは造形としても美しいと、ルーペを覗きながら思っています。
この太字丸研ぎで筆記角度に合わせてスイートスポットを作るとヌルヌルとした書き味も生まれます。
BBではなく、BでもMでも丸研ぎにすることができます。

もちろん他の万年筆でも特別調整をすることはできますが、ペン先の色が金色もしくは、外側が金色のものが望ましく、銀色のペン先は銀色のメッキが側面だけはがれてしまう可能性があります。

私は同じ万年筆をペン先違いでペンケースに入れることに喜びを感じる方なので、M400やM800のペン先バリエーションが増えると、新たな楽しみも増えると思っています。


⇒新企画”細字研ぎ出し”特別調整万年筆 ペリカンスーベレーンM400

万年筆を真・行・草で考える

万年筆を真・行・草で考える
万年筆を真・行・草で考える

モノや設えの格式を表す「真・行・草」の中で、最も簡素で素材感のままの「草」に一番惹かれます。
真は格調高く、作り込まれた最も正式なモノの姿。行は真よりも少し用に向かって崩した格式と寛ぎのバランスの取れた姿。草は全てが自然のままに、手を加えていないように見えるモノの姿、しかしそのように見せるために最大の努力が払われている。

真・行・草に外出の服装を当てはめてみると、真は最も正式なトラディショナルなスーツスタイル。
行はブレザーにネクタイ。
草はノーネクタイにノーアイロンのシャツということになるのかもしれません。
服装に関しても、似合うかどうかは別として私は草に惹かれるけれど、万年筆を真・行・草に当てはめて考えるのも面白いと思いました。

それとそうすることで皆様の万年筆選びが少しはやりやすくなれば幸いです。
万年筆選びに正解などはなく、ご自分がどれを好きかということだけだと思っていますが、どれを好きになったらいいか分からないという声も聞かれ、たしかにそうだと思いました。

最も格調高く公の場で使っても気後れしないようなものが真の万年筆です。
これはボディが黒の樹脂で、金具が金色あるいは銀色のもので、モンブランが代表的なものですが、どのメーカーにも黒ボディ金金具のものはあって、公の場で使うものとしてある程度意識しているのかもしれません。
漆塗りの万年筆は、真の万年筆の究極で、パイロットカスタム845が最も真の万年筆だと思います。
⇒パイロットカスタム845
行はもう少しカジュアルなもの。ペリカンの縞模様などは程よく遊び心があって、行の代表的なもの。イタリアの万年筆メーカーのカラーレジンを使ってもののほとんどを行に入れたいと思います。

草の万年筆の条件として素材感が最も重要です。天然素材の質感、2本と同じもののない不揃い感などを備えていれば完全に草の万年筆だと私が胸を張って承認したいと思います。
木のボディで天然の素材を生かしたものは間違いなく草の万年筆で、これに金無垢やスターリングシルバーも仲間に加えたい。
真・行・草どれに惹かれるかは非常に感覚的で、好み、センスが分かれるところで、私はどうしても草の万年筆に惹かれてしまう。

ずっと素材感のあるものが好きで、飾り気がなく、手を入れていないように見せるために最大の努力が払われているものに肩入れしてしまいます。
工房楔と当店とのオリジナル企画のこしらえなどは、草の万年筆の最たるものだと誇らしく思っています。(⇒Pen and message.オリジナル銘木万年筆軸こしらえcbid=2557546⇒Pen and message.オリジナル銘木万年筆軸こしらえcsid=1″ target=”_blank”>⇒Pen and message.オリジナル銘木万年筆軸こしらえ)

〇関連記事
⇒2012.12.14 寒さに強い万年筆(カスタム845)コラム
⇒2013.4.12 万年筆銘木軸こしらえ

オマス シグネチャーエディション 「ルドヴィコ・エイナウディ」

オマス シグネチャーエディション 「ルドヴィコ・エイナウディ」
オマス シグネチャーエディション 「ルドヴィコ・エイナウディ」

オマスの代表的なペン、アルテイタリアーナシリーズは12角形のボディが特長的ですが、装飾の少ない骨太な印象のとてもシンプルなデザインだと思っています。
シンプルであるためにそこに面白みを見出しにくく、90年という長い歴史のノスタルジーも現行のオマスのペンからは感じにくいと思います。
でもそれを手に取って使ってみると、ミロードには味わい深いしっとりとした書き味と、自然に手が動くような書くためのバランスがあり、パラゴンにはハードに使っても安心感のある剛性感と弾力があって、手応えのある書き味が最大の特長になっています。
それぞれ長く使いたいと思わせてくれる、万年筆として優れたものであることは間違いありません。

万年筆によっては冬にインクの出が良くなる傾向があるため、少し出が渋くなるインクを使う工夫をしたり、多少の使いこなしを要求されるけれど、それもある程度万年筆を使ってきた人のための万年筆であるということだと思います。

オマスは今年創立90周年を迎えていて活発に限定品を発売しています。
シグネチャーエディションも同様の90周年の企画で、音楽家などのアーティストの作品のイメージをオマスのペンで表現したものになっていて、アルテイタリアーナの名に相応しいものになっています。
シグネチャーエディション第1弾はイタリアの音楽家ルドヴィコ・エイナウディです。

ルドヴィコ・エイナウディのシンプルなのにセンチメンタルな旋律もある音楽とオマスの万年筆のデザインとの共通性が感じられ、元々共感し合えていた上での今回のシグネチャーエディション化だったのではと推測したりします。

実は、私はルドヴィコ・エイナウディの音楽は聞いたことがなく、オマスからのシグネチャーエディションのインフォメーションを見ても、名前も聞いたことがない人だと思っていました。

それからしばらくして、お客様が「このお店に合いそうだと思って」とCDを持ってきて下さいました。どこかで見たことのある字面だと思ってよく見ると、ルドヴィコ・エイナウディのものでした。
驚いて万年筆をご紹介するとその方も偶然に驚かれ、少し前からオマスパラゴンに興味を持たれていましたので、迷うことなくシグネチャーエディションパラゴンを買って帰られました。

音数が少なく、静かな印象の曲調が多く、ジャズなどに慣れた耳には大人しすぎるのかとはじめは思っていましたが、聞くほどに心のすごく深いところ、郷愁の部分に届いてくるような音だと思うようになりました。
シグネチャーエディション「ルドヴィコ・エイナウディ」はその音楽性が反映されていて、マットブラックのボディと、艶消しされた金属パーツの輝きを抑えた組み合わせで、静謐ささえ感じます。

アルテイタリアーナのペンをベースにしながら全く違う印象のものに仕立てている。オマス90周年記念、シグネチャーエディションは限定品らしい限定品だと思います。

サファリ2015年限定色ネオンライム

サファリ2015年限定色ネオンライム
サファリ2015年限定色ネオンライム

テレビ番組で、ボールペンの特集があり、その中でマツコデラックスさんがサファリの毎年発売される年度限定モデルを買っていたことを話していて、この人はこちら側の人だと見直しました。

モンブランの万年筆を使っていると言われても心は動かない。サファリというのがポイントで、毎年限定色が発売されていることを知っているところもポイントでした。
それだけで以前から何となく思っていた、この人は感じの良い人だという認識が確信になりました。
万年筆はそれを使わない人から見るとやや理解不可能なものになっています。
例えばある万年筆の値段を、万年筆を使わない人に聞いたとしても、せいぜい20分の1くらいの値段を言われてしまうのが現実で、それが良いことなのかどうなのか分からない。
でもそれだけ底の深い、マニアックなものになっています。
サファリは万年筆を使わない人と、私たちのような人をつなぐ、架け橋のような存在だと思っています。

サファリは他のどの万年筆でも担うことができない役割を持っています。
はじめて万年筆を使うと言う人にカクノを勧めて買ってもらうことは販売員としてとても簡単で、きっと皆喜んで買ってくれると思います。
しかし私はそういう人にもサファリを使ってもらいたいと思っていて、サファリを使っていることの誇らしさのようなものを感じてもらいたい。
サファリという個性的な万年筆を持つ喜びは、万年筆を持つ喜びの第一歩のような気がします。

また、サファリは万年筆をある程度使っている人でも使う価値と理由のある、このペンならではの魅力を持っています。
4000円という万年筆としては安い値段で販売しなければなりませんので、コストのかかる素材を使うことができませんが、安い素材を使いながらも、万年筆に備わっていて欲しい機能を全て備えていて、デザインはサファリ以外にはない、とてもオリジナリティのあるものだと思います。

サファリを使って万年筆の書き味とその魅力を知った人は、きっともっと良い万年筆を使いたくなると思っています。
ラミーサファリの2015年の限定色ネオンライムが発売になりました。
以前にも同じ傾向の色があったと思ったとしても、それはきっと気のせいで、確かに違う色です。
万年筆の所有欲を教えてくれる第一歩の万年筆として、この年度限定色は話題作り、万年筆を使うきっかけ作りにおいてとても重要で、なるべく続けてもらいたいと思いますし、ラミーにも意地でも続けていくという気迫のようなものを感じます。

マツコデラックスさんは、もっと良いペン、例えばラミー2000などを使いたくなっただろうか?

◎関連記事
⇒2009.2.13 ラミーサファリの価値観
⇒2010.3.12 オンリーワンの存在感・ラミーサファリ