便りを書く

便りを書く
便りを書く

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」という映画を観ました。
妻が小説をたくさん持っていて、そのコレクションの中にありましたので私も読んでいて、大変面白いと思っていました。
原作で、主人公が悩み相談の回答を万年筆で書く描写がありましたが、映画ではボールペンのような筆記具を使っていたのには大いに突っ込みを入れましたが、舞台となる町の風景、屋内のセットなどとても良かった。
観ていて息つく暇がないくらい内容の濃い映画だったと思いました。

インターネットが私たちの身近なものになる前の時代にナミヤ雑貨店はオープンしていて、その頃手紙は手書きで綴られていました。
現代なら「誰それにメールする」を、当時は手紙でしていたことに時代の流れを改めて感じますが、ペンからスマホに道具が替わり、情報伝達のスピードが早くなっただけでその心は変わっていないのではないか、それが時代が流れても変わらないものなのではないかと思っています。

そんなに大した用事でなくてもメールにはスピードが求められ、そして私を含めて仕事をする人の多くが朝の時間をメール処理に費やされています。
便利なツールがあることを恵まれていると思いますが、その分何か気忙しくなったと感じます。

お客様方などにお礼状などの手紙を書く機会がよくあります。

インターネットなどの通販でお買い物して下さったお客様には、私やスタッフが手書きのお礼状を書くようにしていて、全員が愛用の万年筆にお気に入りのインクを入れて書いています。丁寧に書こうと努力した文字は、それだけでそれぞれの人柄が表れるのではないかと思うので、気を付けなければいけない。
一般的に通販で買ったものに手書きの手紙が同封されることは殆どなく、その代わりに日に3~4通のメールマガジンが届くようになる中で、それは驚かれることが多く、当店らしさのひとつになっているのかもしれません。

たまにお礼状、ご挨拶状などの葉書をお送りすることがあって、「郵便受けに手書きの文字で書かれたものがあったら、とても嬉しい」と喜んでもらえることがよくあります。
この葉書の差出人欄に、以前は手書きで自分の住所、氏名を書いていましたが、せっかくなので住所印を誂えて、インクの色に近いスタンプで押して、自己満足しています。
葉書はそれほど凝ったものを使うわけではなく、ライフの縦罫の入った私製ハガキに、細字から中字の万年筆を使います。
封書の方が丁寧なのは分かっているけれど、届いた時に何となく相手を身構えさせてしまう気がする。少しカジュアルだけど堅苦しくない葉書という形態が好きで、自分と相手だけしか分からないような言葉で書くことが腕の見せ所なのかもしれないと思っています。

万年筆で書くことが好きだから、手帳でもノートでも何でも万年筆で書いているけれど、手紙や葉書こそ万年筆で書かれるべきものだと思っていて、万年筆のペン先のタッチ、インクのにじみなどから来る表現力はそのためにあるのではないかと思っています。
観た映画の影響かもしれないけれど、自分の文字で書いたものは永遠に残るという考えに取りつかれている。
パソコンで送ったメールはその画面の中にしか存在しないし、プリントアウトしたとしてもそれは発信者の文字ではないので、内容以外に存在価値はないと思っています。
手書きで書いた文字なら、大切に保管すれば永遠に残ります。
そう考えると手紙を書くことへのプレッシャーが強くなるかもしれませんが、どうせ書くならずっと残せるようにしたいし、残っても恥ずかしくないものにしたい。
葉書を書く時、そう思うようになってきました。

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⇒2017.2.10「手紙を書く道具」

オリジナル正方形ダイアリー2018

オリジナル正方形ダイアリー2018
オリジナル正方形ダイアリー2018

オリジナルダイアリーマンスリーとウィークリーの来年版が完成しました。
オリジナルダイアリーは、日付なしのフリーデイリーダイアリーと日付ありのマンスリー、日付ありのウィークリーダイアリーの3種類があります。
罫線レイアウトに関して、マンスリーダイアリーは意外と他にない機能性に特化したものだと思っていますし、年間、月間、週間のダイアリーを全て収めたウィークリーダイアリーはオールインワン的なもので、どんな仕事にも対応するものだと思います。

私が万年筆を使い始めた原点はダイアリーを楽しく書くためで、私にとって手帳やダイアリーと万年筆は切っても切れない対になるものだと思っています。
万年筆だと手帳を楽しくきれいに書くことができたので、夢中になって手帳に書いていた時のことを懐かしく思い出すけれど、それは今も変わっていません。
ダイアリーをどうやって使いこなして、自分の仕事とシンクロさせて書くかということを、いつも考えています。
私たちがダイアリーを使う第1のステップは、予定やToDoをいかに忘れないようにするかです。そしてダイアリーを使う本当の価値は、なかなか難しくて仕事にバタバタと追われることが多いけれど、「書いたことをいかに効率よくこなして、考える時間を確保するか」とか、「どこに空き時間があって、ToDoを消化しながら新しい予定をどこに入れるか」などの積極的な、攻めの使い方ができるかということになると思います。

予定管理に特化したマンスリーダイアリーは、大抵の方が見慣れた壁掛けカレンダーにも近いので月の予定が一覧しやすく、さらに細かく計算された+αの機能が付いています。
時間で細かく予定が入ったり、膨大なToDoを管理するにはウィークリーダイアリーが使いやすい。細かい時間メモリこそ入っていないけれど、たくさん入る予定もウィークリーダイアリーなら書き込むことができますし、大きなメモ欄はToDoの管理に最適で、予定とToDoを同じ見開きで見ることができるメリットは大きい。

仕事も締め切りなど期限に追われているだけだと、本当につまらない。今やろうとしていることは、本当に今やらなくてはいけないことなのか、別の違う時間でもいいことなのかを判断して、優先順位をつけるのにダイアリーを活用したいと私も思っています。
店の場合はいつお客様が来られるか分からないので、基本的に営業時間中はToDoを消化できることはアテにせず、営業時間外にこなさなければ確実な仕事をすることができない。
その代わりもしお客様が少なかった時に、営業時間外にしようと思っていたことをして、時間を作る。
最近は予約して来て下さるお客様が増えて、とても心づもりがしやすくなりました。予約はスムーズに承れてお客様の時間を無駄にしないということで、お客様にとっても、私にとっても、とてもいい制度だと思っています。

オリジナルダイアリーに話を戻すと、かなり細い万年筆で書いても引っかからず、滑らかに書くことができるグラフィーロ紙を使用していること、どのページも平らに開くために表紙と背表紙の組み合わせを変えたり、優れた糸綴じ製本で仕上げられていたり、大和出版印刷さんはかなり細かなところにまでこだわって製作されています。
正方形サイズという紙の規格と違う特殊なサイズになっていますが、フリーデイリーダイアリー、横罫ノート、方眼ノート、薄型方眼ノート、インクノートなどのオプションも幅広くあり、この正方形サイズで様々な使い方をすることができます。
現在、ル・ボナーさんが新たに正方形の革カバーを作ってくれています。
傷に強く使いやすいシュランケンカーフと、ル・ボナーさん秘蔵の革2種類で作るこの革カバーもオリジナルダイアリーの特長のひとつになっていて、より楽しく使うことができる要素になっています。

手帳を楽しく書くことができるから万年筆に惹かれていった私のルーツをいつも思い出させてくれる、万年筆で書くことにこだわったオリジナルダイアリーを多くの人に使っていただきたいと思っています。

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⇒2016.12.9「オリジナルダイアリーの説明書」

工房楔・秋のイベント

工房楔・秋のイベント
工房楔・秋のイベント

今秋も、9月23日(土)・24日(日)工房楔のイベントを開催いたします。
実は9月23日は当店の10周年記念の日ですが、特別な日だから何かしなくてはとあまり思っていませんでした。
でも工房楔の永田さんが10周年だから記念になるイベントにしようと、色々準備してくれていて、本当に感謝しています。
もちろん私もやる気がないのではなく、今年は次の10年につながる仕事をしたいと思って日々過ごしていて、静かに動いてはいるのだけど。

イベントにどんなものを永田さんが用意してくれているかは、永田さんのブログ「切々と語る楔」(http://blog.setu.jp)で毎日紹介されていて、私もそれを見たり、永田さんと電話で話したりしているので、楽しみにしています。
今回のブログで紹介されているものは目新しく、めったに見ることができないものばかりですが、個人的に気になったものをいくつか挙げたいと思います。

象牙は10周年の記念に相応しい素材として、永田さんがかなり良いものを仕入れてペンにして下さっています。当店オリジナル企画こしらえでも製作しているようですので、実はすごく楽しみにしています。
インクウッド。花梨に似た木ですが、さらに色が濃く、濃厚なワイン色をしている何とも色気のある木だと思っています。その名前もすごくいいですね。あまりお目にかからない木です。
そして今回一番注目しているのは、ヒマラヤ産のローズウッドです。
私はなぜかこのような山の木に惹かれます。そして、条件、環境が厳しい場所に育つから密度が高く、キメの細かい、そして色が濃いと言われるとたまらない気持ちになります。
工房楔定番の素材では、ウォールナットやチークこぶ杢、ブラックウッドの良さも知っていただきたいと思います。
ウォールナットは数も多く珍しい木ではありませんが、しっかりした木肌、色合いなど、この木の良さがあります。
様々なものでよく目にする木ですが、永田さんがウォールナットでペンを作る時は杢の出た部分をいつも使って、少しアクセントのあるものに仕上げています。

チークこぶ杢は、油分を感じるネットリとした手触りが何とも言えず素敵な木ですが、チーク杢の地図の等高線のような模様に何とも惹かれます。
花梨やチューリップウッドのように華やかで色鮮やかな木ではなく、侘び寂びとも言える美意識で観る木ですが、当店では人気があるし、私も強く惹かれる。
工房楔の木を選ぶということは、自分の好みや背景を反映させて選んだ自然の一部をいつも手元に置いておくということでもあります。

永田さんのブログを見ていて、彼の木へのこだわりを強烈に感じます。
彼にとって木、銘木とは、商品にするために仕入れるというビジネスの資源ではなく、完全にコレクターの視点で木を見ていて、それぞれの木に強く惹かれるから手に入れているという感じで、売れるから仕入れるという視点はありません。
売れるからという視点がないので、それぞれの木に対して、はっきり分かっていることだけを付言する。
本当かどうかわからない産地や、謂れのようなことは一切言わないのが永田さんの誠実さだと思いました。
永田さんを見ていると、木の世界にドップリと浸かりながらもどこか客観的で、高く売るために様々な飾り文句を付け加えることに批判的な姿勢が見られます。
永田さんのそんなところを私たちは信じるからこそ、彼の作る銘木のペンに惹かれます。
永田さんが材木市場でそれぞれの材に心が躍り、強く手に入れたいと思ったように、楔のペンを強く手に入れたいと思います。

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⇒2009.9.18「工房楔 木工家という生き方」
⇒2014.10.31「工房楔とのオリジナル万年筆「こしらえ」」

Guido Rispoli(グイードリスポーリ)氏のカード

Guido Rispoli(グイードリスポーリ)氏のカード
Guido Rispoli(グイードリスポーリ)氏のカード

そう多くはないけれど、年に何度かはグリーティングカードを送ることがあります。
それなりに齢を重ねた大人なので、年齢に見合ったデザインのもの、送られた相手が喜んでくれるもの、そして上質なものという基準で選ぶと、意外なほど候補がなくなってしまいます。
あんなにたくさんのカードが売られているのにその多くは可愛いもので、大人が使えるものが少ないと思っていました。
そういったカード事情も理解していましたので、パッサールの岩田さんと阿曽さんからこのカードのお話をうかがった時、ぜひ扱わせていただきたいと思いました。
自分が欲しいと思ったし、上質で他所では手に入らないものを求めておられる当店のお客様にも喜んでいただけると思いました。

ローマの北東、アブレッツォ州ラクイラにスタジオを構えるグラフィックデザイナーのグイード・リスポーリ氏がデザインした繊細なレーザーワークを駆使して作られたカードは、質感のある美しい色のイタリアの紙を使い、イタリアで製作することにこだわっています。
記念日やお祝いなどの時にプレゼントと一緒にお渡ししてもいいし、写真などを挟んだり、額に入れて飾ってインテリアとして楽しんでいただくこともできるクオリティの高いものだと思っています。
小規模の工房で製作しているため大量に作ることができず、あまり多く流通していないところも私としては嬉しかった。だからこそ日本で最初に当店がこのカードを扱うことができました。

グイード・リスポーリ氏の友人であり、当店のお客様である岩田朋之さんから3月にこのカードを紹介していただいてから、この日を待ち焦がれていました。
アウロラ、モンテグラッパ、ビスコンティなど、イタリア製の万年筆を気に入って扱ってきて、常にイタリアについて考えていました。それらから見るイタリアは憧れの国でしたが、どこかリアリティを感じさせない光の部分しか見えていない存在でした。
でもグイード・リスポーリ氏のことを知って彼を取り巻く環境などをリアルに伺っていると、陰の部分も少し見えてイタリアが身近に感じられるような気がしました。
彼のカードもイタリアの万年筆に負けないくらいに美しさ、華やかさを持っていますが、私がそこに現実味を感じたのは、グイード・リスポーリ氏のパーソナルな部分を知ったからでした。
氏はスイーツメゾン、レストラン、ブライダルホール、ホテルなどのアートディレクターを務め、パッケージや広告、メニュー、グリーティングカードのデザインを手掛けたり、展示会や店舗の空間設計にも携わるグラフィックデザイナーで、ヨーロッパ、中東にクライアントを抱えて、華々しく活動しています。
しかし、彼の前半生はそれとは対照的なものでした。

高校を卒業した彼は、警察官になり南部カラブリア州に赴任しました。
イタリア南部カラブリア州はシチリア島の対岸にある州で、マフィアによる犯罪の多い所でした。
マフィアによる警察官の買収は日常茶飯事でしたが、彼もそんな渦に巻き込まれ、警察官としての職を失ってしまいました。
その後の職業訓練でグラフィックデザインの教育を受け、彼の才能を見抜いた教官が彼がプロのデザイナーになれるように指導したのです。
教官は彼をあえてカラブリア州から遠く離れた州のデザインスタジオに就職させて、彼はそのスタジオで十数年務めた後、2006年に独立しました。

定年後の生活が保障されているという理由で、職の少ない南部では公務員は人気の職業ですが、それについて回るイタリア中で行われている汚職が発覚して、失職したことで彼の第2の人生の扉が開きました。
それは彼の前向きな努力によるものだと思います。

挫折したときに人生を諦めてしまう人も多いと思いますが、人生の第二の扉を開いた彼の心意気のようなものが、作品から伝わって来るような気がするのです。
彼の作品は、彼が巻き込まれたイタリアの闇を全く感じさせない、愛情と慈愛に溢れたお守りのようなものにも思われます。

⇒Guido Rispoli(グイード・リスポーリ)レーザーワークカード

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