時計作家が作るボールペン

ラマシオンの吉村恒保さんが作った時計を毎日着けています。

夕焼けの空を見てきれいだと思った時に、ふと時間を確かめるために見たくなる時計を作りたい、と吉村さんは雑談の中で言われていたことがあります。

多くの人がスマホで時間を確認する時代、時計作家としての時計の存在意義と吉村さんの童心を伴ったダンディズムを表した言葉だと思いました。

私は文字盤の造形からか、針の指す向きによっての景色の違いを感じさせてくれる時計だと思っています。それぞれの時間に心象風景を見出す、感傷的な私に合っている時計だと思います。

もう2年以上着けているけれど、いまだにその印象は変わっておらず、新鮮な気持ちで文字盤を見ることができる。いい時計だと思う。

吉村さんは柔軟で創作欲旺盛な人で、ル・ボナーの松本さんと知り合って、ベルトのバックルも作るようになりました。

当店では吉村さんの時計も扱っているけれど、当店と関わるようになったことがきっかけでボールペンを作り始めました。

M5手帳と合わせて持てるような小振りなボールペンで、こだわりのある良いものがないという私の見解に応えて、小さなボールペンを開発してくれました。

ただ小さくてよく書けるだけでなく、メカ好きの遊び心をくすぐる仕掛けのあるボールペンです。

「ボルトアクションボールペンgate811」と名付けられたそのボールペンは、車のシフトゲートをイメージした機構で、ギアチェンジをするようにレバーを操作して芯をノックして出します。

替芯の交換は、レバーを替芯交換用のゲートに入れて、天ビスを外して、シフトレバーを引き抜くと内部パーツが外れて、替芯が表れます。

これらの細かなパーツやボディは、時計の部品と同じように一つずつ金属から削り出して作られています。

時計作家さんだけあって、とても精密に作られたそれらのパーツの組み合わせでできているボールペンはシンプルなデザインにまとめられています。

替芯は滑らかで自然な書き味のパイロットのBRFN-30を使っていて、実用性にもこだわって作られています。デザイン性だけでなく、正確さを要求される時計の世界で生きてきた吉村さんにとっては当たり前のことなのかもしれません。早くも吉村さんの作る次作のペンも楽しみです。

*gate811の真鍮仕様は現在品切れしていますが3月中旬再入荷いたします。ご予約承っております(こちらのお問い合わせフォームからどうぞ)

*真鍮ボルトアクションボールペン Gate811 ロジウム仕上げ

*真鍮ボルトアクションボールペン Gate811(予約受付中)

小さな店の生き方

また小説関ヶ原(司馬遼太郎著)を読んでいます。

大きな勢力が西と東に分かれたことで、大多数の小さな勢力は自国の継続を願って得だと思う方につき、ほんの一部の武将が正義という理想のもとに信じた側につく。

戦国末期の淘汰の時代、力の大きな者はさらに大きくなり、力のない者は大きな者に吸収されていきました。それは今の時代にも全ての分野で起っていることで、関ヶ原が競争社会の縮図だと言われるところだと思います。

でも万年筆の業界においては、私たちのような力のない小さな存在でも生きる場所があるのではないかと思います。

品揃えの多い大きな店を好む人もいれば、小さなお店でそのお店の品揃えを楽しむという人もいます。お店に対してお客様は様々な好みがあって、自分が買いたいと思えるお店で買われているのだと思います。

小さな存在でも万年筆の世界で生きていくことができると思ったから、私は万年筆を扱うこの小さな店を始めようと思えたし、続けてくることができました。

当時それを理論的に考えることはできなかったけれど、それまでの経験で直感が働いたのだと、今なら説明できます。

関ヶ原でも、勝たないまでも力の小さな小大名がそれぞれの考え方を持っていて、信念を貫く面白い存在として描かれています。それは所領の小ささからくる自由さかもしれません。

当店のような小さな店にも、理想を追うことができる自由さ、気楽さがあります。業績は良いにこしたことはないけれど、それほど大きな売り上げを狙わなくてもいいので、一般的にならずに自分たちが良いと思うもの、面白いと思うものだけを扱うことができます。

万年筆と上質な革を使った革製品とのコーディネートもそのひとつで、当店の特長だと思っています。

画像にありますが、カンダミサコさんに作ってもらっている長寸用万年筆ケースとセーラーエボナイト彫刻万年筆の組み合わせは、侍の刀を思わせるようで気に入っています。そしてイルクアドリフォリオさんが作っているペンケースDUEトリムドロッソは、全体が黒でコバの部分にだけ赤を使っているので、黒のモンブラン149を2本入れるとものすごくかっこいい。

こういう異なるブランドを組み合わせたコーディネートは、楽しみながら今後も続けていきたいと思っています。

当店の強みであり特長なのはやはりペン先調整だと思いますが、最近ペン先調整の需要の高さをより感じています。

ペン先調整のために来店されるお客様、全国から送られてくる万年筆の多さで、いかに多くの人が万年筆に対してこうあって欲しいという希望を持っているかということを感じています。

お店の仕事もありますので一日に数本しかできないため、お送りでの調整依頼の場合、現在一ヶ月ほどお待たせしています。

私は一人一人の書かれるところをイメージしながら、そして書きやすくなった万年筆を使って喜ぶお顔を想像しながらペン先調整をします。

そういうことができるのも当店のような小さな店の強みだと思っています。

当店も独自の考え方を持って、自由に生きるユニークな存在でありたいと思っています。

⇒長寸用万年筆ケース・シュランケンカーフ(ブラック)

⇒WRITING LAB. IL Quadrifoglio (イル・クアドリフォリオ)シガーケース型ペンケース・ Due(ドゥエ)ネロ×トリムドロッソ

理想のシステム手帳をつくる

試作品まで完成して、納品を待っている新しいシステム手帳があります。

昨年、智文堂のかなじともこさんがM6サイズシステム手帳リフィル 波文葉(なみもよう)を発売されました。万年筆でも書ける紙に淡いブルーの罫線もきれいで、かなじさん独特のページの景色になる罫線のリフィルです。当店もそれに合わせてM6手帳本体を作りたいと思いました。

お願いできる職人さんを探していたけれど、忙しい時期でもありなかなか見つかりませんでした。

そんな頃、休日妻とブラブラと街を歩いていると革製品を作っている工房に行き当たり、若い職人さんと出会いました。その辺りの話はまたいずれお話ししますが、改めて連絡してお会いする約束をしました。

まだ作ってもらえるか分からなかったけれど、作ってほしいもののスケッチを持って、後日工房にお邪魔しました。

どんなものを作りたいかなどお話しすると、すぐに試作を作ってくれることになりました。私よりも一回り以上若い人たちは、明るくやる気に満ち溢れていて、様々な提案をしてくれる。話していて本当に楽しかった。

今まで特に新規開拓をしてきませんでしたが、開店して15年、そろそろこういう人たちとも仕事をして刺激をもらうべきだと思いました。

神戸は街の規模の割に革職人さんが多くいる場所だと感じますが、何気なく入ったお店で出会えるなんて、幸運だったと思います。

ガラスペンの作家さんを探していた時も、倉敷を旅行中にたまたま新しくできていたお店に入ったら、ガラスペンの作家aunの江田明裕さんのお店だったということもありました。やはり街を歩くということは私の仕事において大切なことなのだと思います。

試作品まで仕上がっているM6サイズシステム手帳は、均整の取れたオーソドックスな形をしています。そして革は長く使える良いものを選びました。M6サイズをこれから使ってみようと思う人にも、すでにお使いの人にも使っていただける上質な手帳です。

M6サイズシステム手帳の特長は、持ち歩きしやすい適度な大きさと、必要なことは書き込める紙面の大きさを両立しているところで、仕事用の手帳としてもお使いいただけると思います。

私はM6に長期に渡る事項の覚え書き、年間、月間、週間、1日のダイアリーを挟んで日々使っています。長期の覚え書き、というのは既製では存在しないので自分で線を引いて作りました。

これ一冊で自分の仕事も暮らしも円滑に回すことができる箇条書き日記を加えて、スケジュールと日記だけを書く手帳にしています。

バイブルサイズシステム手帳、M5サイズシステム手帳どちらもそれぞれの良いところがありますが、M6サイズシステム手帳は仕事や暮らしを円滑にする役に立てるものだと思います。

製品が完成しましたら、またご報告いたします。

智文堂 M6システム手帳リフィル・TOPへ波文葉(なみもよう)

大人の女性のためのステーショナリー・アンティークレースノート

コロナ禍になってから休みの日はあまり遠くに出掛けなくなりました。

私は用心していればいいのではないかと思うけれど、妻が県外に出たがらなくなったので、たいていは三宮・元町の店を回るか、地元で過ごしています。

そんな休日なので家に帰る時間もわりと早く、ダイニングテーブルでそれぞれ好きなことをする。そんな静かな時間の過ごし方にも慣れて、楽しめるようになりました。今思うと、休日だからでかけなくてはいけないと、忙しく過ごしすぎていたのかもしれません。

どこかに出掛けてお店など見ることは、考えるきっかけになったり、刺激になってインスピレーションが湧くことがよくあって、仕事にとっても必要な休日の過ごし方でした。

でも今は狭い行動範囲での生活が続いているので、本を読んだり、近くの歩いたことのない道を歩くことで考えるきっかけにしたり、刺激を受けたいと思っています。

ダイニングテーブルでの午後の時間はそれぞれ手帳を書いていることが多くて、スタンプを押したりして手帳をカスタマイズするのが、妻と唯一話が合う共通の楽しみになっています。

私たちの年代になると、子供さんのおられるご家庭なら子供が手を離れて、夫婦二人だけの静かな休日を過ごしている人は多いのではないかと思います。

自分たちのような静かな時間を過ごしている人たちのための、特に同年代の女性のためのステーショナリーもなるべく揃えたいと思っています。

少し前から若い女性のお客様がインクやガラスペンなどを買いに来てくれるようになったけれど、もう少し大人の同年代くらいの女性のお客様が平日の昼間に来てくれるようになったら理想的だと思っています。

自分たちのような静かな時間を過ごしている人のダイニングテーブルの上に、アウロラやフェリスホイールプレスのインクなどがあって欲しいし、システム手帳やノートを書くことも楽しんでもらいたい。

アウロラは軽めのものが多くて女性でも使いやすいし、何よりデザインが華やかで美しい。それは大人の女性に気に入ってもらえると思っています。フェリスホイールプレスのインクボトルのデザインはそんなアウロラによく合っています。

そんな雰囲気によく似合う、大和出版印刷さんのアンティークレースノートが入荷しています。

18世紀ベルギーフランダース地方で作られた繊細なレースの柄をノートに印刷したもので、淡いグレーの表紙、パステルブルーの罫線やレースの模様など、今までのノートではあまり見られなかったデザインです。

当店に来られる大人の女性のお客様にはぜひ使っていただきたいノートです。

万年筆のインクではにじみや裏抜けがあって、ゲルインクのボールペンやペンシルなどの方が合っているけれど、ヌードラーズインクのブラックやプラチナブルーブラックなどのにじまず裏抜けしない強者インクなら使うことができます。

健康のために万歩計の歩数を気にしながらなるべく歩くようにしたり、代謝が落ちていることを実感して食べる量を減らしているような同年代の人の生活に、万年筆ほどピッタリ合うものはないのではないかと思っています。きっと万年筆でモノを書くという静かな楽しみは、その生活の中にすんなりと定着するだろうと思っています。

当店は今後もこういうものにも力を入れていきたいと思っています。

→Antique lace note book