インクがたくさん入るペン

ページ数の多い分厚い文庫本は得したような気がして嬉しい。

それは早く小説の結末を知りたいという逸る気持ちと、少しでも長くその物語の中に浸っていられるというジレンマを引き起こすけれど、小説を同じ選ぶならなるべく厚い本を選んで、長く読んでいたいと思う。

それと同じ感覚だと思いますが、メモ帳も紙がたくさん束ねられた分厚いものに安心感を覚えます。分厚いメモ帳を一気に使えるはずはないのに、メモが減って薄くなってくると心細く、寂しくなります。

そしてこれも同じ感覚で、できればインクがたくさん入るペンを持ちたいと思います。インクがたくさんその中に入っているということが安心感になる。

私の使用頻度が最も高い万年筆、ファーバーカステルクラシックを使っていてよく思うのは、この万年筆にパイロットのコンバーター70が使えたらいいのにということです。

ファーバーカステルについているヨーロッパタイプのコンバーター、カートリッジインクは私にとっては容量が少なく、すぐにインクがなくなってしまう印象があります。ヨーロッパタイプのコンバーターよりたくさんのインクを吸入することができる、コンバーター70が使えたらいいのにと、インクがなくなるたびに思っています。

しかしコンバーター70はパイロットの独自規格のコンバーターで、パイロットの万年筆でしか使うことができません。

万年筆を使う人の中には、インクの吸入も楽しい作業だと言う人もいるけれど、私のようにインクがたくさん入って欲しいと思っている人も多いので、大容量への憧れもジレンマなのだと思います。

当店で扱っている万年筆でインクが大量に入る万年筆の三巨頭は、パイロットカスタム823とビスコンティホモサピエンスの品々、そしてツイスビーECOでしょう。

前者2つはプランジャー式の吸入機構を備えています。プランジャー式吸入機構は、尻軸を引っ張り上げて、押し込むことで、一気に大量のインクを吸入します。

カートリッジ2,3本分のインクを吸入しますので、吸入作業の回数は半分以下になります。私たちの願いを叶えてくれながらも、ジレンマを強くします。

ツイスビーECOやダイヤモンドが装備しているピストン吸入機構も大量のインクを吸入することができ、吸入したインクがタンクの中でチャプチャプしているのが見えて嬉しい万年筆です。

台湾のメーカーは万年筆を使う人のこうあって欲しいというところを上手く突いてきます。それはツイスビーもレンノンツールバーも同じかもしれません。

レンノンツールバーのオーパス88リン・ユンは、スポイトでインクを注入するという、より原始的な(?)インキ止め方式の万年筆です。

インキ止めというのは、戦前、戦後の日本の手作り万年筆の多くが採用していたインク供給方式で、こういう万年筆を見ると私は古臭さを感じてしまいますが、オーパス88はインキ止め方式を採用しながらも洗練された爽やかな万年筆に仕上がっています。

インキ止め万年筆は、ボディ全体がインクタンクになりますので、インクをたくさん入れたいという人の気持ちを満足させてくれるでしょう。

最近、ラメの入ったシマーリングインクが多く発売されています。

当店もオリジナルインク稜線金ラメ、銀ラメを発売していて、あくまでもガラスペン用としていますが、スタッフがオーパス88(M)に入れてみたところ、1か月ほど経ちますが詰まらずにちゃんとラメがペン先から出てくれています。首軸を外してスポイトでインクを入れるので、ラメ入りでも入れやすく洗いやすいのも良いところです。

しかし、これはメーカーは絶対に止めて欲しいとしている自己責任での使用になります。

インクがたくさん入る万年筆にロマンを感じてしまうのは、不思議な感覚ですが、やはり厚い本を喜ぶ感覚に近いのだと思います。

⇒レンノンツールバー TOP

590&Co.さんとの出張販売

今の時点で確定している出張販売のスケジュールを公開しました。(⇒出張販売スケジュール)

今だに続くコロナ禍での生活にも、気付けば慣れてきた。でも仕事の立場上遠出を控えなくてはいけない方も多くて、何となく不自由に感じられていることが多いのではないでしょうか。

そういう方々のためにも、また出張販売に出ることにしました。

店の仕事を淡々とこなすのも楽しいと思い始めていました。外に出ない生活が当たり前になっていて、家と店を往復する日常も良いものだと思っていたけれど、このまま店の中にいると仕事が決まった中で回るだけのような気がして、焦りのようなものを感じ始めていました。やはり色々なお客様に会って、刺激を受けたい。

どうせなら1年かけて、日本中を巡るくらいのことをしたいですが、店での仕事もありますので月1回くらいのペースになっています。

2月に590&Co.の谷本さんと晩御飯に行った時に、一緒に出張販売をしてみようかという話になりました。

谷本さんのことは、前職の時に取引先の人から「レストランを経営していた人が分度器ドットコムというステーショナリーのWEBショップを立ち上げた」と教えてもらったことがあり、密かにすごい人だと思っていました。

最近では2軒目の590&Co.まで立ち上げられて、やりたいことが次々と溢れてくるようです。

知り合ったのはこの店を始めた頃で、先ほどの取引先の方の紹介で分度器さんのオフィスを見学させてもらった時からでした。

ル・ボナーの松本さんとともにヨーロッパに買い付け旅行に行ったこともあるし、長い付き合いになります。色々な人と知り合ったり疎遠になったりを繰り返してきたけれど、谷本さんとはずっと続いています。

同い年で気が合うということもあるけれど、私は何よりも谷本さんの仕事の才能や目端が利くところを尊敬しています。

そんなおじさん二人の出張販売ですが、当店と590&Co.さんとの共同出張販売なら喜んでくれるお客様も多いと思うし、何よりも自分たちが面白いと思いました。

合同出張販売の名前を“&”としました。

両店名に&があるし、当店と590&Co.さんとの&、お客様と私たちの&、人と人との繋がりを表す記号。この企画はまさに様々なつながりから生まれたものだと考えるとピッタリなネーミングで、このコンセプトとネーミングは谷本さんの頭の中に密かにあったようでした。

開催場所についていろいろ探してみましたが、横浜という場所に思い当った時に、&の最初の開催場所にピッタリだと思いました。

私たちのお客様もたくさんおられるし、横浜の方がはるかに大きな街ですが、神戸に近い雰囲気を持った街だと思っています。

私の息子が初めて一人暮らしを始めたのが横浜市伊勢佐木町で、「& in横浜」 の会場も伊勢佐木町の駅の近くなので様子が分かっているし、交通の便も良いので来てもらいやすいと思います。

出張販売の品揃えを考えると自分の店の弱いところがよく見えてしまいますが、最近は充実してきたと思っています。

オリジナルインクはずっと販売してきた8色の他に、昨年新たに3色追加しました。神戸ペンショーで完売してからしばらく品切れしていましたが、再入荷しました。

「虚空」は、机から目を上げてふと見た何もない空の色を表現した色でした。その時井上靖の”天平の甍”を読んでいて、仏教的なものに惹かれる気分でもあったのかもしれないけれど、色のイメージを表した名前だと思うし、力の抜けた自然体な良い色だと思います。比較的乾きが早くて、にじみの少ない扱いやすいインクです。

「稜線」には金ラメ入りと銀ラメ入りがあります。

私が普段見る山はいつも町から見上げたイメージなので、幼いころ母の実家でよく見ていた、四方山に囲まれた信州の風景が思い出されます。朝日が差してきた頃銀色に輝く稜線、夕日に照らされ金色に染まった稜線という、郷愁の景色を連想させるインクができたと思います。

今回から「稜線・銀ラメ入り」はラメの量をかなり増量しました。

私は横浜での出張販売「&」の後、札幌、東京での出張販売を続けますが、久し振りの旅を楽しみにしています。

⇒オリジナルインク虚空・稜線(金ラメ入り)・稜線(銀ラメ入り)

SMOKEブロッター「パゴダ」

オリジナルインク・虚空や、ローラー&クライナーのパーマネントブルーのような薄めで紙に馴染みやすい色のインクが好きです。他には、ヌードラーズのネイビーも好きでよく使います。

ネイビーは最近の流行とは違ってかなり濃い色のインクで、書き味も良くなり万年筆で書いている醍醐味が味わえます。だけど海外のM以上のペンで使うと、紙によってはなかなか乾かないということがあります。

乾きが遅いというのは、濃い色のインクの常で、インクが紙に収まるのを待つ心の余裕が万年筆を使う者の心得なのかもしれないけれど、そんな悠長なことを言っていられる時ばかりでもありません。

当店はネット販売の発送業務と店舗営業を同時にしているので、来客の合間にネットのお客様へのお礼状を書くことが殆どなので、乾きは早くあってほしいと思います。

世の中には「吸取紙」というものがあって、その名の通りインクを吸い取るための紙です。紙の状態のまま使ってもいいですし、ブロッターという器具にセットして使うと、より使いやすく机上での見栄えもします。

お客様からのリクエストも多いのですが、ブロッターにはこだわりがあって、当店ででしか扱っていないブロッターがあります。

時計作家ラマシオンの吉村恒保さんにお願いして作っていただいたのは、アサメラという質量の高い木で作ったブロッターです。これはサイズも大きめで、重量感と圧倒的な存在感を持っています。

ハンドル部分が大きな球形で、握るととても気持ち良く、意味もなく握っていたくなります。アサメラの質感はかなり締まっていて、艶が出てくれそうです。

もうひとつ、最近出来上がったブロッターはスモークの加藤亘さんに作っていただいた「パゴダ」です。

家具職人である加藤さんが、個性を活かしたものを作りたいと試作を繰り返して作り上げた、かなり特長的な形をした意欲作です。机の上のシンボルのような存在になるのではないかと思います。

家具で多用する安定感抜群の素材ウォールナットは、派手な模様はないものの、味わい深い通好みの素材です。個体によって色味の違いがあって、それがこのブロッターの箱に表れていて、面白い味になっていると思います。

パゴダを収める箱は、指物の技術「相鉤の逆留め」という凝った作りになっていて、家具職人らしい取り組みをしてくれていて、こういうところが加藤さんの木製品面白味の一つだと思っています。

パゴダはブロッターに付いている天板(紙を押さえる板)のない仕様ですので、柄入りの吸い取り紙などを使うと映えて、面白い効果を出してくれます。

パゴダと同様、ユニークな形の5本用ペンスタンドペンテーブルは長く作っていただいているものですが、最近認知され始めたのか、よく売れるようになってきました。

ペンテーブルにペンを5本立てている様子は見ていても楽しいものですし、よく使うペンがすぐ手に取れるところに立ててあるのはとても便利です。机上の景色作りと実用性を兼ね備えた、他にないものだと思っています。

ブロッターもペンスタンドもなくても困らないものなのかもしれないけれど、あると万年筆を使うことがもっと楽しくなって、机上の時間が味わい深いものになると思っています。

⇒SMOKE ブロッター パコダ

⇒SMOKE 5本ペンスタンド ペンテーブル

長く使い続けるためのオーソドックスなデザイン オリジナルM6システム手帳

どんなものでも、奇抜なデザインよりオーソドックスなデザインに惹かれます。

振り返って考えると、手元に置いて長く使っているものは、奇をてらわないオーソドックスなデザインのものが多い。それらはスタンダードと呼ばれるものです。

様々な分野にスタンダードと呼べるものはあるけれど、そういうものをよく見て、なるべくそういうものを持ちたいと思います。

長く使い続けられている永遠不変なスタンダードは、万年筆やステーショナリーにも多く存在しています。

他にはないオリジナリティも必要だけれど、良い素材、良い作りでスタンダードと呼ばれるに値するものを形にしていきたいと思うようになりました。

先日発売したM6システム手帳がその第一弾です。

スタンダードとなるものの条件として、オーソドックスで無理のないバランスの良いデザインと考えました。そういうものは安心感があるし、いつも手に取りたくなります。

より幅広い層の人たちに使ってもらいたくて、オーソドックスなデザインで野性味と濃厚な味わいのある素材サドルプルアップレザーと、洗練されたスマートな革シュランケンカーフをご用意しました。

製作してくれた若い職人さんは、それぞれの革の雰囲気に合うようにそれぞれのベルトの形状を変えるなど、細かい所まで独自の工夫を取り入れて楽しみながら作ってくれたのも嬉しかった。

M6システム手帳は、仕事でバリバリ手帳を使う人のバイブルサイズと、筆記面が小さく趣味性が高いM5サイズの中間に位置した、ある程度の筆記面の大きさと携帯しやすいコンパクト感のある程よいサイズです。

このM6システム手帳をオーソドックスなデザイン・上質な革で作ることで、いつも持っていたくなる、長く使えるものが出来たと思います。

これらの手帳にはより革を楽しんでいただけるように、サドルプルアップレザー仕様には同素材の、シュランケンカーフにはブッテーロのペーパーリフターを最初からセットして、表紙を開けた時にすぐに中のリフィルが見えないようにしました。

他にも、ペンホルダー・ページファインダーを同革で作っていただきました。こういうものがプラスチックでなく革であることは、手帳にこだわりのある方には嬉しいものだと思います。

中紙には、智文堂の波文葉リフィルの書き味・使用感がおすすめです。手帳用紙というと薄くてツルツルした手触りの紙質のものが多いですが、智文堂さんの紙は書き味に心地よい手応えがあって、紙質も丈夫なので安心して筆圧をかけることができます。

智文堂さんのリフィルの罫線は、変化のあるこだわったものが多いですが、難しく考えずに普通の方眼や横罫と同じように使えばいいのだと思います。

デザイナーのかなじともこさんが波文葉を発売したので、当店もM6システム手帳に目が向いて今回の企画につながりました。

今回のM6システム手帳製作で目指した、オーソドックスなデザインによるスタンダードステーショナリーコンセプトで王道のデザインのいいものができました。今後も同じコンセプトで色々なモノを企画したいと思っています。

⇒オリジナルM6システム手帳 サドルプルアップレザー

⇒オリジナル DRAPE M6サイズシステム手帳 シュランケンカーフ