銘木ロマン~工房楔のイベントが終わって~

銘木ロマン~工房楔のイベントが終わって~
銘木ロマン~工房楔のイベントが終わって~

半年に1回、季節の変わり目に開催している工房楔のイベントが終わりました。
前回、前々回と開店前にお店の前に行列ができるということが続いていましたが、今回はそういったことはなく、今までのイベントに戻ったような感じでした。
毎回店の中が身動きがとれないくらいお客様でいっぱいだったら店は嬉しいけれど、お客様は窮屈で自由に見ることが出来ないかも知れない。そう考えると、ちょうどいい感じになっていたと思います。

今回のイベントの趣向は「バラエティに富んだ素材」だったのではないかと思います。
工房楔の永田さんが定番的に扱っている素材、花梨、キューバマホガニー、ホンジュラスローズウッド、ウォルナット、キングウッド、ブラックウッド、チューリップウッドなどは、木目や杢の模様の面白み、しっかりとした性質、質感など、どれも完璧なもので、使うものとしてとても良いものですが、世の中には本当にたくさんの木があります。
たまには違ったものも見てみたいと、イベントにいつも来て下さるお客様は思っておられたと思っています。

中でも、ある人間国宝の方が所蔵していたという神代けやきはやはり注目されていました。
1000年以上も火山灰の中に埋もれていたからこそ、風化せずにしっかりとした状態で残っていることに歴史と自然のロマン、そして名を残した亡き木工家から若い木工家に受け継がれた男のロマンを感じます。
永田さんが長く仕込んでいた黒柿も、やっと作品として姿を現しました。
隙間なく孔雀杢が現れた良材で、今回の目玉だったと思います。

パロサントは珍しい鮮やかな緑色の木。水に沈む木として有名なリグナムバイタとよく似た木ですが、パロサントの方が粘りがあり、割れなどの心配は少ないそうです。
紫外線に当たると緑味が増していく素材で、ネットリとした質感が魅力のなかなか良いものだと思っています。

ボークオークは数千年以上沼などのドロの中に埋もれていた木で、ファーバーカステルがペンオブザイヤー2012でこのボークオークを胴軸に使用していることからも分かるように、ヨーロッパでは昔からボークオークの独特の質感を生かして工芸品に使用されてきました。
今回ボークオークを使って、「こしらえ」を作ってもらいました。
「こしらえ」は当店のオリジナル企画で、工房楔の永田さんが木の部分の製作はもちろん、金具などのパーツもデザインしている、パイロットカスタム742・カスタムヘリテイジ912の首軸から先を装着することができる万年筆銘木軸です。
エボナイトや真鍮パーツには、金色のペン先のカスタム742、ステンレス金具には銀色のペン先のカスタムヘリテイジ912の相性が良いと思っています。

こしらえの他にも今回、2mm芯ホルダーのノック式が新発売になりました。
前回の秋のイベントで新しく発売しました、0.5ミリペンシルで見せた安定感のあるフォルムを、ノック式2ミリ芯ホルダーにも応用していて、握り心地も良いものが出来上がっています。
文具好きの方にお勧めすると喜んでもらえるノック消しゴムや三菱ジェットストリーム4&1用グリップなども、多く当店に在庫しています。

関連記事

⇒2016.4.8「銘木万年筆軸 こしらえ」
⇒2014.9.2「オリジナル銘木軸 こしらえ」

イタリアの掟~アウロラ88と限定品~

イタリアの掟~アウロラ88と限定品~
イタリアの掟~アウロラ88と限定品~

イタリア人は古くからあるものを生かしながら、そこに新しいものを融合させ価値のあるものにすることが得意な人たちなのだと、ペンだけでなく様々なものを見ていて思います。
伝統に新しい技術やデザインを盛り込んで生まれたものに共通する思想のようなものは、どこにでもあるものではない、それぞれのメーカーらしさを持った独自のものになっています。
イタリアには大きくなり過ぎることを戒める掟のようなものがあるのではないかと思えるほど、どのメーカーも自分の領分をわきまえているように私には思えて、大きくなって陳腐化することを避けているように見えます。
それが仕事を長く続けることに繋がると私も思うし、アメリカ式に仕事をどんどん拡大していくことが楽しことだと思えない。
イタリアは今リーマンショック以降の不景気から立ち直れずにいて、企業の倒産などあまり良い話は聞きませんが、自分たちのするべきことを守っている工房は、苦しいかもしれないけれど粘り強く残ってくれるはずだと思っています。

アウロラは工業都市トリノにある世界的な万年筆メーカーですが、外資や大資本の傘下に入らず、マイペースを守り、スローなペン作りをいまだに行っている会社だと言えます。
スローなペン作りとは、手間のかかる工程を守っているということになります。
アウロラがこだわるエボナイト製のペン芯は、1本ずつ削り出さなければ作れませんし、ペン先は多くのメーカーがしているように専門の業者に外注すれば手間が省けます。
それでも今も自社生産にこだわっていて、独特の書き味の秘密にもなっています。

「アウロラ88」は1952年には100万本売り上げたという大ヒットしたモデルの復刻です。
数字の8をモチーフにしたというボディデザインはそのままで、内部機構など書くための部分に現代の技術を取り入れ、実用性を向上させています。
1950年代のペンの復刻で、90年代の限定万年筆隆盛期の雰囲気を色濃く残している希少なモデルで、この88をベースにした限定モデルをアウロラは昨年末から続けて発売しています。
シガロは金キャップの88クラシックの世界観をさらに追究したような、90年代を古き良き時代としてリスペクトしたようなペンで、90年代に万年筆の世界に足を踏み入れた私には特別な存在の万年筆です。
88ソーレは、88をまた違った印象に味付けしたペンで、もしかしたら多くの人はこのソーレにイタリアらしさを見るのかもしれません。
大胆なオレンジ色のボディはソーレ(太陽)のイメージで、イタリアの陽光を表現しています。
4月には、88をベースにした限定モデルの「88NEBULOSA・ネブローザ」が発売になります。
星雲と名付けられた紫色マーブルのその万年筆は、まさに宇宙の色が表現されている、大変美しい万年筆に仕上げられています。
ネブローザはEF、F、M、Bとあり、ご予約承ります。(pen@p-n-m.net)

アウロラには100年近い歴史がありますが、その歴史的な財産を生かしながら現代風にアレンジしたペンを自分たちのペースを守りながら作り続けています。

⇒限定品 88 SIGARO(シガロ)
⇒限定品 88 Sole(88ソーレ)

関連記事

⇒2011.8.12 アウロラ88オールブラックの普遍性
⇒2013.7.19 思想を表現するもの~アウロラ88クラシック

*前の記事

カンダミサコ2本差しペンシース~シンプル、軽やかなペンケース~

カンダミサコ2本差しペンシース~シンプル、軽やかなペンケース~
カンダミサコ2本差しペンシース~シンプル、軽やかなペンケース~

久々にカンダさんが2本差しペンシースを作りました。
最近当店の革製品におけるカンダさんへの依存度が高く、本当に忙しい思いをさせてしまって申し訳なく思っていますが、それをカンダさんはどう思っているだろう。
私の持論として、2本差しは1本差しや3本差しに比べて売れにくい傾向があると思っていますが、カンダさんの2本差しペンシースは例外です。

万年筆用のケースは、構えた感じのものや重厚なイメージのものが多いけれど、カンダさんの2本差しはそんな万年筆らしいところが全くない。
軽やかに、あっさりとしているところが良いところだと思っています。特にこれからの季節、重厚なものよりも軽やかなものの方を使いたいと思う。人の好みは夏と冬とでは全く変わってしまうものだと思います。

とてもシンプルな作りですが、わずかなカーブや色の組み合わせなどでカンダミサコらしさもちゃんと表現されています。
この2本差しペンシースは、1本差しのペンシースなどの他のものと同じようにカンダさんしか作ることができないものだと思っています。
今までのシステム手帳とは違うものを作りたいということで、カンダさんが製作してくれているバイブルサイズシステム手帳と共通する趣きのようなものがあって、揃いで持ちたいと思わせてくれます。
私はこのカンダミサコ2本差しペンシースに、手帳用万年筆と手帳にしか使っていないペンテルマルチ8を入れて使っています。
標準的な太さのペンなら適度にホールドしてくれて使いやすい。
それは素材であるシュランケンカーフの、中身に応じて伸縮し、しっかりした張りを残しながらその形状を維持してくれる特性もあって、素材と形がピッタリとハマったものだと思っています。
2本のペンをスマートに収納してくれて、スマートに使うことができる2本差しペンシース。
夏ペンケースと言う言葉がピッタリな、温かくなる季節の好みの変化に応えてくれるペンケースです。

⇒カンダミサコ2本差しペンシース

関連記事


⇒2009.12.04「カンダミサコさんのペンシース」

書類の分類~筆文葉Vファイル発売~

書類の分類~筆文葉Vファイル発売~
書類の分類~筆文葉Vファイル発売~

若い頃、2回目のご来店でお客様のお顔と名前を完璧に覚えていました。
誰よりも、お客様のことを覚えている自信がありました。
でも40歳を過ぎた頃から、その記憶力も怪しくなってきたと認めざるを得なくなりました。
お会いしたことがあるのに、名前が出てこない。万年筆を買っていただいた時に顧客カードを作っても、そこに履歴を書けない事が続いた時でした。
どうすればいいか考えたところ、そのお客様のお住まいかはなぜかいつも覚えているので、顧客カードを50音順ではなく、東日本、近畿、神戸市1、神戸市2、兵庫県、西日本の6冊に分け、それぞれの県のインデックスをふってみました。
それでお名前を思い出せなくても、どちらにお住まいかはいつも思い出せているので、目的のカードに高い確率でたどり着けるようになりました。
絶対的な記憶力は30代には劣るけれど、何かキーワードがあれば記憶を呼び起こせるコツがあることが分かり、自分の記憶力の低下を補ってくれる分類法で、今の自分の実情に合ったものだと思っています。

当店のオリジナルシステム手帳リフィルのブランド筆文葉からVファイルを発売しました。
Vファイルというのは、インデックスの山がついた2つ折りの厚紙によるもので、ファイルボックスと組み合わせて使う、書類を分類するためのものです。
いちいちリングに留めないで、放り込むだけで収納できるし、作業などするときにそのファイルだけを持ち出すこともできます。
携帯する必要がなくなったシステム手帳リフィルを収納する場所としてVファイルを作りました。
筆文葉のブログ(fudemoyou.wordpress.com) で金治智子さんが大きさの違う紙片なども収納できると提案していますが、サイズにとらわれない、特に小さな紙の収納にも威力を発揮する書類収納用品です。
しっかりした質感のある紙を使用していて、コレクトのB6サイズ情報カード用ボックス(https://www.p-n-m.net/contents/products/OG0239.html)との併用を提案しています。

このボックスには、Vファイルとともに、システム手帳本体も収納することができます。
システム手帳を活用するにあたり、ページの分類の仕方は、その使い勝手を左右する、使い手のセンスが現れるところですし、考えていてとても楽しいところだと思います。
大切な情報を書き込んだリフィルを保管しながら、活用するための分類にぜひお使いいただきたいものだと思っています。

⇒筆文葉リフィル「Vファイル」
⇒筆文葉リフィル(Pen and message.オリジナル商品TOP)

関連記事

⇒2017.1.13「大人の手帳リフィル 筆文葉リフィルの紙質」

ラジオ局にて

ラジオ局にて
ラジオ局にて

昼間のラジオ局はたくさんの人が出入りして活気に溢れていました。
でも深夜とか早朝の放送では、もしかしたらアナウンサー1人、ディレクター1人で静かに放送されているのかもしれない。
そんな雰囲気もいいなあと、港を一望できる眺めのいいスタジオのコントロール室で、心に余裕のない中余計なことを考えながら、スタジオの中に招き入れられるのを待っていました。

そんな時、オリジナルシステム手帳リフィル筆文葉の水玉リフィルに書いた自分の文字が、できることはしたと、お守りのように緊張を紛らわせてくれました。
ラジオ番組の15分という短い時間だったけれど、自分の出番の進行表には質問される事が色々書いてありました。
それをひとつずつ水玉リフィルの一番上の段に書いて、目立つように周りを緑色の色鉛筆で縁取りしておき、下の水玉罫に答える内容を書く。
細かく箇条書きにしてもきっとそれを読み上げる余裕などないし、そのまま読み上げるてもおかしな感じになことは予想できました。
水玉罫ひとつずつに簡潔に書いておいた方が、素人なりにもその場の雰囲気に合わせて言い換えられると思いました。
質問されることは分かっていてもその場の空気感は分からないし、話の流れのようなものもあって、やはり用意した言葉をそのまま言うのはおかしかったと思います。

その場で微妙な言い回しを変えて答えるには、水玉リフィルは大いに役に立って、これがひとつの使い方なのだと思いました。
(ラジオに出る予定の方には水玉リフィルをぜひお勧めします。)

万年筆の魅力について聞かれた時に、あまり上手く言えなかったけれど、書き味が良いので、書くことが楽しくなるということを一番に挙げました。
そんな時に思い描いている万年筆は、万年筆を使い始めたばかりの時によく使っていた国産の万年筆で、安定供給がされていないのでホームページになかなか載せることができないけれど、セーラーのプロフィット21のようなベーシックでありながら、実用的に完璧な万年筆です。

あまり書くことをしていなかった20代の残念な私でも当時手帳は書いていて、プロフィット21で書くと手帳書きが楽しかった。
手帳書きが楽しいので、仕事にも前向きになれて、大げさに言うと毎日が明るくなりました。
もっと書きたいと思って言葉探しに本を読むようになったし、物事をよく考えるようになり、色々なことに興味を持つようになった。
当店のホームページに掲げている「万年筆は人の生き方を変える力がある」という言葉は私自身の経験から得たものでした。

プロフィット21は何の変哲もないプラスチックのボディで、他の国産万年筆と同じようなデザインの万年筆ですが、書き味がこのペンならではのものがありました。
万年筆を使い始めたばかりの人を悩ませるのは、この万年筆に存在するツボです。
プロフィット21は筆記角度50度から60度の間、ペン先の向きを紙に正対させて書かないと気持ちよく書けません。
そのように書くと気持ちよくヌルヌルと書けるけれど、そこから外れるとガリガリしたり、インクが出にくかったりします。
それはペンポイントの仕上げ方によるもので、平面を強めにした、五角形にペンポイントが研がれているからです。
使う人を正しい書き方に誘導してくれるようなところがこの万年筆にはあって、私はこれはセーラーからのメッセージだと思っています。
色々な書き方の人に対応できるようにペンを作ることもメーカーの技術力だと思うし、万年筆を使う人を増やすことにつながるのかもしれないけれど、正しい書き方を伝えることもまたとても大切なことだと思います。

ラジオの放送で、万年筆の魅力について考えて、自分が万年筆を使い始めたばかりのことを思い出し、セーラープロフィット21のメッセージを思い出しました。

関連記事

⇒2017.1.13「大人の手帳リフィル 筆文葉リフィルの紙質」
⇒2014.5.30「司法試験の万年筆」