華やかな筆記を支える存在・吸取紙

華やかな筆記を支える存在・吸取紙
華やかな筆記を支える存在・吸取紙

万年筆で書いた後、インクが乾くまで待ってから手帳を閉じる余裕があればいいけれど、そういう時ばかりではなく、反対のページにインクが付いてしまうことはよくあります。
私は最近1日1ページのシステム手帳のリフィルを使うようになって、その日のこと、お客様とのやり取りや電話のメモまで何でもそこに書いています。
インクが付く事は今まで気にしていなかったけれど、サッと書いてすぐ手帳を閉じることが殆どなので、吸取紙を挟むようになりました。
B6サイズの「WRITING LAB.吸取紙」は手帳に挟むのにちょうどいいサイズで、手帳に合わせてちょっとカットすればいい。
こうすると劇的にページがきれいになったので、他の手帳にも挟んでいます。

吸取紙は手紙でも重宝していて、私は縦書きの便箋に書くことが多く、どうしても乾きの遅いインクと紙の組み合わせだと書いたばかりの文字を右手がこすってしまう。
試しに使ってみると吸取紙の効果は絶大で、とても便利です。
大きめのノートには大和出版印刷が発売したばかりのA5サイズの「SUITOブロッティングペーパー」があります。

アウロラのリザーブタンク付きピストン吸入機構は、筆記中にインクタンク内のインクが切れても、ピストンを一度降ろすとA4サイズ数枚書くことができるインクが補充されるというものです。
これは筆記中の思考がインク吸入により中断されることを防ぐ、使う人の立場に立った機構だと思いますが、インク吸入はそれほど注意が必要な作業であることを物語っています。

尻軸を回してインクを入れるまではいいとして、ペン先をティシュペーパーで拭き取ると、そのティシュを通して、手がインクで汚れてしまうことは結構あります。
こんな時のために、大和出版印刷がインクを吸入した後のペン先拭うための紙「SUITOクリーニングペーパー」を開発しました。
SUITOは吸取紙で出来ていて、そのすごいところは、その巨力な吸水性により吸い取ったインクを他所につけず、手が汚れにくいところにあります。
この「SUITOクリーニングペーパー」を手帳に挟んでおくと書いたばかりのページも安心して閉じることができるし、いざ吸入となったときにもティッシュペーパーを探さなくても済み、そして何よりスマートにインクを吸入することができます。

吸取紙を使うものとして、工房楔もを製作しています。
大きな銘木の塊はとても存在感があるし、握りの部分が大きめに作られているのがいい。吸い取る用事がなくても握っていたくなります。
吸取紙というと万年筆という筆記において最も華やかな存在の影に隠れた裏方のように思えますが、なくてはならないものだと思っています。

信じられるブランド~AURORA

信じられるブランド~AURORA
信じられるブランド~AURORA

先日参加したカランダッシュのセミナーで、首都圏での筆記具ブランド売れ行きランキングというのを聞きました。
上位を占めるのはモンブラン、パーカー、ウォーターマン、ペリカン、カランダッシュなどで、それは10年、あるいはそれ以上前から変わっていないと思いました。
私は店に来られる業界の関係者の方に売れ筋を聞かれた時には、いつもペリカンとアウロラと言っています。
関西と首都圏のお店とはかなり様相が違っているし、当店がボールペンではなく万年筆を中心に品揃えしていることも大きく影響していますし、私自身の好みもあると思います。
その中で、ペリカンが売れるということには多くの方が納得されるけれど、アウロラが売れていると言うと不思議そうな顔をする人が結構おられて、それも10年ほど前と変わっていません。
お客様方にペリカンM400、M800などの超定番の万年筆を勧める時に「この万年筆はよく売れています」という言葉はあまり使いません。
なぜかというと、私は「売れている」と言われると引いてしまうのです。それは私が天邪鬼だからなのかもしれないけれど。

世界では売れ筋ランキングに入っていないけれど、自分だけの正解のようなものに出会えると、とても得したような嬉しい気分になります。
それが私にとってはアウロラだったというと、アウロラの関係者の方々に売れていないみたいだと怒られるだろうか。

万年筆をある程度持っている、特に男性からアウロラのペン先は硬いと敬遠されることがありますが、良いペン先は、使い始めるとその筆記によって劇的に書きやすく変化するものだと思っています。
スタートは同じでも、2年後の劇的な変化はアウロラの特徴とも言える。
アウロラの魅力はペン先に偏っているわけではなく、ボディのデザインにも言えます。
アウロラの美学を最も体現している代表作オプティマはもちろん、私が今も最も好きな万年筆だと思っている88クラシックにもその美学が宿っています。

美学というのは派手で大袈裟に喧伝するものではなく、静かに表現するものだと思うので、それに気付くとその魅力により一層魅せられる。
全く変わっていないように見えて、この15年ほどで万年筆は大きく変わったと思っています。
どのメーカーも時代の流れに乗ったり、惑わされたりして、それぞれの会社の有り方だけでなく、仕様やデザインも大きく変わりましたが、アウロラだけは大して変わることなく今に至っています。
私がアウロラを好むのはそういう時代に流されないということもあるのかもしれません。
たくさんの本があるのに、書店でいつも買ってしまい、一言一言に影響を受ける作家の本に似ていて、私はアウロラを信じているのだと思います。
信じているから売上ランキングに入っていなくてもお客様に勧めることができるし、自分でもいつも使っていたいと思っている。
でもこの信じられるということが、たくさんの情報が飛び交い、たくさんのモノが溢れている世界の中で自分が肩入れするものを見極める基準のひとつにしてもいいのではないかと思います。

長原宣義先生の訃報

長原宣義先生の訃報
長原宣義先生の訃報

セーラー万年筆の黄金時代の主役だった万年筆の神様長原宣義先生が亡くなったというニュースを旅先の香川県で聞きました。

長原先生は私がこの仕事をするきっかけになった人で、衝撃を受けるとともに、それだけの歳月が流れていて、自分たちの世代が万年筆の業界を背負っていかなければならなくなっていたのだと改めて思いました。
長原先生の万年筆クリニックでの姿を見て、人生の宝物を見つけたのは20年前でした。
お客様が持参された万年筆を受け取り、「これは書きにくかったでしょう」と優しく声を掛け、調整を始める。
少しグラインダーでペン先を研磨して、万年筆を「書いてみんしゃい」と返すと、どのお客様も別物のように書きやすくなったご自分の万年筆に驚かれ、とても感謝されて帰って行かれました。
ペン先調整の腕が良いのはもちろん、お客様とのやり取りは思いやりに溢れていて、その時の長原先生を見ることができたから、私は今こうして万年筆の仕事をしている。
竹軸の万年筆を作ってもらうために、呉の工場内にある先生の工房によくお邪魔していました。
まだ紐で束ねてある長いままの煤竹の中から、万年筆にしてもらうものを選ばせてもらい、この素材はこのペン先で作って下さいとひとつひとつ指定させてもらっていました。
「あんたが黒い竹、黒い竹と言うから、皆が黒い竹と言うようになってしまった」と笑いながら言われたことを覚えています。

当時、黒くて艶やかな煤竹が一番良いと思っていて、そればかりを使うように先生にお願いしていましたが、我ながら生意気だったと恥ずかしく思います。
私のような青二才の言うことに付き合ってくれて、間違っていることは正してくれて、多くのことを教わりました。

万年筆クリニックやお客様との交流から、常に新しい万年筆を生み出す姿勢を目の当たりにして、仕事のヒントはいつもお客様から与えられるとをいつも言っておられ、お客様の言われること、言われなくても思っておられることにアンテナを張っておくことが大切だと知りました。
それは先生から教わったことの中でも一番大切な、今も持ち続けている教えのひとつです。

ペン先調整は長原先生から直接レクチャーされたわけではありませんでしたが、かなりの時間を横にいて先生のしなやかに動く手元を見つめることが出来たことが今になって生きているし、当時言われていたことが、最近になって理解できたりしています。
グラインダーにペン先を当てながら、長原先生ならどうやるだろうといつも思っているし、書くために必要のない部分も美しく仕上げることが美学だと言われていたことを私も実践していきたいと思っています。

あまりに偉大な先輩、長原宣義先生のご冥福をお祈りいたします。

どこに持って行っても恥ずかしくないもの~3月28日(土)29日(日)工房楔イベントのご案内~

どこに持って行っても恥ずかしくないもの~3月28日(土)29日(日)工房楔イベントのご案内~
どこに持って行っても恥ずかしくないもの~3月28日(土)29日(日)工房楔イベントのご案内~

ペン先調整をする時、持ち主の人が書きやすいようにすることが一番の目標ですが、それと同時にその方がどこに持って行っても恥ずかしくないものにしたいということをいつも考えています。
例えばその万年筆を誰かほかの人に書いてもらった時、こんなに書きやすい万年筆は初めてだと思ってもらえたら、持ち主の方は気分が良いと思います。
またその万年筆をペン先調整ができる人がルーペで見た時に、これは美しい形のペンポイントだと思ってもらえることもいつも意識していて、それが私が調整した万年筆をその人がどこに持って行っても恥ずかしくないということで、そういうことも重要だと思っています。

それと同じようなことが、銘木の製品にも言えると思っています。
銘木のもの、例えば黒柿だとしたら、同じ黒柿と言って様々なグレードのものがあります。
きれいに孔雀杢が出たような文句のつけようがないものもあれば、これを黒柿と言っていいのかと思えるものもあって、それは銘木の造詣の深い人なら一目で分かります。
工房楔の銘木作品はまさにどこに持って行っても恥ずかしくないものだと思っています。
実は私も工房楔の永田さんの作品を扱い出したばかりの頃は、その辺りの目が全く肥えていませんでした。
黒柿は黒柿、花梨は花梨で、その名がついていれば同じだと思っていました。
でもお客様方に工房楔の素材や加工のクオリティの高さを教えられ、自分でもその違いを感じられるようになりました。

木について言葉で伝えるのは本当に難しいけれど、良いもの、グレード高いものは、艶やかで、生命力が感じられる。
工房楔で扱う材はどれも永田氏が厳選した、どこに持って行っても恥ずかしくものが使われています。
永田さんはいつも素材で妥協したら工房楔ではないと言っていて、それがお客様方に周知されている。
年2回を恒例としています工房楔のイベントを3月28日(土)29日(日)に開催いたします。

今回は伊勢神宮杉、島桑などの目玉もありますし、しばらく作ることができなかったペンシルエクステンダーで長い鉛筆のまま使うことができるトゥラフォーロも真鍮金具で製作されています。
パイロットカスタム742、カスタムヘリテイジ912などの首軸を装着できる万年筆用ボディ「こしらえ」もまとめて出来上がります。

ある程度楔作品をお持ちの方はこれだと思うものを逃さず手に入れてもらいたいと思いますが、初めて何か手に入れたいと思っている方は、まず模様がそれぞれ個性的で見所が多い花梨が、永田さんの代表的な材だと思いますので花梨で、ご自分の用途に合うものを選ばれたらいいと思います。
銘木を嗜むという、当店と工房楔の遊びにぜひ参加していただきたいと思っています。