手帳で遊ぶ~コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ発売~

持っているだけで嬉しい手帳を作りたいと思いました。それが今の時代の手帳のあり方のような気がしました。

それを実現するのに、革の種類にこだわって珍しい革を使う方法もあるし、色や形に凝る方法もあるのかもしれません。

当店は、ダグラス革という野趣味があってブラシや布で磨くと強烈な艶を出す革を使って、質感を楽しめる、厚みを持たせたコロンとした形の小さな手帳でそれを実現しました。

それがコンチネンタルM5システム手帳です。

最初に作ったものは11mmリングでしたが、今回は13mmリングにし、それに合わせて全体のサイズも見直しました。

リングの直径にすると2mmの違いですが、挟める紙の枚数が30枚以上多くなります。

紙面のサイズが小さい手帳なので、どうしても枚数が増えることになります。リング径を大きくすることで、持っているだけで嬉しいこの手帳をより使いやすいものにしてくれましたし、よりぶ厚く、コロンとしたフォルムになって、個性が強調されたと思います。

革を厚い状態で使っていますので、はじめはなかなか自然に閉じず、使いにくいと思われるかもしれませんが、そんなことよりも革の質感とこのフォルムを大切にしたかった。

実用性に目をつむることは店としてなかなか勇気の要ることだけど、賛否両論あるこういうものを世に問うことはなかなか面白い試みだと密かに思っていました。

コンチネンタルシリーズに使っているダグラス革は、廃番になっていて、残り全てを買い占めてくれた革作家カンダミサコさんの在庫もあと数枚になってしまいました。

今すぐになくなるわけではないけれど、あと1年くらいで使い切ってしまうと思います。

M5システム手帳のサイズに合ったペンを探し、カンダミサコのM5システム手帳用ペンホルダーに入れて、一緒に持ち運ぶことも、この手帳の楽しみのひとつです。

工房楔の限定商品ルーチェコルタは、この手帳、ペンホルダーにピッタリのペンのひとつです。ノック式ボールペン ルーチェペンの太さをほぼそのままに、長さを120mm以内にしたもので、コロンとした形はコンチネンタルM5システム手帳にピッタリです。

ルーチェコルタは素材違いで何本も持っていたくなります。金具の残りが残り少ないので、ぜひ早めにお選び下さい。

手帳遊びをもう一つ。当店オリジナルのM5システム手帳用Liscio-1リフィルは万年筆で極上の書き味が得られるリフィルとしてぜひお使いいただきたい。小さな手帳に極上の書き味って?と思われるかもしれないけれど、私たちはどんな時も妥協せず極上の書き味を味わっていたい。それが遊び心だと思います。

このリフィルはシンプルな4mm方眼罫ですが、このサイズの紙に書く文字の大きさを考え抜いた方眼のサイズになっていますので、実は非常に使いやすいものになっています。

仕切りとして使うディバイダー、かなじともこさんがデザインしているそら文葉リフィルなど、M5システム手帳を遊ぶものを色々ご用意しています。

⇒コンチネンタルM5システム手帳Ⅱ

⇒カンダミサコM5システム手帳用ラップ型ペンホルダー

突き詰めた革の形~カンダミサコバイブル手帳用ペンホルダー


元町も県庁より山側に上がると、静かで美しい住宅街になります。

こんなところに店を構えることができたらいいなと思って歩くこともありますが、駅から離れてしまうのと少し坂がきつくなるので難しいのかもしれません。

でも暮らすにはとても良いところだと思います。

そんな街の片隅にカンダミサコさんの工房があって、カンダさんも私たちと同じように、仕事に情熱を燃やしながら静かにマイペースに暮らしています。

当店の革製品の多くはカンダさんによるもので、その独創的でセンスのいい仕事に私たちも惚れこんでいます。

このたびカンダさんが独特な形状の、バイブルサイズシステム手帳用のペンホルダーを作りました。

そのペンホルダーは、システム手帳につけていない状態だと一見どう使うのか分からない形をしています。でもいざ手帳にセットしてみると、ペンのサイズを選ばないペンホルダーであり、書くべきところをすぐに開くことができるページファインダーであることが分かります。もしかしたら、もっと他にも使い方があるかもしれません。

かなじともこさんの筆文葉リフィルのように、どうやって使いこなすかを問いかけているような商品でもあります。

ペンホルダーの付いていないカンダさんのバイブルサイズシステム手帳で使うことをイメージしていますが、もちろんバイブルサイズであれば何ら問題なく使うことができます。

25mmリングを装備した厚手のマルセシステムバインダーにつけると、持ち出さず書斎やオフィスでの使用をイメージしているこのバインダーが持ち出して使いたいと思わせる機動力を得たような気がします。

上質な革ブッテーロを薄く剝いて、曲げやすく、挟むペンのクリップを傷めないようにしています。むしろ薄く剝くことで柔らかさが出て、 ハリのある滑らかなブッテーロ革の質感が活きている気がします。

他に似ているもののないこのペンホルダーはとてもシンプルですが、いくつもの試作を経て実際使ってみながら、やっとたどりついた形です。

多くの人に使ってもらっていて、名作だと私は思っているカンダミサコさんのM5サイズ手帳用のペンホルダーも、こうやって少しずつ修正して、丁寧に作り込んでいって、あの独特だけどスムーズな形ができたことを思い出しました。

丁寧で正確なステッチが施されたシステム手帳やペンケースとはまた違った、シンプルに革のカットだけで機能性を作り出している、カンダミサコさんのモノ作り。

新作のバイブルサイズシステム手帳用ペンホルダーが出来上がりました。

⇒カンダミサコ バイブルサイズシステム手帳用ペンホルダー

パイロットキャップレス(Vanishing point)

パイロットはキャップレスを海外でVanishing pointという名前で発売していて、万年筆ファンの間ではVPと呼ばれたりして、その存在は定着しています。

ペン先が収納できる万年筆は他にもあって、有名なところではスティピュラ「ダヴィンチ」、ラミー「ダイアログ3」などがあります。

好みは分かれるところかもしれませんが、デザインとしてそれらのペンは素晴らしかったし、ペン先が乾いて使いこなしに苦労したとしても、使いたいと思わせる魅力がありました。

それらは製品としての完成度よりも、作品として魅力のあるものだという言い方ができるのかもしれません。

万年筆の世界には、使い勝手や利便性に優れたものよりも、使いこなしにコツが要るものや、一手間かけないといけないけれどデザインが素晴らしいものが好まれる風潮があるのかもしれません。 

そして今は高級品よりも、スチールペン先でデザインの良い低額なものが主流になっています。

しかし日本の万年筆はその範疇に入りません。

使いやすくて書き味が良く、シンプルでオーソドックスなデザインが日本の万年筆の特徴です。そういうモノ作りは今の流れからは外れているのかもしれないけれど、それを支持する人は海外にもたくさんおられます。

私は日本のメーカーの「作品」という作り込みの甘さも許される言葉に甘えない、製品としての完成度の高い万年筆を作り続けていることを誇りに思っていて、パイロットキャップレスは日本の万年筆らしい万年筆だと思います。

高い精度でインクを乾きにくくした構造を持ち、実用品として使いやすいペン先が収納できる万年筆。キャップの開閉から解放されているということを考えると、一番実用的な万年筆なのかもしれません。

キャップレスの最新作で、キャップレスの60年以上の歴史の集大成と言えるのが、キャップレスLSです。

インクが乾かない信頼の機構をさらに進化させて、手に伝わるフィーリングにもこだわり、その感触で上質さを表現しています。

そのノックの感触は性能の良いオイルの働きによるもので、静かにノックすることができ、静かに滑らかにペン先を収納することができます。このLSはキャップレスが実用性だけでない、さらに高い次元のモノ作りに到達したものだと思っています。

キャップレスを快適に使うには、私はカートリッジインクで使うことをお勧めします。それでインク漏れのトラブルは回避できるし、書き味も良くなるからです。手帳などの用途で、細かく、書き味よく使うことができるのはF(細字)で、これがキャップレスに合った字幅ですが、大きな文字を書かれるのなら、さらに書き味の良いM(中字)もいいでしょう。

日本のこだわりのモノ作りは、その需要を捉えられず、今苦しんでいるのかもしれません。

たしかに良いものを作ったら、宣伝しなくても認められる時代は終わったのかもしれず、それはきっといろんな需要が生まれてきたからだと思います。

でも良いもの、クオリティの高いものが求められなくなったわけではなく、万年筆においては日本でしか表現できないモノ作りがされていると思います。これからもそれを続けてもらいたいし、続けてもらえるように我々販売店も日本の万年筆の良さを伝えていこうと思っています。

*パイロット キャップレスLS

ペン先調整

最近はずっとペン先調整に追われています。ほとんどが配送でのやり取りで、順に調整して、1週間~10日くらいでなるべくお返しするようにしています。

ペン先調整のご依頼が多いのは万年筆店として正しいことだし、たくさんの調整のご依頼をいただいて追われることは、本当に有難いことだと思っています。

ペン先調整をしてお金をいただくようになって13年になります。始めた頃に比べたら技術は向上していて、それはテクニックだけでなく、それ以上に意識の変化やアイデアなどの気付きのようなものがあったことが大きいと思っています。

ペン先調整は、今も感謝している各メーカーの何人もの先生方に教えてもらって始めたけれど、それからはお客様から教えられ、自分で気付きながら、ゆっくりと進んできました。

テキストや先生のいないペン先調整もそうですが、仕事において気付くということは本当に大切なことで、気付きが自分の今までのやり方を否定するものであったとしても、それは実行してみるべきだと思います。ペン先調整においても、仕事においても、今よりも未熟だった時の自分のこだわりはすぐさま捨て去る切り替えの早さはどんな仕事においても必要なことだと思う。

ただ、配送でお送りいただいた万年筆のペン先調整の方針は最初から変わっていなくて、シンプルにペン先を正しい状態に整えることだと思っています。

段差があって食い違っていれば揃えて、ペンポイントの左右の大きさが違っていれば同じにして、ペン先とペン芯が離れていれば密着させる。正しい形にペン先を整えるのなら書いているところを見なくてもできるので、配送でのやり取りでも対応できるし、調整自体それで十分だと思っています。

もちろん筆記角度を合わせたり、特別な研ぎを注文されたり、それ以上の調整を言われることもよくありますが、それにも対応しています。

正しい形にペン先を整えるだけで万年筆は驚くほど気持ち良く書けるようになります。

そこから使われる人がご自分の書き方で慣らしていけばいい。正しく整ったペン先はもっと書き味の良い万年筆にすぐになっていくでしょう。

配送でやり取りした万年筆のペンポイントを撮影したものを当店のホームページの「NIB WORKS」 というページに載せています。

ペンポイントをこうやってデジタル顕微鏡で撮影するようになったのは、美しいペンポイントをただルーペで見ることが好きで、皆様にも見ていただきたいと思って始めたことだったけれど、自分のペン先調整にも役立っています。

自分が調整したペンポイントを拡大撮影すると、第三者の冷静な目で見ることができます。撮影する時に違和感を覚えて、やり直したこともありました。

それぞれの万年筆を、それぞれの万年筆のあるべき姿としてペン先を正しい形に整えるペン先調整には、個性とか、自分の理想を表現したいという欲求を抑える理性が一番必要なものだと今は思うようになりました。

ペン先調整を仕事として考えると、本当に奥が深くて、底無し沼のような怖さがある。そこに入ってしまうと他は何も見えなくなってしまう。それだけを延々とやってしまいます。

でも私たちの仕事はそれだけでは成り立たないし、視野を広く持たないと良い仕事はできないと思っています。

私は若い時にペン先調整だけをする環境にいなかったので、本当に良かったと思います。だから今自分のペン先調整を冷静に見ることができるし、他のこととのバランスを取りながらやっていられるのだと思います。

*NIB WORKS