アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り
アウロラマーレリグリア・ロマンを感じるもの作り

アウロラ”マーレリグリア”が入荷しました。

この万年筆から連想される万年筆が、5年前の限定万年筆アウロラ85周年記念“レッド”です。
レッドは真紅のボディに、容赦なく黒ずむコーティングされていない細かな彫刻が施された純銀の金具で、私たちが期待するアウロラらしさ、イタリアらしさが表現されていました。

そんな85周年レッドとマーレリグリアは、金具の彫刻の違いなどはありますが、安直に言ってしまえば色違いで、レッドで感じたイタリアらしさ、アウロラらしさをマーレレグリアのブルーでも感じることができます。

アウロラの良いところは、専業のメーカーとしてやってきた会社の物作りのロマンがいまだに感じられるところだと常々思っています。

多くの専業メーカーが世界を2分した持ち株会社のグループに属し、親会社のコントロールを受けて、経営的には利益の出る儲かる体質になったかもしれません。ですが、他のメーカーとのペン先などの重要パーツの共通化や、製品のコストダウンがはかられるようになって、良いものを作りたいというそれぞれのこだわりというロマンが後回しにされているような気がしています。

しかし最近になって、ブランドビジネスの派手で洗練されたイメージのプロモーションは多くのお客様からは期待されておらず、職人魂のこもった物作りのロマンこそが求められているということに、物が急に売れなくなって、それぞれの作り手が気付き始めていると思います。

生産拠点を人件費のかからない国々に移してしまい、生産の効率化をしてしまった現在から、以前のように一見非効率な職人魂の感じられる物作りに戻すということには色々難しい問題があるかもしれません。

お客様のこだわりの物を作っている企業が考えるべき生き残る方法は、多くの利益を出して株主に還元するのではなく、良い物を作って消費者の支持を得て、売上げを回復させることなのではないかと、アウロラの変わらない物作りを見ていて感じます。

アウロラは、もしかしたら多くの会社がこぞって乗った利益を生み出す船に乗りそびれてしまった会社なのかもしれませんが、それが今価値を持っていることに、愉快ささえ感じています。

*画像左が「マーレ・リグリア」右が「85周年レッド(非売品)」です。

人前で話すことと情報カード

人前で話すことと情報カード
人前で話すことと情報カード

万年筆を販売する仕事は一対一での接客が多く、大勢の人の前で話すことはありません。
結局今までそういう機会もなく、ずっと苦手意識を持ったままでした。でも大袈裟ではなく、私にとっていずれ越えなければならない壁だと思っていたのです。

すると今年、大勢の人の前で話す機会が巡ってきました。

大和座狂言事務所の公演の舞台の合間に基調講演をして欲しいと、代表の安東伸元先生から依頼されたのです。
ご迷惑をお掛けするのではないかと、経験のないことを理由にお断りしようかとも思いましたが、尊敬する安東先生のお役に立てるのなら、という気持ちと自分の課題を克服するチャンスだという思いからお受けすることにしました。

それでも責任の重さを痛感していて、当日のことを考えると緊張して手に汗握る想いです。

安東先生とは暮らしの手帖を読んで当店を知って下さった奥様と一緒にご来店されたのが出会いでした。

よく来て下さっていて、お付き合いが深まっていく中、安東先生が執筆しておられる大和座狂言事務所の会報を読ませていただくようになりました。

会報を読ませていただいて、安東先生が狂言を演じることで最も伝えたいと思われている(と私が思っている)メッセージが、”日本人としての誇りを持ち続ける”ということに強い共感を覚え、影響さえ受けていました。
基調講演にお声掛けいただいたことはとても光栄なことだったのです。

講演は1時間半という私にとっては大変な長時間です。
かなりちゃんと原稿を作っておかないといけないと思いました。

まず私は話したいことを5×3の情報カードに書き始めました。
書いたものが読みやすいように、プラチナブライヤー細字を使いました。
話すことは苦手でも、こんな時にどんな万年筆が最適かということだけは分かります。
ブライヤーの細字は、ペン先に硬めの弾力があり、ボディが太目なので、線がクッキリ書けて、たくさん文字を書くような今回のような作業に向いています。

情報カードの紙質にもこだわりました。
やはりインクとの相性の良いものを使いたいと思って、色々試してみました。
国産のものは多少紙質の違いはありますが、万年筆での使用を前提に考えられているのか、どれを選んでも不愉快なものではないことが分かりました。

ただ海外のあるメーカーのものは、ボールペン用なのか、表面の強いワックスが万年筆のインクを弾きました。

色々試した結果、ライフの方眼罫のものを使い始めました。
インクの伸びが一番良く、にじみも多くないライフの情報カードの紙質が一番気に入りました。

たくさんの情報カードを入れ替えたりして話す順番を作ります。
こんな作業をしていると、やはり情報カードは(特に5×3は)こういった使用のためのものだと思います。

これが例えばシステム手帳のリフィルなどでしたら、やりにくい作業だったと思います。でも情報カードは5×3の大きさ、紙厚、硬さなど全てがこのような作業にぴったりだと思えます。

手に汗握る緊張と戦いながら、大勢の人の前で話すために、情報や話したいことをひとつの形にするのが情報カードというツールなのだと改めて思いました。

分度器ドットコムイベント ”文旅”

分度器ドットコムイベント ”文旅”
分度器ドットコムイベント ”文旅”

先週の定休日、京都での打ち合わせの後、いつも乗る京都駅ではなく、四条河原町から電車に乗りました。
打ち合わせが早めに終わったので、夙川に寄って分度器ドットコムのお店に寄ろう、そして谷本さんと夕飯を食べようと思ったからです。

途中十三で乗り換えなければいけませんし、特急でも新快速よりも停車駅が多く、JRに比べて阪急は不便に感じてあまり利用することがありませんでした。
でも特急の停車駅が増えたおかげで夙川にも停まるようになり、分度器ドットコムのお店にも行きやすくなりました。
夙川駅に降りてから谷本さんに電話して、お店で待ち合わせることにしました。
人通りの少ない場所にあるそのお店の夜は、暗くなったばかりの時間でもとても遅い時間に感じられ、元町の人の流れから外れた当店の夜ととてもよく似ています。
店の立地としてはどうか分かりませんが、静かな日本の町の夜という感じがします。

分度器さんの店は、非常に品数が多く、しかも他のお店にはないような珍しいものばかりあります。オリジナル商品のアイテムが多いのと、独自で海外から直接買い付けている商品がたくさんあるからです。
どれも欲しいと思いながら、どうしても使いたいと思うものを選んで買い物をさせていただいて店を出ました。

谷本さんと夙川駅近くのとんかつ屋さんに入りました。
実は前日も谷本さんが夕方当店に来られて、少し話したりしていました。
9月10日からの分度器ドットコムイベント「文旅」の開催のための店舗見学ということもありましたが、2日連続で、しかもわざわざ会いに行くというのも変な感じかもしれませんが、いつもこうやって会って話すのがとても楽しいと思わせるのが谷本さんで、それはル・ボナーの松本さんにも感じています。

イベントについて話をした後、世間話や身の回りの話などをしていました。
谷本さんの会社は着実に大きくなっていて、売上も、スタッフの人数も増えています。
周りに対する責任の重さや期待は私の比でなく、それらの期待に応えようとするプレッシャーは相当なものだと思いますので、私たちと会う時だけでも力を抜いて、気楽でいて欲しいと思っています。
谷本さんと出会う前の私は、本当に狭い視野しか見えていなかったと思います。
谷本さんは旅先で見て気に入ったものを交渉して買い付けてきたり、様々な人にアプローチをかけてオリジナル商品を作ってもらったりしています。
海外のメーカーなどからも、直接やり取りして商品を仕入れていて、全てのお膳立てが整った上でしか仕事をしていなかった自分が恥ずかしくなりました。

6月のヨーロッパ旅行も、谷本さんがいなければ実現しなかったもので、海外も同じ地球の上だというように考えられるようになったことに感謝していますし、私の旅への渇望に気付かせてくれました。

谷本さんも私も常に旅をしていたいと思っているところがありますが、やはり仕事をしていると簡単に旅に出ることはできません。でもまた必ず旅を仕事にできるようにして、出かけたいと思っています。

私のライフワークが万年筆を使う人のためのものであるなら、谷本さんのライフワークは文房具を探して旅をするというもの。
理想とするオリジナル商品を作ってくれる人を探したり、見たこともない自分の美学に合った文房具を探して旅する谷本さんの文旅をテーマにした分度器ドットコムのイベントを9月10日(金)から9月30日(木)まで開催します。

⇒「分度器ドットコムイベント”文旅”」
9月10日(金)~9月30日(木)まで開催。土曜日・23日(祝日)は谷本氏来店予定です。(時間は未確定)

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード
日本万年筆の伝統 セーラー木軸スタンダード

最近お客様とのやり取りの中で、手帳用の万年筆について考えることが多くありました。
仕事のほとんどがパソコンでの打ち込みで完了してしまい、手書きする機会はどんどん減っていて、万年筆が使われなくなってしまうのではないかという意識は常にあります。
でもそれ以上に、字を書かなくても生活していけることに対して、何か人の思考に悪い影響を与えるのではないかという気がしています。

しかし、手帳だけは手書きされていて、いくらI-phoneなどのデジタルツールが普及してもそう簡単に変わらないのではないかと思っています。

万年筆を使う人は、貴重な手書きの機会である手帳への筆記を万年筆でしたいと思うでしょうし、そうでなくても仕事をされている方が万年筆を使いたいと思うのは、手帳への筆記が目的であることが多いようです。

私は多くの方と比べると、まだ仕事の中で万年筆を使う機会が多い方ですが、やはり手帳への書き込みが一番多く、趣味に近い楽しみのひとつになっています。

手帳を楽しく、美しく書くにはやはり日本のメーカーの万年筆が向いていると思っています。
外国のメーカーのものは、どんなに細いペン先がついていてもインクの出が多いものが多く、にじみが出たりして、どうしても文字が太くなってしまいがちです。

後から見た時に見やすい手帳ということを考えると日本のメーカーの万年筆が優れていて、それは1960年代からしばらくの間一世を風靡したプラチナポケット、パイロットエリートに代表される日本特有のポケットタイプの万年筆からの流れなのかもしれません。

柔らかいペン先の書き味を楽しめる万年筆と正反対の存在であるこれらの万年筆は、手帳への筆記を中心に考えられていて、柔らかい書き味よりも線の美しさを追求していたように思います。

そしてポケットタイプの万年筆が手帳用に向いていた理由のもうひとつはその携帯性にもあります。
家でゆったりと書いている時はあまり関係ありませんが、仕事中など忙しい時に手帳に用件だけ書き込んですぐに仕舞うには勘合式でパッと閉められるキャップが適しています。

そうやって手帳用の万年筆に必要な条件を挙げているとピッタリな万年筆に気付きます。
黒檀、智頭杉(ちずすぎ)、鉄刀木(たがやさん)、の3種類の材質をラインナップさせている、セーラーの木軸スタンダードというシリーズです。

それぞれの材の手触りが感じられる最小限の仕上げは、長年の使用で光沢が増し色目が深まるという変化が見られ、ポリウレタン塗装が施された以前の仕上げとは飛躍的に変わったところだと思います。

愛着を持って使い込むことのできるボディは、コンバーターが入る最小限のサイズで、ポケットに差して使うのにもちょうどいいサイズです。

非常に硬いプロフィットやプロフェッショナルギアのクリップに比べてしなやかで使い易いものが付いているところも携帯に向いているところです。

ペン先が細字だけの設定というところにも、セーラーの意思が強く感じられ、手帳用の万年筆について考えた時に筆頭に挙げられるペンが木軸スタンダードです。