当店のオリジナルインク

当店は2008年に、オリジナルインクとして四季を表現した「冬枯れ」「朔」「山野草」「朱漆」の4色を発売しました。

その後、冬枯れが雑誌「暮らしの手帖」で紹介されて、日本中から女性のお客様が来られるようになり、数年はその雑誌効果が続いたと思います。

2012年に発売したCigarは、同時に発売したオリジナル万年筆Cigarに合わせて作ったインクで、書いたばかりの時は緑色で、乾くとCigarの葉が枯れていくように茶色っぽく色が変わります。そんな遊び心のあるインクを作りたかった。

その後京都のインディアンジュエリーのお店リバーメールとの共同ブランド「WRITING LAB.」を立ち上げ、2012年にクアドリフォリオ、2013年ビンテージデニム、2014年オールドバーガンディを発売しました。それらのインクは全て今も作り続けています。

これらのインクはもちろん実際に使うことも考えての色のラインナップでしたし、オリジナルと言うからには他にない色でなければ意味がないと思っていましたので、それを念頭に置いて作りました。

当時、インクはそんなに人気ではなかったので、売れ行きはゆっくりでした。

でも他所にないオリジナルの色があるということは、やはりお店の特長になっていて、新しい万年筆を購入されたお客様がインクも一緒に買って下さることが多かった。

オリジナルインクがそれだけで売れるようになったのは、インクブームがやってきてからだと記憶しています。

その時しか買えない限定品もいいですし、その方がもしかしたらよく売れるのかもしれませんが、当店としては作り続けることで、多くの人にとっての定番にしたいと思っていました。多くの人が使って下さって、それぞれのインクが使う人の物語の一部になってくれたら何て素敵だろう。

それは万年筆にも言えることで、いつか買いたいと思い続けて、その人のタイミングが合った時に買うことができる定番のものをなるべくご紹介したいと思っています。

そうやって長く作り続けて、継続して使い続けてもらったものはストーリーの一部になる。

私がその背中を、その生き様をお手本のように追いかけている恩師がいます。

万年筆やペン先調整の師匠はいないけれど、生き方を教えられる先生がいます。

出会いは暮らしの手帖の冬枯れの記事を奥様が読まれて、ご一緒に当店を訪れて下さった時でした。

なかなかその人のように重厚に生きることはできないけれど、30歳以上も年上のその先生のように生きたいといつも思う。

恩師がCigar のインクを使い続けてくれています。

いつも世の中の理不尽に怒りを持っていて、楽で落ち着いた老後の生活をしてもいいのに平坦な道を選ばず、誰も歩いたことのない道を切り開き、戦いながら生きておられて、何かあるごとに手紙を送ってくれます。

先生が原稿用紙の桝目を無視して、Cigarのインクでダイナミックに書かれた手紙を何回も読み返したもので私はできている。

当店のオリジナルインクが使われているのを見て、そうやって使い続けられるインクをこれからも作っていきたいと改めて思いました。

ペンを立てる

神戸市垂水区新多聞地区は、昭和40年代頃から山をならして造成されたところで、きっと日本中に同じタイミングで同じような街がたくさん作られたのだと思います。そんなどこにでもある平凡な街に40年以上住んでいます。

この市街地の一番奥に神戸家具発祥の地という看板を掲げた木工センターという、木材加工の工場が集まっている所があります。

早くから外国人が多く住む神戸では、外国人の注文に応じて日本の職人さんが洋風の家具を創意工夫しながら作っていて、そういうものを神戸家具と言うようになったそうです。

木工センターの場所は私が学生の頃までは市街地の突き当たりのような場所でしたが、あっという間に街が大きくなっていって、今では木工センターよりも奥にもいくらでも街が広がっています。

子供の頃から住む街のあまりの変わりようですが、40年も経てば街も変わるのかもしれない。

学生の頃、木工センターという名前を口にすることはあったけれど、その中で家具職人さんが仕事をしているという当たり前のことを、なぜか考えることはありませんでした。

仕事をするようになって、次に木工センターの名前を聞いたのはスモークというブランドで家具作りをしている加藤亘(かとうこう)さんからでした。

木工センターに加藤さんの仕事場があり、毎日そこで作業されているそうです。木工というのは今まで何となく遠い場所で行われている、馴染みの薄いものでしたが、自分の家のこんな近くに木工の職人さんたちがいたのだと思うと急に身近に感じました。

時々、ペンを使っていない時、立てておくか、寝かせておくか、どちらがいいでしょうと聞かれることがあります。

多くの万年筆の場合、立てておく場合はペン先が上になるように置くのが基本です。でも中には、立てておくとインクが戻ってしまい、書く時にインクが下りてくるまで待つか、振らないと書けない万年筆があります。そういう万年筆は毛細管現象の働きが弱く、重力でインクが下りてきているということになります。

そういう万年筆もたまにありますので、強いて言えば万年筆は寝かせて置いておく方がいいのではないでしょうかとお答えしています。

しかし、普通の状態の万年筆の場合、立てておいて何ら問題はなく、今回ご紹介のスモークペンスタンドのようなものも当店では販売しています。

スモークペンスタンドは、加藤亘さんがデザインして、製作しています。

実用一辺到ではなく、細部にこだわった装飾的な意匠で、机上でペンを飾るように置いておける粋なものだと思っています。

ペンを寝かせて並べるよりもスペースをとらないし、万年筆を書くものによって、次々と使い分けて使うのにも使いやすく、機能的でもあります。

立ち姿の美しい5本の違うペンを立ててももちろんいいけれど、この5本のペンスタンドに道具として使っている字幅違いの同じペンが立ててある姿はなかなかサマになる風景ではないかと思います。

当店には陳列用として使っている10本用ペンスタンドもあります。机の上に10本立てておく人がどれくらいおられるか分かりませんが、面白い商品で、加藤さんの遊び心だと思いました。

自分の住む街はどこにでもある平凡な街だと思っていたけれど、神戸の洋風家具発祥の地があって、そこで仕事をする家具職人さんがその影響を受けたペンスタンドを作ってくれていると考えると、この街が少し誇らしく思えるようになりました。

⇒SMOKE(スモーク)TOP

続・理想のインクとの出会い

理想のインクというのはきっと人によって違っていて、誰かが良いというものが自分にも当てはまるとは限りません。実際自分でしばらく使って初めて、理想のインクと言えるのだと思います。

そう考えると理想のインクを見つけるというのは、本当に幸運な出会いなのだと思います。

私はあまりたくさんのインクを使ってきたわけではありません。多少のにじみや裏抜けは気にしなかったので、パイロットのブルーブラックを「万年筆の書き味が良くなるインク」として使っていましたし、ペリカンのブルーブラックを「インク出が多くなり過ぎるペンのインク出を抑えるもの」として使っていました。

インクについては、色よりも万年筆の機能を補う液体として見ていて、その万年筆と最適な組み合わせのものを使おうとしていました。

万年筆が快適に書けるということだけでなく、紙に速やかに馴染んで定着するというのも、感覚的な好みになるけれど私にとっては必要な条件になっています。書く時はぬるぬる書けるけれど、紙の表面に乗ってなかなか乾かない粘度の高いインクは好きではないので、サラサラとしたインクを使いたいと思っています。

そんな時、ローラーアンドクライナーのインクについて考える機会があって、いろんな色を試してみました。

ドイツの片田舎で作られているという、シンプルなラベルが貼られた薬瓶のような素朴なボトルにも惹かれます。

私にとって万年筆は、どんな高価でも特別なものではなく、自然体で扱う日常のものであって欲しいので、気負いのないデザインと価格が安く質の良いローラーアンドクライナーのインクがしっくりきます。

ローラーアンドクライナーのインクは、濃く深みのある色合いのものが多く、最近流行している薄い色ではありませんが、古くからの万年筆好きの人は、インク出の多い万年筆を好むとともに濃厚な色のインクを好むことが多いので、ぜひ試していただきたいと思います。

ライプツィヒアンブラック、バーディーグリースなどは濃い色のインクの代表的な存在で、単純ではない奥行きのある色合いが使っていて楽しい。

古典インクであるサリックスやスカビオサは、濃い色の多いローラーアンドクライナーのインクの中で、褪せたような薄めの色合いでニュアンスが楽しめるインクです。

人気色以外にもいいインクがあるのではないかと改めて探してみると、「パーマネントブルー」と出会いました。その名前から濃厚なブルーだと決めつけていましたが、違っていました。

書いたばかりの時はターコイズに近い鮮やかなブルーをしていますが、時間が経つと紙にスッと沈んで落ち着き、少し薄めのブルーになります。濃淡もきれいに出ます。

色は薄いのに、ヌルヌルと万年筆の書き味が良くなるところも、書いていて気持ちがいい。耐水性はそれほどでもないけれど、書いたものの保存性は他の染料系インクよりも高いそうです。

耐久性は私の用途にはそれほど必要ではないけれど、中にはそれが重要な人もいると思います。

ローラーアンドクライナーパーマネントブルー、今私が一番気に入って使っているインクです。

カンダミサコ革鞄、取り扱い始めました

毎日使う通勤バックは、同じリズムの生活を13年も続けていると、どの季節にどんなものが必要かが大体分かってきます。

私は万年筆や手帳類、水筒などただでさえ荷物が多い方なのに、今の季節は冷房対策の夏用ジャケットも増えます。更に最近は色々な仕事の締め切りが迫っていて、仕方なくパソコンも持ち歩いているため今までで一番荷物が大きいかもしれません。

神戸は雨が少ないと言っても、梅雨なのでいつ雨が降るか分かりません。気にしない人も多いけれど、ブッテーロ革など雨の跡が残るタンニンなめしの革の鞄は何となく避けたい。

そういうことを考えると、フィルソンの大きなトートバッグ以外に考えられなくてずっと使っていますが、さすがに色褪せたり、くたびれたりしてかなり使用感が出てきました。

それがフィルソンの味で、普段使いにはいい感じだけれど、通勤時にはカジュアルすぎる気がしてきました。

新しい鞄が欲しい。でも常に革靴が欲しいと思っているので我慢しようかとか考える時間も楽しく、いい気分転換になっています。

鞄が好きな人は多い。いや鞄を嫌いな人などいないのかも知れません。

当店のお客様、特に女性の方に喜んでいただけると思って、カンダミサコさんの鞄を扱い始めました。

最後にカンダさんが出店した伝説の大丸神戸店でのイベントから8年近く経っています。

カンダさんが公の場所に出なくなったことで、カンダさんの鞄を実際に見ることは殆どできなくなりました。それができる場所になればと思っています。

カンダミサコさんの鞄の特長は、しっかりとしたオーソドックスな鞄をベースに、オリジナリティを感じさせる要素が盛り込まれている所だと思います。基本に忠実に作られた鞄はいろんな服装に合わせやすく、長くご愛用いただけるものだと思います。

カンダミサコさんがメインで使っているシュランケンカーフは、水に強く、汚れも落としやすいので、梅雨の季節でも安心して使うことができます。また、大抵のお店の入り口にあるアルコール洗浄水がついてもシミになりません。

エージングはあまりしませんが、発色が美しくいつまでもきれいに使うことができます。

当店にご夫妻で来店されたお客様が、旦那様が万年筆を見ている間に、奥様が鞄を見て下されば、良い店になったなと自画自賛できます。

男性でも違和感なく使えるものもあり(スタッフMはすでに購入して毎日使っています)個人的にはtoneかPaneが欲しいと思って、毎日眺めています。ぜひ皆様もご覧下さい。

⇒カンダミサコ 鞄TOP

セーラー万年筆創業110周年記念謹製万年筆

原田マハの小説「リーチ先生」を読んで、バーナード・リーチの活動に興味を持ちました。

リーチはイギリスで高村光太郎と知り合い、アーティストとして日本にやってきました。そして日本の陶芸と出会い、陶芸家になることを志します。その手助けをしたのは、西洋美術を吸収して日本独自の芸術を開花させようと試行錯誤していた、高村光太郎、柳宗悦をはじめとする白樺派の芸術家、富本憲吉、濱田庄司などの陶芸家で、当時新進気鋭の人たちでした。

リーチは彼らの影響を受けながら日本と西洋の架け橋となり、日本の美術界に多大な影響を与え日本美術の開花に貢献しました。

日本の美術界が西洋のものを吸収、消化して、独自のものを生み出そうとしていた頃、1911年(明治44年)にセーラー万年筆は広島県呉市に誕生しました。

美術界だけでなく、万年筆の業界もきっと西洋のものである万年筆を吸収して、模倣したり試行錯誤しながら日本独自のものを生み出そうとしていたのだと想像することができます。

そして日本の万年筆メーカーは日本人の繊細な感覚を生かして、素晴らしい書き味のものや、伝統工芸である蒔絵を軸に取り入れたものを世界に示し、その地位を確立していきます。

激動の時代を生き残り、日本最古の万年筆メーカーとして現代に存在しているセーラー万年筆の歴史は、日本の万年筆の歴史そのものです。

先日、セーラー万年筆110周年記念謹製万年筆「プレミアム」「くろがね(黒金)」「しろがね(白銀)」が発売になりました。装飾がほとんどなく、直線のシルエットの、潔いほどシンプルな造形の万年筆です。

しかしこの万年筆からは、西洋の文化と日本の融合、伝統的な万年筆作りと現代のテクノロジーの融合を感じます。

「しろがね」は、表面処理をしていない、磨き抜かれたスターリングシルバーの軸で、既に万年筆の軸の素材として認知されている従来の素材である銀を贅沢に使っています。

ピカピカの軸は、使うごとにその光沢が落ち着き、味わいを出してくると想像できます。エージングを感じたり、磨くことが楽しめる万年筆に仕上がっています。

「くろがね」は、「しろがね」とは対照的に、永遠の黒さを現代のテクノロジーで実現した仕様です。

黒色発色させたステンレススチールは、メッキや塗りではないので、剥がれたり、退色したりすることがありません。

そして「プレミアム」は、「くろがね」をベースに、ボディ中央にペン先と同じ21金を軸材にした豪華な仕様、ボディ中央に重量感を持たせることで、バランスも優れています。

それぞれ内部パーツのメッキの色が、それぞれのテーマ「しろがね」はシルバー、「くろがね」はブラック、「プレミアム」はゴールドになっていて、なかなか凝った仕上げがなされています。

ボックスも凝っていて、無垢の国産栗材を使用した刳りものになっています。一位一刀彫師小坂礼之氏の監修で製作され、「プレミアム」の箱には、小坂氏の手彫りによる名栗目の模様が施されています。

セーラーの万年筆の特長は、21金ペン先とペンポイントの研ぎの形による書き味や独特の筆致であり、110周年記念謹製万年筆でもその書き味を充分味わうことができます。

書くことを楽しくしてくれて、万年筆を使いこなす喜びを改めて感じることができます。

セーラー万年筆が、その歴史の中でたどりついた日本独自の万年筆のあり方に安住することなく、攻めた仕様の万年筆を110周年記念謹製万年筆で示してくれました。

110周年記念謹製万年筆は、他の標準的なサイズの万年筆よりも長いので収納するものに困るかもしれません。

丈夫な金属軸で折れることはないとしても、傷もついて欲しくない。当店オリジナルの長寸用万年筆ケースは110周年万年筆をスッポリと収めて、傷から守ってくれるものなのでお勧めです。

セーラー万年筆110周年記念謹製万年筆の当店初期入荷分は殆ど出払ってしまいましたが、まだ入荷は見込めるようです。興味を持たれた方はぜひお申し付け下さい。

⇒創業110周年記念謹製万年筆 プレミアム

⇒創業110周年記念謹製万年筆 しろがね

⇒創業110周年記念謹製万年筆 くろがね

⇒Pen and message. 長寸用万年筆ケース シャーク革