今年最後のペン語りになります。
仕事である万年筆や、その周辺のものや考えをお客様に提案して、ともに考えたいという気持ちだけは強く持っている私のとりとめのない文章に今年一年お付き合い下さったことに心から感謝しています。
来年も何卒よろしくお願いいたします。
今年最も印象に残った万年筆をプラチナセンチュリー3776だと言うと意外に思われるかもしれません。
アウロラ、ペリカン、オマスそして工房楔とのオリジナルこしらえなど、思い入れの強い万年筆はいくつもあって、そのどれも自分でも愛用している万年筆なので、それらの中から選びたいとも思いました。
しかし、あえて自分で使っていないプラチナセンチュリー3776を挙げたのは、それを選んでくれたお客様たちとのやり取りが最も心に残っていたことも理由のひとつです。
今まで出席を拒んでいた同窓会に今年初めて出席して、高校の時の同級生たちとの交流が始まりました。
同窓会の後、真っ先に万年筆を買いに来てくれたKくんはレストランをいくつか経営しています。
多忙な中当店の近くの英会話教室に通っていて、その前に立ち寄ってくれました。
前もって来ることを知らされていましたので、レストランオーナーに相応しい万年筆をいくつか用意していましたが、その中で最も飾り気がなく、実用的なプラチナセンチュリー3776シャルトルブルーを選びました。
元々書くことが好きで、彼のスケジュール帳は文字で埋め尽くされていたので、その選択は実務家の彼らしかったのかもしれないと思っています。
高校の時あまり交流はなかったけれど、Kさんもすぐ万年筆を買いにきてくれて、Kくんと同じセンチュリー3776のブルゴーニュを使い始めてくれました。
ご自分で商売をしていて、アメリカ、フランス、日本とその活動の範囲は広く、一軒の店で精一杯の私とはそのスケールが全然違うけれど、私の商売も面白がって、興味を持って話を聞いてくれる。
Kさんはその後シャルトルブルーを青インク用にオリジナルインク朔を入れて、ブルゴーニュを赤インク用にWRITINGI LAB.オリジナルインクオールドバーガンディを入れて使ってくれていますし、カッコイイからとアウロラ88クラシック使いだしてくれています。
お客様で友人のS等さんと靴の話をしていて、日本の靴メーカーは安いものでは奇抜なロングノーズの流行りもののようなデザインのものばかりを出している。安いものこそスタンダードな形のものを出すべきで、それこそが文化を作りだすことだと言っていたけれど、大変もっともな話だと思いました。
日本の万年筆メーカーは、初めて万年筆を使う人が選ぶことが多い、金ペン先がついているものの中で一番安い価格の1万円クラスの万年筆をベーシックなデザインにしていて、文化を作っているという責任感のようなものが感じられます。
センチュリー3776もベーシックな万年筆のデザインを踏襲しているけれど、もう一歩踏み込んで、半透明のブルー(シャルトルブルー)とレッド(ブルゴーニュ)を用意したことは、万年筆を、それも大人が使うべき金ペン先の万年筆使用者を増やすのに、先述した同級生の例のように、大いに役立っていると思っています。
今年最も印象に残った万年筆として、このセンチュリー3776を挙げたのは、万年筆の文化を支えているもののひとつだと思ったことと、私の個人的な想いである高校時代に置き忘れてきた友情を、この万年筆が思い出させてくれたからでもあります。