ただ単にきれいなものではなく、素材感が感じられる、いつも分かりにくいと言われるけれど「きれいとボロの間」の質感のものに惹かれます。
本当にボロボロなものは好きではないけれど、自然にやつされた姿をそのまま形にしたものがいいと思っています。
茶道のお道具などではそういうものは多く、その美の在り方は渋いと表現される。
茶道の大成者千利休が茶道の美の在り方を確定したけれど、それを美とする、感覚、考え方はそれよりも以前から存在していて、日本人はもともと持ち合わせていた感覚だったのだと思います。
海外で、西洋の文化では渋いという美意識は存在しないということを何かの本で読んだことがありますが、微妙に違うかもしれないけれど、西洋のモノの中にもきれいとボロの間にあるようなもの、それを美しいとする感覚が存在するのではないかと最近思うようになりました。
ペンの世界では、少なくともファーバーカステルにはそんな感覚があって、クラシックコレクションには日本人がモノに感じる美が表現されているのではないか、他のメーカーが表現していないものがこれらのペンにはあるのではないかと思っていました。
スターリングシルバー、エボニー、グラナディラ(ブラックウッド)、ペルナンブコ。どれも素材感が生かされたペンで、工業製品だけど人の手を感じる。
昨年末、さらに自然の風合いを感じさせるマカサウッドが発売されました。
マカサウッドはインドネシアの木で、縞黒檀と非常によく似ている野趣味溢れる素材感を持った銘木です。
クラシックコレクションではこのマカサウッドには、キャップ、首軸、尻軸など金属パーツを黒っぽいPVCコーティングに仕上げていて、よく合っています。
このマカサウッドをきれいとボロの間と言うと、マカサウッドに惹かれた人は嫌な気持ちになるかもしれないけれど、なかなか良い言葉が見当たらない。
クラシックコレクションの万年筆は、万年筆の王道のバランスとはあまりにも違っていて独特です。
使いこなすのに慣れが必要かもしれませんが、必ず慣れると思いますので、愛用される方が増えたらいいなと思っています。
ファーバーカステルクラシックコレクションは、私個人としてはとても好きなペンで、オリジナリティがあって、無理のない美しさを持っているペンだと思っています。
ピカピカで見るからに豪華に見えるものよりも、素材感があって枯れた味わいのあるものの方が美しさの在り方としては上ではないかと思えるペンが、ファーバーカステルクラシックコレクションマカサウッドです。
*Faber-Castell(ファーバーカステル)マカサウッド・プラチナコーティング
筆文葉吹き寄せパック~風物のデザイン~新発売
長い期間をかけてデータとして保管しているものは別として、例えばブログやホームぺージに書く文章の下書きなどは、いろんなものに書いていて、ある程度使って区切りがついたら、次は違うものを使いたいと思ってしまいます。
一貫して同じものを使えたらいいけれど、違うものに変えると気分が変わったりして新鮮な気持ちで書くことができるし、それらから何らかの刺激があって、書くものがもっと良くなってくれたらという淡い期待があるからです。
万年筆を換えたり、インクを変えたりするのも同じ理由からで、いつも同じ万年筆、同じインクを使いたいとは思わない。
他の人はどうか分からないけれど、使うモノからの刺激というのは、私の場合少なからずあって、モノに頼っているようではまだまだだと思うけれど仕方ない。
当店のオリジナルシステム手帳リフィル筆文葉の新製品が完成しました。
しっかりと使うことができる定番的なものは確立されつつあるので、今回は遊び心のあるものを作ってみようという金治智子さんの提案、デザインもあって、かなり冒険的なフォーマットのものを5種類4枚ずつセットした「吹き寄せパック/風物のデザイン」を発売しました。
どのフォーマットを何に使うか、特に決まりはないけれど、その罫線の上に書く時、イマジネーションに何らかの刺激があればと思います。
一応ひとつずつご紹介します。
・スクランブル罫・・・様々な方向に印刷されている罫線にきっちりと文字を入れていくと面白い効果が得られます。書いた場所を忘れないので、メモなどに向いていて、打ち合わせの記録などにもいいかもしれません。自分なりの英語の単語帳にするというアイデアもありました。
・木目・・・書くか書かないかは別として、詩のような文章を書くのにいいのかもしれません。
詩までいかなくても、方眼や横罫よりもこちらの方が柔らかい印象があるので、そういう文章を書くのに向いていそうで、私も使ってみたいと思っています。
・変わり水玉罫・・・定番の水玉の発展形で、要件の強弱によって書く場所を書き分けるというもので、意外と実用的な仕様で、定番の水玉罫を愛用されておられる方には、難なく使いこなせそうです。
・吹き出し罫・・・会議の議事録で使うと、ラインのやり取りみたいになって面白いかもしれません。日記や住所録に使うのも面白いという意見もありました。
・分度器罫・・・2枚見開きにして、一年を円でレイアウトしてみてもいいかもしれないと思っています。私の感覚では一年は円形で、こういったものに書きこむことで、一年に景色ができる。
それぞれ書いたけれど、本当に自由に使ってもらいたいと思います。
用紙は定番のしっかりとした紙質で、書き味に気持ちいい手応えのある筆文葉用紙を使用しています。もちろん、インクもにじまずに早く吸収してくれます。
なるべく万年筆で書きたいけれど、ボールペンやシャープペンシルや鉛筆で書いても心地よい。手帳にとって紙は本当に大切な要素です。筆文葉リフィルは、本当に良い紙に恵まれていると思っています。
こういうパックものは使用頻度の高いものと少ないものが出てしまうものですが、このリフィルに関して言えば、どれも使う価値のあるものだと思っています。
これらのフォーマットによってイマジネーションが刺激されて、今までと違うものが書けたと思っていただけたら、とても嬉しく思います。
自分のテーマの万年筆
黒金の万年筆にどうしても惹かれてしまいます。
オーソドックスな黒のボディに金のリングが施されたものもいいけれど、どうしようもなく惹かれるのは金キャップに黒ボディの万年筆です。
他の万年筆は私の商売の大切な商品として見ているけれど、黒金だけは違う。自分が手に入れなければならないように思えてしまい、それが売れてしまうと、これは良いですよと勧めておきながら喪失感を覚えます。
好きなモノを商売にする人間の心得として、自分が一番良いと思うものから売るということをずっと守ってきて、これは鉄則だと思っています。
それで当店は続いてくることができたと思っているけれど、どうしてもそういうふうに割り切れないものが、私にとっては黒金の万年筆なのです。
恐ろしいことに私も今年50歳になります。齢だけは着実にとっているけれど、自分に50歳の男の重厚さがなく、若い時にコンプレックスに感じていた青二才さがいまだに抜けずにいるのではないかと思っています。
といっても今は若い頃に感じていた、どの場所にいても自分が場違いに感じるような感覚を覚えることはこの店ではなくなったけれど。
相手を緊張させるような重厚さは、私のような仕事の人間には要らないし、自然体だからこそどのお客様ともコミュニケーションをとることができているのだから、今さら重厚さを身に付けたいと思っているわけではないけれど、黒金のペンに惹かれてしまうのは自分に欠如している部分をペンによって補給しようとする人間の本能で、例えば体にビタミンが不足していたらやたらと野菜が欲しくなるような感覚に近いのかもしれません。
時計で金無垢のものはとても重厚に見えるかもしれないけれど、自分には重厚過ぎる。
でもペンならいいかと思う。ただし全身が金色ではなく黒金だというところにこだわりがある。
時代の流れか、特に万年筆においてはどんどん雰囲気の軽いものが増えてきていて、重厚なものが少なくなっている。
新品で現在手に入れることができる黒金の万年筆というとかなり少なくなっていて、寂しい状況ですが、黒金が売れないわけではなく、やはりそういう雰囲気のものを求めている人は多くおられると思います。
例えばアウロラ88クラシックは、調整した時の書き味や使用感もとても好きな万年筆で、一人でも多くの人に使ってもらいたいと思っています。
木工家の工房楔の永田さんはオレンジがテーマカラーで様々なオレンジ色のものを持っています。
彼の場合はオレンジ色が不足しているわけではなく、彼のパッションを表現した色だからオレンジをテーマにしているのだと思うけれど、それはペンから時計など様々なものにまで徹底されています。
そこまでではなくても、さりげなく持ち歩くことができて一人の時に使うことが多い万年筆に、自分のテーマやこうありたいという課題を込めて、それに沿ったものを手に入れてみるのは、持ち物に統一感も出て、なかなかいいものだと思います。