仕事で台湾に行っていました。
歩き回る旅でしたので荷物は最小限にしたいと思って、確実に機能してくれるものだけを持って行きました。
遊びの要素はなるべく排して、仕事で使うものだけを厳選。
万年筆は飛行機に乗ってもインク漏れしないと信頼しているペリカンを1本だけを持って、メインで使うのはシャープペンシルでした。
芯を何本か入れておいたら、そう簡単になくならないし、事故もない。ハイユニの芯ならヌルヌル気持ち良く書くことができます。
手帳はカンダミサコさんのバイブルサイズに、予め調べておいたことや、出張中のスケジュール、ToDoを書いておいて、原稿も書けるように十分な用紙も補充しました。
いろんなお店を見たりして刺激を受けて、いつもよりたくさんのことを書くだろうと思っていました。
結局、飛行機の中でも、夜部屋に戻ってからも何か書いていて、やはりバイブルサイズくらいのスペースがないといけなかったので、システム手帳としては薄めのカンダさんのバイブルサイズのシステム手帳がちょうどよかった。
台北の文具店は、誠品書店という別格を除くと2つのタイプがありました。
1つは比較的規模が大きい古いタイプの文具店でした。店の中央にレジカウンターがあって、事務用品から万年筆までの文房具一通りを揃えているけれど、陳列は荒っぽく、置いている品物にこだわりは感じられない。その代わり値段は安い。
もうひとつは文具雑貨店とも言える店。店の奥にレジがあり、文具店というよりも文具のある生活を提案しているようなライフスタイルショップでした。個人経営だと思われる小さなお店であることが多かった。
行こうと思って調べておいた良さそうなお店では日本製のステーショナリーがその店の雰囲気を作る役に立っていたし、どのお店でも日本製のステーショナリーに対するリスペクトを感じました。
良さそうなお店の多くは10年以内に作られたようなところがほとんどで、旧来の台湾の文具店とは違った新しい感覚で作られたものでした。その新しい感覚の中心に、日本のライフやツバメノートなどの古くからあるステーショナリーが選ばれているというのは不思議な感じがしなくもなかったけれど、台湾も大量生産、大量消費ではなく、ひとつひとつの値段は高くても、人の手が感じられる良いものを少しずつ使うという考え方も新しいタイプのお店のメッセージだと思いました。
それは当店も同じで、メーカーがその技術力で仕上げた工業製品である万年筆に、ペン先調整という一手間かけることでその万年筆をより書き味の良いものにしている。
今回台湾行きで持って行ったカンダミサコさんのシステム手帳も工房楔のシャープペンシルも、手のかかる良い素材を、手を掛けてよいものに仕上げて長く愛用できるものにする。ただ機能を満たせば良いのではなく、そういうものは値段は少し高くなるけれど、使っていて心地良い、長く愛用できるものだということを伝えたくて店をしている。
そんなことを改めて思い出した台湾への出張でした。
メーカーを支える中堅万年筆~WATERMANエキスパート~
万年筆メーカーの最上位モデル、フラッグシップモデルは良いに決まっているけれど、一番ポピュラーなモデル、中間クラスの万年筆が本当はそのメーカーを支えているのではないかと思います。
そのメーカーについて語る時に挙げられることは少ないかもしれないけれど、その万年筆を使っている人をよく目にして、印象に残っているのがきっとそういう万年筆なのだと思います。
長く静かに作り続けられてきたそういう万年筆に、ウォーターマンエキスパートがあります。
エキスパートはスチールペン先の普及版の万年筆として、日本で27年も販売されてきたロングセラーモデルです。
ステンレススチールのペン先だということと、ずっと存在し続けていて、何となくあって当たり前の存在になっていましたので、私もこの万年筆について語ることはありませんでした。
しかし、しっかりとしたレギュラーサイズのボディ、曲線を取り入れた程良くエレガントなデザインなどから、ウォーターマンの普及版にして代表的な万年筆だと思っていました。
1883年、世界で最初に現在の万年筆のインクが出る原理となる毛細管現象を取り入れた、ウォーターマンのフラッグシップのペンがどれもあまりピンとこなかったのは、実はこのエキスパートが代表作だったからなのかもしれません。
そのウォーターマンエキスパートに金ペン先モデルエキスパートエッセンシャルが発売され、私はすごいことだと歓迎しているけれど、万年筆の業界の中では静かな話題なのかもしれない。
今までスチールペン先で売れていた万年筆を金ペン先にグレードアップして発売するという行為が、現代の万年筆業界の動きに逆行するもので、興味深く思いました。
最近は万年筆の低価格化、金の高騰などの理由からスチールペン先の万年筆が増えています。
しかし、万年筆の書き味の醍醐味は金でないと得られないと思うので、できれば万年筆のペン先は金であって欲しい。だから昨今の業界の動きをつまらなく思っていました。
ウォーターマンエキスパートの金ペン先モデル発売は、そんな杞憂を少し晴らしてくれる、私にとって明るい出来事です。
エキスパートの金ペン先は少し硬めのものですが、金属でドッシリとしたボディとの相性が良く、硬質なスチールペン先とは違う豊かな書き味を持っています。
ウォーターマンを代表する万年筆だと思っているエキスパートの待望の金ペン先モデル。価格も抑えめで、この万年筆で初めて金ペン先を使う人も増えると思いますし、ウォーターマンをこのペンで初めて使う人も増えると思います。
・WATERMANのページが現在ないため、「手紙用品」に入っています
手帳の風景を作るもの
先日参加しました東京インターナショナルペンショーでは、各出展者はこの催しに来られるお客様に好まれるものにフォーカスした品揃えで、それぞれのお店や会社、クリエーターの世界観を提案されていました。
万年筆店はオリジナルインクとオリジナル万年筆を前面に出しているところが多く、当店のようにペン先調整、万年筆、革製品、木製品、紙製品など色々な商材があるところはありませんでした。
せっかく東京まで行くのだからと何でも売りたい、という気持ちがはやったこともあるし、提案したいことがいくつもあったから、多様な品揃えになってしまった。
ペンショーで当店ができることで、求められていると実感したのは、ペン先調整でした。
店頭ですぐにペン先調整をしているお店が少ないこともありますが、それだけ万年筆の書き味に対して要望のある人が多いのだと感じました。
ペンショー前夜の親睦会で聞いた話では、海外ではペン先調整をするお店はほとんどないということを聞きました。
日本ならではの需要ではなく、ペン先調整に対する需要が海外にもあるのだと知ることができたのは収穫でした。
ペン先調整を施した万年筆の販売の他に、ペンショーのお客様に見せたいと思っていたのが、システム手帳の中身をカスタマイズすることでした。
特にM5サイズのシステム手帳は小さく、ポケットに入る遊び要素の強いシステム手帳だと思っています。
広く売られているアシュフォードのM5リフィルの他に、かなじともこさんがデザインしている「そら文葉」と、当店オリジナルの「Liscio-1紙方眼リフィル」「カンダミサコM5用ペンホルダー」は、手帳を自分仕様にカスタマイズしたいと思っている人に選ばれていたと思います。
私だけかも知れませんが、手帳の表紙を開いた時にすぐ何かを書いた紙が見えるのは何となく白ける気がします。
中表紙のようなものがあって欲しいと思って作ったものが、羊皮紙という紙で作った「デバイダー」でしたが、こういうものが手帳の中の世界を演出するのだと思います。
ちなみにデバイダーは付箋やインデックスなど耳を付けるとインデックスにもなります。
東京インターナショナルペンショーに間に合うようカンダミサコさんが作ってくれた、ブッテーロの1枚革で作ったペンホルダーも自慢の1品でした。
良い革を使ったかっこいいペンホルダーなので、多くの人に使っていただきたいと思っています。
試作を重ねて少しずつ完成形に近付けていったカンダミサコさんのクリエイティビティーが発揮された、シンプルだけどオリジナリティのあるペンホルダーで、ペリカンM400くらいの太さまでなら、スムーズに出し入れできます。
また、M5手帳にペンを合せて持つ場合、長さ12cmくらいまでのペンが合うと思っています。当店は、ペリカンM400を細字研ぎ出し加工を施したものを販売していて、M5手帳と大変相性の良い組み合わせです。
このペンホルダーは、ペンと手帳を結び付け、手帳の世界を作ってくれるもので、東京でも多くの人に見てもらいたいと思っていました。
おかげさまで多くの方に実際ごらんいただき、今回持って行った商品の中ではよく売れていたと思います。
やっとホームページにも更新しましたので、ぜひご覧下さい。