特別注文のデブペンケース

今年の1月末、590&Co.の谷本さんに、ル・ボナーさんのデブペンケースで別注を一緒に作らないかと誘われて、ル・ボナーさんのお店を訪ねました。

ル・ボナーの松本さんはちょくちょく当店に寄ってくれるけれど、私が六甲アイランドのお店にお邪魔するのは本当に久し振りでした。懐かしい親戚の家を訪ねるような感覚で、松本さんと奥様のハミさんと娘さんの3人が揃うお店を訪れました。

デブペンケースは当店も開業当時からずっと販売させていただいてきたけれど、今まで別の革で作りたいと言ったことはありませんでした。

それは松本さんが作り続けているブッテーロとシュランケンカーフで満足していたということもあります。

ル・ボナーの松本さんには尊敬のような、親しみのようなそして労りを持った親へのような感情を抱いています。

仕事でもいつも関わっていたいけれど、あまり面倒はかけないようにしたい。長年で積み重ねられた松本さんの仕事のペースを乱したくないし、なるべく松本さんの気乗りしないことはさせたくないと思っていました。

そういった想いもあって、松本さんに別注品を作って欲しいと言うことははばかられていました。

仕事にこういった感情を持ち込むのはおかしいと思う人もいるかもしれませんが、仕事仲間とかそういったもので割り切れないほど松本さんのことを大切に思っています。それは谷本さんに対しても同じで、だからこそ仕事以外でも一緒に何かしたいと思う。

590&Co.の谷本さんはなかなかの甘え上手で、私と同い年なのに本当に可愛げがあります。皆に愛されていて、谷本さんに頼まれたら聞いてあげたくなります。どんなやり取りがあったのか分からないけれど、オリジナル仕様の話は松本さんと谷本さんの間ですでに決まっていて、私もそこに便乗させてもらえることになりました。

590&Co.仕様のデブペンケースはプエブロ革で、同じバダラッシィ・カルロ社のミネルヴァボックス革同様、激しいエージングをすることで人気のある流行の革です。時流に鋭く反応する谷本さんらしい選択で、実際あっという間に売り切れてしまいました。

当店仕様のデブペンケースは、サドルプルアップレザーです。

こげ茶色の艶々とした濃厚な風合いで、ベルギーのタンナーマシュア社の名革です。ヨーロッパ産の成牛のショルダー革の銀面をすって毛羽立たせてから、それを潰して滑らかに仕立てる独特の製法で、この艶々の革目が生まれます。

デブペンケースの別注を作ると考えた時に、何の迷いもなくこの姿が浮かびましたし、その理想通りに出来上がってきました。

流行とは全く関係のない選択ですが、とてもいいものが出来たと思っています。

仕切りのついたペンケースもいいですが、このデブペンケースのような仕切りのない大容量のペンケースは、細々とした文房具をまとめて入れるものとしても持っていたい。そして傷をつけたくないペンなどは、カンダミサコさんの1本差しペンシースに入れてからデブペンケースに入れると、安心して使うことができます。

サドルプルアップレザー仕様は、大人のためのペンケースという趣がさらに強くなって、当店のお客様には喜んでいただけるものになったと思います。

⇒特別注文品 ル・ボナー デブ・ペンケース/サドルプルアップレザー

~スマートに対抗する趣~ カンダミサコポケットウォレット

個人的な感覚ですが、以前よりも電車の中で本を読む人が増えたように思います。

少し前までは探してもなかなか見つからなかったけれど、今は周りを見るだけで数人は見つけることができる。

多くの人はスマホを見ていて、本を読む人は少数派だから目立つのだと思いますが、その数少ない本を読む人を見つけると、何となく同志を見つけたような、何の本読んでるの?と話しかけたくなるような嬉しい気持ちになります。

紙の本を読んでいるからどうだ、というわけではないけれど、紙の本を読む人には、読む人の美意識のような、矜持のようなものがあるような気がします。多くの人はスマホを見ているけれど、自分は紙の本を読んでいるというこだわりを感じなくもない。

でもスマホで本を読んでいる人もいて、それが現代の本を読むということなのだと考えると、紙の本にこだわり過ぎるのはただの時代遅れな人間になってしまうのだろうか。

私は「電車の中で本を読むかどうか」という話と近い感覚だと思っているけれど、キャッシュレス決済やスマホ決済を使うか、現金で払うか、というのにもそれぞれの美意識が存在していると思います。

スマホ決済がかなり普及した上に、こんなご時世で外出する機会も減り、財布が売れにくくなっていると言われています。

たしかに財布がなくても、ICOKA(ICカード乗車券)や決済アプリがスマホに入っていれば、どこに行くのにも困ることはありません。

財布にお札と小銭とクレジットカード、定期入れにICOKAとバスカードを入れて持ち歩いて、それで充分やっていくことができていて、これ以上の便利さを必要としていないと言うと、さすが時代遅れな気もします。

だけど何でもスマホひとつで管理するとなると、失くしたりしたときのリスクも大きいと思いますし、コンビニでアメを買うだけで速やかに決済することもないかと、そこまでの必要性を感じていないというのが、私を含めた従来決済派の言い分だと思います。

でも、お金やクレジットカードは財布に、ICOKAやバスカードは定期入れに、という人の言い分のひとつに、モノとしての趣きがスマホと財布とでは大きく違うということがあります。何でも効率的であることが全てではないと思う。

個人的には、スマホよりも愛用の革のウォレットを出して買い物したり、改札を通ったりする方が楽しいような気がしてしまう。

こういうものが繰り返しの毎日に楽しみを与えてくれて、日常生活を張りのあるものにしてくれるのではないかと思います。

⇒カンダミサコ Pocket Wallet

鮫革のバイブルサイズシステム手帳

以前、カンダミサコさんが新作の革製品を納品して下さった時に、「出来ましたね!」と言ったところ「出来たのではなく、作ったんです」とにこやかに注意されたことがありました。

もちろんカンダさんが苦労して作り上げてくれていることは理解しているつもりでしたが、作り手の苦労を本当に理解しているのかと思うと、全く分かっていないのだと思う。

作家さんは私たちが考えるよりずっと長く真剣に素材に向き合い、製品を作り出していて、そのひとつひとつが彼らの時間と魂と引き換えに生み出されています。私の言葉がそれを軽く見ているように聞こえたから、カンダさんが笑いながらそんなことを言ったのだと思います。

いずれにしても当店のステーショナリーが他所の店と違うものになっているのは、カンダさんをはじめとする革職人さんの存在が大きく、当店になくてはならないものになっています。

当店とカンダミサコさんとの取り組みで、その年の革を決めて、1年間はその革で様々なものを作る試みをしています。今年で4年目になり、今年の革は鮫革(シャーク)です。

昨年は、ピンクゴールドのアルランメタリックゴートレザーという女性好みの革をでしたので、趣の違うものをやってみてはどうかというカンダさんからの提案もあって、そうすることにしました。

シャークは丈夫で独特の模様があり、いつか作っていただきたいと思っていた好きな革です。

先日発売した「長寸用万年筆ケース」がシャーク最初の商品になりました。

カンダミサコさんのシステム手帳は、ベルトもペンホルダーもないとてもシンプルなデザインですが、実は特殊な構造になっていて、180度平らに開きます。このシンプルな中に使いやすい工夫がある仕様が、とても気に入っています。

バイブルサイズのシステム手帳は、特に用途を決めると使い勝手の良いサイズだと思います。横書きすると1行が短くなるので、長文を書くより箇条書きをする方が使いやすく、私は調整の記録用として使っていますし、ダイアリーとしても使いやすいと思います。

シャークは硬そうなイメージがありますが、実際は柔らかく手触りの良い革です。システム手帳に向いている革だと思いました。カンダさんがお勧めしてくれた理由が分かります。

個体差が大きく、天然素材なので模様は1つずつ違うし、同じ色でも個体によって染まり方が違ってきます。

今回は同色の革を選んで仕入れてもらって、長寸用万年筆ケースとバイブルサイズのシステム手帳にしてもらいました。

次は同色でも少し違う色の革になると思いますが、今年はシャークで引き続き他のものも作っていきたいと思っています。

⇒カンダミサコ シャーク革・バイブルサイズシステム手帳(2021年モデル)

⇒Pen and message. 長寸用万年筆ケース シャーク革

アウロラ88テッラ~太陽系を巡る旅の終わり~

少し前から、今まで使っていたブルーブラックのインクから違う色に変えたいと思い、暇さえあればインク色見本帳を見ていました。その中で目に留まったローラー&クライナーのスカビオサとパイロット色彩雫の紫式部を選んで使っています。

スカビオサは、その名前の響きが好きなのと、褪せたような紫色が今の気分に合っている気がしました。酸化鉄が含まれている古典インクで、書いたものの保存性も高い。

古典インクは万年筆に入れるとたいていインク出が少し渋くなって、ヌルヌルとした書き味ではなくなりますが、私はあまり気にしません。

それよりもインク出が渋くなったことで、インクの濃淡が今まで以上に出るので気に入って使っています。

紫式部はパイロットなので、インクがよく出るようになるだろうと思っていましたが、意外にもインク出は控えめで、紙に適度に沈みます。私にとっては初めての、ピンクにブルーを混ぜたような爽やかなパープルです。

こうしてインクを探しているうちにいろんな色を見ましたが、万年筆のインクはやはりブルー系が多く、好む人も多いようです。

その趣向に合わせてか、ブルー軸の万年筆も多く作られているような気がします。そして今までここまで青い万年筆はなかった、と思ったのが「アウロラ88テッラ(地球)」です。

惑星シリーズとして太陽系の惑星を巡っていたアウロラの長い旅も、地球に帰ってきたというストーリー。

地球が太陽系の中でも極端に青い、異色の星であると言われているように、この88テッラも他の万年筆と見比べるとかなり趣を異とするものに見えます。

88シリーズでは初めてですが、首軸とボディが同じマーブル模様のブルーのアウロロイドが使われています。

万年筆の金属パーツといえば、ゴールドかシルバーでしたが、88テッラはペン先も含めて濃い青に仕上げられています。これはアウロラの万年筆ではおそらく初めてのことだと思いますが、これがかなりこの万年筆を精悍な印象に仕立てています。

アウロラは太陽系の惑星というテーマで、それらの星の美しさを万年筆というキャンバスで表現してきましたが、テッラは今までの万年筆とは違う、太陽系における地球のような存在の万年筆に仕立てられています。

コロナ禍で、意気消沈しているメーカーが多い中、アウロラは今までと変わらずに、むしろ今まで以上に活発に活動しています。万年筆の世界を面白くしようと努力している。コロナ禍であっても、私たちができる社会貢献は、やはり自分の仕事を全うすることだとアウロラを見て改めて思いました。

⇒AURORA テッラ(地球)万年筆