ペンを立てる

神戸市垂水区新多聞地区は、昭和40年代頃から山をならして造成されたところで、きっと日本中に同じタイミングで同じような街がたくさん作られたのだと思います。そんなどこにでもある平凡な街に40年以上住んでいます。

この市街地の一番奥に神戸家具発祥の地という看板を掲げた木工センターという、木材加工の工場が集まっている所があります。

早くから外国人が多く住む神戸では、外国人の注文に応じて日本の職人さんが洋風の家具を創意工夫しながら作っていて、そういうものを神戸家具と言うようになったそうです。

木工センターの場所は私が学生の頃までは市街地の突き当たりのような場所でしたが、あっという間に街が大きくなっていって、今では木工センターよりも奥にもいくらでも街が広がっています。

子供の頃から住む街のあまりの変わりようですが、40年も経てば街も変わるのかもしれない。

学生の頃、木工センターという名前を口にすることはあったけれど、その中で家具職人さんが仕事をしているという当たり前のことを、なぜか考えることはありませんでした。

仕事をするようになって、次に木工センターの名前を聞いたのはスモークというブランドで家具作りをしている加藤亘(かとうこう)さんからでした。

木工センターに加藤さんの仕事場があり、毎日そこで作業されているそうです。木工というのは今まで何となく遠い場所で行われている、馴染みの薄いものでしたが、自分の家のこんな近くに木工の職人さんたちがいたのだと思うと急に身近に感じました。

時々、ペンを使っていない時、立てておくか、寝かせておくか、どちらがいいでしょうと聞かれることがあります。

多くの万年筆の場合、立てておく場合はペン先が上になるように置くのが基本です。でも中には、立てておくとインクが戻ってしまい、書く時にインクが下りてくるまで待つか、振らないと書けない万年筆があります。そういう万年筆は毛細管現象の働きが弱く、重力でインクが下りてきているということになります。

そういう万年筆もたまにありますので、強いて言えば万年筆は寝かせて置いておく方がいいのではないでしょうかとお答えしています。

しかし、普通の状態の万年筆の場合、立てておいて何ら問題はなく、今回ご紹介のスモークペンスタンドのようなものも当店では販売しています。

スモークペンスタンドは、加藤亘さんがデザインして、製作しています。

実用一辺到ではなく、細部にこだわった装飾的な意匠で、机上でペンを飾るように置いておける粋なものだと思っています。

ペンを寝かせて並べるよりもスペースをとらないし、万年筆を書くものによって、次々と使い分けて使うのにも使いやすく、機能的でもあります。

立ち姿の美しい5本の違うペンを立ててももちろんいいけれど、この5本のペンスタンドに道具として使っている字幅違いの同じペンが立ててある姿はなかなかサマになる風景ではないかと思います。

当店には陳列用として使っている10本用ペンスタンドもあります。机の上に10本立てておく人がどれくらいおられるか分かりませんが、面白い商品で、加藤さんの遊び心だと思いました。

自分の住む街はどこにでもある平凡な街だと思っていたけれど、神戸の洋風家具発祥の地があって、そこで仕事をする家具職人さんがその影響を受けたペンスタンドを作ってくれていると考えると、この街が少し誇らしく思えるようになりました。

⇒SMOKE(スモーク)TOP