場所への愛着

店は営業していますが、私は11/28(月)~12/2(金)の間、休みを取って鎌倉へ旅行する予定です。例年通りの遅めの夏休みですが、夏は暑すぎて外に出る気になれず、やっと外を歩くのにいい季節になりました。

鎌倉のどこかに目的があったわけではなかったけれど、鎌倉の町中を歩いてみたいと思いました。

観光名所に行くわけでもなく、ただ他所の町を歩いてお店があれば入ってみるというのが私の旅のやり方で、文房具屋さんを見つけたら必ず立ち寄っています。

行き先が決まったら、その町にまつわる本を読みます。今は以前読んだ「ツバキ文具店」を読み返して、落ち着いた鎌倉での暮らしに思いを馳せています。

ツバキ文具店の主人公、鳩子さんの日常にも憧れますが、自分の、元町での当店の日常にも愛着を持っています。

いつも何軒かの決まったお店に晩御飯を食べに行くので、すっかり顔見知りになっているお店、のんびりした街の雰囲気。営業前によく近所を歩きますが、それは健康維持のためだけではありません。愛着を持って暮らせる街に居られることは幸せで、恵まれたことだと思います。私はおめでたい性格なので、きっとどこに住んでも愛着を持って生きているのだと思うけれど。

地名がついた万年筆が好きです。それはきっと地元の山陽バスの行き先表示を見ても楽しめるほど地名萌えする性質だからなのかもしれないけれど、できれば自分に関連のある地名を冠したモノがあれば手に入れたいと思うし、地名のついた万年筆を手に入れたらその場所について知りたいと思います。

アウロラの「神秘の旅」という限定万年筆のシリーズがあって、先日第2弾のボルテッラが発売されました。

ボルテッラの街は、緩やかな丘陵と渓谷が連なるトスカーナ地方の一際高い崖の上にある城塞都市で、中世の面影を今も残しています。アラバスター(雪花石膏)の産地で、アラバスターを使った彫刻など芸術作品に溢れた街としても有名です。

ボルテッラの万年筆も、そんな街の中世から歴史を刻んできたイメージ、アラバスターの質感のイメージを軸色に表現したクラシカルな仕上がりになっています。

落ちついた感じのする乳白色の軸に、ローズゴールドフィニッシュされた金属パーツが上品で、3000年近くもの歴史があるボルテッラという街そのものだと思います。ボルテッラに行ったことのある人にはぜひ手に入れていただきたいし、この万年筆でボルテッラを知った人は、この街の歴史などについて調べるとより愛着を持ってこの万年筆を使えると思います。

手に入れた万年筆に地名が付いていたら、その土地や周辺の場所に興味の対象が広がるだろうし、毎日がより楽しくなります。

万年筆は書くためだけのものではないと常々思っています。

⇒アウロラ 限定品万年筆 Viaggio Segreto(ヴィアッジオセグレート) Volterra(ヴォルテッラ)

*次回の店主のペン語りは、12月9日(金)更新です

美しい文字を書くための三角研ぎ

先週末に、神戸ペンショーが行われました。

今年10回目となる神戸ペンショーは、毎年少しずつ規模が大きくなって、毎年1000人もの来場者数を記録するようになっています。

これも運営の方々の努力によるものだと思います。運営の方々はボランティアで神戸ペンショーの計画から実行まで、事故が起こらないように努力してくれています。だから私たちはお客様の応対、販売活動に専念することができて、お客様もペンショーを楽しむことができる。このペンショーに参加できていることをありがたく思っています。

規模が大きくなって注目されるようになった神戸ペンショーを運営することは、想定外の苦労や難しい問題もあると思いますが、頭の下がる想いです。本当にお疲れ様でした。

ペンショーのようにたくさんのお店が集まるイベントでは、当店らしさということについていつも考えることになります。

ペンショーのお客様の傾向を見て、そこに合わせた品揃えにしようとしていたけれど、それは本来当店が目指している姿とは少し違うと最近思い始めました。一度原点に戻る必要を感じています。

当店はペン先調整をして万年筆を販売する店で、お客様にもそれを望まれていると思うし、そうあるべきだと思いますので、今後は今までより打ち出して行きたいと思います。

最近時間があれば、辞書から気になった言葉をM6手帳に書き出して、その意味を書いています。

言葉は太めに、意味は小さめに。日本語らしく縦書きで書きます。

なぜそんなことを始めたかというと、言葉をもっと知りたいと思ったのと、知らない言葉の中に座右の銘を見つけられたら、面白いと思いました。

狂言師安東伸元先生が、会津弥一の書から「獨往(どくおう)」という言葉を私に教えてくれました。誰も行かない道を草をかき分けながらゆっくり進む印象がこの言葉にはあり、自分の目指す姿だと思いました。座右の銘にしていますが、他にもこのような座右の銘にできる言葉を見つけたい。

どうせ書くならできるだけ美しくトメハネハライを利かせて、筆文字のように書きたい。

そういう文字を書くのに、キレのある文字が書ける三角研ぎが合っているのではないかと思います。

私が三角研ぎと言っているものはものは、他の調整士さんがやっているものと少し違うかもしれません。

最初は教科書通りの形で始めたけれど、お客様の要望を聞いてやっているうちに少しずつ変わっていき仕上がった形です。この研ぎで美しい日本字が書きやすく、書き味もヌルヌルと気持ちよく書くことができます。

立てて書くと細字くらいにはなりますので、文字の太さを変えて使うこともできます。

小さなペンポイントの僅かな研ぎの違いで、文字がこんなに変わるのは不思議な気がしますが、例えばペン先にたてよこ差があまりないアウロラに三角研ぎをしてみると、キレのある文字が書けるようになります。

完売してしまいましたが、タレンタムデダーロには、セーラー長刀研ぎのような研ぎを施したカーシブニブというものがありました。そのカーシブニブより細い線も書けるイメージです。

三角研ぎはもともとの字幅が太いものから研ぎ出した方が細い線と太い線の差が出てこの研ぎらしさがでますので、太めのものをベースに作ります。そこで、まずはタレンタムデダーロに三角研ぎを施したものを作ってみました。

1本研ぎあげるのに結構時間がかかるのでたくさんは作れないけれど、常に何かの三角研ぎなど、特別な調整を施した万年筆が店にあるようにしたいと思っています。

日本に万年筆が入って来て、多くの人が使うようになった戦前から、万年筆の調整士たちは様々な研ぎを生み出しました。

私たちがやっていることも100年ほどの日本の万年筆の歴史の中で行われてきたことの繰り返しだけど、今求められていることなのだと思います。

⇒限定品 タレンタム デダーロブルー 三角研ぎ

パイロットカスタム〜一生ものの万年筆のご提案~

インクの魅力にハマってガラスペンやスチールペン先の万年筆を使っている人も、いずれ長く使うことができる金ペン先の万年筆に興味を持たれると思います。

若い人の中には、金ペン先の万年筆を買うなら一生ものの万年筆を選びたいという方もおられて、若い頃の自分とは違う堅実な考え方に頼もしく思ったりします。

一生ものとして考えると、飽きのこないデザインや色を選ぶということもありますが、修理のしやすさも条件の一つになると思います。例えば限定品などでは、アウロラ、モンテグラッパなどイタリアメーカーの一部に例外はありますが、ある程度年数が経つと部品がなくなり修理できなくなることがあります。

修理のことも考えると、一生ものには定番品から選ぶことをお勧めします。どんなモノでも長く使うとどこかが壊れることがありますが、修理すればまた使うことができる。私も10年以上使っている万年筆は、修理に出したことがあるものがほとんどです。

万年筆は高価なものなので、長く憧れて、資金を貯めて手に入れるということが普通だと思います。定番品だと、それを目指して貯金できます。

長く作り続けられている定番品は、多くの人が使い、その価値を

歴史が証明していると考えています。それは限定品にはない定番品の大きな価値だと思います。

今はこんなご時世なので、国産の生涯使うことができる万年筆に目を向けたい。

パイロットの定番カスタムシリーズも長く使うことができる万年筆です。カスタムシリーズの中で、カスタム742とカスタム743の違い、特長をお話しいたします。

カスタム742と743は同じボディなので、ペン先の違いということになります。*同じボディでも「キャップリングの刻印に黒塗りがされているかいないか」「キャップ上部、尻軸のリングが幅広かそうでないか」などのわずかな違いはあります。

カスタム742は少し大き目の10号のペン先で、ボディとのバランスが良く、穂先の長さも適度なので、寝かせて書くことを意識しなくても自然に書くことができます。厚みを感じる柔らかな書き味で、カスタム743より742の柔らかい書き味を好まれる方もおられます。

カスタム743にはさらに大きな15号ペン先がついています。

大きなペン先ですが、カスタム743の方がカスタム742よりも少し硬めの弾力があるので、長時間ハードに筆記する人にはカスタム743の方が安心感があるかもしれません。

弾力が強く粘りがあるということは、硬筆習字などで筆圧をかけて「トメ・ハネ・ハライ」を表現する書き方にも向いています。

カスタム742とカスタム743の違いは、単に価格やグレードではなく、用途や好みが違いますので、目的によって使い分ければいいということになります。

どちらも書き味の良いペンですが、私が一番優れていると思っているのは、基本的な構造の精密さです。

ペン先の密閉性が高く、インクを入れたままで放っておいても、純正カートリッジなら1年でもペン先が乾かないという話も聞くほどで、カスタムシリーズの基本構造の良さを表したエピソードだと思います。

「いつ書いても普通に書ける」ということも、安心して使うことができる大切な要件で、長く愛用することにおいてとても大切なことだと思います。

⇒パイロット カスタム742

⇒パイロット カスタム743

サドルプルアップの革製品

11月12日(土)13日(日)に神戸ペンショーが開催されます。

このペンショーは当店にとって一年最後のイベントで、出張販売の締めくくりになっています。当店の徒歩圏内でペンショーが開催されて、出店できるということは、とてもありがたいことだと思っています。

当店も神戸ペンショーを盛り上げる役に立ちたいと思っています。

ペンショーなどイベントにはどの店も限定品のようなネタを用意して来られて、それも楽しみの一つになっています。

イベントに合わせて新商品を作るのは難しいけれど、今回意識して作っていただいたのが、1本差しのレザーケースMサドルプルアップレザーです。

個人的に、タフなもの、丈夫で厚みのある革が好きで、もともと馬の鞍に使われるサドルプルアップレザーは、とても好きな革です。

当店ではサドルプルアップレザーの代表的なタンナー、ベルギーのマシュア社のものを使用しています。少し前にはル・ボナーさんにもサドルプルアップレザーでデブペンケースを作ってもらいましたし、オリジナル商品を作って下さっている職人さんにも、M6システム手帳やメモジョッターなどを作ってもらいました。

ギラギラした光沢と、しっとりとした手触りが魅力の濃厚な質感の革です。1枚仕立てのこのレザーケースにも張りのあるサドルプルアップはよく合っていると思っていて、良いものができたと思っています。

サドルプルアップは男性が好むものだと思っていましたので、最初革を決める時少し勇気が要りました。でも作ってみると、革好きの女性のお客様にも好まれるということが分かりました。

最近サドルプルアップレザーのもので使っていてこれはすごく良いものだと思っているのは、文庫本カバーです。

2センチ程の厚手の文庫本のためのカバーを作ろうと思い、両サイド固定式の専用カバーを作りましたが、革にハリがあるせいか薄めの文庫本を入れても収まりよく使えることが分かりました。

電車の中で本を読む人は少数派だけどおられます。

大切に思っている本を読むことをより楽しくするために、サドルプルアップレザーを使ってみていただきたいと思います。

私が今思っているのはこの文庫本カバーを手帳カバーにできないかということで、サイズの合うノートを探したいと思っています。

最近ズボンのベルトを買いました。服で隠れる部分なのでどうしても後回しになっていたし、不本意なものしか持っていませんでした。そこで思い切ってセレクトショップで見かけた気に入ったベルトを買うことにしました。

私の感覚からするとかなり高価なものでしたが、着けるのが嬉しくて、何か毎日が楽しい。買ってよかったと思いました。

 当店が企画・販売するものはどれも、繰り返しの日常を楽しくしてくれるものになって欲しい。サドルプルアップの革製品を使うことで、皆様の毎日がより楽しいものになってくれたらと思います。

⇒オリジナル レザーケースM・サドルプルアップ