綴り屋・Pen and message.オリジナル仕様「朧月(おぼろづき)」受注開始しました

綴り屋の鈴木さんとは毎日と言っていいくらい頻繁にやり取りがあって、いいコミュニケーションがとれていると思います。鈴木さんは何かあったらすぐに連絡をくれるし、私からも何か思いついたら連絡していて、意見を言い合っています。

綴り屋さんが作るペンが好きで、それを販売することに喜びを持って取り組んで来ました。

昨年末に590&Co.さんの店舗で共同開催した綴り屋さんのイベント時には、590&Co.さんとのオリジナル企画のペン「&one」を作っていただきました。2度目の開催となる来月8月のイベントでも、また新たに「&one 」の第2弾を作っていただきますが、それとは別に、1年を通して販売できる当店だけのものを作っていただきたいと思いました。

イメージははっきりあって、溜塗だけど下地の色がわりと分かりやすいもの、温かみと重厚感のあるものが希望でした。

下地の色として山吹色が私のイメージにあったので希望を伝えたら、鈴木さんが表面の色として潤み色(うるみいろ)を提案してくれました。

そして、下地が山吹色で表面が潤み色の溜塗が、当店のオリジナルカラーとなり、当店オリジナル仕様のテクスチャーで代官山出張販売から発売いたします。

今回受注製作させていただく「朧月」は鈴木さんから提案してくれたものでした。塗りを担当されているjaCHRO Leatherの岩原さんとのやり取りで生まれたのだと思います。

今まで見てきた溜塗とは違うグラデーション技法は、漆という伝統的な素材を使いながらも現在の技法によって作られたもので、洗練さも感じられて一目で良いと思いました。

もちろん店舗でお客様にお見せしても、評判がよかった。

コンスタントに作ることがなかなかできないということで、今回初めて受注製作という形で、ご注文いただいたお客様の分だけお作りするということにさせていただきました。

8/25(日)の綴り屋さんのイベント最終日の夜まで受注し、4カ月後にお渡しするという流れになります。お待たせしてしまいますが、ご希望して下さるお客様に確実にお渡しできる方法だと思いました。

また、この朧月でお披露目したオリジナルペン先は14金で、ペン芯にエボナイトを使用しています。

鳳凰のマークは日本的で高貴な雰囲気があり、綴り屋さんのペンによく合っていると思っています。刻印ではなく、レーザー彫刻でマークを描いているのと、穂先が長めになっているので柔らかい書き味になっています。

今までパイロットのペン先を当店で装着していましたが、これからはオリジナルペン先を綴り屋さんのペンに装着していきたいと思っています。

当店の規模でオリジナルペン先を作るということはかなり思い切ったことですが、この店を始めた時はこんな日が来るとは思っていませんでした。

それは金額的な問題もあるけれど、ペン先を作るメーカーのいろんな障壁があって、とても無理なことだと最近まで思っていました。

しかし、時代は変わった。世界のいろんな国で私が店を始めた時のような志を持つ若い人たちが無名ながら、自分の好きな万年筆の仕事を成り立たせていました。

そんな人たちはいつまでも業界の新参者である当店を受け入れてくれたし、当店も古くからの仕組みの中でもがき続けるよりも、そんな新しい時代の流れの中に身を置きたいと思いました。

そんな人たちとの出会いがあって、今回のプロジェクトが実現しました。

せっかくオリジナルペン先を作るなら日本の誰も使っていないものにしたいと思っていたので、私の様々なオーダーに応えてくれた若い経営者の工場との出会いは天の恵みだと思え、鳳凰というこれ以上ない品格のある図柄をペン先にあしらいたいと思いました。

当店は既存のメーカーの万年筆のペン先を当店の持てる技術でより書き味の良いものにして、お客様に提供してきた自負があります。

しかし、それだけではなかなか伝わりにくい。やはりオリジナルペン先というシンボルのようなものが必要で、鳳凰のペン先はこれで生きて行くという当店の決意表明を表しています。

⇒受注製作品 綴り屋 Pen and message.オリジナル仕様 朧月(おぼろづき) (第1回受注締め切り2024年8月25日)

⇒綴り屋 TOP

アイデンティティのある書き味~セーラーキングプロフィット~

日本は、良いもの、価値あるものを様々な分野で作っているクラフトマンシップの国だったということを、最近つくづく思うようになりました。

長年経済の低迷が続いて、気が付いたら急成長している他のアジアの国々に置いて行かれてしまっている。

日本がリッチな国だというのは過去の話で、今日本国民の多くは慎ましく暮らしていかざるを得ない状態になっています。

職人が良いものを作っても国内でそれを買える人が少なく、良いものの多くは海外の人に買われて、国外に流出しています。

でもそれでいいのかもしれません。昔から日本人は自分たちの技術を磨き、世界に誇れるものを作ってきた歴史があり、その時から海外に流出してきたとも言えます。

日本人にはそれを生み出す力がある。また作ればいいだけなのだ。

日本はそうやって個人の力によって文化と言えるものを輸出して、海外から尊敬されてきたのだと思います。

日本の万年筆もそんな存在だと思っています。

セーラーキングプロフィットの最もベーシックなモデルキングプロフィットSTはモンブラン149に似ていると言われることがあります。

たしかにバランス型のオーソドックスな塊感のあるデザインは万年筆の王道のスタイルでそれも否めない。しかし、この万年筆にはブランドを誇示するような分かりやすいマークは入っておらず、最も主張するのはその豊潤な書き味です。

適度に柔らかくしなるこの書き味を実現するためにペン先はこの大きさになり、このペン先を収めるために軸はこの大きさになった、と思わせる書き味の良さを追求した万年筆がキングプロフィットだと思っていて、当店のお勧めしたい日本の万年筆のひとつとなっています。

キングプロフィットエボナイト銀というカタログに存在しないペンを特別注文で作ってもらいました。

磨き抜かれてギラギラと輝くエボナイト軸に銀の金具はより締まった印象を与え、ペン先も銀一色で鋭さを感じさせます。

金具を銀色に変えるとこんなに雰囲気が変わるのだと、このキングプロフィットエボナイトには驚かされました。

キングプロフィットエボナイトは、キャップリングがないデザインとなっています。余分なものを削ぎ落したことで、デザインにおいてもオリジナリティが出ていると思いました。

キングプロフィットをはじめとするオーバーサイズの万年筆のために、実用的でシンプルなペンケースも作りました。

「オリジナルレザーケースL サドルプルアップレザー」です。

従来のオリジナルレザーケースは、万年筆よりも細めが多いボールペン用のS、ペリカンM800やモンブラン146などのレギュラーサイズ万年筆用のMというラインナップで、LはMより一回り大きいものになっています。

サドルプルアップは、キングプロフィットエボナイトのような芳醇な光沢を持つ、張りのある丈夫な革です。

すっぽり収まっているけれど、取り出す時にはスッと素早く取り出すことができるこのケースは、実用本位なキングプロフィットによく合っていると思います。

⇒【特別オーダー品】 キングプロフィット エボナイト 銀

⇒キングプロフィットST

アジアからのムーブメント~TWSBI~

気が付いたら色々な分野で価値観が変わっていると実感しています。

自家用車が高級車であることがステイタスを物語るものではなくなったし、高級時計もステイタスシンボルではなくなっている。そもそもステイタスシンボルという言葉が死語になりつつあるし、モノの価値観が多様化している。

そんな時代に高級なモノを売る仕事は、人々に何を訴求したらいいのか分からない、とても難しいものになっていると思います。

今の時代の万年筆の新しい動きの中心は、アジアだと思っています。

ヨーロッパの老舗メーカーは相変らず健在で、それぞれの会社の伝統に則った製品を生み出しているけれど、価値観が変わってきている中苦戦していて、それはいろんな分野で起こっていることだと言えます。

中国系の新興メーカーはいくつもあって、それらは技術力、生産力の高さからヨーロッパのメーカーのOEMをしていることが多いですが、同じアジアのクリエーターたちと組んだりして、新しい動きを見せています。

中国は気が付いたら、粗悪で安いものを大量に作る国から、洗練された良いものをスピーディーに作れる国になっていました。

日本がアジアの新しい動きに入っているのかどうか微妙だけど、過去の栄光にすがったり、驕りがあったら、あっという間に周りの国に置いて行かれてしまうと思う。

どんな小さな渦でもいいので、当店もアジアの新しい動きの一部になれたらいいなと思っています。

台湾は確実にムーブメントの中心にあって、その中でもツイスビーはそれを牽引する存在のように思います。ツイスビーは50年以上前から海外メーカーのOEMをしていた歴史のある会社ですが、自社ブランドのペンを作り出したのはそれほど前のことではありません。だからこそ今までの万年筆の流れと違うものを作ることができたのかもしれません。

ツイスビーの万年筆は今までの万年筆の価値観とは違っていて、ペン先は金ペンにこだわらないし、軸の素材も伝統的に価値があるとされてきたセルロイドやエボナイトなどは使わない。

それらの素材に価値を見出しているヨーロッパの万年筆の価値観とは一線を画していて、安くて良いものを作るにはどうしたらいいかということを追究している会社だと言えます。

ツイスビーの代表的なモデルはダイヤモンドです。軸のバランスが良く、たくさんのインクを吸入することができます。大型のペン先は、ステンレスですが良い書き味に仕上げられています。

先日ダイヤモンドシリーズに、ダイヤモンド580ALアイスバーグが新色として追加されました。

ツイスビーの新色攻勢はとどまるところを知らず、色数が多すぎて分からなくなるほどですが、好みの色を見極めて、万年筆を楽しんでもらいたいという姿勢の表れなのかもしれません。

話を戻すと、ダイヤモンド580ALは首軸をアルミ素材にすることで従来のダイヤモンドより3グラム重く前重心になっています。それによって、バランス的にキャップを尻軸につけずに書くダイヤモンドを、より書きやすいものにしています。

新たに万年筆を使い始めようとしている人は、この万年筆から始めてもいいかもしれません。

万年筆を何本も持っている人も、このツイスビーダイヤモンドは無視できない存在になると思っています。

⇒ツイスビー ダイヤモンド580ALアイスバーグ