オマスフェア(~2025.1.19まで)

かなり以前のことになりますが、イタリアボローニヤを訪ねて万年筆メーカーオマス本社を訪ねたり、ポルティコの回廊が続く街で文具店巡りしたことがあります。

ボローニャは街の中に大学の教室が点在していて、街自体が大学の機能を持っているそうです。大学の街だからなのか、自治意識が高い街でもあります。

中央からの行政の押し付けを嫌い、戦時中には街からイタリア軍とナチスドイツ軍を市民が闘争の末追い出すことに成功しています。

そんな自治意識が高く、自由と反骨の気風のあるボローニャだからこそ、オリジナリティのあるオマスのような万年筆が生まれたのかもしれません。

オマスは今はアメリカの会社がオーナーを務めていますが、今もイタリアの工場で作られています。

今のオマスは現代的で洗練されたものになっているけれど、私たちがボローニャを訪れた時に感じた主流への反骨心であるオマスらしさは、大切にしているように思います。

独特の美しいシルエットで、オマスの中では比較的抑えた価格のオジヴァ。

オマスから引き継いだセルロイドを使い、細部まで作り込んだパラゴン。

オーソドックスな円筒形のフォルムながら、オマスらしさに溢れたボローニャコレクション。

オマスの現在のオーナーは元々万年筆コレクターで、オマス愛が高じて新生オマスを立ち上げることになったそうです。

今の万年筆業界を動かしているのは、そういう好きだからやる、というエネルギーだと思います。だから今の時代らしいメーカーの生まれ方ではないかと思いますし、そういう単純なビジネスの利害だけでない力が一番強いのだと思います。

元々のオマスが廃業せざるを得なくなったのは、当時のオマスの親会社がビジネスとしての万年筆に見切りをつけたからだと聞いていますので、万年筆やオマスへの愛情からオマスを運営している現在のオーナーに出会えてよかったと思います。

ボローニヤを訪ねる前にボローニャについて知りたいと思って本を探しました。

その時に井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」を見つけました。

書かれて10数年が経ちますが、面白おかしくおしゃべりのような文体で書かれていますが、内容が充実していて著者のボローニャへの憧れというか、愛情のようなものが感じられるとても面白い本です。

井上ひさし氏は小説を執筆する時に、遅筆として知られていました。

その内容と直接関係のないことにまで及ぶ膨大な量の下調べを、小説を書くたびにしていたためですが、ボローニャ紀行を書く時にはボローニャについて調べた資料がたくさんあったそうです。

1月19日(日)までオマスフェアを開催しています。 期間中オマスのペン(万年筆)をお買い上げ下さった方に、このボローニャの街について知ることができる最良の本だと私が思った本井上ひさし氏の「ボローニャ紀行」の文庫本をプレゼントいたします。

⇒オマスTOP

綴り屋さんによるオリジナル仕様万年筆

職人さんや作家さんを急かしてはいけない。

早く納めてもらうことよりも良いものを作ってもらうことが一番大事だから、それは重々心得ています。

しかし、約束の期日よりも遅くなってお客様にご迷惑をお掛けすることは店として避けなくてはいけません。

今回の企画は、軸を作る綴り屋の鈴木さんだけでなく塗師さんも絡んでいて、塗りの仕事がかなり立て込んでいると聞いていましたので、年内に出来上がってホッとしています。

今年7月から8月にかけて予約を受け付けて、受注製作としていましたオリジナル万年筆朧月(おぼろづき)が完成し、ご注文下さったお客様にお渡し始めています。

綴り屋鈴木さんがエボナイトを削り出して、有名革メーカーの仕事もしているjaCHRO(ジャックロ)レザーの岩原裕右氏が漆塗りを施してくれています。

当店限定色の山吹色の下地に柔らかい感じのするうるみ色を表面にグラデーション加工で塗った特別な色の万年筆です。

ペン先は当店オリジナルの14金ペン先です。

上海の協力工場で製作されたペン先、ペン芯、ソケットなどを当店で調整、加工、組み立てています。朧月の場合、受注時にオーダーして下さった仕様に加工、調整して軸にセットしてお渡ししています。

鳳凰の図柄は当店で発案、図案化した完全なオリジナルです。鳳凰は日本的で高貴なイメージのモチーフでもあるし、私たちの大陸の文化への憧れも込めたものです。綴り屋さんの軸とよく合っていて、これ以外に考えられなかったと思っています。

受注製作のシリーズは今回だけでなく、今後も継続していく予定です。

実は朧月と一緒にもうひとつのオリジナル仕様の万年筆も製作してもらっていました。

漆黒の森溜塗テクスチャー万年筆のオリジナル仕様、オリジナル色です。

当店オリジナル仕様は、溜塗の味が出るテクスチャー部分をキャップのみにして、ボディ部分は滑らかな形状にしてもらっています。

オリジナル色の、山吹色の下地にうるみ色の上塗りはまろやかな上質なこのモノに合った色だと思っています。

これにもオリジナルのペン先をつけて販売しています。

オリジナルペン先はFでも結構太めになりますので、ご要望に応じて様々な研ぎ出しの対応をしています。

とても良いもので、私たちも大いに気に入っていますが職人さん方の多忙により定番的に作り続けることはできず、不定期に発売することになります。

⇒綴り屋 漆黒の森溜塗テクスチャーPen and message.仕様 山吹×潤み色(オリジナル色) オリジナルペン先

オリジナルペン先の字幅、研ぎ

委託販売とペン先調整

いろんなモノの値段が高くなって、モノの売れ方が変わってきています。

私は革靴が好きで、お金を貯めて買ったりしていましたが、最近の値段の上がり方は異常だと思っています。

こんなに極端に上がってしまったら、革靴に見切りをつけて、靴の趣味を止めてしまう人も出てくるかもしれない。

そう思っていたら、ある靴磨き職人さんが売る中古の靴は飛ぶように売れていると聞きました。

ほとんどの靴が中古の現状の状態のまま売られているのに対して、そのお店では中古の靴をメンテナンスして、きれいに磨いて販売しているので特に人気があるそうで、ジョンロブを定価の4分の1くらいの値段で販売しているようです。

きっとそのお店の靴磨きやメンテナンスの腕が認められているから、中古靴の人気があるのだと思います。

当店も委託販売で中古品の販売をしています。お客様がお預け下さったものの買い手を探して、次の買い手を見つけるというものです。

買い手が見つかれば、ペン先を調整して快適に書ける状態にしてお渡ししているのですが、安心して買えるとよくお客様に言っていただきます。

中古の万年筆の良いところは、より安い値段で高級な万年筆が買えるというところで、万年筆を趣味として使い続けてもらうためにも必要なことだと思っています。(と言っても万年筆は靴ほど中古であるデメリットがないので、定価の4分の1にまで下げることはないけれど)

開店当初、ペン先調整と委託販売とは別々に考えていましたが、靴磨き職人さんの中古靴の販売と同じように実は繋がっていました。

ペン先調整をしていることが、委託販売という中古販売のアドバンテージになっています。

中古販売の万年筆のペン先調整をする場合、前の持ち主の書き癖や書き方に合わせた調整を消し、なるべく自然な筆記感になるようにします。ペン先調整をしているかどうかも分からないような調整を心掛けています。

私はそれを奥ゆかしい調整と呼んでいるけれど、奥ゆかしい調整は三角研ぎなど、研ぎが前面に出る調整とは違う考え方で、そこにも調整士のセンスや理性が表れると思っています。

私の場合は、今まで見てきたたくさんの書きやすいペン先の記憶の中から、そのペンの一番書きやすいペン先の記憶を呼び起こして、それを再現するようにしています。

万年筆も革靴の心配をしている場合ではなくなってきています。調整の力で万年筆がいまの値上げ風潮の中、沈まないよう努力していきたいと思っています。