アジアの中の日本の万年筆〜鳳凰に惹かれて〜

大袈裟な言い方になりますが、生きることとは私の場合自分との戦いなのかもしれないと思っています。

昨年末から症状が続いている金属アレルギーは、自分の免疫作用が自分の体を攻撃するというもので、自分の体が自分の特定の物質への反応と戦っているものです。

店の仕事は、どこにもライバルのいない、自分たちがお客様に面白いと思ってもらえるネタを仕込めるかどうかで業績が変わってくる仕事だと思っています。これには景気の動向さえも関係ありません。

同業他店は、同じ業界を盛り上げる仲間です。私たちは他所のお店と張り合うのではなく、どうやって共存するかを考えるべきだと思います。他所のお店が持っていて、私たちが持っていないものがあれば、それを羨むのではなく参考にできることは参考にしていく。

全ては自分の心との戦いなのだと思います。

だから、自分を鑑みるという鏡が象徴するメッセージが気になりました。

先日、兵庫県加西市のフラワーセンターの中にある古代鏡展示館に行ってきました。3700年ほど前から1000年前に中国で作られた銅鏡を約500点所蔵しています。

当店のオリジナル万年筆「コンチネンタルクラシックインスピレーション1985」のペン先には鳳凰の模様をあしらっています。日本的な高貴なイメージのあるモチーフで、この万年筆が使う人のお守りのような存在になれたら、という願いも込めています。

銅鏡には宗教的な意味や権力や富を象徴した模様をあしらったものが多く、その中でも鳳凰は多くの鏡に施されている代表的なモチーフでした。そんな様々な鳳凰をこの目で見たいと思いました。

専門的な知識もなく、審美眼を持っているわけでもないので、展示物の中で自分の好みのものを探したりしながら、時間をかけてゆっくりたくさんの鏡を観てきました。

銅鏡は全て中国で作られたもので、その中に使われているモチーフが日本にも伝わって定着しています。

鳳凰というモチーフはアジアの中の日本を象徴する模様で、ますますこの万年筆のペン先の図柄として相応しいものだと確認することができました。

この万年筆は鳳凰のモチーフがあることで、鏡と同じように自分を鑑みる、自分との戦いに勝つための道具だというふうに思ってもらえたら素敵だと思います。

⇒Pen and message.オリジナル コンチネンタルクラシックインスピレーション1985 TOP

大切な日々を記すオリジナルダイアリーとM1000

毎日のお客様のお買い上げ品、やり取り、仕事の内容、訪れた場所などについて、全てオリジナルウィークリーダイアリーに記録しています。

そういう記録が後々役に立つということもありますが、お客様が万年筆をご購入されるという記念すべき時間に立ち会った記録として、残しておきたいと思っています。

そうしておくと、過ぎた一日一日がとても愛おしく大切に思えます。

そういう心境になってきたのは、仕事ができる人生の少なさを自覚し始めたからかもしれません。

時間を無駄にしないように1分1秒を惜しんで行動するとか、ストイックに自己研鑽に励むというようなこととは違う、時間を大切に扱う気持ち。一つ一つの出来事への愛おしさのようなものが強くなって、それをウィークリーダイアリーに記録しています。

今までは自分が何を生み出せるかということにこだわっていました。ない知恵を振り絞って、何か考えが浮かぶまで寝る時間を削って考えていたりしていたけれど、それはやめてお客様との時間を大切にしたいと思って、睡眠時間を確保するようになりました。これは若い頃にはなかった感覚・・というよりもついこの間までなかった感覚です。

今までのことも、もっと大切に記録しておけば良かったと思います。

そういう過ぎてしまった時間への悔恨のようなものを感じさせる小説がドイツ人作家ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」です。ナチズムへの反省という重いテーマもありますが、大人だからこそ理解できる小説だと思います。

11月3日まで開催していますペリカンフェアのお買い上げ特典のひとつがこの「朗読者」で、クラシックシリーズ(M200/M205)の万年筆をお買い上げのお客様にプレゼントしています。

さらにM400以上のスーべレーンシリーズになると、この「朗読者」の本と「ペリカン特製メモパッド」をプレゼントします。

考えてみると、私もM300からM1000までの全てのサイズのスーべレーンを使っています。それぞれのサイズの特長を分かっているつもりですが、私は個人的にM1000BBをEF相当に研ぎ出して手帳用にしていますので、サイズの選択は理屈ではないのかもしれません。

M1000のペン先はとても柔らかいので、細字ながらも筆圧の加減でかなり文字に強弱が出て、それはM1000ならではのことだと思っています。

手紙や葉書にはきれいな文字が書けるKOP smoke、ノートに原稿の下書きなどアイデア出しには149、手帳にはM1000。それぞれに合った用途でオーバーサイズの万年筆を使いたいと思います。

⇒オリジナル正方形ダイアリー

⇒ペリカンM1000緑縞

⇒ペリカンM1000黒軸

ペリカンM400 歴史をポケットに差す

ペリカンM405シルバーホワイトとオリジナルDFRAPE M6手帳

先週、福岡に出張販売に行ってきました。

会場のある警固は、周りにカフェやアパレルのお店などがある福岡市内でも比較的落ち着いた場所で、出張販売に行くと私たちも街の一部になったようで嬉しくなります。福岡は行くたびに賑やかになっているようで、この街の発展振りが羨ましく思えます。

人口は神戸と同じくらいだと思いますが、その違いは街の雰囲気に表れています。

過去に栄えていたけれど人口が減っていてかなり前に福岡市に抜かれた神戸と、人口が増加していて韓国をはじめとするアジア圏のお客様が特に多い福岡との活気の違いは歴然としています。

でも福岡からでも、東京からでも新幹線で帰ってきて新神戸駅に降りた時はいつもホッとします。

毎日朝11時に店を開けて(土日祝は10時)夜7時に閉めるという規則正しい神戸の店での生活は静かで愛着のあるものだけど、どうしても仕事が単調になってしまいます。

そのスタイルでやって行けたらいいけれど、やはり店には何か刺激になることが必要なのだと思います。

出張販売の時は、イベントの重圧による精神的なプレッシャーと、イベント準備から後片付けまで時間と戦いながら動く体力的なキツさがあります。

でも出張販売があるからこそ何か特別なことをしようと企画するし、装備も揃えたいとあれこれ考えるし、出張販売は店の営業においても、私の生活においても適度な変化をもたらしてくれています。

出張にもよく持っていきますが、店を始めた時から18年使っているペリカンM450万年筆があります。

今は廃番になっていますが、M400と同じサイズでキャップと尻軸がスターリングシルバーに金張りのバーメイルという仕様になっているモデルです。

本来は軸がM400のホワイトトータス柄と同じですが、廃番になってからかなり時間が経過してから修理に出したため交換パーツがなく、黒軸になりました。

通常のペリカンにない仕様のものですが、柔軟に対応してくれて有り難かった。お陰でこの万年筆を使い続けることができています。

私の場合、ベストのポケットやシャツの胸ポケットに差して、通勤や外出時のメモ用のペンにしています。

重量がかなり軽いため、長時間書くという使い方よりも外出時に不安定な状態、例えば立ったままで書くとか、メモ帳や手帳を持った状態で書くという時にこの万年筆は真価を発揮します。

机上では、軽さゆえに書く時にどうしても力が入ってしまって使いにくかった万年筆が、メモ用にした途端にとても使いやすいものになりました。

その軽く、コンパクトなサイズから携帯性に優れていて、持ち運び用の万年筆だったのだと改めて気付きました。

最近は上着を着る時期が短くなっていると体感しています。

だから胸ポケットのついたシャツやベストをなるべく選びたいと思っていて、そらがこの万年筆の居場所だと思っています。

ペリカンM400は1950年前後から存在する、ペリカンでもっとも長い歴史を持つ万年筆です。

当時万年筆は実用の道具で、片時も離さずに胸ポケットに差していて、軽くコンパクトなM400のような万年筆の需要は高かったと想像しています。

今はM400を手帳用に使われる方が多いと思っています。

M400のEFを手帳に書くことができるように、国産細字程度に研ぎ出す、細字研ぎ出し加工をよく承るからです。

胸ポケットに差しやすいということは小さめの手帳のペンホルダーにも合うということで、今はそういう使われ方の方が多く、華やかな役割なのかもしれません。

ペリカンTOP

オリジナルDRAPE M6システム手帳

ペリカンスーべレーン#800(M800)について

店主私物#800

自分が使っているペリカン#800について語り出したら、キリがありません。

この万年筆は30年ほど前に初めて自分で買った万年筆でした。

当時、文具店に就職して3、4年経った万年筆の担当になったばかりの頃だったと思います。

その時私が持っていたのは、叔母から大学の入学祝でもらったインキ止めの万年筆1本だけでした。それは使い方が分からずしまっておいたものを長原宣義先生に使い方を教えていただいて、「もったいないのう」と言われながら手帳用にするために細字に研ぎ出してもらったものでした。

長原先生が研いだ手帳用の万年筆を手に入れてから、それまでも好きだった書くことがさらに好きになり、万年筆に夢中になりました。

万年筆の担当にしてもらったのはそれから1年ほどしか日は経っていなかったかもしれません。

私は大学生の頃ブルースにハマっていて、バイトのお金でレコードばかり買っていました。

就職してからはほとんど聴いていませんでしたが、いつか時間に余裕ができたら以前のように聴こうと思って、狭い団地の部屋の中に結構な場所をとってレコードの入ったダンボールを積みあげていました。

その気持ちは変わっておらず、ブルースにも未練がありましたが、万年筆をもっと知りたいという気持ちの方が強かった。レコードを売って、万年筆を買いました。

初めて買った万年筆はペリカン#800でした。

万年筆の仕事をするからには、万年筆のスタンダードと言われる#800を知っておくことが絶対に必要だと信じていました。

当時はM800と呼ばず#800と表記して、800番と呼んでいました。

でも使い始めた#800はインクの出が渋くて、筆圧を強めに掛けないと書けませんでした。

今ならその症状は、私の筆圧に対して、寄りが強すぎるために起こることだから、寄り加減を少し弱めようと、難なくペン先調整をしますが、当時の私はルーペさえも持っていなくて、なぜインクが出ないのか分かりませんでした。

余談ですが、調整ができなくても、こういう時にはインクを変えてみるという方法もあります。

ペリカンのロイヤルブルーでインクの出が少ないと思ったのであれば、例えばパイロットを入れると普通に書くことができる場合もあります。でも当時の自分にはそんな知識もありませんでした。

当時プラチナ万年筆さんも万年筆クリニックをしていて、後に中屋万年筆の創業メンバーになって、ペン先を担当した渡辺貞夫さんに#800を調整していただき、やっとその#800は滑らかに書けるようになりました。

当時、私は売場で立って接客する立ち仕事をしていましたが、#800をスーツの内ポケットに差し、メモや発注書やFAXを書いて、毎日の仕事で使っていました。

あれから30年が経って、世の中の雰囲気も仕事のやり方も変わり、私も髪も白くなり、体型も丸くなったけれど、800番は変わらずに手元にあって、以前と同じように書くことができる仕事道具のままです。

今思うとレコードを売って万年筆を買った時が私の人生の分かれ道だったのかもしれないと思っています。

そしてそれが#800だったから、今もこうして万年筆に関する仕事をしているのかもしれない、と思っています。

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ペリカン日本協賛 ペリカンフェア開催・ 11/3(月祝)まで

私の不注意でしたが、ある休日の朝クルマが急に動かなくなって、京都に出掛ける予定を中止せざるを得ませんでした。動くことが当たり前だと思っているものが動かないというのは本当に困りますし、仕事や生活に支障をきたすことがあります。

私が1番長く愛用している万年筆はペリカンスーべレーンM800です。

もう30年ほど使っているけれど、とても丈夫な万年筆で今まで使えなくなったことはありません。

ペン先もタフな仕様で、簡単にズレたり抜けたりしませんので、安心してハードに書くことができます。

慣れると、自然に楽に握ることができるバランスの良さを持っていて、そういうところもこの万年筆の優れているところで、多くの万年筆のお手本になっています。

万年筆の人気投票などがあれば、スーべレーンM800が必ず上位に入っています。

いつ使っても自然に、当たり前に使うことができるという安心感。万年筆の良いものというのは、そういうさりげない存在になり得るものなのかもしれない。

「安心感」M800を言い表すとそういうことになると思っています。

さりげない、当たり前の存在になる万年筆が、世代を超えて、時代が変わっても支持されるということがよく分かります。

ペリカンスーべレーンシリーズには様々なサイズがあって、使いやすいと思っていただけるものがそれぞれの方で違いますが、合うものが必ず見つかるというのがペリカンのラインナップです。

当店では、10/4(土)~11/3(月祝)にペリカンフェアを開催します。

期間中、「クラシックシリーズ」をお買い上げの方にはドイツ人作家ベルンハルト・シュリンクの小説をプレゼントいたします。

さらに「ペリカンスーべレーン万年筆」「トレド万年筆」をお買い上げのお客様には、小説に加えて『ペリカン社オリジナルメモパッド』もプレゼント差し上げます。

小説は「朗読者」というタイトルで、ストーリーは言えませんが主人公の男性が大学の授業で裁判を傍聴した際、中学生の頃付き合っていた母親ほども歳の離れた女性が被告として登場したところから物語が動き始めます。

ナチズムというドイツだけでなくヨーロッパ全体を巻き込んだ題材、個人の戦争責任問題を扱っている、硬派で沈鬱な雰囲気を持った小説ですが、過ぎ去ってしまった取り戻すことのできない時間についても思わずにはいられない、読後いつまでも考えてしまうような小説です。

1950年代から80年代のドイツの街の雰囲気、暮らしの感じも垣間見られました。私はそういうものが感じたくて海外の小説を読んでいるので、これ以上ない小説だと思いました。

ペリカン日本さんの協力を得て、期間中は揃えられる全てのスーべレーン万年筆シリーズと字幅を揃えて、お買い求めいただけるようにしております。

店頭でご覧いただける、ペリカンに関する書籍や資料も多数ご用意しておりますので、ペリカンファンの方も楽しんでいただけると思います。

ぜひ期間中、ペリカンフェアにご来店下さい。

*追記*先日ご予約として承りました「M600ルディ・ローザ」もフェア対象となりますので、ご予約いただきました方にはメモパッドと小説をご用意させていただきます。