ドイツ行きで国産万年筆について想う

昨年9月にドイツ行きの話が持ち上がって、まだ先だと思っていましたがとうとう来週になりました。

横浜のイベントが終わってから真剣に考えようとか、日常の仕事に忙殺されて、楽しみだったはずのドイツ行きについてあまり考える時間を持てなかったのは少し残念ですが、思い残すことのないように楽しみながら仕事してきたいと思っています。

ドイツ行きの話は590&Co.の谷本さんが持ちかけてきましたが、どうせ行くなら前にも一緒にヨーロッパに行った、ル・ボナーの松本さんも誘って、ドイツ最大の蚤の市トレンペルマルクトに合わせて行こうということになりました。

14年前同じメンバーでドイツ、チェコ、イタリアを旅した時に、ベルリンで蚤の市に行きました。

ベルリンでは週末に街中の色々な場所で大小の蚤の市が開催されていました。それは例えばペンショーのようなイベントが、街中で開催されているようなものでした。

私たちは地下鉄を乗り継いで蚤の市をはしごして、たくさんのペンを仕入れました。お店で定価で買ったものもありましたが、そういうものでさえ日本に持って帰って販売する値段をつけることができたのです。

今回、空港に行く前にある程度のお金をユーロで持っておこうと思い、交換所を探しましたが、コロナ禍以後かなり少なくなっていました。結局休日に訪れた京都で両替しましたが、円の安さを痛感しました。

円の弱さは今の日本経済の弱さを物語っているのだと思いますが、本当にそんなに弱いのだろうか。

確かに日本経済は苦しんでいるけれど、京都にも本当に多くの外国人の方が来ていて楽しそうに過ごしています。

日本はこの国を訪れた外国人の方々に良い思い出を持って帰ってもらって、また来てもらうことに成功していると思います。私たちも同様に努力しなければと思います。

為替の影響もあって、全ての輸入筆記具の価格が上がっています。

ユーロもドルも高いから値段が上がるのも仕方ないのかもしれませんが、値段に見合った価値にすることを考えなければ、売れなくなってしまうと思います。

それに対して日本の万年筆はどうか。国産万年筆も少しは価格が上がったかもしれませんが、輸入筆記具とは比べものにならず、その価格差は広がるばかりです。

その中でも日本の作家さんが作った万年筆の存在が大きくなっているような気がします。

そういう万年筆の場合、使う素材も違うし、ハンドメイドなので本数が少ないということもあって、同じ国産の量産品に比べると価格は高くなってしまいます。しかし希少性やオリジナリティのようなものがあって、コストパフォーマンスの高い量産品を凌ぐ魅力を感じる人も多いでしょう。

当店では綴り屋さんの万年筆を扱っていますが、量産品とはまた違う存在感があると思っています。14金ペン先を装着して、当店らしい書きやすさも感じていただけると思います。

私は綴り屋さんの万年筆を扱い始めて、作品だけではなく、修理などアフターサービスの対応の良さにも感銘を受けました。お客様方に安心して長くご愛用いただけるために、とても大切なことだと思います。

*5/7~16までドイツ出張のため、次回の更新は5/17です

江田明裕さんのガラスペン

当店で扱っている作家さんが有名になって、多くのお店が扱うようになったりすることがあると嬉しくなります。

最近ではあちこちのお店で取り扱われるようになりましたが、早い段階で当店が扱わせていただいた幸運に恵まれて、その方の努力が実を結んで広く知られるようになっていった。そういうものを扱えていたことが嬉しい。

あまり多くのお店で扱われていない作家さんに出会ったら、お店側としてはなるべく自分の店だけで独占して他所に出ないようにすることが多いけれど、作家さんのためにはそんなことをしてはいけないと考えます。

店は自店のことだけを考えていてはいけない。お互い良くなっていくことを考えて、お互いに高め合えるようにしていくべきだと思います。競わなければならない感情はあるけれど、そう思ってなるべく実践してきました。

ただ言い方は悪いですが、商品のイメージと合わないお店では扱われたくないので、もし作家さんに聞かれたら正直に意見を言うようにしています。私は自分の店がその作家さんのイメージを良くする努力をしているので、勝手な話ですが他所の店を見る目は厳しい。

当店にガラスペンを納めてくれているaun(アウン)の江田明裕さんは、私が倉敷に行った時にたまたまその工房にたどりついて作品を購入したことが始まりで、その後店でも扱うようになりました。

すでにしっかりした工房兼店舗をお持ちで、地元の文具店に作品を納めたり個展をされたりしていたのですが、私は勉強不足で存じ上げませんでした。

江田さんのガラスペンで私がぜひ扱いたいと思ったのは、その書き味の良さに感動したからでした。 こんなに優しく、滑らかに、でもガラス独特のサラサラと紙と触れる感触を感じながら書けるガラスペンがあるのかと思い、万年筆店である当店でぜひ取り扱いたいと思いました。

最初はシンプルなラインナップでしたが、今では様々なデザイン、カラーバリエーションが増えて、その旺盛な製作欲に感心します。 インクブームもあって、インクをより簡単に楽しめるガラスペンが注目されるようになったのだと思います。インクを変える時、万年筆はその都度洗浄しないといけないのですが、ガラスペンならサッと洗い流すことができます。

最近はラメ入りのシマーリングインクも結構ありますが、そういったインクにはガラスペンがぴったりです。 インクがガラスペンに頑固にこびりついた時は、極細毛の柔らかい歯ブラシでこすっていただくと、きれいに取り除くことができます。

万年筆を愛用している方も時にはガラスペンでいろんな色のインクを楽しんでいただけた らと思います。大量生産品では作り得ない、1本ずつ書き味を調整されたガラスペンを楽しんで欲しい。

当店も江田さんのガラスペンを神戸ペンショーに持って行くけれど、たくさんの本数を準備していますので、ペンショー後になりますがホームページに更新できると思います。

ガラスペンはネットショップでも人気です。 ネット販売というと事務的なやりとりのように思われるかもしれないけれど、ちょっとした言葉のやり取りで、ネット販売も店舗での販売と同じように感じていただけると思います。

当店では発送の際に、一筆箋で一言添えるようにしています。ガラスペンだと興味をお持ちの方が多いのか、手紙に使ったインクの問い合わせが来ることもあります。

これからもっとネット販売の比率は上がっていくと思いますが、お客様と店が心を通わすきっかけに、江田明裕さんのガラスペンも一役買ってくれています。

⇒江田明裕氏作 ガラスペン (入荷分は12月に更新予定です) 

PENLUX~台湾のモノ作りとデザインの力

台湾の万年筆メーカーPENLUXを新たに扱い始めました。
10月に台南ペンショーに行った時に、一目見て気に入ったブランドでした。
短期間ですが12月上旬までは当店が日本国内で先行発売することになっており、先日の神戸ペンショーでも多くの方に良い評価をいただきました。

PENLUXは1999年に創業したメーカーで、日本や欧米のメーカーのOEM(相手先ブランドでの生産)製造をする会社でしたが、今回自社ブランドによる初の万年筆グレートネイチャーシリーズを発売しました。
奇をてらわずにオーソドックスなデザインで仕上げたことと、信頼性の高いピストン吸入機構を備えた万年筆であるということに好感を持ちました。
無色の摺りガラスのような仕上げのクラウディベイは388本の限定品です。

14金フレックスは、ペン先に切り込みを入れて、非常に柔らかい書き味です。
最近の他社のフレックスニブやパイロットのフォルカンニブとは狙っているところが違っていて、ペン先が開いて幅広い字幅で書くのではなく、ビンテージの万年筆のような柔らかいタッチを得るためのペン先、という感じです。
他のフレックスでないモデルは、当店が特別に金ペン先仕様を依頼して用意してもらいました。これだけ立派なボディ、丈夫な吸入機構を備えた万年筆なので、金ペン先が合うのではないかと思ったのです。
もちろん元々はスチールペン先仕様ですので、お申し付けいただければそちらの仕様でもご用意できます。価格はクラウディベイ切り込みありスチールペン先モデル25300円(税込)、他モデルの切り込みなしスチールペン先は24200円(税込)です。

先日、台北を中心にステーショナリーや万年筆店を中心に見て回ってきました。
そんな中、印象付けられたのは台湾のデザイン力でした。
店作りやディスプレイの仕方が斬新で、大胆で、日本にはないものを多く見ました。
ステーショナリーや万年筆の分野で日本は台湾に先行したかもしれないけれど、私たちは過去の栄光に捉われて、時代に取り残されているのではないかと思いました。
台湾はすでにもっと先に進んでいます。
日本製のモノの品質の高さは自他ともに認めるところではあるけれど、同等のモノ、もっとデザインの良いものは台湾で作ることができる。
日本が今後も万年筆を作り続けたいと思うのなら、不採算だけど文化の貢献のために万年筆の製造を継続しているというスタンスではなく、万年筆が自分たちの仕事で将来もこれで生きていくという気概を見せる必要があるのではないかと、日本で万年筆の仕事に携わる者の一人として思いました。
万年筆というものの文化性に甘えてはいけない。万年筆も先に進まなければいけないとPENLUXから大いに刺激を受けています。

⇒PENLUX(ペンラックス)一覧へ

ブッテーロ革のペン置き

当店のことを、私が良いと思ったもののみを扱う万年筆・ステーショナリーのセレクトショップだと思われているかもしれないけれど、私は自分の狭い了見や偏った好みだけで、モノの良し悪しを決めてはいけないと思っています。
自分が良いと思わなくても売れるものはたくさんあるし、自分が見出せなかった良さを他の人が見出してくれることもよくあるからです。
こういうことを今までたくさん経験してきたので、商品について、特に取り扱いをするかどうかを自分の価値観だけで決めてはいけないと肝に銘じています。
あまりにも自分のポリシーから外れるものは別ですが。

最近私がその良さを見抜けなかった商品が、カンダミサコさんの「ブッテーロ革のペン置き」でした。
ブッテーロの革を2枚重ねにし、折り曲げて固定したとてもシンプルな仕様のものです。
あまりにもシンプルで、今までの職人仕事に対する固定観念がある私にはその良さが分からなかった。 でも販売し始めて、その良さに気付きました。

よくあるようなペントレーではなく、このくらいシンプルなものの方が今の人の感性に合っているのかもしれません。定位置を作って机の上に置いておいて使うのではなく、何か書き物をする時に取り出して使う、あるいは出先で使うような用途がこのペントレーには合っています。
本当に何が売れるか分からないと言うとカンダさんに怒られるかもしれない。

万年筆の固定観念に捉われていないし、今もフレッシュな感性を保ち続けているカンダミサコさんですが、安い革で作れば値段も安くできて売れやすくなるけれど、良いものにこだわっていて、革の質を落とすことはありません。
デザインやモノのあり方は変わっていくものなのかもしれないけれど、それは変わらないことだと思う。

安い革とそうでない革の違いについて述べるのはなかなか難しいですが、手触り、色味など、基本的な質感の高さが違います。
このペントレーもブッテーロの革を使用していて、その滑らかな手触り、使っていくうちに出てくる艶などの変化が楽しめるのはこの革ならではのものだと思います。
ブッテーロは植物由来のタンニンなめしをされた、自然な質感のある油分を多く含んだ革です。
ブラシや布で磨いたり、手で触れることで油分が表面に艶を作りますし、小さな傷なら磨くことで目立たなくすることができます。
そんな上質な革との付き合い方は変わらずに教えてくれるものでもあります。

⇒カンダミサコ「ブッテーロ革ペン置き」

パイロットの2つの木の万年筆

パイロットの2つの木の万年筆
パイロットの2つの木の万年筆

木の万年筆を直感的に好ましく感じる人は多いと思います。

木の自然な手触りや、使い込むと光沢を増すボディに愛着を持って使う、万年筆の理想を見るからだと思います。

でも木の万年筆の楽しみ方はまだあって、私は佐々木商店のつやふきんを使っていますが、美しい光沢に磨き上げるということも木の万年筆ならではのものです。
万年筆は自分の想いや考えを紙に記す、書くということを書き味を楽しみながらできる、言わば個人的な、自分の内面を見つめ直す作業の中で使われるものであるから、それはどちらかと言うと個人的なものだと思っていました。
磨いて光沢を出した万年筆はもちろん自分の楽しみでしていることですが、それは必ず人に見せたくなる。
その場合の万年筆は、個人的なものではなくて、そのモノ自体がコミュニケーションの中心にあるように思います。

木の万年筆を磨いて美しい光沢を持たせるということは、他の人にその美しさを見せて「きれいですね」と言ってもらいたい。
そんな他の人とのやり取りを想像しながら磨く楽しみのある木の万年筆を2本ご紹介いたします。

カスタム楓(かえで)。かなり以前からパイロットの定番品としてモデルチェンジをしながら今も作られている万年筆です。
イタヤカエデという材をボディに仕立てています。
何をしても手堅いパイロットらしく、木のボディにヒビや割れが生じないように樹脂を含浸させています。
しかし、表面はナチュラルなままですので使っていくうちに磨かれたり、手の油を吸って光沢が出る余地が残されていますし、元々かなり変化しやすい性質なのか、使いこむだけで艶がでてきますので、磨き甲斐のある素材だと言えます。

またカスタム楓は他のパイロットの万年筆とかなり書き味が違っていて、それは磨く楽しみのあるボディという趣味的な要素と釣り合いを持たせた仕様と言える柔らかいペン先を装備しています。

この柔らかいペン先を利用して美しい文字を書くことも可能です。
筆圧を掛けると線は強調され、力を抜くと線はスッと細くなる。強弱をつけてじっくり文字を書くことを可能とする万年筆なのです。

そんな文字を書く楽しみを持たせているのが、カスタムカエデの万年筆として味付けです。
21000円という実用一辺倒の国産万年筆が揃う価格帯の中で、かなり異色ですが、無視できない趣味的な書く楽しみ、磨く楽しみのある万年筆だと思います。

そして52,500円という国産ハイエンドモデルが揃う価格帯の中で格の違いを見せ付けているのが大型の万年筆カスタム一位(いちい)です。

その名前から縁起の良い木と言われている一位の木を圧縮して、密度の高い、キメの細かい万年筆のボディに相応しいものにしています。

そのまま使える材ではなく、使えるようにするために圧縮するというのは何か強引な力技という気もしないではないですが、その加工のおかげで木の感触を残したままで、ヒビや割れ対策を実現しています。
カスタム楓と違う方法で、木を万年筆のボディに使うデメリットである割れ対策をしたことにパイロットの技術の幅を感じます。

カスタム一位のキメの細かいボディのスベスベした手触りはとても気持ちよくて、この万年筆をより上質なものに感じさせてくれますし、使い込んだり、磨いたりした時の艶の出方は相当美しいと予感できます。(昨年発売されたばかりの万年筆なので、予想になりますが)

カスタム一位は、パイロットの名作万年筆だと多くの人が評価するカスタム845のボディの素材違いとなっていて、ボディサイズ、ペン先などのボディ以外はカスタム845と共通になっています。
カスタム845はパイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆のひとつの形で、世界に示すために日本らしい素材の仕上げである漆塗りがボディに施されているのだと想像します。

パイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆の書き味は非常に弾力の強いものになっています。
私は一位や845の書き味をバネみたいだと表現していますが、バネのようにビョンビョンと跳ね返りの強い書き味はハードな筆圧で、早く書くことに適した仕上げだと思っています。
カスタム845の木軸バージョンである一位もまたパイロットが世界に示す、書くことにおいて完璧な万年筆なのです。

磨く楽しみのある木軸の万年筆ということで、カスタム楓とカスタム一位という2つの万年筆をご紹介しましたが、文字を書くことを楽しむ楓、ハードに使う実用の道具に木の余裕を持たせた一位、というふうに個性や狙いが違っていて面白いと思っています。

*「つやふきん」は商品自体を卸されていませんので、そのまま商品として購入したものをお分けしています。店頭のみの扱いになりますのでご了承下さい。


⇒パイロット カスタム楓(かえで)