アウロラが今年100周年を迎えています。
アウロラが創業した1919年は第一次世界大戦が終わったばかり、世界恐慌前夜の、世界が束の間の平和の中にある時期だったのではないかと想像しています。
だから万年筆という平和的なものを作る会社が多く誕生した。
この時期、多くの万年筆メーカーが先んじて万年筆を作っていたパーカー、シェーファーなどアメリカのメーカーの影響を受けているものを作っていましたが、アウロラも当時イタリアにたくさんあった万年筆メーカー同様、アメリカの万年筆に似たものを作っていました。
それを作りながらも少しずつ自分たちのオリジナリティを出し始めることができて、無数の万年筆メーカーの集団から抜け出し、世界恐慌、第二次世界大戦、リーマンショックなどの危機を生き抜くことができたのかもしれません。
100周年の今年、最初に発売された限定万年筆インターナツィオナーレは、1930年に発売されたモデル「Duplex Internazion」を、ボディ素材をセルロイドからアクリル系樹脂のアウロロイドに、インク吸入機構をレバー式からリザーブタンク式ピスト吸入機構に変更されていますが、忠実に復刻しています。
もしかしたらパーカーデュオフォールド、シェーファーライフタイムの影響を受けたのかもしれないけれど、デュオフォールドもライフタイムも今見るともっと武骨に見えます。
しかし、この万年筆は武骨さとは程遠いエレガントさを感じさせます。
その一因となっているのが、当時トレンドだったアールヌーボー調のキャップリング装飾です。このキャップリングはスターリングシルバーに金張りを施したバーメイル仕上げになっていて、時間が経つと落ち着いた輝きに変化します。細かい部分にもかなりのこだわりが感じられます。
創業して10年くらいしか経っていなかった1930年当時、アウロラはこのInternazionで、海外進出を目指していました。
周辺のヨーロッパの国々はもちろん、当時の万年筆王国アメリカでも勝負できるものでなくてはならない。日本をはじめ、アジアの国々でアウロラの万年筆が売られることを、この時当時のアウロラの社長はイメージしていただろうか。
100周年を迎えたアウロラが、その歴史の転換期の代表的な万年筆を復刻した。それがインターナツィオナーレです。
オプティマ、88などアウロラの定番万年筆の特長は抑え込んだ華やかさだと思っています。
イタリア人の感性のままの製品作りをするともっと遊び心のある、派手なものができたかもしれないけれど、アウロラのバランス感覚はそれを抑え込んでいる。あるいは我慢している。私はその抑制がアウロラらしさだと思っている。
抑制すること、我慢することは洗練するということと同じ方向の力だと思っていて、アウロラの万年筆は洗練されているという言葉に置き換えることができるのかもしれません。
洗練されているというと何か冷たい感じがしなくもないけれど、アウロラからは人の手のぬくもりのようなものが感じられる。
それは手厚いアフターサービスでも言えることで、万年筆は直しながら長く使い続けるものだということを、アウロラの修理に対する考え方から学びました。
万年筆店の一店主として、勝手に身近に感じている万年筆メーカーアウロラの100年の歴史を誇らしく思います。