たくさんのお客様にお集まりいただいてこんなことを言うのも何ですが、先日ウォール・エバーシャープ社長シドニー・サパスタイン氏をお招きし、当店で開催しました「エバーシャープアワー」は、どんな時間になるのか実際想像できませんでした。
でもSydさんのキャラクター、アジアンロード岩田さんの正確でユーモアのある通訳、熱心にその話を聞こうとするお客様方の熱気によって、あのような良い時間になったことに心から感謝しています。
そのときSydさんが長い時間かけて語っておられたように、ウォール・エバーシャープの歴史は劇的なエピソードに富んでいます。
1915年、電算機事業で成功していたウォール社のウォール・ジョン・コンラッド氏は、優れた繰り出し式ペンシルのメカニズムのアイデアを持ちながらも、外装を資金がなくて作ることができなかったチャールズ・キーアン氏のエバーシャープ社を買収し、彼を営業本部長として迎え入れました。
続いて1916年、バリエーション豊富なペン先を持ちながらも、経営に行き詰まっていたボストンペンカンパニーを買収。
こうしてエバーシャープ社は当時のアメリカでも3本の指に入る高級筆記具メーカーになりました。
1920年代、30年代のアメリカは、万年筆のゴールデンエイジとも言える時代で、アメリカで3本の指に入るということは、世界屈指の筆記具メーカーになっていたと言うことになります。
ウォール・エバーシャープにも、アメリカの万年筆業界にも夢のような20年代、30年代にエバシャープは先進性のある数々の名作筆記具を発売しました。
今のウォール・エバーシャープの代表作デコバンドもこの時代のものをサイズを拡大して復刻したものです。
万年筆はステイタスの時代、実用の時代を得て、何十年も前から趣味の時代に入っている。
ウォール・エバーシャープも時代が万年筆からボールペンに移った時はとても苦しく、パーカーに吸収されてしまったけれど、黄金時代に蓄積した伝統と生み出した名作の数々の財産が生かせる時代に、今なっているのかもしれません。
当店は日本で唯一ウォール・エバーシャープという復興したばかりの筆記具メーカーを扱っている店で、そのことを私はあまり重大に考えていなかったかもしれない。
しかし社長に会って、通訳の岩田さんを通してSydさんの人柄に触れて、元商業銀行役員だったという仕事に対する考え方を聞いて、当店を応援するために社長であるSydさんがエバーシャープアワーという時間を申し出てくれたことで、当店がたまたま早い者勝ちで、ウォール・エバーシャープを扱っているのではないということを自覚しました。