多くの万年筆メーカーの製品が最近似てきているのではないかと思っています。
製造コストやパーツの価格などのコストを抑えて効率良くモノを作ろうとしたり、デザインの流行などを考えると、その時代に作られるものが似てくることは必然なのかもしれません。
でもお客の立場から見るとそれは少し寂しいし、それが業界自体をつまらなく、小さくしていることにつながっているのかもしれないと思っています。
主流と言われる流れは確かにあるかもしれないし、そこに大多数の好みと需要があるのかもしれないけれど、それが全てではない。
少数派かもしれないけれど、そんな人たちのためのモノ作りがあってほしいと思います。
そして万年筆メーカーは、流行に流されることなく、それぞれの信念を貫いたモノ作りをして欲しい。
今年になってから取り扱い始め、当店のラインナップに加わった「クレオ・スクリベント」は、自分たちのポリシーを貫いたモノ作りをしていると思っています。
それはもしかしたら、流行に無頓着なだけなのかもしれないけれど、それでもいい。流行から距離を置いた所に居続けるメーカーもあってほしい。
クレオ・スクリベントはベルリンの北西100kmほどの田舎町バートビルスナックにあるメーカーです。
1945年に創業し、直後に終戦を迎えてドイツが分裂したために東ドイツの国営工場になりました。
万年筆も作っていましたが、主に製図ペンを作り続けていました。
東西ドイツが統一された時に、OEMメーカーとして大メーカーの下請けをしていましたが、2000年からクレオ・スクリベントの名前でもペンを作りはじめました。
クレオ・スクリベントの最高級ラインが「ナチュラシリーズ」で、ボディ素材に銘木を使っています。
アンボイナバール(花梨こぶ杢)は、複雑で変化のある複雑な模様の部分を使用しています。
かなり入念に磨かれていますので、古木のような趣が感じられます。
ただキレイだけでない、レベルの高いモノの美しさを表現しようとしていることが分かります。
艶が出た花梨こぶ杢とピンクゴールト仕上げのパーツが対照的ですが、不思議と合っていたりします。
エボナイトモデルは、十一角形という独特な断面を持っていることを気付かせないような、自然な使用感の万年筆です。
大型14金ペン先はしっかりしていて、大変実用的な万年筆に仕上がっている。
スクリベントゴールドは、ブラックボディにゴールドパーツのオーソドックスなペンに見えますが、かなり独特な万年筆です。
キャップの尻軸への入りが深く、真鍮の重量感のあるボディがリアヘビーにならないようになっています。
私は1960年代の日本で流行していたエリートなどのポケットタイプの万年筆を思い出しました。
ボディ素材、特長などを挙げましたが、クレオ・スクリベントの持ち味は書き味の良さだと思っています。
モノによってはとても小さなペン先がついているけれど、それがとても柔らかくて上質な書き味に感じられます。
アーチを組み合わせたような、適度なテンションの複雑な形状のクリップもクレオ・スクリベントの魅力で、私はこのクリップの形がとても気に入っています。
クレオ・スクリベントもインクメーカーのローラーアンドクライナーもそうだけど、ドイツの田舎町には何かがあると思います。
どちらも流行が遅れてやってくるような田舎に存在し続けて今に至って、魅力を失わずにいる。
むしろ人の流れから離れた所にあるから、そうあり続けることができるのか。
中央から距離を置いて個性を放っている企業を見ると、私は痛快な気分になり、自分たちもそう有りたいといつも思います。