池波庄太郎氏が「男の作法」という本の中で、ビジネスマンの万年筆は、侍の刀のようなものだから、立派な良いものを差しておかなければならない、という内容の話をされていましたが、そんなステイタスを語る「物」としての万年筆と対極にあるのが、サファリのような万年筆だと思います。
しかし、サファリに持つ人の主張を感じさせるものがないかというと、そんなことはないと思います。逆にこの万年筆だけを愛用しているという人からは、強烈なデザイン志向の強い人をイメージします。
たしかにサファリは、普通の万年筆と比べて価格も安く、ペン先は鉄、ボディはプラスチックでなるべく安い素材が使われています。
ですが他の万年筆にはあまりない、「自分はこの万年筆を愛用している」と自信を持って言える個性のようなものを持った万年筆だと思います。
直線を基調としたボディのデザインは、発売されて30年経った今でも古臭さを感じさせませんし、実用性においても不満の出るものでないことは、愛用されている方が多くおられることで実証されています。
ペン先はスチールですが、先端にはイリジウムがちゃんと付いていますし、使い込むと使い手の書き癖をちゃんと覚えてくれるようになっています。
硬いスチールペン先のフィーリングはひとつの筆記具の有り方として、あっても良いと思えるものです。
同じくらいの値段の万年筆はありますし、カジュアル万年筆というカテゴリーで新製品も次々と発売されていますが、いまだにサファリを超える存在のものは生まれていないと思います。
サファリは安くて手軽に使い始めることができる万年筆ということ以上に、使う人のライフスタイル、仕事の仕方などを物語るものだと思っています。
デザイン的にも一般的な万年筆と違っているところが、サファリが他の安価な万年筆と違って見えるところで、「サファリ」という筆記具と言ってもいいのではないかと思っています。
サファリには金ペンでないものは万年筆にあらずとか、何万円も出さないとポリシーを持って使う万年筆は買えないなどの万年筆の固定観念に囚われないところがあります。
コレクション心を満たすような所有感はありませんが、その時の気分で好みの色のものを買って、気分を変えて仕事をするにはとても良い万年筆で、仕事用の万年筆と位置付けることができるものなのかもしれません。
初めて万年筆を使う人も、万年筆を長く使ってきた人も、サファリを手にすると、決して侮れない存在感をそこから感じることができるでしょう。