サファリの2016年限定色ライラックが発売されました。
今年の色、仕様は多くの万年筆を愛用している人の心をつかむものなのではないかと、近年発売されてきた限定カラーとは毛色の違うものなのではないかと思っています。
かなり暗めの、濃い紫色のボディは艶消し仕上げになっていて、質感のあるものになっていますので、それだけでも今回の限定色は個性的だと思えますし、クリップ、ペン先などがブラック塗装されているというところも違っています。
そこには大人が持ってもおかしくない落ち着きと華やかさがあるような気がします。
1980年にサファリが新発売された時のテラコッタ、モスグリーンのサファリも艶消し仕上げにブラックパーツになっていましたので、原点回帰的な狙いもあるのかもしれません。
サファリが発売された時、当時発売されていた他の万年筆とあまりにも違っていました。
価格帯や表面的なデザインはもちろん違っていましたが、何かが根本的に違っていた。
その違いは今も変わっておらず、それはモノの有り方としか表現しようがありません。
万年筆は書き味や質感など、高級感、上質さを追究されてきました。それらがより高い次元で実現できているものは良い万年筆、それらが伴っていないものはそれなりと分類される。
その基準で言うとサファリはステンレスのペン先で、ボディも軽いプラスチックなので、上質な書き味や質感を持ち合わせていないということになりますが、だからサファリがダメだと言うのは、名作のプライウッドチェアが銘木でないからダメだと言うようなもので、サファリはそんな万年筆の古くからある価値観の中にはないのだと思います。
個体、点の魅力である万年筆に対して、サファリのそれは面の魅力だと言っても伝わりにくいだろうか。
発売後36年も経ちますが、今も斬新だと思えるデザインの中には万年筆にとって必要な機能が盛り込まれています。
インクを残量が確認できる窓、転がり防止のボディの平面、丈夫なクリップ、正しい持ち方に誘導する三角形のグリップなど、それらは学童用として開発された出自だから備わっている機能なのかもしれないけれど、実際に使うということを考いているからこそ備わっている機能です。
それらの機能を大量生産のための素材プラスチックを使用し、工程が複雑にならないように工夫されて、考え抜かれて設えられている。万年筆というカテゴリーに収まらない工業製品の名作だと言えます。
サファリは万年筆的なアプローチで作られた製品でないからこそ、多くの人に万年筆を使ってもらうことに役立っている志の感じられる万年筆だと言えますし、大人が持つに相応しいカジュアルな万年筆だと思っています。
低価格の万年筆はたくさんあるけれど、サファリほど奥の深いコンセプトや思想を持った万年筆はないのではないかと思っています。