先日参加したカランダッシュのセミナーで、首都圏での筆記具ブランド売れ行きランキングというのを聞きました。
上位を占めるのはモンブラン、パーカー、ウォーターマン、ペリカン、カランダッシュなどで、それは10年、あるいはそれ以上前から変わっていないと思いました。
私は店に来られる業界の関係者の方に売れ筋を聞かれた時には、いつもペリカンとアウロラと言っています。
関西と首都圏のお店とはかなり様相が違っているし、当店がボールペンではなく万年筆を中心に品揃えしていることも大きく影響していますし、私自身の好みもあると思います。
その中で、ペリカンが売れるということには多くの方が納得されるけれど、アウロラが売れていると言うと不思議そうな顔をする人が結構おられて、それも10年ほど前と変わっていません。
お客様方にペリカンM400、M800などの超定番の万年筆を勧める時に「この万年筆はよく売れています」という言葉はあまり使いません。
なぜかというと、私は「売れている」と言われると引いてしまうのです。それは私が天邪鬼だからなのかもしれないけれど。
世界では売れ筋ランキングに入っていないけれど、自分だけの正解のようなものに出会えると、とても得したような嬉しい気分になります。
それが私にとってはアウロラだったというと、アウロラの関係者の方々に売れていないみたいだと怒られるだろうか。
万年筆をある程度持っている、特に男性からアウロラのペン先は硬いと敬遠されることがありますが、良いペン先は、使い始めるとその筆記によって劇的に書きやすく変化するものだと思っています。
スタートは同じでも、2年後の劇的な変化はアウロラの特徴とも言える。
アウロラの魅力はペン先に偏っているわけではなく、ボディのデザインにも言えます。
アウロラの美学を最も体現している代表作オプティマはもちろん、私が今も最も好きな万年筆だと思っている88クラシックにもその美学が宿っています。
美学というのは派手で大袈裟に喧伝するものではなく、静かに表現するものだと思うので、それに気付くとその魅力により一層魅せられる。
全く変わっていないように見えて、この15年ほどで万年筆は大きく変わったと思っています。
どのメーカーも時代の流れに乗ったり、惑わされたりして、それぞれの会社の有り方だけでなく、仕様やデザインも大きく変わりましたが、アウロラだけは大して変わることなく今に至っています。
私がアウロラを好むのはそういう時代に流されないということもあるのかもしれません。
たくさんの本があるのに、書店でいつも買ってしまい、一言一言に影響を受ける作家の本に似ていて、私はアウロラを信じているのだと思います。
信じているから売上ランキングに入っていなくてもお客様に勧めることができるし、自分でもいつも使っていたいと思っている。
でもこの信じられるということが、たくさんの情報が飛び交い、たくさんのモノが溢れている世界の中で自分が肩入れするものを見極める基準のひとつにしてもいいのではないかと思います。