冬にあれほど生地の厚さや革靴にこだわっていたのに、夏には薄くて軽いものを好んでしまいます。
季節は、人の好みや感覚を全く別のものに変えてしまう気がします。
お茶のお稽古の時、先生が花入れに季節の花を生け、時候に合ったお菓子を用意してくれます。また、それぞれの季節ならではのお道具があって、それを使いこなすためのお点前がある。
そうやって冷房などなかった時の古の茶人はお客様に少しでも涼を感じてもらいたいと、工夫を凝らしたのだと思います。
そういった茶道具の季節の設えを万年筆に取り入れることができたらと常々思っています。
前述したように私たちは夏と冬とでは全く好みが変わっているので、今の季節には無意識に少しでも軽く薄い夏らしいものを選ぶのかもしれない。
万年筆メーカー各社が夏前にスケルトンモデルの万年筆を発売するのもそういったところからで、確かに暑い季節にキャップが金でボディが黒い重厚な万年筆は、手に取りにくいような気もします。
今年は万年筆の新製品の中で見るべきものが少なく、寂しく思っていましたが、ペリカンM200クラシックコニャックだけには期待していました。
色が薄く、軽いM400サイズのボディはなかなか渋い琥珀色とも言える色です。
夏らしいものと言うと、鮮やかな色のものが多いけれど、これは大人の夏の持ち物として相応しいのではないかと思います。
ペリカンの、比較的安価なこのタイプにつけられるスチールペン先は評判が良く、書き味の良さに加えて柔軟性のような粘りを持っています。
ペリカンの特長でもあるピストン吸入機構が透けて見えるのもスケルトンボディの良いところで、使っていて面白いし、機構や入ってくるインクが見えるということも何となく安心感につながるものです。
重厚で、ボディの重みで書けるようなものを冬に好む方も、夏にはこのようなシャツのポケットに差しても軽くかさ張らない、見た目も涼やかな軽快な1本に惹かれるのではないかと思います。
ドイツのメーカーがこのような絶妙な中間の色の万年筆を作ることに感心したというと失礼なのかもしれないけれど、大人のための夏の万年筆という趣のある、ペリカンM200クラシックコニャックでした。