時勢を読む〜九星堂カカリ、コスミ

若い時や店を始めた時は、時勢や世の中の動きがある程度読めていると思っていました。だから自分の考え得る範囲内で世の中が求めるモノを提供することができていると思っていました。きっとそういう勢いというか自負がないと店など始めないかもしれません。

それも今から考えると自分の能力ではなく、同じ時代に生きていて読もうとした人なら誰にでも読めたのかも知れません。

でもある時、自分が世間からズレているのではないかと思うようになりました。もしかしたら同年代の人たちは、私と同じような想いをしているのかもしれません。

今は、自分が良いと思って作っているものは今の流行とは違うから、広く支持されないだろうと思いながら作っています。

流行しているものを追いかけなくてはと思ったときもあったけれど、それで自分の思いと違うものを作り続けても楽しくない。古い価値観の自分が良いと思うモノを作っていけたらと今では思っています。

時間や物事は移り変わって行くものなので、自分が時勢とズレていくのは仕方ないことだと思っています。

今の万年筆の世界にも若くて元気な人たちがおられて、その人たちは当時の自分たちより情報もあるし、より的確に時勢が読めていて、自分が生み出すモノと世の中が求めているものが合っているのだろうなと思います。

当店ではそういう人たちともつながりがあって、それはとても恵まれたことだと思います。私が好むオールドスタイルなものだけでなく、今の感覚に合ったものも揃えられるからです。

九星堂の周さんも時勢が読めている一人だろうと思います。

インクがたくさん入る独特の吸入機構は、ピストン吸入式とインク止め式を足して、さらに独自のアイデアを組み合わせて、メカ部分に場所を取りすぎるというピストン吸入式の欠点を解消した独創的な吸入機構です。

機能的だけではなく、インクを入れるのが楽しくて仕方なくなる、操作する楽しみのある機構で、よく考えられていると思います。

インク止め式のように尻軸を緩めて書きますが、ある程度ペン芯にインクがあるのなら尻軸を緩めなくてもしばらく書くことができます。

デザインはとてもシンプルであり、先鋭的で現代的なものになっています。

こういうデザインの感覚は私の時代にはなかったものだけど、今では自然に受け容れられるものだと思います。

重量は軸だけで30gと、適度に重量感があります。14金のペン先の弾力とバランスも取れていてペン先の柔らかさが感じられ、とても気持ち良く書くことができます。

丸軸のカカリ、九角形のキャップのコスミ、九星堂の名前とともにどちらも囲碁を由来とするネーミングで、囲碁的な思考がこの吸入方式を生み出したのかもしれません。

今回から金属パーツがチタンではなく、木目金(もくめがね)のものも扱い始めました。

真鍮、銅、キュプロニケルの異なる金属が完全に混じり合うことなく模様を織りなす金属の模様が木目のように見えます。

九星堂の万年筆を私も愛用していて、書き味が良く書くことが心地良いので、よく使う万年筆の1本となっていて、ついついこのペンに手が伸びてしまいます。

九星堂のペンは、その独特な機構により少しだけインクを入れることもできまインクを吸入するのもとても楽しい作業です。

私はパイロットのインクを入れて、尻軸を緩めたり、閉じたりしてインク量を調整しながら書いていて、そういう細かいこともできて自分の好みに合わせることができるところも今の時代に合っていると思っています。

⇒九星堂

メモ帳として使う~オーガニックオイルドレザーの刑事(デカ)手帳

神戸にずっと住んでいると、若い頃と比べて本当に夏が暑くなったと思いますが、きっと日本各地の人が同じことを感じていると思います。

でも、もともと暑かった九州地方、近年最高気温を記録する埼玉県や岐阜県の人から見ると神戸はまだまだ涼しいと言われそうです。

たった30年、40年でこんなにも気候が急激に変動するものなのか。こういうものは数万年単位でゆっくりと変わっていくもののはずですが、それだけ地球内の自然環境が激動しているようです。

暑くなって上着を着ない期間が長くなって、1年の半分以上はシャツ1枚で過ごすようになるのではないかと思っています。

普段から、シャツはなるべく胸ポケットがついたものを選びます。胸ポケットがあることで、ペンを差しておくことができるからです。

でもペンと一緒にメモ帳があればもっと便利なのにと思って、刑事手帳を作りました。

胸ポケットに何か入れるということを、若い人たちはあまりしないのかもしれませんが、昭和の人たちがタバコをそこに入れていたように、刑事手帳なら手帳とペンを入れておくことができます。

小さくて薄い刑事手帳は、季節によって変化する服装にも対応しているステーショナリーです。なるべく薄くなるようにペンホルダーやベルトは付けず、手に持ったまま書きやすいように硬めの表紙にしています。

胸ポケットに入れておくのは薄いメモ帳でもいいけれど、バインダー式のシステム手帳の方が用紙の自由度が高く、一週間の終わりなど、区切りをつけて入れ替えることができます。そしてなるべくかさ張らないようリング径を細くしました。

当店オリジナルのM5リフィルは、よく切れる刃物で紙を切る時のような手応えがありながら滑らかな書き味とインクの収まりの良い名紙、Liscio-1紙に4mm方眼罫を印刷した、シンプルですがこだわり抜いたリフィルです。

紙面が小さいので書く文字は自然と小さくなりますので、4mmという方眼の大きさは絶妙で、使いやすいと思います。

この刑事手帳の今回のロットは、当店のオリジナル革製品の多くを作って下さっているレンマさんが、兵庫県内のタンナーさんに依頼して特別に作っていただいているオーガニックオイルドレザーを使用しています。

その名の通り、タンニンなめしでオイル分を多く含ませることを意識してなめされた革です。使い込んでいくと自然の艶がゆっくりと出てくるとのことです。

美しい艶が出た状態を私もまだ見ていなくて、早々に手に入れて使い始めているレザーペンケースや正方形ダイアリーカバーを使いながら育てている最中です。

手触りはブッテーロより柔らかく、タンニンなめしの革らしいとても良い香りがします。乾いた布や革用ブラシでたまに磨いていただくと、より早く育ってくれると思います。それは急激に変わるものではなく、静かにゆっくりと時間をかけて育てていく楽しみのある革で、そういうところも当店のお客様に合っていると思います。

オーガニックオイルドレザーは刑事手帳の他に1本用ペンシースのレザーケースL、バイブルシステム手帳正方形ダイアリーカバーで作っていただいています。

話をメモ帳に戻すとメモ帳はいつも身に付けておいて、必ずそこに書くようにしたい。いろんなところに書くとメモがどこにいったか分からなくなってしまいます。

メモはどこかに転記したり、パソコンに入力したりすると思いますが、自分が書いたメモも決まった手帳を探す方が見つけやすい。仕事の中では、過去に書いたものを見返すことは意外と多いと思います。

⇒刑事(デカ)手帳オーガニックオイルドレザー

綴り屋万年筆とオリジナルペン先

先週、590&Co.さんのイベントスペースで綴り屋作品即売会を開催しました。

昨年まで、万年筆をお買い上げいただきましたお客様には、当店まで移動していただいてペン先調整をしていました。

でもいくら近いとはいえ不便だし、この暑さは大変だと思い、590&Co.さんに私も同席して万年筆のペン先調整をさせていただきました。

私が調整テーブルを構えていることで会場が狭くなってしまったので、どちらがお客様にとってよかったのか分からないけれど、私は小ぢんまりとしてそれぞれの話が聞こえる、一体感のあるいいイベントだったと思いました。

考えてみると日常的に出入りしているのに、590&Co.さんで調整などの仕事をしたことがありませんでした。でも初めての試みとは思えないくらい自然に、もともとの居場所のようにいることができました。

アーチザンショートなどのスモールサイズの万年筆以外の、アーチザンや静謐(せいひつ)、漆黒の森などは当店オリジナル14金ペン先をセットして販売しています。

オリジナル14金ペン先で今ご要望が多いのは「上弦の三角研ぎ」です。

これは今までの「三角研ぎ」の角を落として、筆記面も滑らかな弧を描くように仕上げたペン先です。

三角研ぎは筆記角度によって線の太さの差が大きく、メリハリが出てとても実用性の高いものですが、上弦の三角研ぎは角度やペン先の向きを気にせずに滑らかな書き味が得られるという特長があります。

その形状通りの滑らかな書き味が得られるペンポイントの研ぎだということが、お客様の感想をお聞きして改めて確認できました。

今回は、イベントに合わせて新たに14金ペン先が入荷しましたので、未研磨のイリジュウムの玉がついた、ペンポイントが大きなペン先もご用意できました。

真ん丸の大きな玉がついていますので、どんなふうにでもできますし、使っているペンに大きなイリジュウムがついているのを見るのも嬉しいものです。

初期状態の真ん丸のイリジュウムのまま(実際は引っかかりが出ないように面取りのようなことはしています)しばらく使ってから、三角研ぎや研ぎ出しなどの何らかの研ぎを依頼されてもいいと思います。当店でお買い上げいただきました万年筆で、1万円以上の新品の万年筆は1年間再調整無料の調整保証書をおつけしていますので、何らかの研ぎをお申し付けいただいても1年以内でしたら料金はかかりません。

そして綴り屋さんのイベント後に仕入れたものが少しあります。

アーチザンコレクションと静謐です。静謐は綴り屋さんを代表する存在のペンで、完成度の高さを感じます。

アーチザンコレクションブライヤーは、ブライヤーの皮の部分を残した仕様で、よく考えつかれたと思います。野生味がありながら、静謐のような造り込みも感じられる、とても独創的な万年筆です。

イベントにはまだ決まった形というものが見つかっていないけれど、お客様に楽しんでいただけるものにしたいと思っています。

⇒綴り屋万年筆TOP

オリジナルペン先の研ぎについて

ペン先の研ぎ〜オリジナル三角研ぎ、上弦の三角研ぎ〜

7/12(土)、13(日)、590&Co.さんイベントスペースで綴り屋作品即売会を開催いたします。今回の即売会のために製作された新作も並びます。

私も会場に常駐し、綴り屋万年筆をお買い上げの方のペン先調整を承れるようにいたします。ぜひご来店下さい。

綴り屋万年筆の静謐(せいひつ)、漆黒の森、アーチザンコレクション(ロング)に、今回のイベントから当店オリジナルの14金ペン先をつけています。これは万年筆コンチネンタルクラシックインスピレーション1985のゴールドニブと同じものです。

オリジナルのペン先は最初かなり大きめのペンポイントがついていますので、それを研ぎ出して万年筆につけています。ペンポイントの大きさ、長さに余裕がありますので、「上弦の三角研ぎ」ができるようになりました。

この研ぎをご説明するためには「三角研ぎ」から説明しなくてはいけません。

万年筆のペンポイントの研ぎによって、文字の形や雰囲気は変わってくると思っています。主観になりますが、ペリカンの万年筆で書いた文字が温かく見えるのは、ペリカンのペンポイントの形状が丸く研がれていてインク出が多めだからで、それがペリカンの特長とも言えます。

パイロットも丸い研ぎですが、字幅によるメリハリがちゃんとあって、細めの字幅ではインク出も抑制されています。

プラチナは中字以上だと丸みのある四角い研ぎになっていて、それが紙への接地面積を稼いでいてまろやかな書き味を得られるようになっています。書く文字にもその感じは表れます。

メーカーそれぞれペンポイントの研ぎの形があって、それが書き味を違える要因のひとつにもなっていますし、縦書き向きか横書きに合っているかなどの使用感も左右するものだと思います。

その研ぎへの執着によってできたのが当店の三角研ぎです。

三角研ぎは大きさが限られたペンポイントで最大限太い、細いの差が出せることを追究した研ぎの形です。

寝かせて書くと筆記面が紙にピタリと接地するので太く、立てて書くと三角形の頂点で書くので細く書ける。

そしてその研ぎの形から書ける文字にキレが出て、ペン先を親指側にひねって書くなど書き方によっては筆ペンで書いたような文字を書くことができます。

オリジナルのペン先ではペンポイントが大きいため、それほど極端に筆記面を作らなくても太い線が書けるので、筆記面をなだらかな孤を描くような放物線としました。

それにより太さの変化がなだらかで、使用感がマイルドになりました。

三角研ぎでは面を合わせて書くとヌルヌルとした滑らかな書き味が得られましたが、上弦の三角研ぎでは面を気にせずとも滑らかな書き味が得られるようです。

オリジナルペン先ほど大きなペンポイントを持たないペン先にも上弦の三角研ぎは可能です。太い線はあまり書くことができませんが、キレのある文字は書けます。

ルーペでみた景色は、三角研ぎは鋭角的でとても斬新な形状になります。上弦の三角研ぎは古典的な長刀研ぎに近い形状になります。

三角研ぎも上弦の三角研ぎも日本の職人さんたちが古くからやっていたペン先の研ぎ方とそれほど違わず、漢字や平仮名を美しく書けるようにしたいと思うとこれらの形に近付いていくのかもしれません。

ペンポイントの研ぎをルーペで見ることは若い頃から好きでやっていましたが、それは今でも変わらず、毎日様々なペン先を見ています。

~変わらない存在~             ル・ボナーデブペンケースプエブロも販売開始

7月12日(土)13日(日)綴り屋さんの作品即売会を、590&Co.さんのイベントスペースで開催いたします。両日15時以降はご予約なしでもご入場可能です。

⇒ご来場ご予約承っております。

イベントスペースには当店の調整士もおりますので、綴り屋万年筆をお買い上げのお客様には、その場でペン先調整をさせていただきます。

綴り屋さんの作品即売会の会場である590&Co.さんのオーダーによるプエブロ革と、以前は当店のオーダーで製作していただいたこともある、エレファントのデブペンケースが出来上がりました。

エレファントはその独特の革目や質感を楽しめる大変丈夫な革です。かなり使い込むとフカフカの表面がツルツルに変化していきます。

プエブロは、同じタンナーバタラッシィカルロ社によるミネルヴァリスシオやミネルヴァボックスと同じようにエージングに特長のある革で、しばらく使ううちにいい艶が出てきます。ご自分でブラシや布で磨いていただくと、より早く艶が出てきます。

それは今回当店のオーダーによって作っていただいたデブペンケース、デンマークソフトカーフと対照的です。

デンマークソフトカーフは静かにゆっくりとエージングする革で、何年か使っていただくと上品な味のある良い風合いに育ちます。

どういったタイプの革を選ぶかは別として、デブペンケースは文房具類を収めて持ち運ぶものとしての大容量さという実用性と良質な革を職人の技で仕立てるというプレミアム感を両立したものとして、ペンケースのスタンダード的存在です。

私は普段持ち歩く鞄は中身がギュウギュウなので、少しでも荷物を減らしたいと思っています。万年筆も専用のペンケースではなく、他の筆記具や文房具と一緒にデブペンケースにガサッと入れています。

しかし、そのまま入れると他のものと当たって傷がついてしまいますので、149ならオリジナルレザーケースMに、M1000やオリジナルコンチネンタルならレザーケースLにと、オーバーサイズのペンを入れてからデブペンケースに入れるようにしています。

そういう持ち運び方なので、オーバーサイズの万年筆の方が軸が肉厚で丈夫なので、持っていても安心感があります。

先週発売開始しましたセーラー万年筆さんに別注して製作していただいたKOPsmoke もオーバーサイズなので、同様に安心して持ち運ぶことができます。

先月、590&Co.さん、フランベルグさんとの別会場での共同出張販売で東京に行ってきました。

出張販売の時は調整機をカートに載せて引いていて、リュックに自分の荷物を詰め込んでいますので、余分なものを持ち運ぶ余裕がありません。

やはりデブペンケースに文房具とオーバーサイズの万年筆を入れて持ち運ぶことになります。

話は変わりますが、代官山の出張の時、新幹線で品川まで行き、山手線で恵比寿まで行っていました。

ギュウギュウの山手線に大きなリュックを背負ってカートを引いて乗り込むのはとても気が引けましたが乗らないと仕方ない。恵比寿についてからも長い坂道を歩いて登り続けて、やっと会場のギャラリーに着きます。

お客様から新横浜から東横線につながる線ができたので、その方が楽かもしれませんよと教えていただき、その通りに今回は来てみました。

時間はほぼ同じですが、電車の込み具合がマシなのと、歩く距離が断然短いし、平らな道なので全く疲れませんでした。

首都圏は行くたびに街が変化し続けていることを感じます。神戸の街はほとんど変わらないけれど、帰るとホッとします。どちらが良いのか分からないけれど、きっと繁栄を続けるには、時代に適応して変化しなければいけないということなのかもしれません。

店のあり方、仕事の仕方、モノについても変わらないものを探し続けて今までやってきました。それが本物だと思ったからですが、今まで見たものではどんなことでも通用する期限はどうしてもあるということでした。

デブペンケースは変わらずにずっと作り続けられていても、変わらずに売れ続けている稀有な存在のモノだと思います。

⇒デブペンケースプエブロ、デンマークソフトカーフ

KOP万年筆smoke


~価値観の転換~スチールペン先のパイロットキャップレス

香水が少なくなってきたので新しいものを買おうと思ってお店に行ったら、以前よりかなり値上がりしていたので買うのを止めてしまいました。

その香水は私にとっての定番でしたが、特に強い思い入れがあったわけではなく、イギリスの好きなブランドのものというだけで使っていたので、別の好みの香りを探そうと思いました。今の値段は私にとっては香水の値段を超えているように感じました。

新しいものをいくつかお店を回って決めましたが、国産の良いものが買えたと思います。今まで使っていたものよりも、自分の価値観を反映してちゃんと選ぶことができた。

今回の香水の件は私にとって価値観の転換という静かな革命で、これからも色々なもので価値観の転換をすることになると思います。

私と同じように色々なものにおいて価値観を転換しようとしておられる方は多いように感じています。

これだけ色々な価格が上がっていたら、モノと価格のバランスが取れていると思わせるものに需要が流れていくのは仕方がありません。供給側の一方的な都合による値上げに対する、顧客の寛大な心は限界をとっくに超えている。

このままでは既存の供給網は自滅の道を辿るしかないのではないか。

為替のせいだとか、金の高騰を理由に値上げをする万年筆にも価値観の転換が当然起こっていると思います。

より値段と質のバランスが取れているものをご案内するのも当店の役割だと思っていますので、これから機会があるごとにそういうものを見つけて扱うようにして、ご紹介していくつもりです。

パイロットキャップレスは当店でも人気のある万年筆です。

手帳用の万年筆というと一番に挙げられる万年筆かもしれませんが、そのキャップレスもかなり値段が上がってしまいました。

しかし、その中でもあまり価格の変わらないものがあります。

ペン先が金でない、特殊合金製のペン先のキャップレスです。

今まで金ペン先のキャップレスしか目を向けてきませんでしたが、最近になってお客様からのオーダーで取り寄せたり、お持ち込みのペン先調整の依頼で手にする機会があって、スチールペン先のキャップレスもペン先調整してお渡しすると、とても書きやすいと喜んでいただけることが分かりました。

金ペン先特有の柔らかさやしなりはスチールペン先にはありませんが、筆圧の影響をあまり受けず、安定して滑らかに書ける良さもスチールペン先にはありますので、より多くのお客様にスチールペン先のキャップレスもお勧めしたいと思いました。

精神的な支柱になるような万年筆や、ステイタス、シンボルになるような万年筆は別として、仕事で書いたり、書くことを楽しむための万年筆はペン先は金でなくてもいいという価値観の転換をしてもいいのかもしれないと思うようになりました。

⇒パイロット キャップレス(ペン先:特殊合金)

パイロットカスタム〜一生ものの万年筆のご提案~

インクの魅力にハマってガラスペンやスチールペン先の万年筆を使っている人も、いずれ長く使うことができる金ペン先の万年筆に興味を持たれると思います。

若い人の中には、金ペン先の万年筆を買うなら一生ものの万年筆を選びたいという方もおられて、若い頃の自分とは違う堅実な考え方に頼もしく思ったりします。

一生ものとして考えると、飽きのこないデザインや色を選ぶということもありますが、修理のしやすさも条件の一つになると思います。例えば限定品などでは、アウロラ、モンテグラッパなどイタリアメーカーの一部に例外はありますが、ある程度年数が経つと部品がなくなり修理できなくなることがあります。

修理のことも考えると、一生ものには定番品から選ぶことをお勧めします。どんなモノでも長く使うとどこかが壊れることがありますが、修理すればまた使うことができる。私も10年以上使っている万年筆は、修理に出したことがあるものがほとんどです。

万年筆は高価なものなので、長く憧れて、資金を貯めて手に入れるということが普通だと思います。定番品だと、それを目指して貯金できます。

長く作り続けられている定番品は、多くの人が使い、その価値を

歴史が証明していると考えています。それは限定品にはない定番品の大きな価値だと思います。

今はこんなご時世なので、国産の生涯使うことができる万年筆に目を向けたい。

パイロットの定番カスタムシリーズも長く使うことができる万年筆です。カスタムシリーズの中で、カスタム742とカスタム743の違い、特長をお話しいたします。

カスタム742と743は同じボディなので、ペン先の違いということになります。*同じボディでも「キャップリングの刻印に黒塗りがされているかいないか」「キャップ上部、尻軸のリングが幅広かそうでないか」などのわずかな違いはあります。

カスタム742は少し大き目の10号のペン先で、ボディとのバランスが良く、穂先の長さも適度なので、寝かせて書くことを意識しなくても自然に書くことができます。厚みを感じる柔らかな書き味で、カスタム743より742の柔らかい書き味を好まれる方もおられます。

カスタム743にはさらに大きな15号ペン先がついています。

大きなペン先ですが、カスタム743の方がカスタム742よりも少し硬めの弾力があるので、長時間ハードに筆記する人にはカスタム743の方が安心感があるかもしれません。

弾力が強く粘りがあるということは、硬筆習字などで筆圧をかけて「トメ・ハネ・ハライ」を表現する書き方にも向いています。

カスタム742とカスタム743の違いは、単に価格やグレードではなく、用途や好みが違いますので、目的によって使い分ければいいということになります。

どちらも書き味の良いペンですが、私が一番優れていると思っているのは、基本的な構造の精密さです。

ペン先の密閉性が高く、インクを入れたままで放っておいても、純正カートリッジなら1年でもペン先が乾かないという話も聞くほどで、カスタムシリーズの基本構造の良さを表したエピソードだと思います。

「いつ書いても普通に書ける」ということも、安心して使うことができる大切な要件で、長く愛用することにおいてとても大切なことだと思います。

⇒パイロット カスタム742

⇒パイロット カスタム743

両店の個性を際立たせる

先日代官山で590&Co.さんとの共同開催による出張販売をしました。

代官山という落ち着いた大人の街が好きで、コロナ前までは毎年出張販売で訪れていました。3年ぶりに再開した出張販売でも代官山は外せないと思いました。

徒歩3分ほどの距離にそれぞれがギャラリーを借りて、両店それぞれで3300円以上お買い物して下さった方には、オリジナルミニエコバックをプレゼントしました。そうやって双方をご案内したせいか、両店を訪問して下さるお客様も多かったので、両店の参加が決まっている京都手書道具市・神戸ペンショーでも企画するつもりです。

このミニエコバックは、大和出版印刷さん、谷本さんの分度器ドットコムさん、当店の共同プロジェクトのオリジナル正方形ダイアリーが革カバーごとちょうど入るサイズです。

私は正方形ダイアリーをこのバックに入れて持ち歩きたいと思っていますが、皆様も何かの用途を見出していただければ何よりです。

いつもは東京に来ても、代官山周辺をウロウロするだけで神戸に帰ってしまいますが、今回は谷本さんと表参道でギャラリーを経営しているAさんを訪ねました。

そのギャラリーは、表参道と青山通りの交差点からそれほど離れていない静かな場所にありました。

新しくきれいな小じんまりとしたギャラリーは、人が4人ほど入ればいっぱいになるくらいのスペースで、いい空間でした。やり方次第で、心を通わせるいい場所を作ることができるかもしれないと思いました。

私も谷本さんも出張販売ではたくさんの商品を持ち込んで、借りたギャラリーいっぱいに商品を並べるというやり方をしているので、何か考え方を変えないとこういういい空間で出張販売はできないかもしれない。でも何かやりたいと思わせるAさんのギャラリーでした。

ギャラリー見学の後、Aさんの案内で表参道の裏手を色々歩いて見て回りました。

日本における最先端の情報を発信している街にあるお店は、どこもこだわりを持ってここで営業しているように見えます。ここに立ち並ぶお店のやり方に対して、私たちの出張販売や普段の営業はどうなのだろう。

もちろん、地方都市神戸にある当店と表参道の店ではやり方は違って当然だと思うけれど、もしかしたらすごく泥臭いやり方をしているのかもしれない。

賑やかな表参道周辺を歩いていろんなものを見ながら、自分たちの仕事について考えることができました。

Aさんには今回とてもお世話になりましたし、食事に同席して下さったKさんのお心遣いにも感謝しました。久し振りの上京が思い出深いものになりました。

590&Co.さんとの共同開催の出張販売を続けて、成功させるためには両店の個性は際立っている方がいいし、扱う品物も違う方がいい。神戸の実店舗も歩いて3分ほどの距離にあるので、重なる部分はなるべく少ない方がいいと思う。

当店の取引先は少ない方だと思いますが、その分強いつながりを感じさせるものをお客様に示したいと思っています。

同じ元町にある革小物を扱うお店、フリースピリッツさんのレンマバルコペンケースを扱い始めていて、代官山でも好評でした。

ミネルヴァボックスで有名なイタリアバタラッシィカルロ社によるプエブロレザーは、ミネルヴァボックスと同じようにはじめはマットな質感ですが、使い込むと艶が出てきて、劇的な色変化をします。少し小振りで、女性の鞄でも入るちょうどいい大きさと安定感のある形をしています。大きく滑らかに開くファスナーが付いている、使いやすいペンケースです。

神戸の工房で隅々まで気を配って丁寧に作られているペンケースは、細々とした雑多な文房具を入れてもいいし、大切なペンを当店のレザーケースSドーフィンに入れて、このファスナーペンケースにさらに入れてもいい。

当店は、こういうものを増やしていくべきなのだと改めて思っています。

⇒レンマ バルコペンケース(ペンケース3本以上収納TOPへ)

⇒レザーケースSドーフィン

オーソドックスなペンケースの形・コンプロット~コンプロット2(ドゥーエ)

先週末、今年1回しかできなかった工房楔イベントが終わりました。

コロナウイルス感染防止策として、人数制限・時間制限のあるイベントになってしまいましたが、今回実際に行ってみると、コロナウイルス禍中でなくてもこういう形態に変わるべきだったのだと思いました。

今までは開店前の店頭に行列ができて、開店と同時に一気にお客様方が店内に入り、店がいっぱいになる。

目的のものがあるお客様は、誰よりも先にそれを確保しなければいけないという状態でしたから、今から思うとあまりにも平成的な(前時代的な)イベントの運営方法だったかもしれない。

時間の制約はあるけれど、皆様が永田さんの話を聞きながらゆっくり選ぶことができた今回のイベントの形はこれからも続けていくつもりです。

ステイホームの期間、家にいることが多くなったためか、少し前から良いシャープペンシルが小学生から高校生までの人たちの興味の対象になっていました。

それで流れができていたのか分からないけれど、今は木製のシャープペンシルがブームになっていて、工房楔のシャープペンシルも若い人たちから注目されるようになっていました。

その只中でのイベントの開催ということもあり、今回はわざわざ遠くから若いお客様が親御さんとイベントに来られているのが目立ちました。

イベントで工房楔さんが持って来られたたくさんのものの中から厳選して仕入れました。今回はコンプロット2をご紹介いたします。

コンプロット2を待っておられた方も多いと思います。

コンプロット10も6、4も同じペンケースではありますが、持ち運ぶということを考えるとどうしても大きく、重くなってしまい、鞄に入れて持ち運ぶのは少し大変です。

コンプロット2は、持ち運びもできる軽さとコンパクトさがあり、これなら毎日持ち運ぶのも現実的なサイズです。しかも開いて机の上に置くと蓋の部分もちょうどいいペン皿のように使うことができます。

コンプロット2には、ノーマルサイズとロングがあります。

ノーマルサイズのコンプロット2でもオーバーサイズのモンブラン149やペリカンM1000、そしてウォールエバーシャープデコバンドは隙間なく収納することができます

ノーマルサイズで長さ149ミリ幅20ミリのペンが入りますので、充分なサイズだと言えます。ちなみにロングには、長さ161ミリ幅20ミリのペンまでが収納可能で、パイロットカスタム漆をイメージして作られたようです。

コンプロット2を重い順に列挙します。 

黒檀ロング(230g)、花梨ロング(181gと168.8g)、楓ロング(147g)、ホンジュラスローズウッド(210g)、キングウッド(188g)、楓(140.8gと139.4g)、花梨(144g)、花梨紅白(131g)、ハワイアンコア(126g)

持ち運びの参考のために重さを列挙しましたが、重い木の目の詰まった硬さも魅力がありますし、磨き込んだ時の艶の出方も魅力がありますので、重さだけで判断することはできないけれど、参考になるかもしれません。

私がペンケースに合った素材だと思っている軽めの楓ちぢみ杢はすごい杢が出ているものが選べたと思っていますが、艶が出やすく模様が華やかな花梨も人気があるし、結局好みということになります。

銘木の自然の模様がその板面に表現されているコンプロットの中で、最も筆箱らしいオーソドックスなペンケースコンプロット2。これにどんなオーバーサイズの万年筆を2本入れて旅に出ようかと考えることが楽しくなるペンケースです。

⇒工房楔・Complotto-2(コンプロット・ドゥーエ)