進化する「こしらえ」

進化する「こしらえ」
進化する「こしらえ」

多くのものを均一に作らなければならない大メーカーの物作りと、職人による物作りとは、根本的な考え方が違うことは言うまでもありません。
質感・エージングともに素晴らしいけれど、個体差のある素材というのは大メーカーの選べないものですが、それを使って、最大の技術で不均一でありながらもそれぞれに魅力を感じさせるのが、職人の仕事だと思っています。

素材的にも加工的にも安全策を取る量産品と、少量製作の職人の品との違いは、使い手の楽しみ方、見方が違います。
職人の仕事に均一さを求めるのはその物の見方が違っていると思うし、量産品の中から個体的に優れたものを求めるのにもどこか無理がある。

量産品だけど許容範囲があって、その中でバラつきがあるペン先をより厳しい目で見て、メーカーに交換を要求する私はメーカーからするとかなりうっとおしい存在だと自覚しています。
ただペン先の優劣はその万年筆に私たちが期待する書き味に影響するから譲れないところですが・・・。

量産品である万年筆を職人仕事のボディと組み合わせたのが「こしらえ」です。
こしらえはパイロットの書き味、性能ともに優れた万年筆、カスタム742、カスタムヘリテイジ912の首軸から先を装着して、使うことができる銘木製のボディです。
書き味の良いことで定評のある国産万年筆におもしろいボディが付いて欲しいという多くの人の願望を実現したものです。
ペン先を刀の刀身に見立て、万年筆のボディを刀の柄や鞘などの装束である拵えに見立てています。
こしらえには、刀身に見合った良い素材と高い技術で作られたものでなくてはなりません。

工房楔の永田さんの素材選びと仕事はそれに見合って、余りあるものだと思っていて、とても良いものが出来たと思っています。

「ボディがもう少し太い方が、キャップとのバランスは良くなりますよ」1回目にこしらえが出来上がって、お客様方からお聞きした内容であり、私も思っていたことを伝えていました。
作り手の都合は全く考えていませんでしたが、永田氏は本気で聞いて取り組んでくれていました。
口で言うのは簡単ですが、一度決まったフォルムを破綻なく構築し直すのは本当に大変だったと思います。

永田氏は努力はしたけれど、それほど変わったとは思っていなかったようでしたが、わずかなボディのふくらみがこしらえにかなりふくよかな印象を与えてくれていて、フォルムの変更が成功していると思いました。
きっと永田氏は私が言わなければボディのアールを変えたことを自分からは言わなかったと思います。
かなり苦心したと、後で告白されましたが、そういうことをアピールしないところに永田氏の職人としてのプライドと奥ゆかしさが感じられ、面白く思いました。

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*画像は花梨リボン杢です