万年筆を使うことを懐古趣味のように言われたりすると、何となくカチンとくることがあります。
私たちは昔を懐かしんで万年筆を使っているわけではなく、一番書きやすいと思う筆記具だから万年筆を使っている。
今の筆記具として万年筆を使っているからで、それを懐古趣味だと言う人は文字を書くということについてそれほど真剣に考えていないのではないかと、かなり偏った考えだけど思うのです。
でも万年筆のそのモノ自体のデザインは過去にあったものをリスペクトしたものがほとんどで、この辺りがなかなか複雑です。
老舗の万年筆メーカーならたいてい過去に名品が存在していて、それらを復刻したり、それらのデザインをモチーフとしたりすることが多い。
そして私たちもそれを歓迎しているところがあります。
ある程度日常的に使う万年筆が用途別に揃ったら、ビンテージの万年筆に理想を求めたりする人も多く出てきます。
確かに車も道楽を極めるとクラシックカーに向かう人もおられるようなので、人はある程度そのものを知ると、古いものに気持ちが向かうのかもしれません。
新しい取り組みだと思われているイタリアの限定万年筆も過去の万年筆黄金時代再来を目指したものが中心となっています。
過去をリスペクトすることが多い、万年筆の業界の中でラミーだけは取組み方が違う、提示する世界観が違うように思って、共感しています。
ラミーの最もラミーらしさが表れている万年筆ラミー2000も、発売が開始された1966年当時、はるか未来の2000年を意識していました。
他の万年筆とは全く違うデザインで、そのモノに当時の人は夢やロマンを感じたのだと思っています。
何度かの小変更を受けながらも、ラミー2000はほぼ発売時のデザインそのままで現代に生き残っていて、いまだに過去を感じさせないどころか、ラミーの先を見据えた仕事振りに、自分もこうありたいとお手本に思います。
2000年の記念にラミー2000のオールステンレスタイプが限定発売され、覚えておられる方も多いと思いますが、今年からカタログにオールステンレスタイププリミアステンレスが加わりました。今度は定番モデルということで、細部の違いはあるようです。
私が覚えている範囲では、ペン先と反対側の首軸の仕様が違うのと、ステンレスの手触りが若干シルキーな感じになっているところが違うと思っています。
54gとかなり重量級のボディですが、オールステンレスのボディはとてもキッチリと作られていて、ラミーの工作精度の高さがうかがえて面白い。
ビンテージ万年筆に行く前にこういう、見て、触って楽しめるペンがあることも知ってもらいたいと思いました。
ラミーのペンは様々なインダストリアルデザイナーがデザインしていますが、とてもラミーらしいと思っているのは、従来のペンのデザインに囚われず、機能的にも意味のあるデザインです。
私が最もラミーらしいと思うペン、それはステュディオです。
ステュディオシリーズはカラー、素材、仕上げなどで様々なバリエーションが存在し、ペン先も金とステンレスがありますが、実用最低限のステンレスペン先にこの万年筆らしさ、存在意義を感じます。
飛行機のプロペラをイメージしたというクリップは、接触面が小さく、服に差した時に布地を傷めにくい、デザインだけでなく機能的にも意味のある仕様です。
マットステンレスには、ゴムのグリップがつけられていて、万年筆においてこれは非常に珍しい素材の選択です。
でも金属製のボディが滑って持ちにくいと思う人も多くおられますので、実用ペン、事務用ペンとしては使いやすい仕様なのだと思っています。
ラミーの万年筆、筆記具のバリエーションは本当に豊富で、その全てはなかなかご紹介できませんが、どのモデルも万年筆を使うことは懐古趣味ではないと主張しているような気がします。