万年筆の書き味は紙質に大きく左右されます。
紙の表面のプレスを強めに平滑に硬くすれば、ペンの滑りが良くにじみの少ない紙になります。
プレスを弱めにして、紙の表面を柔らかくしておけば、書き味はフカフカとした柔らかい紙になります。
大和出版印刷さんの第2世代の万年筆用紙グラフィーロは、紙の表面をローラーや填料でくぼみを埋めて平滑にして、にじみ、裏抜けのなさを追究した紙だと言えます。
グラフィーロは、紙に対して、私たちが嫌だと思う要件をひとつずつつぶして完璧な紙を目指した体育会系的な思考で作られた紙だと思っていて、私は大和出版印刷さんらしい発展の仕方をしたと思っています。
そのやや硬質な書き味から、私はグラフィーロを「辛口の書き味の紙」と分類しています。
第1世代の紙リスシオ・ワンは、初めて大和出版印刷さんが製作したステーショナリーである最初の上製本ノートの用紙として採用した最高の書き味の紙、バガス紙に代わる紙として、万年筆での書き味を追究して開発されました。
書き味という快楽を追究したところに、帰宅部系の私は最高の紙のあり方だと共感していました。リスシオ・ワンはまさに甘口の書き味の紙だと言えます。
リスシオ・ワンは、それを製作した機械が老朽化で廃棄となったため、二度とつくれなくなりました。そこで大和出版印刷さんは再び紙開発をして、グラフィーロを作り上げました。
現在は、大和出版印刷(神戸派計画)の紙製品はリスシオ・ワンからグラフィーロに移行しています。
だけどリスシオ・ワンの商品がこのままなくなってしまうのは、非常にもったいないと思っていました。
当店が装丁文庫ノートをリスシオ・ワンで製作したのも、今のように大和出版印刷さんがステーショナリーの世界で知られる前に取り組んでいた紙の良さも、伝えたいと思ったからでした。
私は1日1ページの日記帳として使われる想定でこのノートを企画しましたが、もちろん他にも使い道はいくらでもあります。皆様がどのようにこのノートを使われるか、楽しみにしています。
大和出版印刷さんが万年筆で気持ち良く書くことのできる紙を作りたいという、情熱だけを持って開発したリスシオ・ワンの紙から私はロマンを感じていて、私たちの仕事のあるべき姿だといつも心に持ち続けていました。
それが10年後このような小さくてコロンとしたかわいらしいノートとして生れ出ました。
リスシオ・ワン紙を使用した他のノートも、この装丁文庫ノートも、万年筆で書くことによって書き味という快楽を味わえるものです。
リスシオ・ワン紙自体は新たに作られることはありませんが、すでに商品となっている他の製品もまだ大和出版印刷さんに在庫があります。この甘口の紙の書き味も味わっていただけたらと思います。