万年筆の仕事が長いので、万年筆を通して知った色々なことを教科書にしてきたような気がします。そしてそれは今でも変わりません。特にイタリアの万年筆メーカーには劇的なことが色々起こり、店の在り方や立場の取り方の教訓としても学ぶところが多くありました。
イタリアのモノ作りの会社の中には、知名度はあるのに家族経営など小規模経営にこだわるところも多くあります。それらの企業はシェアとか売上など規模を大きくすることに興味がなく、グローバルに展開する会社とは一線を画しています。
規模を拡大したり経営を安定させるために大資本の援助を受けたら、 確かに経営的には楽になるかもしれないし、売上も上がるかもしれない。 でも仕事のやり方に口出しされて、利益の目標まで設定されるようになるだろうし、自分たちの考えには添わない仕事でも受けなければならなくなる。
結果として自分たちの原点である理想のモノ作りがしにくくなってしまいます。
小規模なモノ作りの会社が守りたいものは、より大きな売上ではなく、自分たちの流儀に合ったやり方で仕事をして顧客にも満足してもらうこと、自分たちの考え方を貫くことだと思っています。
だから今の生活に特に不満がなく楽しく暮らせているのであれば、それ以上は望まない。その気持ちは私にもよく分かります。マイペースで細く長く続けた方が、ブランド価値の維持にもつながるし、商売の仕方としても堅実だと思います。
個人経営の会社が大切にしていることに夢があります。
会社の論理で言うと、売上が上がるのならどんなこともやるべきだと思うけれど、夢が持てないからやらないという選択も理解できます。
イタリア人の、小さな会社を維持する心構えの影響を私は強く受けています。それが自分の仕事を長く続けることに繋がる心構えだと理解できたからその考えを取り入れたいと思った。それは今では自分の血のようになって、私の思想を形成するひとつになっています。
イタリアがコロナウイルスの拡大がひどい国として報道されています。イタリアに住む友人たちと同じように、当店が勝手に身近に感じているアウロラのことも心配しています。
アウロラは前述したようなイタリアの小規模企業の考え方を体現している会社の一つだと思っています。これまでも様々な世相の変化、困難をくぐり抜け独自経営を貫き、自分たちのモノ作りを貫いてきました。
ブランドの手法などのノウハウが入ったらもっとスマートな仕事の仕方ができるのかもしれないけれど、アウロラは自分たちのやり方にこだわっています。
デザインが良く、万年筆は使い込むと非常に良い書き味に育ってくれます。アウロラのペンが好きだからというのもありますが、会社としての在り方に共感が持てるのは、自分たちの仕事に対して同じように思っているからです。
売上を上げることは会社を継続させるために必要なことで、なぜ会社を継続させるかというと万年筆が好きな人に関わり続けるためであり、それが自分たちの夢であり、理想の生活だからです。
イタリアの老舗万年筆メーカーと日本の小さな万年筆店の共通点は万年筆を扱っているということくらいですが、仕事に臨む心持ちのようなものは似ているのではないかと思っています。