規模を守る、ポリシーを守る生き方

AURORA シガロ 

万年筆の仕事が長いので、万年筆を通して知った色々なことを教科書にしてきたような気がします。そしてそれは今でも変わりません。特にイタリアの万年筆メーカーには劇的なことが色々起こり、店の在り方や立場の取り方の教訓としても学ぶところが多くありました。

イタリアのモノ作りの会社の中には、知名度はあるのに家族経営など小規模経営にこだわるところも多くあります。それらの企業はシェアとか売上など規模を大きくすることに興味がなく、グローバルに展開する会社とは一線を画しています。

規模を拡大したり経営を安定させるために大資本の援助を受けたら、 確かに経営的には楽になるかもしれないし、売上も上がるかもしれない。 でも仕事のやり方に口出しされて、利益の目標まで設定されるようになるだろうし、自分たちの考えには添わない仕事でも受けなければならなくなる。

結果として自分たちの原点である理想のモノ作りがしにくくなってしまいます。

小規模なモノ作りの会社が守りたいものは、より大きな売上ではなく、自分たちの流儀に合ったやり方で仕事をして顧客にも満足してもらうこと、自分たちの考え方を貫くことだと思っています。

だから今の生活に特に不満がなく楽しく暮らせているのであれば、それ以上は望まない。その気持ちは私にもよく分かります。マイペースで細く長く続けた方が、ブランド価値の維持にもつながるし、商売の仕方としても堅実だと思います。

個人経営の会社が大切にしていることに夢があります。

会社の論理で言うと、売上が上がるのならどんなこともやるべきだと思うけれど、夢が持てないからやらないという選択も理解できます。

イタリア人の、小さな会社を維持する心構えの影響を私は強く受けています。それが自分の仕事を長く続けることに繋がる心構えだと理解できたからその考えを取り入れたいと思った。それは今では自分の血のようになって、私の思想を形成するひとつになっています。

イタリアがコロナウイルスの拡大がひどい国として報道されています。イタリアに住む友人たちと同じように、当店が勝手に身近に感じているアウロラのことも心配しています。

アウロラは前述したようなイタリアの小規模企業の考え方を体現している会社の一つだと思っています。これまでも様々な世相の変化、困難をくぐり抜け独自経営を貫き、自分たちのモノ作りを貫いてきました。

ブランドの手法などのノウハウが入ったらもっとスマートな仕事の仕方ができるのかもしれないけれど、アウロラは自分たちのやり方にこだわっています。

デザインが良く、万年筆は使い込むと非常に良い書き味に育ってくれます。アウロラのペンが好きだからというのもありますが、会社としての在り方に共感が持てるのは、自分たちの仕事に対して同じように思っているからです。

売上を上げることは会社を継続させるために必要なことで、なぜ会社を継続させるかというと万年筆が好きな人に関わり続けるためであり、それが自分たちの夢であり、理想の生活だからです。

イタリアの老舗万年筆メーカーと日本の小さな万年筆店の共通点は万年筆を扱っているということくらいですが、仕事に臨む心持ちのようなものは似ているのではないかと思っています。

⇒AURORA 限定品 シガロ

アートと木工の融合

毎年恒例になっていた春の工房楔イベントを、 3月20日・21日に予定していましたが、新型コロナウイルスのことを考えて、延期することにしました。状況が毎日のように変化するので、ぎりぎりまで告知ができず申し訳ありません。

新たな日程は5月2日(土)・3日(日)となります。ゴールデンウイーク中のイベントは初めての試みですが、ぜひご来店下さい。

本日発売の雑誌「趣味の文具箱vol.53」に掲載されている、工房楔永田篤史氏と漆芸作家池田晃将氏のコラボ作品「エクステンダー楔・螺鈿」が入荷しています。

これは数量限定での製作で、店舗を限定しての販売ということで、扱うことが出来てありがたく思っています。

工房楔をご存知のお客様にはもうお馴染みですが、池田昇将氏は先日の銀座の百貨店美術画廊での個展で、初日に全作品完売した新進気鋭の螺鈿作家さんです。工芸である螺鈿を全く新しい解釈で、極小のデジタルな世界を表現して、アート作品に昇華されています。

 いくら腕が良くても、そこに独創性がなければひとついくらで仕事をする職人になってしまいます。それが悪いことだとは思わないけれど、伝統工芸が既存の枠に収まったままでは今の感覚からどんどん外れて行って、いずれ廃れてしまう。 池田氏の活躍は、螺鈿工芸のみならず日本の伝統工芸全ての指針にもなるのではないかと思っています。

 万年筆店である当店が池田氏の作品をいつまで扱うことができるのか分からないけれど、池田氏をこうやってステーショナリーの世界にも連れ出してくれた工房楔の永田篤史さんのおかげで、当店でも取り扱うことが出来ています。

 3柄各2本という大変少ない入荷数ですが、作家さんの作品を間近でご覧いただける機会だと思います。

 ファーバーカステルパーフェクトペンシルが最も贅沢な鉛筆として脚光を浴びたことがありましたが、パーフェクトペンシルはあくまでも製品でした。

 今回の螺鈿付きペンシルエクテンダーは実用的な銘木鉛筆補助軸にアート作品を埋め込んだ、製品を超越したものだと思っています。

 所有した人は、これに鉛筆を入れて実際に使うかどうか分からないけれど、鉛筆を入れて色や姿を合わせて、眺めるだけでも楽しいと思います。

 当店の近くに鉛筆類専門店590&Co.さんができて、鉛筆が身近な筆記具になりました。

 万年筆は私にとって日常の筆記具ですが、何かの下書きを書くときやアイデアをひねり出す時には鉛筆を使いたいと思うようになって、愛用の鉛筆削りで先を尖らせて書くことが多くなりました。

 子供の頃に書いていた気持ちを思い出させてくれる素朴な筆記具が鉛筆で、そんな削って短くなった鉛筆を使う素朴な道具と螺鈿作品のアンバランスさが大変面白い。

短くなった鉛筆が先に付いて初めて、ひとつの世界観を表す作品になると思っています。

*限定商品・工房楔×池田晃将 エクステンダー楔・螺鈿

ペンポイントの美

アウロラ88クラシック F

店の仕事は常に試行錯誤だと言うと、恥ずかしいことなのだろうか。

企画や試みなど、失敗したと思うこともあれば、上手くいくこともあります。もちろん他人事ではなく店がダメになったら生活に困るのだけど。

でも次から次に起るハプニングにどう対処するか、真面目に楽しむしかないと思っています。

今、過去になかったようなことに世の中がなっていて、普通に仕事をすることが難しくて不安も多いけれど、こういう状況の中でどうやって仕事をするか正解はない。どうすれば店を守ることにつながるのかというふうに考えるようにしています。

自分がやりたいこと、楽しいと思うことをやってみて、何が世間の人に反響があるかを聞いてみるのもその一つです。

今取り組んでいるのは、ペンポイントの拡大写真をお見せして、その美しさを感じてもらうというものです。

私がいつも見ている、25倍のペンポイントの景色を皆さまにも見てもらいたいと思いました。どれくらいの人が私と同じようにペンポイントを美しいと思ってくれるのか、これは定着するものなのか見てみたい。

万年筆の仕事を始めた頃からルーペでペンポイントを見て、その書き味を確かめてきました。これが今の自分の仕事をする上での財産になっていると思います。

ルーペで見るペンポイントは美しい。軸の美しさや書き味の良さと同じように、これも万年筆の価値のひとつだと言えます。

メーカーのよって、ペンによって様々な書き味の違いがあるように、ペンポイントの形も本当に様々です。

一度見たペンポイントは記憶のどこかにあって、かなり月日が経って同じペンポイントを見た時に以前に見たことがあると思い出すことがよくあります。

ペン先調整に際して、私はまずルーペで見ているペンポイントが一番美しく見えるようにしたいと考えていて、そこからご希望や書き方に合わせていきます。

ペンポイントの美しさを構成する要素は、「形」「左右の関係」「光沢」の3つだと思います。

その形とは、書きやすそうな形、書き味がよさそうな滑らかな曲線の美しい形であること。

万年筆は書くためのものであるので、その書くという機能を高い次元で実現できそうなペンポイントの形が美しい形だと思っています。

左右の関係とは、切り割りを中心とした左右のペンポイントの関係です。食い違いがないことは当然ですが、開き過ぎていても不格好です。適度に寄っていることがペンポイントの美しさを構成する左右の関係において重要です。

そして光沢も重要です。

必要以上にペンポイントを磨くと光り過ぎて、冷たい感じの光沢になってしまいます。わずかに白みを帯びたような鈍い光沢を持つものが美しいペンポイントの要件として重要だと思っています。

高倍率のルーペを見るのにも慣れが要るし、ペンポイントを見るのもある程度数を見ないと見所が分からないかもしれないけれど、見ているうちに分かっていただけると思います。

写真は先日入荷したアウロラ88クラシック<F>です。アウロラのペンポイントは丸く仕上げてあるのが特長です。筆記角度の許容範囲が広く、使い勝手の良さそうな大らかな使い心地のペン先と言えます。

ラマシオンの時計

ラマシオンの時計をつけ始めて3ヶ月ほど経ちました。結婚して25年経って、その記念となるものを形として残しておこうということになり、大きさだけ違えて同じ時計を2つ作りました。

それまで使っていたセイコーの時計は20年くらい毎日つけていたけれど、ラマシオンの新しい時計をつけるようになってから、数日で止まってしまった。

時計屋さんに持ち込んだけれど、直すのはもう難しいとのことで、1年ほど前にこれが最後の修理になりますという最後通告を受けていたので諦めがつきました。

今も裕福ではないけれど、ウチがもっと慎ましく生活していた頃に、妻が苦しい家計をやりくりしてくれてプレゼントしてくれた時計だったので、初心を忘れないためにも無理矢理修理して使い続けていた。

でもその時計は苦しかったときのことを思い出すから妻は好きではないと思っていたことが、時計を諦めたときに分かり、それからラマシオンの時計だけをつけています。

ダグラス革のベルトは、3か月経って自然に艶が出て来始めています。革ブラシで磨いて艶をだそうかとも思いましたが、時計というものの時間を考えると服に擦れて自然に艶が出るくらいゆったりと構えたいと思いました。

シチズンミヨタのムーブメントは結構正確で、1日では誤差も出ず、機械式時計の中ではかなり正確な方なのではないかと思います。日本製のムーブメントへの信頼性は高いと思われますので、シチズンのムーブメントを採用しているのはこの時計にとってアドバンテージだと思います。

バスや電車に乗る時、ペン芯を温めてペン先と密着させる時には必ず時計を見ます。

気に入っている時計はそういう日常のちょっとした時間を楽しいものにしてくれるし、他に同じものをしている人がいない自分だけの仕様だと思うとより嬉しく感じられます。

ラマシオンの吉村さんと作った当店オリジナル仕様の時計もシチズンミヨタのムーブメントを使用していて、安心して毎日使うことができます。

ダイヤル部分には、当店らしい素材として花梨こぶ杢を、ベルトにはこれも当店らしい素材ダグラス革をカンダミサコさんから譲ってもらって使用しています。

どちらも時計にはあまり使われることがなかった素材ですが、万年筆店である当店が発売する時計らしいものだと思います。時計も万年筆などの筆記具も、毎日を楽しくしてくれるものだと思っていて、それを提案することが当店の役割のひとつだと思っています。

⇒ラマシオン メンズウォッチTOP

⇒オリジナル機械式腕時計スケルトン文字盤

タフな道具としての万年筆

ペン先が柔らかくて書き味を楽しめるもの、書いていること自体が楽しいと思える万年筆もいいけれど、タフな道具としての万年筆のあり方に万年筆に惹かれる原点のようなものがあって、そういうものも持っていたいと思います。

いざという時、とにかく書かなければいけない時に、書くことに集中できる万年筆の代表的なものがモンブラン149とペリカンM800だと思っています。

オーバーサイズの149とレギュラーサイズのM800を同列で比較するのは不思議な感じがするかもしれないけれど、モンブランはオーバーサイズの大きさが自然に握れる万年筆だと考え、ペリカンはレギュラーサイズをそう考えたのだと思います。そういう点で、この2本の万年筆は同じ方向性にある万年筆だと思っています。

どちらも書くということだけを突き詰めた硬いタフなペン先と、自然に持てて書くことに集中できる、慣れると代わりが利かないほど馴染むバランスの良い万年筆です。

同じモデルであっても、万年筆は時代を得て少しずつ変化しています。

技術の進歩によって効率的なもの作りがされるようになって、素材は扱いやすく大量生産に向いた素材に変わり、技術もより効率の良いものに変化しています。柔らかいペン先も少しずつ硬いものに変わってきています。

それは万年筆を使う人のノスタルジーから言うと寂しいことだけど、仕方ないことなのだと思います。昔ながらの物作りが理想だったとしても、例えば万年筆が今の10倍の値段になったら誰も買わなくなってしまう。

モンブランは部品点数の少なさから、さすがに効率よく作られているように見受けられ、今の物作りの最先端を行っていると思います。

個体差が少なく、どれも同じように問題なく書ける。だけど、そのままではどこか味気ない。

ペリカンは手間のかかる縞模様を今も作り続けていて、ほとんど変わらない値段で販売しているのはすごい企業努力だと思うし、好感が持てる。

ペン先の状態に関しては、若干個体差が多く、インクの出の多い少ない、書き味の良し悪しにバラつきがある。

現代の物作りでも、ペン先の調整はきっとどうにもならない。

当店は書き味をより潤いのあるものに、そして一番良い状態にすることが今の時代に万年筆店をさせてもらっていることの使命だと思っています。

文豪のように猛烈に文字を書くこともできる2本の万年筆。

モンブランはそのブランドイメージから何となくエリート的な、ステイタスシンボルとしての万年筆のイメージを持ち、ペリカンには少しマニアックな文房具の延長としての万年筆の印象を持っています。私はエリート的なものへの反発心から、ペリカンに好感を持っているのは、昔の、巨人に対しての阪神フアンの心境と同じなのかもしれない。

でも、モンブラン149はステイタスシンボルというだけのものでは決してないし、ペリカンM800は趣味のものというよりも毎日使う完璧な仕事の道具だと思っていて、物作りが変化してもそれに変わりはない。

私たちが万年筆で書きたいと思った原点を振り返った時、こういう万年筆を求めていたのではないかと思い出すもの。

生産工程が変化しても変わらず存在し続けている書くための機能を突き詰めた2本の万年筆。

当店は現代の万年筆に足りないものを少しだけ足して、この2本の万年筆がいつまでも書くことにおいて完璧な機能を備えた万年筆であり続ける手伝いをしたいと思っています。

⇒モンブラン マイスターシュトゥック149

⇒ペリカン M800万年筆

〜自分の色〜 アウロラフラコーニ100インク発売

木工家の工房楔・永田篤史さんはオレンジ色が好きで、永田さんを知る人はオレンジ色を見ると永田さんを思い出すほど、それは自他ともに認めるものとなっています。

好きなオレンジ色のものを揃えて、そのオレンジ色好きを周りに刷り込んで、印象付けてきた永田さんの徹底ぶりがすごいと思いました。

私にはそのくらい好きな色が今までありませんでしたが、ある時からモスグリーンやアーミーグリーンのような色のものに惹かれるようになって、お店で見つけると買うようになりました。

インクもあまり決まった色がなく、ブルーやブルーブラックなどの無難な色の中からそれぞれのペンの用途に合う理想的なインク出になってくれるものを使うという、どちらかというと、インクを色ではなく性質で選んでいました。

私も日常的に、モスグリーン系のオリジナルインクCigarやクアドリフォリオあるいはエルバンエンパイアグリーンを使えるようになるだろうか。

昨年創業100周年を迎えて、限定万年筆を連続して発売していたアウロラが100周年記念インクを発売しました。

万年筆のインクの色として定番の色を押さえながら、それぞれの色の世界観がイタリアの遺跡やアート作品で表現されていて、そちら側からそのインクに惹かれる方もおられるかもしれません。

中身は今回の企画のために新たに作られたものですが、ボトルは1930年代から40年代にアウロラが発売していたものを復刻しています。

前述しましたが、アウロラは昨年100周年ということでかなりの数の限定品を発売しました。それらはもちろん今しか買うことのできない、通常はない仕様のもので素晴らしいけれど、当店としては今年もう一度定番品に立ち戻りたいと思っています。

少し小振りで華やかなオプティマはアクセサリーのようで、女性の方にもお勧めできますし、88は男性の方の一生もののペンの候補として、ぜひ一考して欲しい万年筆です。 

私はイタリアの製品の良さの一つは流行に流されないところだと思っています。各社自分たちの美意識をしっかりと持っていて、デザインを流行とは違うところで作り上げている。

アウロラの万年筆にもそれをいつもそれを感じていて、そういうものが生涯愛用するのに相応しいものではないかと思っています。

⇒AURORA 88ゴールドキャップ

⇒AURORA オプティマ ロッソ

細く書く

「三菱ジェットストリームエッジ」というボール径0.28ミリの油性ボールペンが発売されて、そのデザインの良さもあって、とても興味がありましたのでいくつかの店舗を回って手に入れました。

同じ三菱でも、水性染料インクの0.28ミリは書き味がガリガリと感じられましたが、このエッジは同じ太さなのにヌルヌルと気持ちよく、大変細い線を書くことができます。インクが粘度を抑えた油性ということもあるのかもしれませんが、品切れするお店が続出するほど売れているのも分かる気がしました。

ボールペンや線引きペンの方が細く書くことに関して有利に思われがちですが、私は万年筆の細く書く機能も侮れないものがあると思っています。

国産の極細(EF)などはジェットストリームエッジに見劣りしない細い線を書くことができます。

油性ボールペンのインクは、すぐに紙に浸透しないので、書いてしばらくして手が触れると筆跡がこすれることがあります。でも万年筆のインクの場合は比較的早く紙に浸透してくれますので、しばらくしてこすっても筆跡が流れることはない。これは私の個人的な経験なのかもしれないけれど、そういった万年筆が有利な点もあります。

細く書くことができる万年筆、国産のFやEFのペンについて考えてみました。

例えばパイロットカスタム74とプラチナセンチュリーを比較すると、そのフィーリングや書いた線の感じが違います。

2つのメーカーの金ペン先を比較すると、パイロットはペン先が柔らかめで、プラチナは硬めということになります。

少しマニアックなペン先調整の話になりますが、パイロットは標準の状態で、ある程度ペン先の寄りを強くして調整してあります。そのため軽い筆圧で書くととても細い線を書くことができますが、筆圧がかかると線が太くなります。

プラチナは多少個体差がありますが、適度に寄せてインク出をある程度抑える調整が施されています。

柔らかいペン先は筆圧のわずかな加減で線の太さが変わりますので、柔らかいパイロットの方がシビアな筆圧のコントロールが要求されます。そうなると硬めのプラチナの方が筆圧の影響を受けにくいので、安定して細い線を同じ濃さで書くことができる。細く書くということに関してはプラチナの方が扱いやすいと思っています。

そしてプラチナにはEFよりもさらに細いUEFなるペン先があり、こうなるとその細さにおいて他のメーカーを凌駕します。

細く書く、それもとても細く書くということに関して、以前からプラチナにある程度そのイメージを持っていますが、それは今も変わらず伝統的に受け継がれていることを今回改めて思い出しました。

いろんな好みや用途がありますが、三菱ジェットストリームエッジのような細い線を例えば手帳に書くという用途に関して言うと、プラチナセンチュリーが使いやすく、お勧めできるものだと思っています。

⇒プラチナ萬年筆 センチュリー

インクブームの置き土産・ジュエリーインクとガラスペン

台湾のジュエリーデザイナー、インクコレクター  Ya-Ching Lai さんがデザインした Ya-Ching Style のボトルインクが入荷しました。

Laiさんはインクコレクターとしても有名で、海外で起った日本のオリジナルインクブームを牽引した人のうちの一人だと思います。

Ya-Ching Styleのインクは、 超高研磨技術で高輝度にダイヤモンドカットされたボトルに入っていて、本業であるジュエリーデザイナーらしいこだわりが表現されています。底にはキャップがちょうど入るサイズの凹みがありますので、2つくらいならブロックのように重ねて置くこともできて、遊び心も感じさせてくれます。

6色のインクは宝石から着想を得て作られていて、全て顔料インクです。台湾のインクは淡い色のものが多く、これも台湾流だと思っていますが、 Ya-Ching Style のインクも淡めの、とても上品な色のラインナップになっています。

顔料インクというと、色が濃く、ベッタリと塗りつぶすようなイメージがありましたが、このインクはジュエリーインクの名前の通り透明感のある色です。

顔料インクは紙の性質にあまり左右されず、どの紙にも同じように書けるところも特長です。少し値段の高いこのインクの使い方について考えてみました。

私は万年筆に吸入させて使ってみましたが、特に詰まりやすいとか、出が極端に少なくなるなどのトラブルはありませんでした。

でもこのインクが一番似合う用途は、ガラスペンとの組み合わせだと思いました。

ガラスペンで書くと万年筆というフィルターを通さなずダイレクトに紙にインクが乗りますので、インクの色が濃くなります。

Ya-Ching Style のインクは、濃度を上品に抑えていますので、ガラスペンで書いてもインクがそのまま紙に乗っているような強さはないし、顔料インクなのでにじみもありません。

当店で取り扱っている、岡山のガラス工房aunの江田明裕さんのガラスペンは、細字でも滑らかに書くことができるのがそのデザインと同じくらい特長的で、まさに万年筆店で扱うのに相応しいガラスペンだと思っています。

江田さんとは、2年半ほど前に私が定休日に倉敷に出掛け、美観地区を散策している時に、たまたま出会いました。様々な工芸作家さんが集まっている一角の一番奥に江田さんの工房があって、一目でガラスペンがあると分かりました。

試筆させていただくと、細字がものすごく細いことと、それでいて引っ掛かりもなく滑らかで、硬いガラスなのに柔らかささえ感じる書き味に驚きました。

その時当店はまだガラスペンを扱っていませんでしたが、インクブームの真っただ中で、当店もガラスペンを扱う必要性を感じていましたので、とてもタイミングの良い出会いでした。

江田さんのガラスペンを安心してお勧めできるのは書き味だけではありません。例えばペン先を欠けさせてしまった場合でも、往復の送料だけで無料で直してもらえます。ガラスという繊細なものですが、直して使うことができるのです。

インクブームは当店のような小さな店も巻き込まれて、その恩恵を受けました。当店がオリジナルインクの新色を積極的に発売しないからそう感じるのかもしれないけれど、ブーム自体はかなり沈静化しているように思います。

でも、台湾の Ya-Ching Style のボトルインクと江田さんのガラスペンは、インクブームの置き土産として当店の品揃えに彩りを与えてくれています。

Ya-Ching Style ジュエリーインク

⇒aun工房江田明裕ガラスペン

モンブラン149 オーバーサイズの中心のピース

万年筆店として、思い描く理想の品揃えがあります。それでも意外と様々な制約があって一気に揃えることはできないけれど、少しずつ近づくためにその理想を持ち続けています。

モンブランもそんな理想の品揃えの中に入っていました。

でも私の理想はモンブランも他の万年筆と同列に扱って、他の万年筆と比較してもらいたいというもので、それはブランドであるモンブランが希望するものとは違っていました。

別に状況が変わったわけではないし、時代がそうなってきたと言うと煙に巻くような言い方ですが、 定番のスタンダードモデルマイスターシュテュックに関しては、当店の理想とするモンブランの扱い方ができるようになりました。

オーバーサイズの万年筆には本当に魅力的なものが揃っていると思っています。その中でもモンブランマイスターシュテュック149は最も有名で、スタンダードな存在です。

オーバーサイズの万年筆をいくつか挙げると、当店が独自に輸入しているウォール・エバーシャープ社のデコバンドは、無駄が一切ない149と違って、ゴツゴツとしている無骨なデザインが魅力だし、吸入メカニズムの仕掛けや書き味など、楽しむための要素が多い万年筆だと思っています。

149が入って比較する対象ができたことで、デコバンドの良さもまた伝わりやすくなったのではないかと思います。

またペリカンM1000は味わいのある万年筆です。控えめな遊び心があるけれど、シンプルでスッキリして見える。M1000のデザインから、濃厚で甘い書き味が生まれるのが不思議な気がします。

モンテグラッパエキストラ1930は、ボディはそれほど大きな方ではありませんが、そのペン先の大きさからオーバーサイズ万年筆と言ってもいいのではないかと思います。

シルバーの金属パーツやセルロイドのボディとの組み合わが醸し出す佇まい、大きなペン先から生み出される粘りがあるような上質な書き味は、どのオーバーサイズペンに勝るとも劣らない万年筆だと言えます。

そういったオーバーサイズの万年筆の中にあって、モンブラン149はそれらの万年筆に少なからず影響を与えている、思想的なベースとなった超スタンダードな存在の万年筆です。

面白味は少ないかもしれないけれど、多くの万年筆のお手本となった最も万年筆らしいオーソドックスで洗練されたデザインと、書くことを仕事としている人が書かなければいけない時に信頼できる頑丈さがこの万年筆の特長で、何か万年筆を1本だけ選ばなければいけない時に選ぶような万年筆なのかも知れません。

でも本当はモンブラン149について評価するのは非常に怖い。なぜなら多くの人が愛用していて、この万年筆を特別なものとしているからです。

それがモンブランマイスターシュテュック149で、この149が入ることで、当店もポッカリ空いていたパズルの中心のピースがはまったような気がしています。

当店ホームページ、モンブランマイスターシュテュック149のページ

大人の色、大人のペン

左・アウロラシガロ 右上・アウロラ88クラシック 右下・アウロラオプティマ365タルタル―ガ

当店のオリジナルインクは8色あって、お店限定のインクが大流行している今となっては、それは決して多い方ではないけれど、落ち着いたいい色が揃っていると思っています。

ここに何色を足せばいいのか今のところ思いつかないし、インクブームだからと無理に発売しようとは思いません。

オリジナルインクはそれぞれの店の万年筆にまつわる世界観を表現するものとして大切な商品だと思って、当店も創業間もなくから扱ってきました。

最初、四季に応じてインクの色を変えたらいいと思って「朱漆・朔・山野草・冬枯れ」の4色だけを作りました。

ブームが始まるまではそれほど売れるものではなかったけれど、京都のインディアンジュエリーのお店リバーメールさんとのコラボ企画「WRITING LAB.」のオリジナルインクも増えて、今では8色になっています。

今回は当店のオリジナルインクのCigarについて少し触れてみたいと思います。

四季に当てはめて企画した「朱漆・朔・山野草・冬枯れ」に対して、Cigarは少し異色に感じられるインクだと思います。

色は、書いたばかりの時クアドリフォリオのインクと同じくらい緑色ですが、インクが乾くと葉が枯れたように茶色っぽく変色するというもので、面白い存在のインクです。

季節で言うと秋と言えなくもないけれど、今では時代遅れになってしまった男っぽさのようなものを、同じく時代遅れになってしまったCigarというもので表現してみました。

しかし、このインクで表現した男っぽさとは裏腹に、女性の方にも多く使われていて、そして色が変わるというのが新鮮に思われて、インクとしては時代遅れでもなかったのかもしれないと思いました。

でも枯れていくような感じ、落ち着いた色合いから、このCigarのインクはやはり大人の色、大人の人にこそ似合う色だと思っています。

Cigarのインクに最も似合う万年筆として、当時オマスで金キャップの当店別製の万年筆を作りましたが、それも完売してしまいましたので、同じく金キャップに黒ボディのアウロラ88クラシックを挙げたいと思います。

黒ボディに金色キャップの万年筆は、1980年代から90年代はじめまでは各メーカーからよく発売されていましたが、現代ではほとんどなくなってしまい、アウロラ88クラシックが唯一の存在になってしまったと思われます。まさに時代遅れの万年筆です。

Cigarのインクが似合う万年筆として、アウロラの限定品シガロもよく似合います。

このインクを入れるためにアウロラが作ったのではないかと思えるくらい、ピッタリのペンです。シガロはアウロラでは珍しく真鍮にラッカーと塗装を施したボディの万年筆で、そういった点でも発売当時はアウロラの意欲が感じられました。

ズシリとした重量感がありますので、より18金ペン先の柔らかさが伝わりやすく、書き味の良い万年筆。

アウロラは定番の万年筆には、14金ペン先、限定品には18金ペン先を装着して、差別化しているけれど、書き味の違いは非常に大きいと思います。

14金は硬めで柔らかく書けるまでに時間がかかりますが、18金はわりと初めから書き味良く感じられます。

そしてCigarのインクに似合う万年筆として、もう1点だけどうしても載せたかった、アウロラの限定品「オプティマ365タルタルーガ」。

鼈甲をイメージしたレジンをボディに使用していますが、こんな色の万年筆を見たことがありません。鼈甲なのにオリーブ色のような緑色も感じられて、Cigarのインクがこの万年筆から出てくるのは、ピッタリとはまり過ぎなのかもしれません。あまりにも良い組み合わせです。

気がついたら、アウロラのペンの紹介になってしまったけれど、シガロもタルタルーガも過去の限定品ですが、あと数本だけ、在庫がございます。大人にふさわしい万年筆として、お勧めのモデルです。

*アウロラ シガロ

*アウロラ 88クラシック

*アウロラ オプティマ365 タルタル―ガ