先日から、ロゴの箔押しをして下さった神戸須川バインダリーさんと、シビアな穴あけ作業を担当して下さった村井製本所さんの工場訪問記をブログに書いてきました。
読んで下さった方の中には私も行きたかったと言って下さる方もおられて、自分は恵まれているのだと思いました。
実はそれらの大人の社会見学に行っていたのは、こだわりを込めた当店オリジナルのミニ5穴リフィルを作るためでした。
ミニ5穴の小さな紙面でも万年筆での書き味を楽しみながら書きたい。そしてそれを綴じた手帳の風景も楽しみたいと思って作ったリフィルです。
大和出版印刷さんのLiscio-1(リスシオ・ワン)紙は、万年筆の書き味において群を抜いている最高の紙だと思っています。
しかし印刷業界が直面している問題、需要の低下、設備の整理などで、Liscio-1を製紙した機械が廃棄処分になり、二度と作ることができなくなってしまいました。
大和出版印刷さんのLiscio-1製品は、在庫がなくなり次第廃番になっていますが、当店と大和出版さんが使うことができる原紙状態のLiscio-1の在庫はまだ残っています。
それを使って今回のM5リフィルを作りました。
オーソドックスな4mm方眼罫のリフィルで、記録などに使いやすいものを心掛けました。
このリフィルには、ネイビーの厚手の紙が2枚入っています。これは仕切りとして、手帳を開いたときの景色を美しくするために使っていただければと思います。当店のロゴを目立ち過ぎないように、透明の箔で押していただきました。
これは何色もの箔押しを神戸須川バインダリーさんで試してもらった中から選びましたが、今回はこういう細かなところにもこだわることができました。
手帳の革の表紙を開けた時にいきなり色々書き込んだページがあるのは興がそがれる。
記入するページが始まる前に落ち着いた色の紙があって欲しいと思います。
同じ目的で、ディバイダーも作りました。
ディバイダーは手帳の最初のページに挟んでもいいけれど、間に挟んで付箋などをつけてインデックスとしてお使いいただくこともできます。
色も、ネイビーとルビーの2色をセットにしています。
こういった手帳の中の世界を演出するものも以前から作りたかった。
プラスチックのものはよくありますが、それらは手帳の中の世界をどことなくチープにしてしまう。手帳の中身を演出するのに、インデックスは重要な役割を持っていると思っています。
シンプルな4mm方眼罫のリフィルと2色の紙のディバイダ―ですが、M5システム手帳を楽しみながらお使いいただく役に立つものだと思っています。
⇒オリジナルM5リフィルTOP・4mm方眼罫/ディバイダ―cbid=2557112⇒オリジナルM5リフィルTOP・4mm方眼罫/ディバイダ―csid=5″ target=”_blank”>⇒オリジナルM5リフィルTOP・4mm方眼罫/ディバイダ―
~それぞれの筆記具の用途~ 工房楔のシャープペンシル
先日訪問しました王子公園駅近くの590&Co(こくえんあんどこー)さんで、たくさんの鉛筆や芯ホルダーを目にして刺激を受けました。
私が万年筆で書くことの楽しさを伝えたいと思ったのと同じように、きっとその店の店主さんも鉛筆など黒鉛芯の筆記具に夢中になっていて、専門店を作りたいと思ったのだと思います。
私たちの仕事は自分の「面白い」を人に伝えることだけど、そのお店からはちゃんとそれが伝わってきた。私も万年筆だけでなく、用途に応じて鉛筆やシャープペンシルも使いたいと思いました。
万年筆は書き味の良い筆記具で、私などはその書き味を味わいためにどんな用途にも万年筆を使いたいと思ってしまいます。
でも万年筆には万年筆の適正のようなものがあるのだと思います。
手紙を書いたり、手帳やノートに記録を残すなどの用途には万年筆が合っていると思います。
万年筆はインクが乾くという問題がありますので、例えばキャップを開けたまま長時間考えごとをするのは向いていません。
私はブログやペン語りなどの文章を考えることが多いのですが、いつもまず下書きをしています。
文章を考えながら直にパソコンで打ち込むと言うことができないので、ノートに下書きして、校正しながらパソコンに入力している。
下書きをするときに頭の中でかなり考えて、組み立てて、一気に書き上げるような時はいいけれど、例えば今回のように苦しみながら文章を書いている時は手が止まることが多い。そんな時はシャープペンシルの方がいいのかもしれません。
そう考えると、シャープペンシルは頭の中にあるものをポツポツと書き込むような用途に向いていて、それは思考の道具と言えるのかもしれない。
最初にセットされているシャープペンシルの芯を入れ替えて、好みの濃さや色に替えたりカスタマイズできる部分があるのも面白い。
ところで日本のシャープペンシルのユーザーは、中学生、高校生、大学生など、学生が多いのかもしれません。
文房具店で販売されているシャープペンシルの多くは、機能は素晴らしいけれど、学生向けのデザインのものが多い。大人がビジネスの場で使えるものは少ないと思います。
だけどこの分野なら当店にもできることがあります。
工房楔の永田さんは、シャープペンシル、芯ホルダーなど黒鉛系のものを多く作っています。
こだわって選んだ銘木の、杢の良い部分をペンのボディにしていますので、同じ材でも同じものは絶対ありません。大量生産の製品とは一線を画しています。
工房楔のペンシル系の筆記具。大人の思考の道具として、幅広い年齢層の人に使っていただけるたらと思い、当店も力を入れています。
子供向けにきちんと作られた大人の仕事~ラミーサファリホワイトブラッククリップ~
始めての万年筆を買おうと、一見さんだと入りにくい当店に若い人が勇気を出して来て下さることがよくあります。
わざと入りにくくしているわけではありませんし、人から言われるまでそのことに気付かなかった。
入りにくい原因は、当店が半地下にあるため階段を3段降りなければならないからかもしれないし、店内が見えて、中にいるお客様全員が常連さんに見えるのかもしれません。でも彼らは入ってきてくれます。
もっと買いやすいお店はいくらでもあるのに、当店で万年筆を買おうと思ってくれることが、ものすごく嬉しい。
もし何を買っていいのか分からなければ、私がいろいろ選んでご提案します。
いずれにしても、最も書きやすい状態にして、インクも好きなものを選んでもらって、使い方もちゃんと説明して、インクの入れ方も目の前で実演してお渡ししています。
初めて万年筆を使うという人が来てくれると、この店はまだ大丈夫だと思えます。若い人にも選んでいただける店でなければいけないと思うので。
あまり低価格な万年筆は置かないようにしようと思っているのですが、ラミーサファリだけは置いておきたい。
前述の、初めて万年筆を使う人から選ばれることが多いというのも理由ですが、サファリは万年筆の中では安めの価格帯の万年筆でありながら、もっと高価な万年筆にあるような、使っていることに誇らしさが持てるようなところがあると思っているからです。
私たちが万年筆に惹かれるのは、万年筆から教えられるものがあるという側面もあるからです。
例えばサファリなら、インク残量を見やすいように窓が空けられているとか、尻軸にキャップを付けなくてもペンが転がらないようにボディに平面がつけられているとか、子供がカバンのストラップにはめても広がらない頑丈なクリップがついているなど、ターゲットとする人が快適に使うための仕組みが価格という制約がある中でちゃんと込められていて、価格が安いことを言い訳にしていない。
サファリの起こりは子供たちが使う学童用の万年筆です。安い価格で、機能をきちんと満たした、大人の仕事がされている子供向けの万年筆です。
サファリは毎年限定色を発売していて、今年はピンク、ブルー、グリーンのパステルカラーを出して、私たちを驚かせましたが、そのラミーらしからぬ色も後々伝説になるだろう。
今年はもうひとつ、日本限定仕様としてブラック金具のホワイトのサファリが発売されました。20年近く前には定番としてあったモデルですが、今回初めて見る人にはまた新鮮に映ると思います。
もちろん、初めて使う万年筆としてもお勧めいたします。
⇒LAMY(ラミー)TOPcbid=2557105⇒LAMY(ラミー)TOPcsid=9″ target=”_blank”>⇒LAMY(ラミー)TOP
東京出張販売後記
7月18日~20日の、東京での出張販売が終わりました。
首都圏はインターネットのお客様も多く、アフターサービスのためにも当店が行かなければいけない場所だと思っていました。
東京にはたくさんのお店があるし、お客様方も目が肥えているので、相手にされないのではないかと厳しい反応を予想しながら昨年から始めましたが、想定していたよりずっと多くのお客様が来て下さり、自分自身も楽しい出張販売になりました。
東京での出張販売の特長は、私たちが売りたいもの、新しいものが売れるということ。
普段伝えたいと思っていることがちゃんとお客様方に伝わっていて、それに鋭く反応して下さっているような手応えをいつも感じて、励まされます。それに、来て下さるお客様方は皆温かかった。
来年また新しいネタを用意して、同じ場所に行こうと思いました。
来年はオリンピック開会式の前の週、7月16日(木)~19日(日)にギャラリーを確保していて、この期間内3日間を予定しています。
出張販売の場所、代官山の駅の東側は、西側よりも落ち着いた大人っぽい場所だと思っています。
当店が元町駅西口という三宮、元町の喧騒から外れた場所にあって、お洒落度は違うけれど、その感じとよく似ています。
朝ホテルから出張販売に向う時や、一日が終ってどこか手近なところで晩飯を食べてホテルに帰ろうと歩き出す時の、静かな街の雰囲気も気に入っている。
神戸の当店の近くと違って、やる気に満ちた若いクリエーターたちが多く歩いていて、おじさんも頑張らなければいけないと、この街から受ける刺激も自分には必要だと思う。
借りているギャラリーは、コンクリートの壁に白い漆喰を塗っただけの飾り気のないものだけど、その装飾のない簡素な内装が自分の美意識に合っています。どうも豪華で華やかな場所は落ち着きませんので、自然体の当店を見せられる場所だと思っています。
今回は、中目黒の住宅街の中にあるホテルをとっていましたので、ギャラリーとの往復は歩ける距離でした。
お店はどこも閉まっているけれど、知らない街の雰囲気を楽しみながら30分弱の道は、ちょうどいい散歩になりました。
代官山から中目黒、そして密集した住宅街という短い距離で景色が変化していく。ずっとこうやって東京で出張販売をしていられたらと少し思いました。
出張販売は木曜日から土曜日までで、日曜日は後片付けの日にしていました。
片付けをした後は自由で、どこかお店を見に行くことができます。
しかし、街を歩き回るにも、重い調整機を引きずって、3日分の洗濯物を背負っては辛過ぎるので、渋谷のコインロッカーに荷物を預けに行きました。東京のコインロッカーで空きを見つけるのは至難の業ですが、運良く入れることができました。
渋谷は人が多く、道もジグザグで苦手な場所です。伊東屋さんで長時間遊んでいたけれど、他には寄らず中目黒に戻りました。
知っている店がたくさんあるわけではないけれど、近くに来たらいつも行きたくなるcowbooksで1時間以上本を選んで、大好きな鞄フィルソンの店で鞄を触って、トラベラーズファクトリーでまたゆっくりしているうちに時間がなくなってしまいました。
絶対走りたくないと、いつも時間に余裕を持って行動する方ですが、モノレールに乗って羽田空港に着いた時には、乗る便の受付時間が過ぎていました。
何とか受付をしてもらって、急いで搭乗口に行ってそのまま飛行機に乗り込むという、最後はバタバタして東京を後にしました。
次は10月5日(土)6日(日)、東京インターナショナルペンショーで皆様にお会いしたいと思います。
世界の中の日本の万年筆
最近、日本の万年筆の味わいについて見直したいと思うようになりました。
派手さや煌びやかさは感じないけれど、伝統から外れないよう慎重に決定されたデザインもまた万年筆の一つの形で、それが日本の万年筆なのです。
万年筆においては日本は独自の道を歩んでいて、それが世界中の愛好家にも認められています。
きっとずっと以前から世界の中の日本を意識した物作りがされていたのだと思います。
物作りにおいて、全ての仕事において世界を意識して仕事をすることは大切だと思っています。英語も話せない私が言うのも何だけれど、きっとそういう次元のことではなく、日本の中だけに目が向けていてはいけない。
世界に目を向けているからこそ、日本らしい、海外のものの真似ではないものを作ろうと思います。
日本の万年筆で良いと思うものはいくつもあるけれど、パイロットシルバーンは独特で、日本的な万年筆だと言えます。
ボディもキャップもスターリングシルバーです。
魅力的だけれど重くなりやすく、バランスが難しくなる素材ですが、キャップの尻軸への入りを深くすることで、キャップを付けても快適に筆記できるバランスを保っています。
ある程度重量があるペンの方がペン先の柔らかさが感じやすく、書き味が良く感じるものですが、シルバーンもキャップを尻軸にはめると重量を出ます。重くすることで、紙への当たりは硬く感じるけれど、しなりのあるペン先が生きる仕様になっています。
この末端を絞ったボディ形状のため、シルバーンに標準でついているのはコンバーター40というインク吸入量の少ないコンバーターです。これはシルバーンにはあまりにも貧弱に思えて、シルバーンにおいては唯一不満を感じる点です。
いっそ色は選べないけれどカートリッジインクを使うか、メーカーは推奨しておらず、個体によっては入らない場合もあるけれど、思い切ってコンバーター70を使う方がこの万年筆を使いやすくしてくれると思っています。
結構大型で、立派な万年筆シルバーンですが、キャップはパチンとしめる勘合式で、スピーディーに書くという、万年筆が仕事道具の代表だった時代の実用性を今も持ち続けています。
私たちは万年筆を趣味の道具だとして、分かりやすい遊び心や美しい装飾のある万年筆にばかり目を向きていたのかもしれません。
改めてシルバーンを使ってみると、しっかりと文字を書くことができる良いバランスや、濃淡が筆圧の加減で出せるペン先から生み出される書く楽しみも、また万年筆ならではのものだと思い出します。
誠実な日本の物作りの思想によって生み出された、真面目な万年筆の良さは世界に通用するもので、こんな万年筆が身近にあることを誇りに思っています。
アルラン社ゴートヌバックのペンシース~スマートで手触りの良い革
カンダミサコさんの革製品はシンプルなデザインなので、それに似せたものを目にすることもありますが、微妙なカットやステッチの入れ方・革の質や色合わせのセンスなど、そういったものとは一線を画したものだと思っています。
違いは細部を見ていくとより分かりますが、シンプルに全体の雰囲気にも表れています。
当店はこういう良いものを教えてくれる革職人さんの作品を扱えて、つながりを持つことができて本当に良かったと思っています。
万年筆に関連するステーショナリーを扱う店にとって、他店と差別化するためにも、革製品の存在は重要だと思っています。
カンダさんに特注して作っていただいているペンシースや手帳は当店の特長になっていて、当店の世界観はカンダさんの表現力で形にすることができています。
カンダミサコさんと言えば色数の多いシュランケンカーフがその代名詞になっていますが、当店の「その年の限定革をひとつ決めて、その年はその革で様々なものを作る」という企画にも協力してくれています。
その企画のために、ユニークで私達があまり見たことのない革をいくつも用意してくれました。その中からカンダさんのお勧めでもあった、アルラン社のゴートヌバック革に決めました。
独特な模様と色で、洗練された印象の革。この革で作ったシステム手帳は早速人気が出て、追加製作をしていただきました。
ゴートヌバックは硬くて丈夫な山羊革の銀面をバフ掛けして毛羽立たせた革で、気持ち良い手触りです。
スムースレザーのように油分が表面に出てきて光沢を出すようなエイジングはしないけれど、使い込むと起毛が倒れて、艶が出てくるヌバック素材ならではの使い込んだ風合いに変化します。
今回はこのゴートヌバックで、1本差しペンシースの標準サイズとミニサイズ、2本差しペンシースを作ってもらいました。
1本差しペンシースの標準サイズには、ペリカンM800などレギュラーサイズの万年筆が、ミニペンシースにはペリカン101Nなどのショートサイズの万年筆が入ります。
2本差しペンシースには、細身ですがレギュラーサイズの万年筆を収納することができます。
どのペンケースもカンダミサコさんの代表作で、そういうものを今回選んだアルラン社のゴートヌバック革で作っていただきたかったし、この革をもっと試してみたい。
雰囲気も変わって、新しいお客様も取り込むことができる革でもあると思っています。
フリーダイアリーの活用
1年以上前に入ったスケジュールや、毎年ある行事を終えて来年に向けての改善点や学習したことを書く場所に、困った経験はないでしょうか?
私は長年この課題を何とかしたいと思っていました。
連用日記などに書いておけば翌年同じ時期が来た時に見るかもしれないと思いましたが、つい普通に日記を書いてしまいそうで必要な情報を取り出せる自信がなく、このアイデアは没にしました。
色々考えましたが、システム手帳に来年のダイアリーも挟んでそこに書けばいいのだという簡単なことに、やっと気付きました。
来年のダイアリーが発売されるのは早くても8月なので、気付くのに時間がかかってしまった。
自分で日付けを書き込むフリーダイアリーなら、何年のダイアリーでもいつからでも作ることができます。
日付けを手書きしてもいいですが、数字のスタンプなどを使うと見栄えも良くて気分がいい。
やってみると時間はかかったけれど楽しかった。
先日発売された万年筆専門誌趣味の文具箱vol.50にも紹介されたかなじともこさんがデザインしているシステム手帳リフィル筆文葉にも、フレックスダイアリーというフリーダイアリーがあります。
かなじさんによる使い方のお手本は当店にもありますし、かなじさんのインスタグラムでも kanazeeという名前で投稿して紹介されています。
筆文葉には、スクランブル、吹き出し、大小水玉、分度器、木目吹き寄せパックというユニークなレイアウトのリフィルばかりをセットしたものがあります。
どう使おうかインスピレーションが湧くものもあるし、何も思いつかないものもあります。
この吹き寄せパックの使い方の提案をしているスターターキットは、かなじさんが印刷やコピーではなく全て手書きしたり、色を塗ったりしています。時間と手間が相当に掛かっている力作です。
リフィルの使い方が分かるだけでなく、かなじさんの読みやすく、端正な揃った直筆の文字が書かれたリフィルを自分のシステム手帳に挟んでおけるのも嬉しい。
かなじさんの書くことに対するこだわりや情熱が感じられる製品というよりも、作品だと思っています。
*7月7日(日)13時から15時、かなじともこさんの書くことへのこだわりを直接聞くことができるイベントを開催いたします。
⇒筆文葉リフィル(フレックスリフィル)
⇒オリジナル正方形フリーデイリーノート
ペリカンM805ブルーデューン~強い青のインクを入れたい万年筆~
ブルーのインクが好きな人は多い。
特に強い青色、発色の良いブルーは人気があって、どのインクがそれに当たるか、よく質問されます。
エーデルシュタインインクのサファイア、ビスコンティブルー、エルバンサファイアブルー、色彩雫朝顔、最近発売されたラミーの新しい鉱物をテーマにしたインクのシリーズアズライトなどがそれに当たります。
そこまでのこだわりはないけれど、私も基本はブルーかブルーブラックのインクで、他の色を万年筆に入れると、その万年筆の出番が減ってしまったりします。
そんなつもりはなかったけれど、やはり好きで使っていることに気付きました。
万年筆のインクの売れ行きもブルーが一番良いし、万年筆のインクらしく色ムラが出たりするので、書いていて楽しいと思います。
そういうことにも関係あるのか、限定品でもブルー軸の万年筆が多いような気がします。そしてそれらはいつも人気があります。
この度ペリカンからもブルーの軸の限定品「M805ブルーデューン」が発売されました。
青い砂丘というテーマは何ともロマンチックで幻想的な感じで、縦縞の生真面目な印象のあるペリカンのイメージとはまた違った世界観です。
しかしベースモデルは定番中の定番M805なので、書き味やバランスは間違いがない。
しっかりとした定番万年筆があるからこそ、そこから外れた遊びが生きています。
一瞬で情報が世界中に飛んでしまう昨今において、そして世界中のモノ作りが国境を超えて絡み合う今の時代において、ドイツ製だから質実剛健だと語るのはナンセンスになってきています。
そんな時代だからこそ、それぞれのメーカーらしいモノの示し方、もの作りのこだわりを持ち続けることが大切なのだと思います。
たくさんの情報・たくさんのモノの中に埋もれないためにも、違うエッセンスを取り入れてもルーツをはっきり示して、アイデンティティを明確にすることは忘れてはいけない。ブルーデューンを見てそう思いました。
定番品からかけ離れた面白いモノも限定品のひとつのあり方ですが、定番品をベースにしてより多くの人の心をつかめるようにイメージを変えた限定品もあって、M805ブルーデューンは後者に当たります。
ペリカンはこのタイプの限定品を数多く発売してきましたし、今年はM600バイオレットホワイトという話題作の発売も控えています。
限定品は生産本数分を売り切ってしまったら終わりですが、定番品は作り続ける。
限定品をきっかけにペリカンの万年筆を手にして、その使用感、握り心地の良さに他社にはないものを感じ取った人は、きっと次の万年筆にもペリカンを選ぶだろうという、ペリカン社の目論見が限定品にはあるような気がします。
たしかにM800/805の握った時の手の馴染み、自然に持てるサイズ感は、他モデルではそう多くないのかもしれません。
長年M800を使ってきたことも理由なのかもしれませんが、それだけではない。
やはりM800/805は定番中の定番の万年筆だと思います。
M805ブルーデューンに吸入させるインクの色は、そのボディのようにはっきりした、強めのブルーが合うような気がします。
でも10人いたら10人の、ブルーデューンに合うインクがあるのだと思います。
万年筆の本当の魅力 〜ファーバーカステルクラシックコレクションの存在〜
万年筆は永遠に残るものだと確信しています。
仕事で紙に書くことが激減した現代においても生き残っているし、むしろ万年筆を使いたいという人は増えていると実感しています。
書き味の軽いボールペンも、タブレット端末などに手書きできるペンも、万年筆の領域には踏み込むことができない。
例えば万年筆の魅力が、「文字がきれいに書ける」ことや「書き味が良い」だけだったら、とっくに世の中からなくなっていたかも知れません。
でもそれらは万年筆の魅力のほんの一部分で、私たちが万年筆を使う最大の理由ではないと思っています。
私が思う万年筆の最大の魅力は、それで文字を書きたいと思わせる筆記欲を刺激する存在であるということ。そして、書きたいだけでなく、持っていたいと思わせる魅力があることだと思います。
それは万年筆というモノの魅力という言葉が当てはまりますが、筆記具という存在を超えたものであるから、万年筆は生き残ることができた。
そうやって考えると、ただ書けるとか、書き味が良いという万年筆はもしかしたら将来淘汰されてしまうのかもしれません。
デザインが良くて、なぜか使いたいと思わせる万年筆にファーバーカステルクラシックコレクションがあります。
とてもシンプルなスペックの万年筆で、そのバランスに慣れるのに時間がかかりますが、デザインの良さから愛用したいと多くの人に思われてきた万年筆です。
私もクラシックコレクションエボニーの万年筆とボールペンを、カンダミサコさんの2本差しペンシース に入れていつも傍らに置いて使っています。
万年筆がこの世に登場する前の、鉛筆補助軸をデザインモチーフにしているクラシックさと、硬質なプラチナコートしたスチールと天然の木を使ったモダンさが融合した完璧なデザインだと思っています。
使いたいと思っていつも手元に置いているから使う。使うからどんどん書き味が良くなる。そんな循環が魅力のある万年筆には起こります。
私たち販売員は、万年筆をただよく書けるだけの筆記具として提案してきたことを改めなければいけない。
それは万年筆が将来消滅してしまうことにつながることだから。
万年筆がそれを使う人の心に及ぼす本当の作用について、私たちは伝えることができていませんでした。しかし、万年筆を使う人は自らその作用を見出して万年筆を楽しんでいたから、今まで存在し続けてきてくれた。
否定するつもりはないけれど、コンピュータやタブレットの画面上に書くタッチペンの類いは、様々なテクノロジーで味を再現しているインスタント食品にどこか似ています。
色々な技術で実際に書くことにかなり近づいていて、すごく進化しているけれど、それらがどこまで進化しても万年筆が使う人の心に及ぼす作用は再現できないと思っています。
*ファーバーカステルTOPcbid=2557105*ファーバーカステルTOPcsid=7″ target=”_blank”>*ファーバーカステルTOP
ラマシオンハンドメイド時計イベント~6/22(土)・23(日)
楽しみで使うものなので考えすぎだと言う人もいるかもしれないけれど、だからこそ万年筆はそれを使う人の生き方や思想を表すものであってほしいと思っています。
でも万年筆というもの自体が、その人の書くということに対する情熱を表しているものなので、実はそれを使っているだけで生き方を表しているのかもしれない。
腕時計も以前は誰もが必ず身に付けているものでしたが、今では付けていない人が多くなってしまいました。そうなると時計を付けているだけで、そこに何らかのメッセージがあるような気がしますが、腕時計にはアクセサリーという要素も多分にあります。
アクセサリーもまた、その人の価値観を表現するものなので、万年筆以上にその人の思想を物語るものだと思います。
こんなことを言うと誤解があるかもしれないけれど、当店で時計を扱いたいと思っていたわけではありませんでした。
時計の世界は、何となく格式張った堅苦しい世界に見えていました。
でも吉村さんはそんな世界の人ではなかった。
様々なオーダーに応えてくれて自分だけの世界で一つの時計を作ることができるのに、その価格は限定万年筆くらいの値段だし、女性ものの可愛らしくもエレガントなものは国産万年筆くらいの値段で買うことができる。
神戸東灘区に工房兼ショールームを構えるラマシオンの吉村恒保さんと、お客様の紹介で知り合うことができたのはとても幸運だったと思います。
量産されている国産のムーブメントを使って、ケースや文字盤などをハンドメイドで作る時計作家としての物作りのスタンスや、構えたところのない自然体の物腰など、共感できるところが多い吉村さんの作品を扱えることで、万年筆やステーショナリーを扱う当店にも奥行きができたと思います。
例えばペリカンの万年筆を使っている人が身に付けるなら、どういう時計が合うだろうかと考える。
ステーショナリーの枠から出て、当店の世界観をお客様方に提案できると思っています。
3月にラマシオンさんのイベントをしたところなのにまたイベントをするのには、そんな当店の想いと、ラマシオンの吉村さんが当店を大切に思ってくれていることが表れています。
時計の世界は万年筆の世界以上の歴史があって、それを商うお店も多く、確立された世界だと思っています。
でも、既製の時計にとらわれずに自由に時計作りをする吉村さんの時計は、その世界を何となく疑問を持って見ていた私の心を動かしました。
私と同じようにラマシオンの吉村さんの時計を良いと思ってくれる人が、万年筆を使うお客様の中にもいると思っています。