最近ではマイクロ5とかM5と呼ばれるミニ5穴システム手帳を使ってみて思ったのは、バイブルサイズとは違って、気分で本体を持ち替えて使いたいということでした。
趣味とか遊び心がこのサイズには込められるような気がしました。
世にあるミニ5穴システム手帳の多くのものは当店でも扱っているアシュフォードのものが中心で、さすがにアシュフォードは長くシステム手帳を作ってきただけあって、使いやすい手堅いものを作っています。
量産されているものでもいいけれど、また違うものも使ってみたい方は多いのではないかと思いました。
そこで、カンダミサコさんに2種類のミニ5穴システム手帳を作っていただきました。
ひとつは2016年から発売しているバイブルサイズと同じように、カラフルなシュランケンカーフを使って、薄くスマートに使っていただけるもの。
表紙が180℃平らに開く、オリジナルのリング取り付け構造はミニ5穴でも同様です。
上質な革の上品な色合い、質感も楽しんでいただけるカンダミサコさんらしいミニ5穴が、できたと思います。
もう一つを私は賛否両論分かれる問題作だと思っています。
当店がコンチネンタルシリーズで使っているダグラス革は野趣溢れる革で、繊細なものを好まれる方には向かないけれど、使い込むとすごい艶が出る、個人的にとても気に入っている革です。
このダグラス革が生産終了となり、革問屋さんに残っているものをカンダさんに買い占めてもらいました。今すぐなくなるわけではないけれど、2、3年でなくなってしまう量しかありませんでした。
このダグラス革の個性を活かしたミニ5穴がその問題作です。
薄くて携帯しやすいものがミニ5穴システム手帳に求められる要件の一つだと思いますが、コンチネンタルのミニ5穴手帳は、革を出来るだけ厚くしてダグラス革の質感を楽しみながら、コロンとしたフォルムに愛着が持てるようにしました。
ミニ5穴システム手帳の作りから言うと、正解のものと逆の作りなのかもしれないけれど、フォルムを楽しむ、革の質感を楽しむものもあっていいのではないかと思います。
革が馴染むまで革の力で開こうとしますので、簡単なベルトもついています。
仕事だけでなく、休日にも使えそうなカジュアルな服装でも使うミニ5穴システム手帳にはいろんなタイプがあっていい。
コンチネンタルシステム手帳ははじめは使いにくそうだけど、面白そうと思っていただける手帳だと思っています。
いよいよ完成したカンダミサコミニ5穴システム手帳、今後当店を賑わすものになると思っています。
*カンダミサコミニ5穴システム手帳コンチネンタル
*カンダミサコミニ5穴システム手帳シュランケンカーフ
アウロラ限定万年筆 インターナツィオナーレ
アウロラが今年100周年を迎えています。
アウロラが創業した1919年は第一次世界大戦が終わったばかり、世界恐慌前夜の、世界が束の間の平和の中にある時期だったのではないかと想像しています。
だから万年筆という平和的なものを作る会社が多く誕生した。
この時期、多くの万年筆メーカーが先んじて万年筆を作っていたパーカー、シェーファーなどアメリカのメーカーの影響を受けているものを作っていましたが、アウロラも当時イタリアにたくさんあった万年筆メーカー同様、アメリカの万年筆に似たものを作っていました。
それを作りながらも少しずつ自分たちのオリジナリティを出し始めることができて、無数の万年筆メーカーの集団から抜け出し、世界恐慌、第二次世界大戦、リーマンショックなどの危機を生き抜くことができたのかもしれません。
100周年の今年、最初に発売された限定万年筆インターナツィオナーレは、1930年に発売されたモデル「Duplex Internazion」を、ボディ素材をセルロイドからアクリル系樹脂のアウロロイドに、インク吸入機構をレバー式からリザーブタンク式ピスト吸入機構に変更されていますが、忠実に復刻しています。
もしかしたらパーカーデュオフォールド、シェーファーライフタイムの影響を受けたのかもしれないけれど、デュオフォールドもライフタイムも今見るともっと武骨に見えます。
しかし、この万年筆は武骨さとは程遠いエレガントさを感じさせます。
その一因となっているのが、当時トレンドだったアールヌーボー調のキャップリング装飾です。このキャップリングはスターリングシルバーに金張りを施したバーメイル仕上げになっていて、時間が経つと落ち着いた輝きに変化します。細かい部分にもかなりのこだわりが感じられます。
創業して10年くらいしか経っていなかった1930年当時、アウロラはこのInternazionで、海外進出を目指していました。
周辺のヨーロッパの国々はもちろん、当時の万年筆王国アメリカでも勝負できるものでなくてはならない。日本をはじめ、アジアの国々でアウロラの万年筆が売られることを、この時当時のアウロラの社長はイメージしていただろうか。
100周年を迎えたアウロラが、その歴史の転換期の代表的な万年筆を復刻した。それがインターナツィオナーレです。
オプティマ、88などアウロラの定番万年筆の特長は抑え込んだ華やかさだと思っています。
イタリア人の感性のままの製品作りをするともっと遊び心のある、派手なものができたかもしれないけれど、アウロラのバランス感覚はそれを抑え込んでいる。あるいは我慢している。私はその抑制がアウロラらしさだと思っている。
抑制すること、我慢することは洗練するということと同じ方向の力だと思っていて、アウロラの万年筆は洗練されているという言葉に置き換えることができるのかもしれません。
洗練されているというと何か冷たい感じがしなくもないけれど、アウロラからは人の手のぬくもりのようなものが感じられる。
それは手厚いアフターサービスでも言えることで、万年筆は直しながら長く使い続けるものだということを、アウロラの修理に対する考え方から学びました。
万年筆店の一店主として、勝手に身近に感じている万年筆メーカーアウロラの100年の歴史を誇らしく思います。
⇒AURORA INTERNAZIONALE(インテルナツィオナーレ)
想いを持ち続けて道を究める~3月30日(土)31日(日)工房楔イベント開催~
当店が万年筆だけを扱って、そして自分の好きなものだけを揃えるようになっていたら、きっとできることは少なくなってしまっただろう。
今までにその分かれ道は確かにあって、その時お客様や周りの人の声に耳を傾けず、頑なになっていなくてよかったと思います。
人が良いと思うものにも目を向けて、自分の信念を都合よく、状況や時代に沿わせることができる、よく言えば柔軟性が自分にあったからこそ商売をしていられるのだとよく思います。
私がモノを選ぶ時、自分の好みではなく、お客様のどなたかにとって良いものかそうでないかという視点を持たなくてはいけないと思っています。
ひとつの分野を探究して深く掘り下げていくときに、そこに好みを入れるとその道はどんどん狭くなって、自分の信念に縛られて身動きができなくなってしまう。
そのモノや素材への愛情が強いほどそれにはまりやすいし、職歴を重ねて、素材への目が肥えるほど、使いたいと思うものは少なくなっていきます。
自分の目指す方向がはっきりと定まっていて、自分の目利きと腕に自信を持っている職人さんのような、道を究める人もその道に入り込みやすいのではないかと私は思っています。
工房楔の永田さんも、常に向上心を持って努力している人だけれど、自分の目利きや腕に自信を持っている職人さんです。
永田さんは工房楔として活動して今年15年という記念すべき年を迎えています。
職歴としてはもっと長いはずだけど、永田さんの道は狭くなるどころか、その活動は出会った頃よりも柔軟さを増しているようです。
木を見る目は成熟していっていると思うけれど、変わらず幅広い価格帯のものを扱って、楔の作品の間口を広くしている。
その柔軟さを永田さんが持っているのは、工房楔を始めた時に掲げた銘木の杢の良さ、面白さをもっとたくさんの人に知ってもらいたいという想いを今も持ち続けているからなのだと私は思っています。
万年筆を収めるコンプロットなど価格の高いものも健在で、そちらの方面へも拡大を続けていますが、ジェットストリーム用グリップなど、とっつき易いもの、銘木の味わいを手軽に感じることができるものも、ちゃんと用意しています。
当店も万年筆を愛用しているお客様に、普段から永田さんのメッセージを伝えようと努力しているけれど、3月30日(土)31日(日)に開催する、半年ごとの工房楔のイベントは、銘木製品に深く入り込んだ人も、何か銘木のものを使ってみたいと、その世界の入り口のドアを開けようとしている人にも楽しんでもらえると思います。
薄い色のインク
以前は何でも万年筆で書きたいと思っていましたが、原稿の下書きなどには万年筆の筆跡が強すぎると思うようになりました。
下書きという、確定していない書き直しができるはずのものが、万年筆で書いてしまうとそれが決定してしまうような気がするのです。
それが万年筆の良いところでもあり、万年筆が想いを伝える道具として優れているところなのかもしれませんが、試行錯誤する原稿には向かないのではないかと思い始めました。
最近は鉛筆で原稿の下書きを書いていて、その何でも書ける気軽さで筆が軽く、上手くいっていると思っていました。
鉛筆ならその程良い筆跡の薄さもあって、場所を選ばずどこででも気負わず書くことができていました。
これが道具を使い分けるということなのだと思ったけれど、原稿の下書きという一番文字を書く機会に「万年筆を使いたい」と思いたい。
鉛筆の筆跡のように気負わずに何でも万年筆で書くには、薄い色のインクが必要だと思いました。
筆跡を読むときに目を凝らして見なくてはいけないくらいのインクが欲しいと思って、薄い色のインクについて考えてみました。
パイロット色彩雫の霧雨や冬将軍は普通の筆記には薄すぎると思いますが、私のイメージする下書きにはとても良さそう。
エルバンも良いものがいくつかあります。ブルーアズール、ミントグリーン、グリヌアージュなどもピッタリです。
台湾の藍濃道具屋(レンノンツールバー)の藍染風インクは、台湾で古来より伝わっていた藍染の過程で出る色をインクで表現した色で、ブルーのインクが好きな人なら惹かれる色があると思いますが、その中で一番薄い色の水色が私の用途に向いていました。
少し青みのついた水の色で、本当に薄い。水色を太字の万年筆に入れて書いてみると、目を凝らさなければ何が書いてあるのか分からない。
一般的な筆記にはあまり向かないかもしれないし、粘度が極端に低いのでペン先が紙にこすれる感触が指に伝わって、太字で書いてもいわゆるヌラヌラの書き味はしませんが、原稿の下書きにはピッタリだと思いました。
月に5,6回は何らかの原稿をノートに下書きして、コンピューターで清書している私にとって、極端に薄いきれいな色のインクは探し求めていたもので、しばらく使ってみたいと思いました。
とてもきれいな水色だし、これだけ薄いと光も通しますので、デモンストレーターなどに入れるときれいに映えるかもしれません。
広くはお勧めしないけれど、私のような用途の方には強くお勧めしたい薄い色のインクとデモンストレーター。暖かくなるこれからの季節にはいいですね。
*藍濃道具屋(Lennon Tool Bar)ボトルインク 藍染め風
当店の色~ウォールエバーシャープデコバンド~
ずっと以前にある人から「ペンアンドメッセージの色は何色ですか?」と聞かれたことがあります。
ホームページやショップカードなどがワインレッドを基調としているとかそういう単純な話ではなく、当店の特長、雰囲気など誰から見てもPen and message.とはこういう店だというように認識してもらっているかという意味で聞かれたと私は解釈しました。
自分でもはっきり分かっていなかったし、当然お客様方にも当店はこういう店だと発信できていなかったので、その質問に即座に答えられなかったことを恥ずかしく思いました。
当店らしさを見つけて確立することは、当店のような小さな店にとっては生命線のような何よりも大切なことで、どの町にもよくある文具店や雑貨店と似ていたりすると当店の存在価値はないと思う。
それから今まで、いつも当店らしさを探しながらやってきたよう気がします。
ウォール・エバーシャープデコバンドは、100年近い歴史のあるアメリカのウォール・エバーシャープ社の、大きなペン先と筒型に近いボディ、クラシックでゴツゴツした男性的なフォルムの万年筆です。
私個人のモノの好みとして、繊細でスマートなものよりも武骨なものを好むこともあって、そのデザインだけでも、こんなに当店らしい万年筆は他にないと思っています。
武骨な外観同様、中身もそれに伴った、直しながら長く使うことが前提になっている仕様です。
尻軸を引っ張り出して、空気孔を指でふさいで押し込んで、指を放すとインクを吸入するインク吸入機構は、シンプルで簡単に修理することができるゴムチューブを使用しています。
ゴムチューブは何かに接触しているわけではなく、空気圧で潰して、その復元力を利用してインクを吸入しますので破れるリスクが低い。
またゴムチューブの交換は当店でできますので、修理のために本国に送って何か月もお待たせすることもありません。
ペン先は細かい仕様変更を繰り返していて、今はフレックス量は大きいですが柔らかさよりも粘りのある仕様になっています。
スーパーフレックスニブで、力を抜いて書くとペリカンMくらい、筆圧をかけてペン先を開かせるとBBくらいの太さ、フレキシブルニブでBくらいの太さまでフレックスさせることができます。
スーパーフレックスニブとフレキシブルニブの硬さによる違いは少なくなっていて、フレックスできる量の違いになっています。
どちらのニブも粘りが強めになっていますので、フレックスさせた時の戻りが早く、使いやすさは向上しています。
デコバンドはエボナイト製の二段ペン芯を使用することで、フレックス量の大きなペン先に対応させています。
ペン芯の素材としてエボナイトは最も適した素材だと思われます。
調整の段階でペン先との密着がやりやすく、ペン先調整をしている当店のような店にはお誂え向きの素材でもあり、より良く仕上げることができます。
デコバンドのこれらの仕様に関しても、当店で扱うためにできたような万年筆で、海外のペンの雑誌で一目見て惹かれたことも不思議な縁のように思っています。
日本国内では当店だけしか扱っていなくて、その仕様は私が万年筆はこうあって欲しいと思っている仕様になっています。そして何よりも蒸気機関車のような武骨なデザインが気に入っています。
ウォールエバーシャープデコバンドを当店のオリジナル万年筆のように思っています。
工房楔との相乗効果
3月30日(土)・31日(日)、恒例の工房楔の春のイベントを開催いたします。
普段から楔の木製品はできるだけ多く在庫したいと思っていますが、3月と9月のイベントでは普段の品揃えとは比べ物にならない数の商品をを永田さんが作って持って来てくれます。
たくさんのものの中から選ぶことができるので目移りして大変ですが、イベントならではの楽しさだと思います。
工房楔は今年15周年を迎えます。
そして、当店で工房楔のものを取り扱い始めて10年になります。
当店と同じように試行錯誤を繰り返しながらの永田さんの15年もきっとあっという間だっただろう。
程々の距離感はあるけれど、比較的近くで永田さんを見てきて、そのオンリーワンでありながらナンバーワンを目指そうとする情熱が危なっかしく見えることもありましたが、永田さんは今も立ち続けているし、気分的に少し余裕が出てきたのか様々な面で安定感も感じます。
それが15年独自の道を切り拓いてきた自信なのかもしれません。
私は永田さんからいろんなことを学んだし、今もその姿勢から教えられることはたくさんあって、工房楔との、永田さんとの付き合いがあったことも、今まで続いてくることができた理由なのだと思う。
当店と工房楔には相乗効果があります。
万年筆が好きな当店のお客様が当店で工房楔の木製品を知って、その魅力に惹かれていくし、工房楔の木製品が好きなお客様が当店のステーショナリーを使うようになる。
双方が行き来し、相乗効果を生んでいるのは工房楔の木製品を取り扱い始めた時予想できなかったけれど、万年筆が好きな人はある程度万年筆を使うと木軸に惹かれるようになるのかもしれません。
そこで筆記具メーカーが発売している木軸を使うようになりますが、それらの木軸と工房楔の木製品とはその木の質があまりにも違っていることに気付き、杢という今まで意識していなかったものを見せられて、その世界の奥深さに驚きます。
銘木万年筆ケースコンプロット10は、永田さんが万年筆ユーザーと出会って生まれたものだけれど、工房楔のボールペンやシャープペンシル、当店のオリジナル企画であるこしらえと並ぶ工房楔の代表作です。
コンプロット10はレギュラーサイズの万年筆を余裕を持って10本収めることができるケースですが、最近はオーバーサイズの万年筆に対応したコンプロット6もあり、万年筆のトレンドに敏感なところも永田さんの良さだと思っています。
当店が独自に輸入しているウォール・エバーシャープのオーバーサイズ万年筆デコバンドは、工房楔のコンプロット1に専用ケースのようにピッタリと収まります。
偶然とはいえこれも相乗効果になっています。
パイロットカスタム742(長軸はカスタム743も)の首軸が収まる銘木万年筆軸こしらえは、工房楔の当店でのオリジナル企画で、他では手に入れることのできないものです。
万年筆と銘木との出会い、当店と工房楔の出会いを象徴するものだと思っています。
書くための機能を追究した国産万年筆と銘木軸の組み合わせは、海外の万年筆にひけをとらない魅力を持っています。当店が工房楔の力を借りて、今までの万年筆と違う価値を提案したものだと思っています。
今回も新たな杢とステーショナリーの出会いがあると思います。ぜひお時間を見つけてご来店下さい。
ラマシオンの時計と3月9日・10日のイベントのご案内
あまり好きな言い方ではないのですが、語るべきストーリーと歴史があって、誰もが良いと言うもの、そしてたいてい値段の高いものは一流品と言われます。
でも本当の一流品はそれだけではないと思っています。
小規模でメディアに取り上げられていないブランドの中にも良いものはあるし、人によってその価値観は違う。一般的な一流品という言葉に縛られたくないと思います。
誰もが良いと言うものの良さも認めながら、当店独自の見識で価値があると思うブランドを提案できたら、素晴らしい。
それは当店のような小さな店が生き残るための生存本能のようなものなのかもしれないけれど、仕事としてやり甲斐があると思います。
同じ神戸の時計作家、ラマシオンの吉村恒保さんがひとつずつ作る時計に、当店が提案したい時計のあり方を見て、当店でも扱わせていただくことになりました。
ムーブメントは信頼性の高い国産メーカーのもの、機械式はシチズンMIYOTA製、クォーツはセイコーのものを使用して、ケース、文字盤、リューズ、ベルトまでも手作業で1点ずつ作られています。
だから全ての時計が世界でひとつの一点ものだし、オーダーで全てを自分好みに作ってもらうこともできます。
万年筆と腕時計は似ています。
字を書くのにわざわざ万年筆を使わなくても、いくらでも手軽なものはある。でもその書き味と趣を楽しみたい。
時間を知るためにスマホの時計を見る人も多く、もしかしたら機械式の時計よりも時間は正確なのかもしれない。しかし私は「腕時計で時間を見る」という行為に趣を感じる。
それはほんの一瞬かもしれないけれど、自分の好きな時計、愛用する時計の文字盤を見て時間を知る行為を大切にしたいと思っています。
たき火の炎や川の水の流れをいつまでも見ていられます。規則性がないようであったりして、見ていて面白い。文字盤から垣間見ることができるムーブメントの規則正しい動きも、見ていて飽きないと思いました。
時計ひとつにもいろんな楽しみがあります。私はラマシオンの吉村さんの作品である時計を縁あって目にすることができて、それを当店から皆様にお勧めできることに喜びと新しい仕事への意気込みを感じています。
3月9日(土)・10日(日)、12時から19時までラマシオンの吉村さんが当店に滞在し、自作の時計やアクセサリーを販売していただきます。
当店で在庫しているもの以外にもお持ちになりますし、当店スタッフも魅了された繊細なモチーフのネックレスやピアスなどもご覧いただけます。
そして何より、つい色々話したくなる雰囲気のある、吉村氏の人間性を知って欲しい。
2日間のイベントですが、ぜひこの機会にラマシオンというブランドを見ていただきたいと思っています。
プラチナ創業100周年記念万年筆「センチュリープライム」
プラチナ萬年筆が今年創業100周年を迎えていて、記念万年筆「センチュリープライム」を発売しました。
1967年に発売されたプラチナを代表する伝説のペン「プラチナプラチナ」のデザインを復刻させながら、現代の技術を込めた万年筆です。
きっと万年筆が好きな多くの方、特に当店のお客様なら期待通りの限定万年筆が発売されたと思っていただけると思います。
純度の高いスターリングシルバーをボディにした外装は、プラチナプラチナのデザインを忠実に再現していますが、ペン先周り、キャップの機構は信頼性の高い現代のプラチナセンチュリーで成功した技術が使われています。
1967年日本の万年筆は黄金期を迎えていて、様々な万年筆が各社から発売されていました。
その中でもスターリングシルバーのボディと大型ペン先のプラチナプラチナの存在感は強烈なものがあったと想像できます。
当時のモデルを今見ても、主張のある良い万年筆だと思いますので、時代を超えた力強い魅力があるのだと思います。
プラチナプラチナは、非常に硬いプラチナ合金のペン先で、発売当初は中字のみの設定でした。
今回のセンチュリープライムで、「細軟、中軟、太」から選べるようになっているのは、万年筆がより趣味的な存在になっているということを意識したことだと理解できます。
51年前と今では万年筆を取り巻く環境は違いますし、当然100年前とは全く違っているけれど、プラチナ萬年筆は生き残っている。
それはプラチナが古いものにこだわらず、進取の気持ちと、でもプラチナらしさを持ち続けたからなのではないかと思っています。
センチュリープライムには、ペンスタンド、ボトルインクなどとともに豪華な100周年記念ブックレットが同梱されています。
それを見てもプラチナが時代を反映したペンを作り続けてきたことがよく分かるし、現代のプラチナ萬年筆を代表する万年筆センチュリーにもよく表れています。
時代とともにしなやかに変化し、でも他社とは違うプラチナらしさを表現し続けてきたから100周年を迎えることができた。
私達は簡単にこういう限定品が出たらいいなと口にするけれど、そういうお客様の気持ちをつかむ製品を生み出すことは簡単なことではないと思います。
それは立場が違うからに他ならないけれど、この創業100周年記念万年筆センチュリープライムはとても良い企画、良い万年筆だと思っています。
そこには製作者側の万年筆に対する気持ちの持ちようが表れている。
万年筆が好きで使っていたい、持っていたいというユーザーの立場に立って作られたものだと思います。
世界に1本だけの万年筆
万年筆は工業製品で、ものによっては年間何千本と生産され、不特定多数の顧客のために作られています。
しかし当店のこだわりは、その万年筆を使う人のためにペン先を調整して、その人だけのためのものにする。「世界で1本だけの万年筆にする」ということです。
それが万年筆店として当店が目指すところで、それが可能なのが万年筆の良さで、それができることが当店のアドバンテージなのだと思っています。
世の中にはたくさんのモノがあって、同じものを世界中どこでも買うことができるけれど、私はそれを当店で買ってくれた人のことをなるべく理解して、その人のためにより書きやすくしたいと思っています。
1万円の万年筆は1万円の万年筆として一番良い状態にするし、5万円の万年筆は5万円の万年筆のポテンシャルを最大限引き出した上で、その人仕様にする。
万年筆で書きたいと思った人、万年筆を持ちたいと思った人に対して、当店ができる幸せの提供は、その人に合った世界でひとつの万年筆を用意することで、ペン先をその人仕様にするということはそれに含まれます。
ペン先調整は当店としては最も努力して、良くしていかないといけないことだと思っています。
細字研ぎ出し加工のペンポイントの形状を変更しました。
今までは先端の丸さというか、尖り具合にこだわっていたこともあって、ペンポイントの切り割りを中心とした部分が他の部分よりも飛び出していないといけないとしていました。
それは確かに細く書くことができるけれど、ペン先が馴染むまではチリチリとした引っ掛かりを感じました。
しばらく使うとそれはなくなって滑らかに書けるようになるけれど、少し時間がかかります。
新しい細字研ぎ出し加工は、ペンポイントを四角く仕上げて、角や縁を落としてひっかかりをなくしています。
四角くすることで接地面は広くなって書き味ははじめから良くなりました。超極細は尖らさないと難しいですが、国産細字程度ならその形で十分作れます。
細字研ぎ出し加工は、ペリカンM400でしかできないと思われている方もおられるかもしれませんが、どの万年筆にも可能です。
ペン先全体にロジウムやプラチナの装飾で銀色に見せているものは、それらのメッキが剥がれてしまいますが、金色のペン先であればどれでも可能です。
手帳を書くために国産の細字の万年筆を使ってもいいけれど、太すぎて使えなかった海外のペンを、細字研ぎ出しをして手帳などに使えるようにするということも、世界でひとつの万年筆を作るということだと思っています。
細字研ぎ出し加工が活きるのは、インク出が多かったり、字幅に関係なくペンポイントが大きくて、最も細い字幅を選んでも太い線になってしまう万年筆です。
ペリカンスーベレーンがその代表ですが、ウォール・エバーシャープデコバンド、スカイライン、パーカーなど字幅の選択肢が少ない万年筆でも有効だと思います。
欲しい万年筆の字幅がない、手持ちの万年筆を有効に活用したいなど、何なりとご相談下さい。
ペン先調整
この店が始まった時から、お金をいただいてペン先調整をしています。
今ではそれが普通のことになっていて、最初の頃の緊張感を忘れかけているのではないかと思いました。
今思い返すとよく始めることができたと思うけれど、唯一自分ができることで、世の中の役に立つことだから何としても仕事にしなければ、という必死な想いがありました。
道具も揃っていなかったし、自分では充分理解しているつもりだったけれど、今から考えるとやはり充分ではありませんでした。
やはり怖いもの知らずだったから始めることができたのかもしれません。
当時なかったペン先調整の機械も2代目になって、字幅を細くする時間も早くなったし、仕上がりも格段に良くなりました。
ペン先調整は、お客様がこの店に最も期待して下さっていることのひとつで、当店の生命線だと思っています。ペン先調整がなければ当店は続いてくることができなかっただろう。
有料でペン先調整をするということを、まだ始めたばかりの頃にチャンスを下さった皆様には特に感謝しています。
創業10年目にして手に入れた理想のペン先調整の機械は特に大切にしたいと思っていて、時間ができた時は入念に手入れをしています。
真円が狂っているとペン先が跳ねて調整しにくくなるので、そこらじゅうについている磨き粉を拭き上げて、ゴム砥石にやすりをかけて真円に近くします。
それから粗研ぎ用のやすりも交換します。
今の機械は2年前にペンランドカフェのオーナーだった高木社長に紹介していただいた機械製作会社のエンジニアの方に作っていただいたもので、とても気に入っています。
手入れをするとより愛着が増して、使うことが楽しくなります。
でも手で調整していた時から、ペン先調整は楽しくて仕方なかった。
自分の手で書きにくい、時には書けない万年筆が書けるようになるということが嬉しくて仕方なかった。
今も同じ気持ちのままペン先調整をしています。
時々、ペン先調整はどういう時にしてもらえばいいか、ペン先調整で何が変わるのかと質問されることがあります。
そういう時は、どういう不満があるのかをおっしゃっていただければ解消できるようにしますと、お答えしています。
お客様がそのペンのどういうところが不満なのか、そしてどこをどうすればそれが解消できるかを的確に見抜く力がペン先調整にとって必要な能力で、それはお客様のことを理解するという、サービス業においてすごく基本的なことと共通しています。
だから私にもできると今は思っています。
万年筆店にとってペン先調整は必須の技術なのではないかと思います。
ペン先調整ができるということは、ペン先の良し悪しを判断できる目を持っているということで、万年筆を扱う店として必要なことだと思います。
実際、万年筆を販売する店でペン先調整をしている店は少ない。
それが万年筆を使いたいと思った人が店に買いに行かず、値段の安いネットショップで買うということになっている理由のひとつになっています。
ネットショップではできないサービスができて、気持ちよく書くことができる万年筆を用意できたら、安心して万年筆を買うことができる店を探しているお客様はその店を選んでくれる。
そういった思いもあるし、自分が唯一できることを求めてくれる店があったということもあって、本当は自分の店で精一杯だけど、他所のお店の応援に出向くこともあります。
2月21日(木)・22日(金)は、新しくできた「なんばスカイオ」にあるKA-KU大阪店で、万年筆の販売応援としてペン先調整に行かせていただきます。
カクテルインク、オリジナルノート作成サービスなどをする新しいお店KA-KU大阪店も、万年筆を安心して買えるお店として知って欲しいと思います。
お店が違ったらそれはライバルなのかもしれないけれど、私たちはその前に万年筆の世界が注目してもらえるようにしなければいけないし、自分の店のライバルは、近くにある同業他社ではなく、例えば同じ元町にあるカメラ屋さんだったり、楽器屋さんだったりするのではないか。
趣味のものを扱うお店全てがライバルだと思うと、万年筆をカメラよりも、音楽よりも面白いものにしなければいけないと思っています。