夏は、特に8月は日本的なものに惹かれます。日本について考える機会が多い月だからだと思います。
原爆によって多くの方が亡くなった日。終戦記念日、お盆など、私たちが日本の過去や亡くなった人たちについて考える機会の多い月です。
外は暑くてカンカン照りなのに、どちらかというと内省的な気持ちになる様々なことを振り返る月だと思っています。
そんな月に、手紙や原稿を黒インクで縦書きして、万年筆を愛用する者なりのやり方で日本的な心を大切にしたいと思います。
冬枯れのインクは書いた後に黒味がスッと紙に沈む薄めの黒なので、ノートいっぱいに書いても暑苦しくならず、今の季節に使う黒としてちょうどいいと思います。名前も涼し気です。
インクの宣伝になってしまったけれど、日本の万年筆について考えたかった。
日本は万年筆王国だと思っています。
良質な万年筆を作る3つのメーカーが健在だから。
それぞれのメーカーの違いは、私は書き味の個性だと思っています。パイロットは筆圧の強弱によりインクの濃淡の出る仕様になっているし、セーラーはスイートスポットをはっきりとさせた仕上げで正しい書き方で書くととても気持ちよく書けます。プラチナはインクの出が一定で、筆圧が変わってもインク出に影響を受けずに均一に書けると思います。
それぞれのメーカーの特長はバラバラですが、共通して目指しているのはきれいな文字を書くことです。思想の違いはあるけれど、国産3社で優劣はなく、書き味の違いのみ存在すると思っています。
国産3社の100年の歴史は日本の近代文房具の歴史そのもので、老舗文具店の歴史もそれと重なる。これだけ長い間、生産と販売の仕組みが続いてきたことはすごいことだと思うし、業界の努力によるものだと思います。
当店はたった10年の歴史しかないけれど、この10年で学習したことは、自分たちのスタイルを変えたくなければ新たな顧客を探し続けなければならないし、同じ顧客に対して商売していきたければ自分たちが変わらなければならない。それだけモノの移り変わりが早いと実感しました。
私も自分のやり方を変えたくないけれど、そんな危機感をずっと持っています。
それにあてはめて考えると、国産3社と販売店などが100年間同じ形態で続いていることは奇跡に近い。
日本という閉ざされた国土にいると世界の動きは感じにくいし、これは私の勝手な思い込みかもしれないけれど、日本の万年筆、文房具が更に100年、200年と永遠に続いて欲しいと思っているからこそ、何も変わらない業界に焦りを感じています。
KWZ(カヴゼット)インク
ホームページに掲載する以前からKWZインクはご来店のお客様によく売れていました。
新しく出たインクのブランドを慎重に見極めようとするよりも、積極的にご自分の好みの色を見つけようとする感じの方が多く、意外に思いました。
新しいものをどんどん取り入れる方も、モノ選びに慎重な方もどちらもこのインクを気に入って使っているので、これはもしかして流行なのかと、錯覚するほどでした。
KWZインクのどこに人気があるのかと考えた時に、私は色作りが支持されているのではないかと思っています。
ブルーでも微妙に違っているものが13色(古典インク、ノーマルインク込み)もあって、色作りが絶妙で、それぞれの色を好む人が必ずいるのではないかと思えます。
KWZインク開発者のコンラッド・ズラヴスキー氏はポーランド・ワルシャワ工科大学の研究者で、熱心な万年筆愛用者であり、実験でも万年筆を使っていました。
ある時、大切な実験データを書いたノートにフラスコの液体をこぼしてしまい、データが消えてしまうという悲劇を経験して、消えないインクを調べているうちに保存性に優れた没食子(IG)インクにたどりつきました。
同じ研究者である奥様とともに試行錯誤して、新しいIGインクを開発して2015年KWZインクを立ち上げました。
KWZインクの興りが、ウォーターマンの万年筆の興りに近いものがあって、失敗が新しい発想の源泉になるのだと改めて認識するエピソードです。
KWZインクの特長は、酸化鉄が紙に定着することで、高い保存性を発揮する古典インク(IGインク)があることと、微妙な色違いで同じ系統の色がいくつもあることです。
KWZインクのブルーの微妙な違いを見て、自分もこの中から自分好みのブルーを選んで使いたいと思いました。
古典インクで#1から#6まで(#4は欠番)、ノーマルインクで#1から#5まで、それぞれのブルーにセンスが感じられ「なかなか分かっている」と唸らされます。
保存性が高いということと、書いた後しばらくすると色が黒っぽく変化するというところに惹かれてIGインクのブルー#3を全ての万年筆の入れて使ってみています。
IGインクで注意しないといけないのは、普通の染料インクよりも酸性度が高いということです。
金ペン先でない万年筆、首軸先端付近(インクが付きやすい所)に金属が使われている万年筆には腐蝕の恐れがありますので、注意して使われた方がいいと思います。
古典インクはどのインクも、出が渋くなるものだと思っていましたが、KWZインクは渋くなりませんでした。
アウロラ、ペリカン、パイロット、ファーバーカステル、どのメーカーに入れても快適にお使いいただけると思います。
インク専門メーカーのインクを使うことは、メーカー純正ではないために自己責任ということになるけれど、私の場合使っていて不具合は起こっていません。
自分好みのブルーをKWZインクによって手に入れることができて、とても嬉しく愛用しています。
KWZインクの古典インク(IGインク)には3種類あります。
IGアーカイブインクは、高濃度のIron Gall成分を含むインクで、最も高い筆記保存性があります。「IGブルーブラック」がこれにあたります。
IGLインク「IGマンダリン」と「アステカゴールドIGL」は、Iron Gall成分を抑えた、色の変化を楽しむインク。
その他のIGインクは、中程度のIron Gall成分を含み、筆記保存性があります。
*KWZ Ink「水性筆記インク」
*KWZ Ink「没食子インク(IG・IGL)」
遊び心を感じるボールペン
万年筆は書くことを楽しくしてくれる筆記具だけど、当店は万年筆だけにこだわっているわけではありません。仕事ではボールペンを使う機会の方が多いという人がほとんどだし、外出先ではボールペンの方がやはり手軽に使える。
ボールペンはその選択によって仕事を楽しくしてくれるものではないかと思っています。
スーパー猛暑と言われる今夏、万年筆だけでなく少し肩の力を抜いて涼しい気持ちで、超定番はなく、当店らしいボールペンの提案をしてみたいと思いました。
仕事の道具として選ばれることの多いボールペンですが、少しは遊び心がある方がいい。
地図が好きで、地名や山河の名前を聞いただけで萌える私ならこういうものを使ってみたいと思い、選んだものがモンテグラッパのボールペンでした。
「ドゥカーレ」は少し大きめのボディで、とても堂々としたボールペンです。
ヴェネツィア近郊のヴェネツィアングラスの産地ムラノ島へのオマージュとして作られたドゥカーレムラノマーレは深みのあるブルーとベージュのアクリルレジンで、ガラスのような輝きのある美しさです。
こんな美しいボールペンをモンテグラッパは作ることができるのだと、衝撃を受けた1本でした。
「フォーチュナモザイク」は、美しいモザイクアートの3つの都市をテーマにそれぞれの都市をイメージしたボールペンです。
モンテグラッパのペンに対して実用的なことについて言及するのは野暮に思えるけれど、丸みのあるボディが意外と手にフィットして、とても使いやすいところも特筆すべきところだと思いました。
「バルセロナ」。美しく区画されたその街の全体像自体がアートのようですが、他のペンでは見られないターコイズブルーのモザイク模様はグエル公園の建造物をイメージしたのかもしれません。
「マラケッシュ」は、モロッコの神秘的な街の風景が目に浮かびます。街中にあるモザイクアートを透明感のあるブルーのモザイク模様で表現しています。
「ローマ」は、モノトーンのモザイク模様で、ローマのモザイク画やローマが舞台となった古い映画をイメージして表現されているのか、とてもピッタリなイメージです。
それぞれのペンを手にして、テーマになったそれぞれの街に思いを馳せる。それもひとつの大人の遊び心で、モンテグラッパの提案する遊びに大いに共感します。
普段の生活や仕事の中に旅をイメージさせるものがある。
ペンならそれをさりげなく取り入れることができると思っています。
モンテグラッパは汎用性の高いパーカータイプの芯を使用していて、好みの書き味の芯を自分で選ぶこともできるので、道具として自分の理想に近付けることができるというところもポイントです。
⇒モンテグラッパ「ドゥカーレ ムラノ マーレ ボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・ローマボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・マラケッシュボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・バルセロナボールペン」
価格に見合った価値のためのペン先調整
イベントで出張販売しました札幌・福岡でも多くの方から求められていると実感したのはペン先調整でした。
それだけ多くのお客様が書けない、あるいは書きにくい万年筆を手にしてお困りなのだと思います。
最近では、万年筆を使われる方の実情に合った、太いペン先を国産万年筆の細字くらいに細くする細字研ぎ出しもかなり多くなっています。
万年筆はけっして安いものではありません。
ペン先が14金で1万円以上もするのに、書けなくていいはずがないし、5万円以上もするのに、ステンレスのペン先の万年筆と同じようにただ書けるだけではいけない。
誰でもそうだと思いますが、私も買い物をする時、そのモノにその値段の価値があるかどうか考えます。
価格に見合った価値があるかどうかは、私の場合高いお金を払ったというマイナスよりもそのモノから享受できる喜びが上回るかです。
お金を貯めてたまに、私としては高い靴を買います。
JMウエストンのゴルフは、とても高価な靴です。
昔はそんなに高くなかったという人も多いけれど、自分にとってその靴が喜びを与えてくれるからそれでいいのだと思います。
これからこの靴を自分の足に時間をかけて馴染ませていくのだという希望のある喜びが履くたびに感じられる。色違いでもう1足欲しいと思う。
私にとってゴルフは値段に見合った価値を提供するものになっています。
使い始めた万年筆が価格に見合っていると思ったらその人はきっと2本目、3本目と万年筆を買ってくれるだろう。
でもせっかく思い切って買った高価な金ペン先の万年筆が、子供用の安価なスチールペン先の万年筆よりも書いていて楽しくなかったら、きっと高い万年筆を買うことがバカバカしくなってしまう。
万年筆を使い始めた人がそう思わないように、当店で販売する万年筆は価格に見合ったものだと思ってもらえるようなペン先調整をしています。
それは特別なことではないし、改造と言われるものでもない。
ペン先をルーペで見て正しい状態にするだけ。そして正しい状態の範囲内で、その万年筆を使われる方の書き方やお好みに合わせる。それは万年筆を販売する店として当然のことだと思っています。
もし前述の靴がいくら上質なモノであっても、お店の人からもう1サイズ大きいものがピッタリだと勧められていたりしたら、今のフィット感は得られなかったので高い買い物になっていた。
万年筆のペン先調整も、お客様にピッタリの靴をお勧めすることと同じだと思っています。
福岡でのイベント「Pen and 楔 2017」を終えて
福岡県南部の記録的な豪雨の翌週で、どういう状況かよく分からないまま迎えた福岡のイベントでした。訪れた三日間は雨は降っていませんでしたが、すごい湿度で神戸とは全く違い、もちろん6月末に訪れた北海道とはあまりにも違う蒸し暑さでした。
重い調整機のカートを引いて地下鉄から地上に上がった時には、すっかり汗だくになっていました。
会場のほぼ隣にあるホテルに早めのチェックインをして、ちょうど永田さんとも行き会って、15時過ぎからギャラリートミナガさんで準備を始めました。
永田さんはさすがにイベント慣れしていて、自前のテーブルまで用意して完璧な売り場作り。今回のイベントで永田さんから学ぶことは非常に多いだろうと2月の下見の時に思っていましたが、それは正しかった。
永田さんの仕事振りを見て、出張販売のノウハウや自分ができていない様々なことがよく分かりました。
準備はいくらしても終わりがありませんでしたが、翌日の朝からも時間をいただけるとのことで、18時に切り上げました。
ギャラリーの女性オーナーの富永社長が誘ってくださり、とても美味しい魚料理をご馳走になりました。
富永社長は今まで出会ったことのないタイプの方で、生粋のお嬢さまでした。
私と永田さんはご飯をおかわりしながらも、完全な接客モード。
どこか緊張感のある雰囲気で始まった夕食でしたが、徐々に打ち解けることができて、富永社長との距離が少し縮まったような気がしました。
イベントが終わった時には富永社長が「あなたたちはクセのない本当に良い人たちなのね」と言って下さいました。
2日間お客様と接する私たちを見ていてそのように思われたようで、素直に嬉しかった。
福岡でのイベントの雰囲気は、当店で年2回開催している工房楔のイベントに近いものでしたが、札幌のイベントとはかなり違っていました。
気候、地形も含めてそれは違う国のようだったと思っています。
札幌のイベントでは初めてお会いするお客様が多かったのに対し、福岡では知り合いのお客様が多く、札幌と福岡の距離の違いを実感しました。
どちらのイベントでも、ペン先調整・字幅変更などの調整が一番求められていたと思いますが、札幌のお客様は当店が提供する商品やオリジナル商品に興味を持って下さっていて、どんなものがあるのか見に来て下さったように思いました。
それに対して、福岡では商品も見に来て下さっていましたが、私がどんな人間なのかを見に来られた方が多かったように思います。
イベントごとに新しいものを用意して、それをお客様に見せ続けている工房楔の永田さんのように、私も毎年開催すると決めたイベントに毎回来ていただけるよう、準備をしなければならないと思います。
そして、札幌・福岡のイベントに来て下さったお客様に次のイベントまでの一年、気に掛けていただけるように、興味を持ってもらえる情報を発信し続けなければならない。
イベントで多くの出会いがあってとても良かったけれど、新たな苦しみと戦いも始まったように思います。
福岡では、来年も7月14日(土)15日(日)、「Pen and 楔 福岡展」を開催することを決めて、ギャラリートミナガさんに予約をして帰ってきました。
*最後になりましたが、先日の九州地方北部の集中豪雨により被災された皆様には、謹んでお悔みとお見舞いを申し上げます。
KA-KU奈良店でのペン先調整応援
万年筆の仕事が、ペン先調整が自分がやるべき仕事で、これからもこの仕事をして生きていくとのだと思っています。
だからこの仕事で世の中の役に立ちたいと思っていました。
自分の店だけでなく、他所のお店でも万年筆を使う人を増やすために役立つ仕事が出来たら、という私の想いをKA-KUさんが理解してくださり、顧客サービスを目的としたペン先調整会を奈良店さんで初めてすることができました。
KA-KU奈良店でお買い上げいただいた万年筆は無料で、他店で買われた万年筆は3500円で調整するという、当店と同じ条件での調整会でした。
KA-KUの店頭でも、来店された方に調整会があることをお声掛けして下さっていましたが、調整に来て下さったお客様方に伺うと、チラシを見たという方がほとんどでした。
KA-KU奈良店は、大和西大寺にある近鉄百貨店の筆記具売場という役割で、今回の催しを近鉄百貨店さんが新聞に折り込みするチラシに掲載してくれていました。
調整会に来て下さったお客様の多くは、1本の万年筆を長く使っておられる方で、書きにくいなど何らかの事情があって使わなくなっていた引き出しの奥の万年筆を、また使いたいと思っておられるところに、チラシの記事を見てご来店下さったのでした。
当店のお客様でわざわざ私の顔を見に来て下さった方もおられ、当店の今までと違う試みとして見守られていることも分かりました。
この調整会でもとても楽しく仕事することができましたし、万年筆を使う人を増やすことに役立つ活動だと思いましたので、機会があればぜひまた行きたいと思っています。
奈良市内も西大寺辺りは、平地の中に家々が密集していなくて、ゆったりとした風景。ショッピングセンターのすぐ隣は、広大で四方の門以外何もない。でもそれがかえって往時の都の風景を想像させる平城京跡で、すばらしいロケーションです。
当店にも来ていただきたいですが、KA-KU奈良店さんにもぜひ行っていただきたいと思います。
この記事は7月7日(金)に書いていて、明日7月8日(土)9日(日)は福岡ギャラリートミナガさんで、工房楔との共同イベント「Pen and 楔」を開催しています。
どうぞ、ご来場下さい。
*工房楔共同イベント「Pen and 楔」
7/8(土)9(日)11:00~18:00(最終日16:00)
ギャラリートミナガ
福岡市中央区大名2丁目10-1
札幌での出張販売を終えて、そして福岡へ ~出張販売への想い~
*第1回目の札幌のイベントを記念する形あるものが何もないと寂しく思っていたら、イベント会場に提供して下さったギャルリー ノワール/ブランのオーナー、北晋商事の金さんがギャルリー ノワール/ブランマグカップをくれた。記念のモノができて嬉しかった。
すごく贅沢で恵まれたことだと思いますが、私は自分がやりたいと思う方法でしか仕事をしていません。それは当店や私たちのことを想ってアドバイスしてくれたことでも同様です。
積極的な分かりやすい宣伝もしていないし、取引先の人が売れていると教えてくれても、自分が気に入らなければ、他店で売れているのであれば当店が売らなくても他店で売ればいいと考える天邪鬼振りで、私のことを歯がゆく思っている人もいると思います。
そんな商売のやり方なので、当店はいまだに10年前と同じ場所で、同じようなやり方をしているのだと自分で分かっています。
きっと人数は多くないと思いますが、そんな当店のやり方に賛同して下さったり、応援してあげたいと思って下さっている方々が当店を支えて下さっていて、本当に有難いと思っているし、そんなお客様方を尊敬しています。
自分が好む仕事の仕方しかしないけれど、店を潰すわけにはいかない。
それにどうせ仕事をするなら昨年よりも良い結果が残せるように考えた方が楽しいに決まっているので、顧客を増やしたいと思っても姿勢は変えたくない。
当店の姿勢を理解して下さる方は、その方のもともとの考え方によるところが大きく、少数派なのではと最近思うようになりました。
そう考えた時に、自分が他所に出て行って、当店のやり方に賛同して下さる方、あるいは近い考えの方を見つけたいと思いました。
以前から色々な町に行って、出張販売のようなことをしたいと思っていました。
自分のやりたいことと、店の成長のために必要だと思えることが合致しましたので、出張販売をすることにしました。
なるべく色々な場所でできればいいけれど、まずは札幌と福岡からスタートしました。
北海道も九州もそれぞれの地域の中で生活が成り立つ、ひとつの国のように感じていて、それぞれの国の首都のようなところに行きたいと思いました。
北海道にも九州にも、当店のWEBショップを利用して下さっているお客様が多くおられますので、お名前など文字の情報しか分からないお客様ともお会いして親交を深めたい。
仕事なので採算をとらなくてはならないと、札幌には少し気負って出掛けて行きましたが、それぞれの土地に出て行って一言でも直接お客様と会話をすることが一番の目的ではないかと今は思っています。
札幌での出張販売でそのように思えるようになったのは、人数は多くないけれど、北海道各地から来て下さったお客様と温かく楽しい時間を過ごすことができたからでした。
次は、7月8日(土)9日(日)の工房楔との共同開催イベント 「Pen and 楔 福岡展2017」です。
体裁としては、オリジナル商品の販売や万年筆の調整販売、ペン先調整をしますが、当店のやり方に賛同して下さる方を探しに行くという姿勢は同じです。
イベントの2日間でまだ予約に余裕がありますので、ご都合の良い時間をお知らせいただければと思います。
イベントに来て下さるお客様と、親交を深めることができたらと思っています。
仕事の中心を成すバイブルサイズとVファイル
出張販売という例年になかった仕事を作って準備をしてきました。
初めてのことなので、時間を割かなくてもいいことを考え続けたりして、100%と思える準備は結局できなかった。
きっと持っていく商品も多すぎるのだと思います。
こういった試行錯誤は一度で十分で、次からはもっと要領良く準備したい。
最初の反省点を生かすためには、様々な記録を残しておく必要があります。
スケジュールやToDoなど、システム手帳に出張販売の項目を作ってそこに書き込み、チェックを入れながら使っていて、仕事の内容はともかくそれで上手く手帳としては機能していたと思います。
作業の予定、行動などは3つ折りカレンダーが最も得意とする使い方だと思うし、何度も繰り返し見て、必要があれば書き込んで、何色もの色鉛筆でチェックを入れるチェックリストは水玉罫が使いやすかった。
今回の出張販売イベントの準備において、手帳に関しては大いに満足しています。
これらの記録は来年見ても分かるように保管しておく必要があります。
システム手帳のリフィルだけならバインダーに綴じておけばいいけれど、商品リストはA4サイズで、DMも残しておきたい。
サイズのバラバラな紙片を保存しておくにはそのまま放り込むVファイルが使いやすいと思います。
昔はシステム手帳リフィルの保管ならバインダー形式だと思っていましたが、資料の中には様々な大きさの紙があって、それらが散逸することにいつも頭を悩ませていました。
金治智子さんの提案するVファイル形式のファイリングは、一見システム手帳のメリットを生かしていない書類の保管方法に思うかもしれないけれど、私たちの仕事や暮らしを全てバイブルサイズに統一するにはやはり無理がある。
Vファイルはそれを補ってくれて、筆文葉リフィルをより活用できるようにするためのもの、という事を今回改めて実感しました。
出張販売イベントのような、当店のことをご存知ない方に当店を紹介することは自分の店を冷静に見つめ直すいい機会でした。当店の特長を告知しながらイベントの準備をして、日々の業務をこなすのに、筆文葉のシステム手帳リフィルは大いに助けになったと思います。
それらを保管して次回役立てるためには、Vファイルとの組み合わせがいい。
Vファイルはバイブルサイズに近い、少しだけ大きめのB6サイズになっています。そしてVファイルを収納する箱として、コレクトの情報カードボックスを提案しています。
バイブルサイズジャストの箱は意外と市販されていませんが、B6サイズの箱であれば探せば見つけられるかもしれません。
Vファイルは、バイブルサイズという紙のサイズとしては少し特殊なものと紙の規格寸法のアダプターのような役割もしてくれています。
これで様々な記録を散逸させる心配がないと思っているけれど、同じように思って下さる方も多いと思います。
直しながら長く使うために
靴はそう簡単に壊れませんが、履くほどに底が減ってくるので靴底の貼り替えに出す必要があります。でもそうやってたまにプロの手に預けることによって、底以外の部分のメンテナンスをお願いしたり、アドバイスを受けることができます。
せっかく手に入れた靴なので、少しでも長く、できれば一生履いていきたいと思っています。
万年筆は使っていても目立って減る部分は少ないけれど、壊れたら直して長く使うものだと思っています。モノである限り壊れないものはないので、私も何度もメーカー修理に出したことがあります。
直すことのできないものは長く愛用することができないし、修理の対応でその店やメーカーの質を測ることができます。
私の持論ですが、しっかりした店ほど修理が多いと思っています。
自分が大切に使っているものを預ける店ですので、お客様の信用があるということですし、万年筆が売れていないのに修理ばかりが多かったとしても、修理のお客様にしっかり対応していれば、いずれ万年筆も売れるようになると思っています。
お客様から修理して欲しいと打診されて、他所の店を案内したり、メーカーに直接送るように指示する、修理から逃げるような店がネットショップの中にはあるようです。
でも万年筆は直しながら長く使うもので、修理を介しながらお客様との関係も長く続けていくということを理解していないのだと思います。
ぜひ、修理を気持ち良く受けてくれる店と関係を築いていただきたいと思います。
メーカーでも修理などのアフターサービスが良いところと悪いところがあって、数少ない悪いところは言いにくいけれど、国産3社はどこも良く修理代も安い。
海外のメーカーでは、ペリカン、アウロラ、パーカー、ウォーターマンの修理の対応が特にいいと思っています。
限定品などは本国修理になりますので何か月もかかることがありますが、どのメーカーも保証書に国内の販売店の捺印があるものであれば優待してくれるので、修理に出した時の満足感は高い。
アウロラはボディと首軸が断裂するというショッキングな修理(落下などの理由がない場合)でも保証書があれば無料で修理してくれますので、最初の価格は高いと思っても後々安心して使うことができる。
万年筆メーカーは経験的にアフターサービスの大切さを知っているのかもしれません。
木製品も、自然な手触りを残したものはひび割れが起こることがあります。
工房楔の木製品もひびが入ることがありますが、これも埋めながら使うものだと私は思っています。
工房楔の永田さんはすごく上手にひびを埋めてくれるので、どこにあったか分からなくなります。補修も木工家の腕のひとつなのだと知りました。
世の中には、修理の要らないものはなくて、良いものほどきちんと修理ができるように作られている。
万年筆も直しながら長く使うものなので、もし壊れたりしても安心して修理に出して欲しいと思っています。
復興の歴史~ペリカンM800ルネッサンスブラウン発売
私が今している仕事はきっと過去にも誰かがしていたことで、その人が万年筆の歴史の中に埋もれていったように、私のしていることも同じく跡形もなく消えてしまうのだと思います。でもそれでいいと思う。
万年筆の歴史は「革新」と「過去の復興」の繰り返しだからです。
ペリカンもそんな万年筆の歴史を何度も繰り返してきたメーカーのひとつで、クラシックなモデルと革新を標榜したモデルをバランス良く発売してきました。
でも革新を目指したモデルは長く続かず、ペリカンほどのメーカーであっても革新しようとしたことは万年筆の歴史の中に埋もれてしまった。
M800ルネッサンスブラウンは、ルネサンス絵画のような色合いをボディカラーで表現していて、昔のセルロイド製のクラシックな万年筆のように仕上がっています。
しかし、ペリカンはセルロイドではなく、現代の素材アクリルレジンを素材として使用しています。
万年筆の素材は、今ではアクリルレジンから削り出したものが主流になっていて、セルロイドやエボナイトは使われなくなってきています。
製作の時間も手間もかかるセルロイドのボディこそ価値のあるものだとして、高額なセルロイドの万年筆も存在しますが、余程注意して時間も手間もかけて作らないとセルロイドは時間の経過とともに変形していく。
変形してしまった古いセルロイドの万年筆を今まで嫌というほど見てきたので、やはりアクリルレジンのボディの方が使っていて安心だと私は思っています。
M800ルネッサンスブラウンは昔の万年筆に使われていたセルロイドのような色柄で、ルネサンス期の絵画のような色彩を表現した限定品です。
ルネサンスを古典古代文化の復興と解釈するなら、古い時代の万年筆の復興を目指したモデルなのではないかという見方をしても面白い。
イタリアのメーカーが黄金期の万年筆の復興を目指したモノ作りをし続けているのと同じように、ペリカンもまた革新とのバランスを大切にしながらも現代の技術を駆使するという、少し違ったやり方で黄金期の万年筆の復興を目指しているような気がします。
M800は硬いペン先とバランスの良いボディを持つ筆記性能に優れた万年筆の中の万年筆ですが、1980年代発売でその歴史はあまり古くない。
当時、アウロラアスティルから始まった細い軸のスマートな万年筆が流行していました。しかし、筆記性能が高く、大きなペン先を持つ1930年代の万年筆らしい万年筆のスタイルを持つM800はその流行に一石を投じたのではないかと思っています。
それ以後万年筆のトレンドは大きなペン先と堂々とした大型のボディになっていると考えるとM800が万年筆の業界に与えた影響は計り知れず、それが今も続いている。
1930年代の万年筆の復活を世に問うたM800が、クラシックな色柄のボディで今また黄金時代の万年筆の復活を掲げているのがM800ルネッサンスブラウンなのだと思います。