スチールペン先で、それほど高いものではないけれど、デスクペンと言われる万年筆が日本の各メーカーのカタログに載っています。
スチールペン先のせいか、書き味はそれほどでもないけれど妙にバランスが良くて書きやすい。
ペン習字などでよく使われているのも分かります。
デスクペンについて考えた時、いつも加藤製作所の加藤さんのことを思い出します。
もう13、4年前の話になりますが、大西製作所の前身である加藤製作所の加藤さんが万年筆の尻軸に交換して使うことのできるデスクペンパーツを試作していて、「こういうふうにするとなぜか書きやすいんや」と、デスクペンの書きやすさについて話しておられました。
その後加藤製作所のデスクペンは試作の域を出ず、あまり多く世に出ることはなかったけれど、80歳を超えていた加藤さんが誰も作っていないようなものを作ろうとして、休日に新しいアイデアを試していたことに、当時若かった私は刺激を受けていました。
今では中屋万年筆のシガーロング、プラチナ出雲や、当店でもまだ在庫があるけれどセーラー100周年記念島桑などの長いペンはとても書きやすいバランスを持っている。
ボールペンでもデスクペンタイプのものは妙に書きやすい。ゼブラにバンカースという定番ボールペンがあったけれど、今もあるのだろうか?
そんな書きやすい長いペンの欠点は、ちょうど入るペンケースがないということです。
長いペンは使いやすいので、ペンケースなど何かに入れて持ち歩きたいと思うけれど、普通に販売しているペンケースはいくら長くても15cmくらいまでで、それ以上のペンは「長すぎるペン」として、どのペンケースにも入らない。
当店で6年ほど前にオリジナル長寸万年筆ケースというものがありました。
それは主に中屋万年筆のシガーロングの万年筆を収納するためのものとして発売しました。
当時、和の趣のある黒桟革で作っていましたが、コンチネンタルのシリーズ仕様のダグラス革で復活させました。
使いこむと艶が出て、ペンの出し入れで折り曲がった時のシワ感も景色になる。
エイジングを楽しめるダグラス革は、当時の和の趣きのそれとは全く違う魅力があります。普通のペンケースとは出し入れの方法が少し違っていますが、慣れると一瞬で出せるし一瞬でしまえます。
数年ぶりですが、長いペンを収められるペンケース復活のご要望は多くありましたので、それに応えたいと思いました。
カンダミサコのコードバン
オールデンのコードバンの靴を1足だけ持っています。
希少なコードバン革は年々値上がりしてかなり高価な革になっていますので、本当に分不相応なものに思います。だから雨が怖くて、兵庫県南部の降水確率が0%の日しか履くことができません。
しかし、その光沢や履き皺など、こんなに美しい靴があるのかと自分の足元を見て嬉しくなるくらいのものではあります。
クロコやリザードなどの強烈な個性のある革も良いけれど、私はこのコードバンが革の最高峰ひとつなのではないかと思っています。
その靴はオールデンの最もオーソドックスな型の990というモデルで、これだけ存在感のある革はシンプルな990の形とのバランスが一番良いと思っています。
この革でステーショナリーを作りたいといつも思っていて、今までにも手帳カバーを作ったことがありました。
当店に、いつか使おうとストックしていたオールデンの靴と同じホーウィン社の上質なコードバンが数枚ありました。
10周年の今年がそのタイミングだと思い、システム手帳とペンシース、ミニペンシースを作ってほしいとカンダミサコさんに託していました。
カンダミサコさんのシステム手帳もペンシースも、余計な装飾のないとてもシンプルなものなので、コードバンの革がとても合うと思っていました。
今回当店からお渡ししたコードバンと、実はカンダさんも秘蔵していたコードバン(マーシュ)があって、それらに形が与えられました。
コードバンのムラのある光沢は、シンプルなカンダミサコさんのシステム手帳に景色を与え、すごいものができたと思いました。
ペンシースもカンダミサコのロゴが美しくクッキリと入り、ステッチがある短辺の反対側の長辺の張り具合や光沢は、このペンシースの形だから現れるピッタリの素材だと思いました。ミニペンシースは、その名の通りミニペン用ですが、ペリカンM101Nのシリーズや1931のシリーズも入れることができます。(マーシュだけ革の関係で長さが2mm短くなっています)
今年、なぜ自分が躍起になって新しいものを作っているかというと、やはり当店の10周年を様々な良いもので彩りたいと思っているからだと思います。
なるべくいつも通りでいたいけれど、今年は特別な年なのだという感覚が強くて、とうとう秘蔵していたコードバンを使うことにしました。
限定商品になるけれど、特別なコードバンを堪能できるものができたと思っています。
限定商品コードバンシステム手帳・1本差しペンシースはこちらから
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システム手帳リフィル「筆文葉」のある私の生活
当店オリジナルのシステム手帳リフィル「筆文葉(ふでもよう)」に、新製品としてスケルトンリフィルを追加しました。これも金治智子さんの知恵が詰まったものです。
筆文葉シリーズは少しずつ拡大していて、今後どのように成長していくか私も楽しみにしています。
万年筆で手帳を書くことは、楽しみや趣味にもなることで、システム手帳はより手帳を楽しくしてくれるものだとこのコラムで以前に申し上げたことがあります。
そしてこの筆文葉も、私自身楽しみながら使えると思っていました。
しかし、自分の人生を振り返ったり今後についてイメージした時、優雅にゆっくりと時間を過ごすことはあまりなくて、きっと常にあくせくと試行錯誤しながら仕事をしているような気がする。
そういう生き方しか知らないし特に変えたいとも思わないので、それはきっと自分自身が望んでいる生き方なのだろうと思います。
筆文葉リフィルは、金治智子さんによる筆文葉の使いこなしを解説するブログ「筆文葉のある生活」のように、生活を心豊かにしてくれる可能性があるものなのに、自分の使い方はあまりにも地味だ。
自分自身を省みる暇もなく、不器用に仕事に追われている。
少ない予定を整理するダイアリーと札幌、福岡のイベントまでの仕事の工程表も兼ねているカレンダーリフィルは、3つ折りで見開き1年になりますが、ある程度書き込んで見開き1年の有難味が分かってきました。
日々の仕事を忘れずにするための、自分の仕事においてもっとも重要なToDoは、3mm横罫ノートとしても使うことができる、「横罫9mm(3mm補助罫)」に細かく書いています。
仕入れ金額や売上などの追い続けるデータは3mm方眼にやっぱり細かく書いている。
カンダミサコさんのシステム手帳は携帯しやすいようリング径が小さくしてあります。その意図を邪魔しないよう軽量化するためにも、なるべく小さく書いて紙1枚の情報量を多くするようにしています。
わざわざ細い字が書ける万年筆を用意して、読み返せるギリギリの小さな文字を書いています。
意外と仕事で大活躍してくれるのが水玉罫です。横罫や方眼罫に読みやすくレイアウトしながら書くには素質や努力が要りますが、水玉罫はその円の中に書き込むだけできれいにレイアウトできて見栄えが良い。それぞれの内容が独立しながらも、線などで結びつけることができることも使い勝手がとてもいい。
大きなToDo、仕事の順番を決める時などにも活用できます。
札幌、福岡のイベントが来月末からとなり、準備に忙しくなってきました。準備のための情報を整理するのに筆文葉がかなり役立っていて、これがなかったらどうしていただろう、と思います。
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INK Notebook~インクノート~
ローラーアンドクライナーのスカビオサという名前のインクにハマっています。
スカビオサという言葉の響きと少しもの悲しげで、諦めたような、覚悟を決めているような色の印象が好ましく、気に入って使い始めましたのですが、最初はお客様が使われているのを見て気になったからでした。
万年筆を使いだして長くなるけれど、それまであまり気にならなかったインクがいろいろ気になりだして、今頃インクの色への興味、探究心が出てきたのかもしれません。
インクの色が気になりだしたのは、当店オリジナルで作ったインクノートを書き始めたからだと思います。
使っているインクをインクノートに書いて整理していると、もっと他のインクも使ってみたくなるという効果があって、手帳は全て同じ色で統一したいと思っていたはずなのに、スカビオサの他にもKWZ(カヴゼット)インクにも手を出しています。
インクノートは、当店の特長のひとつでもあり、色の世界観を和歌などで表現している「色見本帳」を書いているスタッフKが長年温めていた企画で、インクのデータ以外にもシールを貼って所有インクを一覧できるチャート表もある、マニアックなものになっています。
持っているインクを人に見せることもできる遊び心もあるけれど、持っているインクを一目で把握できて、インクの二重買いを防げて、使い方次第ではどの万年筆にどのインクを入れたかも分かる、万年筆を使っている人の助けとなるものだと言えます。
中紙はインクの色を正確に残すことができるバガス紙をこだわって選んでいます。
手応えのある書き味が楽しめる紙で、インクの収まりも早く、このノートに適したものになっています。
当店オリジナルダイアリーと同じ正方形サイズになっていますので、ダイアリー用の革カバーも使うことができるし、ダイアリーや他のノートとともにインクノートを挟むことができて、使い方にも様々な広がりがあります。
1冊で36色のインクについて書くことができますが、もしかしたらそれでは足りない人もいて、色ごとに分冊して、複数のインクノートを使い分けて使う人もいるかもしれないと、皆様がこのノートをどのように使われるかを楽しみにしています。
Liscio-1(リスシオ・ワン)紙~装丁文庫ノートへの思い入れ~
万年筆の書き味は紙質に大きく左右されます。
紙の表面のプレスを強めに平滑に硬くすれば、ペンの滑りが良くにじみの少ない紙になります。
プレスを弱めにして、紙の表面を柔らかくしておけば、書き味はフカフカとした柔らかい紙になります。
大和出版印刷さんの第2世代の万年筆用紙グラフィーロは、紙の表面をローラーや填料でくぼみを埋めて平滑にして、にじみ、裏抜けのなさを追究した紙だと言えます。
グラフィーロは、紙に対して、私たちが嫌だと思う要件をひとつずつつぶして完璧な紙を目指した体育会系的な思考で作られた紙だと思っていて、私は大和出版印刷さんらしい発展の仕方をしたと思っています。
そのやや硬質な書き味から、私はグラフィーロを「辛口の書き味の紙」と分類しています。
第1世代の紙リスシオ・ワンは、初めて大和出版印刷さんが製作したステーショナリーである最初の上製本ノートの用紙として採用した最高の書き味の紙、バガス紙に代わる紙として、万年筆での書き味を追究して開発されました。
書き味という快楽を追究したところに、帰宅部系の私は最高の紙のあり方だと共感していました。リスシオ・ワンはまさに甘口の書き味の紙だと言えます。
リスシオ・ワンは、それを製作した機械が老朽化で廃棄となったため、二度とつくれなくなりました。そこで大和出版印刷さんは再び紙開発をして、グラフィーロを作り上げました。
現在は、大和出版印刷(神戸派計画)の紙製品はリスシオ・ワンからグラフィーロに移行しています。
だけどリスシオ・ワンの商品がこのままなくなってしまうのは、非常にもったいないと思っていました。
当店が装丁文庫ノートをリスシオ・ワンで製作したのも、今のように大和出版印刷さんがステーショナリーの世界で知られる前に取り組んでいた紙の良さも、伝えたいと思ったからでした。
私は1日1ページの日記帳として使われる想定でこのノートを企画しましたが、もちろん他にも使い道はいくらでもあります。皆様がどのようにこのノートを使われるか、楽しみにしています。
大和出版印刷さんが万年筆で気持ち良く書くことのできる紙を作りたいという、情熱だけを持って開発したリスシオ・ワンの紙から私はロマンを感じていて、私たちの仕事のあるべき姿だといつも心に持ち続けていました。
それが10年後このような小さくてコロンとしたかわいらしいノートとして生れ出ました。
リスシオ・ワン紙を使用した他のノートも、この装丁文庫ノートも、万年筆で書くことによって書き味という快楽を味わえるものです。
リスシオ・ワン紙自体は新たに作られることはありませんが、すでに商品となっている他の製品もまだ大和出版印刷さんに在庫があります。この甘口の紙の書き味も味わっていただけたらと思います。
携帯用のペン先調整機を手に入れる
6月に札幌、7月に福岡のイベントを控えて少しずつ準備をしています。
外でのイベントは昨年始めからイメージし続けていましたが、10月頃から急にバタバタと物事が決まり始めました。
昨年1月の代官山蔦屋書店でのイベントでは調整機を運ぶために車で東京に行きましたので、車なしで外に持って出ることのできるペン先調整機が必要でした。
大先輩に甘える形になってしまったけれど、11月に名古屋のペンランドカフェの高木雅且会長を訪ねて、食品加工機械を製作されている尾崎さんを紹介していただきました。
今使っているペン先調整機は9年使っていて、改良点や追加したい機能のイメージがはっきりしていました。そして尾崎さんが製作されたペンランドカフェさんの調整機をベースにできたので、訪問したその日のうちに全ての仕様を決定することができました。
打ち合わせから半年の間、メールで何度もやり取りして、尾崎さんにはゴム砥石の製作や図面起こしもしていただきました。
そしてついに新しい調整機を持って、高木会長が運転する車にペンランドカフェの荻敏英店長と尾崎さんが来て下さいました。
わざわざ持ってきて下さって恐縮しましたが、尾崎さんから直接説明を受けることができたし、荻さんとペン先の調整について話すことができました。
そして本業だった会社の経営を息子さんに引き継いでおとなしくしている、とご自分ではおっしゃっている高木会長のお元気な様子も分かりましたので、皆さんにお会いできて本当によかったと、今も興奮が冷めずにいます。
新しい調整機は、試行錯誤を共にした調整機で得たノウハウを全て反映させた、完璧なものになっています。
モーターやベルト、ベアリングなどの作動音は驚くほど静かになっているし、砥石の回転数も無段階で変更することができる上に、回転方向も切り替えることができる。
他にも色々変更点があり、これで細字研ぎ出し加工もやりやすくなりました。
ペン先調整においては、ペンポイントをいかに温存したまま書きやすくするかを念頭に置いているけれど、同時に美しく仕上げたいと思っています。
美しいペンポイントへの憧れはかなり以前から持っていて、趣味の文具箱のペンポイントを超高倍率で撮影した写真などいつまでも見ていられます。
ペンポイントの研ぎを追究したいという想いは昨年あたりからさらに強くなっていて、きっと自分はこれからもこれで身を立てていくのだろうと確信しました。
ペンポイントの研ぎについてだけはいくらでも話すことができるし、その道具についてでも同様で、新しい機械ができたことでまた話すことが増えた。
新しい機械は出張調整用の機械で、今までの初号機も並行して使っていくけれど、自分の手を馴らすためにしばらくは集中して使っていきたいと思っています。
札幌のイベントも福岡のイベントも、いつあるか分からないイベントをアテにするのをやめて、自分たちで実行しようと思って企画しましたが、結局多くの方の助けをいただいて実現することになりました。自分たちだけでは本当に何もできなくて、ご協力いただいている方々に改めて感謝しています。
イベント日程はそれぞれ下記の通りです。お近くの方もそうでない方も、ぜひお立ち寄りください。
対面調整をしての販売がメインとなりますので、ご希望の万年筆がある場合などは先にお知らせいただけましたらご用意してお持ち致します。インターネット販売で直接お会いしたことのない方にも、ご挨拶できればと思っています。
〇札幌イベント 6月24日(土)・25日(日) 10時~19時
ギャルリー ノワール/ブラン
札幌市中央区南2条西6-5-3 住友狸小路プラザハウス2F
〇福岡イベント 「Pen and 楔」 *工房楔との共同開催
7月8日(土)・9日(日)11時~18時(最終日は16時迄)
ギャラリートミナガ 福岡県福岡市中央区大名2-10-1シャンボール大名A-103
〇調整応援 7月1日(土)・2日(日) 10時~17時 *調整応援として滞在しています。
Ka-Ku(カーク)奈良店(奈良大和西大寺のならファミリー内)
1本差しのル・ボナー絞りのペンケース
万年筆をたくさん持ち歩くのもいいけれど、今日使うと朝選んだ万年筆を1本だけ持ち出すためのペンケース。
革の色によって印象は変わり、ドイツ製の黒軸の万年筆はレッドやブラックのレッドステッチなどの鮮烈な印象の色を、イタリアの万年筆にはトープやキャメルにグリーンステッチなどの薄めの色が合う、と独断と偏見で思っていますがそう外れていないのではないだろうか。
チョコやワインは当店のコンチネンタルのシリーズと相性が良い。
このペンケースに使われているブッテーロ革は、使い方やお手入れ次第でかなり違いが出てきますので、私がお勧めしたいのは「革用ブラシをかけること」です。
少しくらいの傷ならブラシ掛けで消えてくれるし、粒が立ったようなキラキラした輝きを持ってくれます。
もっと優しく、乾いた布で優しく撫でるという手入れもあります。
すぐに効果は出ないかもしれないけれど、気付いた時にハンカチなどで軽く撫でるように磨く。そうした時のエージングの美しさはもとの状態の数倍にもなると思います。
もう今回入荷分は色数が少なくなってしまいましたが、また入荷しますのでぜひお手に入れていただきたいと思います。
絞りのペンケースは、ブッテーロ革を2枚重ねて熱を加えながら絞ることで革を形作る技法で、革が硬いシェル構造になりますので、一般的な革を縫製するペンケースよりも、丈夫で中身を守るペンケースになります。
当店は開店間もなくからこのペンケースを扱ってきましたが、絞り加工を施していた職人さんが高齢で引退されたため、作れなくなってしまいました。
それからル・ボナーの松本さんが粘り強く、様々な実験、試作を重ねて量産にこぎつけることができました。
今回1本差しのみ入荷しましたが、3本差しも入荷してくる予定です。
1本差しはキングプロフィットなどオーバーサイズのペンまで入り、3本差しにはペリカン146などのレギュラーサイズのペンまではいりますが、ペリカンM1000も入れることができます。
開業したばかりの頃の当店は商品数も少なく、特長もありませんでした。
そんな中でル・ボナーの松本さんが出来上がったばかりの絞りのペンケースを販売させてくれました。
他所では売っていない、素材が良く、縫製などのクオリティも高いこのペンケースはとてもよく売れました。
そういう商品があるというのは、開店したばかりの店には大変有難く思いました。
松本さんは当店で売るためにこのペンケースを開発してくれたのではないかと思ったくらい感謝していて、そのペンケースをまた販売することができることに、感慨深いものがあります。
装丁文庫ノート
毎日ではないけれど、ぼんやりとした考えがまとまってひとつの完成された論理になったり、その日あった忘れたくないことなどは書きとめておきたいと思います。
書きたい気持ちだけを優先して、そういうものをそのときたまたま使っているノートに書いてしまうと散逸してしまうので、できれば決まったものに書いておきたい。
今までそうしてこなかった後悔が私にはあります。
自分の考えや心の中にある大切なことは、大きなノートに堂々と書く感じではなく、夜一人の時間に小さめのノートにひっそりと書く方がいい。
そういう使用のためのノートを作りたいと何年も思っていました。
大和出版印刷の上製本ノートは、大和出版印刷が紙製品のブランド「神戸派計画」を始めるきっかけとなったものです。
万年筆を愛用していて、それに見合ったノートを作りたいと10年ほど前に大和出版印刷の武部社長が号令をかけて作ったノートで、この上製本ノートでのノウハウが、この装丁文庫ノートに生かされています。
どのページも平らに開きながらも丈夫な製本は、上製本ノートと同じ製本会社が手掛けていて、それはこのノートにおいて最もこだわった部分でもあります。
万年筆で書いた時に気持ち良く、書き味を楽しみながら書くことができる用紙にもこだわりました。
その紙を作った機械が老朽化のため廃棄処分となってしまい、同じ紙が作れなくなってしまったLiscio-1紙。現在製品として仕上がっているものしか存在せず、幻の紙になりつつあります。
今回大和さん秘蔵のLiscio-1紙を、このノートの用紙に使用することができました。
完全ににじまないとか、どのインクでも絶対に裏抜けしないというものではないけれど、この紙ほど書き味の良い紙を他に知りません。
ペン先を紙に当てるとシュワッと、まるで紙がインクで溶けたのかと思うような気持ち良い書き味が特長です。
Liscio-1紙を大和出版印刷さんのはからいで幸運にもこのノートに使用することができましたが、第2版を製作する時にはこの紙を使用できるかどうかは分かりません。
その時はこのノートの性質にあったなるべく書き味の良い紙を選びたいと思っています。
日付入りの日記帳ではなく、いつでも書きたい時に書けるノートの体裁をとっていますが、ページ数は368ページで1日1ページの日記帳として使うこともできます。
とっておきの紙を使用した、装丁文庫ノートの初版を10周年の今年に発売できることをとても嬉しく思っています。
皆様の万年筆で書く暮しの中にこのノートが浸透すれば何よりです。
ペリカンM101Nブライトレッド発売
ペリカンの1930年代のモデルのデザインを使用し、現代の素材、機構を備えたM101Nシリーズ新作ブライトレッドが発売になりました。
M101Nは2011年のトータスシェルブラウン、2012年のリザード、2014年のトータスシェルレッドに続く4作目になります。
ブライトレッドも1930年代後半に製造されたモデルの100Nがベースになっています。
クラシカルな過去のデザインと現代の仕様を融合させたこのM101Nのシリーズを、私はひとつの理想的な万年筆として見ています。
現代的でシャープなデザインのものもいいけれど、戦前の万年筆のデザインに温かみや威厳のようなものを感じることができると思います。
それならビンテージの万年筆が理想かと言われると、それは見ていてとても楽しいものではあるけれど、実際に使うとなるとインク漏れが気になったり、修理ができなくてずっと使い続けることができなかったりという、使うことにおいての制約がありますので使い辛い。
それは違うと言う人もいるかもしれませんが、私にとってビンテージの万年筆は実用の道具として考えにくいものなのです。
私が最も楽しいと思っていて、多くの人に伝えたいと思っていること、万年筆で書くということを楽しませてくれるものになりにくいというと反感を買うだろうか。
ペリカンは2000年頃から自社のビンテージの万年筆を限定品として少しずつ復刻させていて、それらはどれもとても人気がありました。
個人的に1931ホワイトゴールドに憧れて、発売5年後に新品で手に入れる機会を得られた時はとても嬉しかった。
書き味が当時と違って硬いという人もいますが、昔の柔らかいペン先よりも硬いペン先の方が実用としては使いやすいと、筆圧が低い私でも思っています。
この硬いペン先も、使い込んだ時にとても滑らかな良い書き味に化けたことに驚きましたが、これが限定品としての仕掛けだったのだと納得しました。
万年筆の書く以外の楽しみは、ペンケースなど収納するものに凝ることだと思っています。
潔く1本差しにその万年筆だけを入れるというのも、この世界ではかっこいいことだけど、コンパクトなM101Nのような万年筆だと2本差し以上のペンケースに何かとコーディネートして収納したい。
当店オリジナルのWRITING LAB.ペンケースピノキオは、M400やM700トレドなどがピッタリと収まるペンケースですが、M101Nもそれらと変わらないサイズなので、ピノキオにきれいに収めることができます。
ちなみにピノキオにM101Nを収める場合、クリップは内部の丸い仕切りの外に挟んだ方がスムーズに入れることができます。
ピノキオは2本の万年筆をコンパクトに収めるという目的で作ったもので、ジャケットのポケットなどにそのまま入れて持ち歩くことができるもので、そういった使い方にM101Nも合っていると思います。
いつも持ち歩いて、どんどん使うことができるクラシカルなデザインの新しい万年筆がM101Nです。
銘木ロマン~工房楔のイベントが終わって~
半年に1回、季節の変わり目に開催している工房楔のイベントが終わりました。
前回、前々回と開店前にお店の前に行列ができるということが続いていましたが、今回はそういったことはなく、今までのイベントに戻ったような感じでした。
毎回店の中が身動きがとれないくらいお客様でいっぱいだったら店は嬉しいけれど、お客様は窮屈で自由に見ることが出来ないかも知れない。そう考えると、ちょうどいい感じになっていたと思います。
今回のイベントの趣向は「バラエティに富んだ素材」だったのではないかと思います。
工房楔の永田さんが定番的に扱っている素材、花梨、キューバマホガニー、ホンジュラスローズウッド、ウォルナット、キングウッド、ブラックウッド、チューリップウッドなどは、木目や杢の模様の面白み、しっかりとした性質、質感など、どれも完璧なもので、使うものとしてとても良いものですが、世の中には本当にたくさんの木があります。
たまには違ったものも見てみたいと、イベントにいつも来て下さるお客様は思っておられたと思っています。
中でも、ある人間国宝の方が所蔵していたという神代けやきはやはり注目されていました。
1000年以上も火山灰の中に埋もれていたからこそ、風化せずにしっかりとした状態で残っていることに歴史と自然のロマン、そして名を残した亡き木工家から若い木工家に受け継がれた男のロマンを感じます。
永田さんが長く仕込んでいた黒柿も、やっと作品として姿を現しました。
隙間なく孔雀杢が現れた良材で、今回の目玉だったと思います。
パロサントは珍しい鮮やかな緑色の木。水に沈む木として有名なリグナムバイタとよく似た木ですが、パロサントの方が粘りがあり、割れなどの心配は少ないそうです。
紫外線に当たると緑味が増していく素材で、ネットリとした質感が魅力のなかなか良いものだと思っています。
ボークオークは数千年以上沼などのドロの中に埋もれていた木で、ファーバーカステルがペンオブザイヤー2012でこのボークオークを胴軸に使用していることからも分かるように、ヨーロッパでは昔からボークオークの独特の質感を生かして工芸品に使用されてきました。
今回ボークオークを使って、「こしらえ」を作ってもらいました。
「こしらえ」は当店のオリジナル企画で、工房楔の永田さんが木の部分の製作はもちろん、金具などのパーツもデザインしている、パイロットカスタム742・カスタムヘリテイジ912の首軸から先を装着することができる万年筆銘木軸です。
エボナイトや真鍮パーツには、金色のペン先のカスタム742、ステンレス金具には銀色のペン先のカスタムヘリテイジ912の相性が良いと思っています。
こしらえの他にも今回、2mm芯ホルダーのノック式が新発売になりました。
前回の秋のイベントで新しく発売しました、0.5ミリペンシルで見せた安定感のあるフォルムを、ノック式2ミリ芯ホルダーにも応用していて、握り心地も良いものが出来上がっています。
文具好きの方にお勧めすると喜んでもらえるノック消しゴムや三菱ジェットストリーム4&1用グリップなども、多く当店に在庫しています。