
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」という映画を観ました。
妻が小説をたくさん持っていて、そのコレクションの中にありましたので私も読んでいて、大変面白いと思っていました。
原作で、主人公が悩み相談の回答を万年筆で書く描写がありましたが、映画ではボールペンのような筆記具を使っていたのには大いに突っ込みを入れましたが、舞台となる町の風景、屋内のセットなどとても良かった。
観ていて息つく暇がないくらい内容の濃い映画だったと思いました。
インターネットが私たちの身近なものになる前の時代にナミヤ雑貨店はオープンしていて、その頃手紙は手書きで綴られていました。
現代なら「誰それにメールする」を、当時は手紙でしていたことに時代の流れを改めて感じますが、ペンからスマホに道具が替わり、情報伝達のスピードが早くなっただけでその心は変わっていないのではないか、それが時代が流れても変わらないものなのではないかと思っています。
そんなに大した用事でなくてもメールにはスピードが求められ、そして私を含めて仕事をする人の多くが朝の時間をメール処理に費やされています。
便利なツールがあることを恵まれていると思いますが、その分何か気忙しくなったと感じます。
お客様方などにお礼状などの手紙を書く機会がよくあります。
インターネットなどの通販でお買い物して下さったお客様には、私やスタッフが手書きのお礼状を書くようにしていて、全員が愛用の万年筆にお気に入りのインクを入れて書いています。丁寧に書こうと努力した文字は、それだけでそれぞれの人柄が表れるのではないかと思うので、気を付けなければいけない。
一般的に通販で買ったものに手書きの手紙が同封されることは殆どなく、その代わりに日に3~4通のメールマガジンが届くようになる中で、それは驚かれることが多く、当店らしさのひとつになっているのかもしれません。
たまにお礼状、ご挨拶状などの葉書をお送りすることがあって、「郵便受けに手書きの文字で書かれたものがあったら、とても嬉しい」と喜んでもらえることがよくあります。
この葉書の差出人欄に、以前は手書きで自分の住所、氏名を書いていましたが、せっかくなので住所印を誂えて、インクの色に近いスタンプで押して、自己満足しています。
葉書はそれほど凝ったものを使うわけではなく、ライフの縦罫の入った私製ハガキに、細字から中字の万年筆を使います。
封書の方が丁寧なのは分かっているけれど、届いた時に何となく相手を身構えさせてしまう気がする。少しカジュアルだけど堅苦しくない葉書という形態が好きで、自分と相手だけしか分からないような言葉で書くことが腕の見せ所なのかもしれないと思っています。
万年筆で書くことが好きだから、手帳でもノートでも何でも万年筆で書いているけれど、手紙や葉書こそ万年筆で書かれるべきものだと思っていて、万年筆のペン先のタッチ、インクのにじみなどから来る表現力はそのためにあるのではないかと思っています。
観た映画の影響かもしれないけれど、自分の文字で書いたものは永遠に残るという考えに取りつかれている。
パソコンで送ったメールはその画面の中にしか存在しないし、プリントアウトしたとしてもそれは発信者の文字ではないので、内容以外に存在価値はないと思っています。
手書きで書いた文字なら、大切に保管すれば永遠に残ります。
そう考えると手紙を書くことへのプレッシャーが強くなるかもしれませんが、どうせ書くならずっと残せるようにしたいし、残っても恥ずかしくないものにしたい。
葉書を書く時、そう思うようになってきました。
オリジナル正方形ダイアリー2018

オリジナルダイアリーマンスリーとウィークリーの来年版が完成しました。
オリジナルダイアリーは、日付なしのフリーデイリーダイアリーと日付ありのマンスリー、日付ありのウィークリーダイアリーの3種類があります。
罫線レイアウトに関して、マンスリーダイアリーは意外と他にない機能性に特化したものだと思っていますし、年間、月間、週間のダイアリーを全て収めたウィークリーダイアリーはオールインワン的なもので、どんな仕事にも対応するものだと思います。
私が万年筆を使い始めた原点はダイアリーを楽しく書くためで、私にとって手帳やダイアリーと万年筆は切っても切れない対になるものだと思っています。
万年筆だと手帳を楽しくきれいに書くことができたので、夢中になって手帳に書いていた時のことを懐かしく思い出すけれど、それは今も変わっていません。
ダイアリーをどうやって使いこなして、自分の仕事とシンクロさせて書くかということを、いつも考えています。
私たちがダイアリーを使う第1のステップは、予定やToDoをいかに忘れないようにするかです。そしてダイアリーを使う本当の価値は、なかなか難しくて仕事にバタバタと追われることが多いけれど、「書いたことをいかに効率よくこなして、考える時間を確保するか」とか、「どこに空き時間があって、ToDoを消化しながら新しい予定をどこに入れるか」などの積極的な、攻めの使い方ができるかということになると思います。
予定管理に特化したマンスリーダイアリーは、大抵の方が見慣れた壁掛けカレンダーにも近いので月の予定が一覧しやすく、さらに細かく計算された+αの機能が付いています。
時間で細かく予定が入ったり、膨大なToDoを管理するにはウィークリーダイアリーが使いやすい。細かい時間メモリこそ入っていないけれど、たくさん入る予定もウィークリーダイアリーなら書き込むことができますし、大きなメモ欄はToDoの管理に最適で、予定とToDoを同じ見開きで見ることができるメリットは大きい。
仕事も締め切りなど期限に追われているだけだと、本当につまらない。今やろうとしていることは、本当に今やらなくてはいけないことなのか、別の違う時間でもいいことなのかを判断して、優先順位をつけるのにダイアリーを活用したいと私も思っています。
店の場合はいつお客様が来られるか分からないので、基本的に営業時間中はToDoを消化できることはアテにせず、営業時間外にこなさなければ確実な仕事をすることができない。
その代わりもしお客様が少なかった時に、営業時間外にしようと思っていたことをして、時間を作る。
最近は予約して来て下さるお客様が増えて、とても心づもりがしやすくなりました。予約はスムーズに承れてお客様の時間を無駄にしないということで、お客様にとっても、私にとっても、とてもいい制度だと思っています。
オリジナルダイアリーに話を戻すと、かなり細い万年筆で書いても引っかからず、滑らかに書くことができるグラフィーロ紙を使用していること、どのページも平らに開くために表紙と背表紙の組み合わせを変えたり、優れた糸綴じ製本で仕上げられていたり、大和出版印刷さんはかなり細かなところにまでこだわって製作されています。
正方形サイズという紙の規格と違う特殊なサイズになっていますが、フリーデイリーダイアリー、横罫ノート、方眼ノート、薄型方眼ノート、インクノートなどのオプションも幅広くあり、この正方形サイズで様々な使い方をすることができます。
現在、ル・ボナーさんが新たに正方形の革カバーを作ってくれています。
傷に強く使いやすいシュランケンカーフと、ル・ボナーさん秘蔵の革2種類で作るこの革カバーもオリジナルダイアリーの特長のひとつになっていて、より楽しく使うことができる要素になっています。
手帳を楽しく書くことができるから万年筆に惹かれていった私のルーツをいつも思い出させてくれる、万年筆で書くことにこだわったオリジナルダイアリーを多くの人に使っていただきたいと思っています。
工房楔・秋のイベント

今秋も、9月23日(土)・24日(日)工房楔のイベントを開催いたします。
実は9月23日は当店の10周年記念の日ですが、特別な日だから何かしなくてはとあまり思っていませんでした。
でも工房楔の永田さんが10周年だから記念になるイベントにしようと、色々準備してくれていて、本当に感謝しています。
もちろん私もやる気がないのではなく、今年は次の10年につながる仕事をしたいと思って日々過ごしていて、静かに動いてはいるのだけど。
イベントにどんなものを永田さんが用意してくれているかは、永田さんのブログ「切々と語る楔」(http://blog.setu.jp)で毎日紹介されていて、私もそれを見たり、永田さんと電話で話したりしているので、楽しみにしています。
今回のブログで紹介されているものは目新しく、めったに見ることができないものばかりですが、個人的に気になったものをいくつか挙げたいと思います。
象牙は10周年の記念に相応しい素材として、永田さんがかなり良いものを仕入れてペンにして下さっています。当店オリジナル企画こしらえでも製作しているようですので、実はすごく楽しみにしています。
インクウッド。花梨に似た木ですが、さらに色が濃く、濃厚なワイン色をしている何とも色気のある木だと思っています。その名前もすごくいいですね。あまりお目にかからない木です。
そして今回一番注目しているのは、ヒマラヤ産のローズウッドです。
私はなぜかこのような山の木に惹かれます。そして、条件、環境が厳しい場所に育つから密度が高く、キメの細かい、そして色が濃いと言われるとたまらない気持ちになります。
工房楔定番の素材では、ウォールナットやチークこぶ杢、ブラックウッドの良さも知っていただきたいと思います。
ウォールナットは数も多く珍しい木ではありませんが、しっかりした木肌、色合いなど、この木の良さがあります。
様々なものでよく目にする木ですが、永田さんがウォールナットでペンを作る時は杢の出た部分をいつも使って、少しアクセントのあるものに仕上げています。
チークこぶ杢は、油分を感じるネットリとした手触りが何とも言えず素敵な木ですが、チーク杢の地図の等高線のような模様に何とも惹かれます。
花梨やチューリップウッドのように華やかで色鮮やかな木ではなく、侘び寂びとも言える美意識で観る木ですが、当店では人気があるし、私も強く惹かれる。
工房楔の木を選ぶということは、自分の好みや背景を反映させて選んだ自然の一部をいつも手元に置いておくということでもあります。
永田さんのブログを見ていて、彼の木へのこだわりを強烈に感じます。
彼にとって木、銘木とは、商品にするために仕入れるというビジネスの資源ではなく、完全にコレクターの視点で木を見ていて、それぞれの木に強く惹かれるから手に入れているという感じで、売れるから仕入れるという視点はありません。
売れるからという視点がないので、それぞれの木に対して、はっきり分かっていることだけを付言する。
本当かどうかわからない産地や、謂れのようなことは一切言わないのが永田さんの誠実さだと思いました。
永田さんを見ていると、木の世界にドップリと浸かりながらもどこか客観的で、高く売るために様々な飾り文句を付け加えることに批判的な姿勢が見られます。
永田さんのそんなところを私たちは信じるからこそ、彼の作る銘木のペンに惹かれます。
永田さんが材木市場でそれぞれの材に心が躍り、強く手に入れたいと思ったように、楔のペンを強く手に入れたいと思います。
Guido Rispoli(グイードリスポーリ)氏のカード

そう多くはないけれど、年に何度かはグリーティングカードを送ることがあります。
それなりに齢を重ねた大人なので、年齢に見合ったデザインのもの、送られた相手が喜んでくれるもの、そして上質なものという基準で選ぶと、意外なほど候補がなくなってしまいます。
あんなにたくさんのカードが売られているのにその多くは可愛いもので、大人が使えるものが少ないと思っていました。
そういったカード事情も理解していましたので、パッサールの岩田さんと阿曽さんからこのカードのお話をうかがった時、ぜひ扱わせていただきたいと思いました。
自分が欲しいと思ったし、上質で他所では手に入らないものを求めておられる当店のお客様にも喜んでいただけると思いました。
ローマの北東、アブレッツォ州ラクイラにスタジオを構えるグラフィックデザイナーのグイード・リスポーリ氏がデザインした繊細なレーザーワークを駆使して作られたカードは、質感のある美しい色のイタリアの紙を使い、イタリアで製作することにこだわっています。
記念日やお祝いなどの時にプレゼントと一緒にお渡ししてもいいし、写真などを挟んだり、額に入れて飾ってインテリアとして楽しんでいただくこともできるクオリティの高いものだと思っています。
小規模の工房で製作しているため大量に作ることができず、あまり多く流通していないところも私としては嬉しかった。だからこそ日本で最初に当店がこのカードを扱うことができました。
グイード・リスポーリ氏の友人であり、当店のお客様である岩田朋之さんから3月にこのカードを紹介していただいてから、この日を待ち焦がれていました。
アウロラ、モンテグラッパ、ビスコンティなど、イタリア製の万年筆を気に入って扱ってきて、常にイタリアについて考えていました。それらから見るイタリアは憧れの国でしたが、どこかリアリティを感じさせない光の部分しか見えていない存在でした。
でもグイード・リスポーリ氏のことを知って彼を取り巻く環境などをリアルに伺っていると、陰の部分も少し見えてイタリアが身近に感じられるような気がしました。
彼のカードもイタリアの万年筆に負けないくらいに美しさ、華やかさを持っていますが、私がそこに現実味を感じたのは、グイード・リスポーリ氏のパーソナルな部分を知ったからでした。
氏はスイーツメゾン、レストラン、ブライダルホール、ホテルなどのアートディレクターを務め、パッケージや広告、メニュー、グリーティングカードのデザインを手掛けたり、展示会や店舗の空間設計にも携わるグラフィックデザイナーで、ヨーロッパ、中東にクライアントを抱えて、華々しく活動しています。
しかし、彼の前半生はそれとは対照的なものでした。
高校を卒業した彼は、警察官になり南部カラブリア州に赴任しました。
イタリア南部カラブリア州はシチリア島の対岸にある州で、マフィアによる犯罪の多い所でした。
マフィアによる警察官の買収は日常茶飯事でしたが、彼もそんな渦に巻き込まれ、警察官としての職を失ってしまいました。
その後の職業訓練でグラフィックデザインの教育を受け、彼の才能を見抜いた教官が彼がプロのデザイナーになれるように指導したのです。
教官は彼をあえてカラブリア州から遠く離れた州のデザインスタジオに就職させて、彼はそのスタジオで十数年務めた後、2006年に独立しました。
定年後の生活が保障されているという理由で、職の少ない南部では公務員は人気の職業ですが、それについて回るイタリア中で行われている汚職が発覚して、失職したことで彼の第2の人生の扉が開きました。
それは彼の前向きな努力によるものだと思います。
挫折したときに人生を諦めてしまう人も多いと思いますが、人生の第二の扉を開いた彼の心意気のようなものが、作品から伝わって来るような気がするのです。
彼の作品は、彼が巻き込まれたイタリアの闇を全く感じさせない、愛情と慈愛に溢れたお守りのようなものにも思われます。
⇒Guido Rispoli(グイード・リスポーリ)レーザーワークカード
シュランケンカーフの長寸ペンケース

色々なサイズの万年筆を持っていますが、握ったり、書いたりしていて、喜びが大きいのはやはりオーバーサイズの万年筆です。
大きなペン先、それによる豪快な書き味。オーバーサイズのペンが書きやすい時は、やはりペン先が大きいと書き味が良いな、と思ってしまいます。
実際は小さなペン先の万年筆でも書き味がすごく良いものもあるし、ボディが大きくなくても持ちやすいものもあります。
しかし、手がペンの重みで書くことを覚えてしまうと、ある程度の大きさ、重みのあるペンの方が机に向かってまとまった文字数を書く時には書きやすいと思います。
と言っても私が書く文字数は一文で1000文字前後のものがほとんどなので、もっと長文を書く人にどうか分からないけれど。
重みで書ける万年筆のボーダーラインは20g台後半以上、直径13mm以上の万年筆で、ペリカンM800やパイロットカスタム743、845、パーカーデュオフォールドセンテニアル、アウロラ88クラシックなどなどたくさんありますが、これらの万年筆よりもひと回り大きな万年筆がオーバーサイズの万年筆ということになります。
オーバーサイズの万年筆の魅力は、ペン先に代表されるその大きさですが、困ることがひとつあります。
家や職場に置いたままで持ち歩かなければ気になりませんが、それを収納するペンケースがないということです。
オーバーサイズの代表的な万年筆モンブラン149やペリカンM1000などオーバーサイズを代表するペンを収めるケースならまだありますが、それらよりわずかに大きくなると難しい。
中屋万年筆シガーロングやセーラー100周年島桑などの万年筆をいれるために長寸ペンケースをオリジナルで作り、2011年から断続的に販売しています。
一時期大きなペンの需要が静まっていましたので、止めていた時期もありましたが、また収納するペンケースに困っているという話を聞くようになり、今年になってからダグラス革で製作し、今回はシュランケンカーフで作ってみました。
ダグラス革は使っているうちに艶が出て、シワなどもサマになる革ですが、中身に応じて伸びてくれるシュランケンカーフの使いやすさも捨て難いと思いました。
当店にはまだ入荷していませんが、最近発売されている大きな万年筆と言えばパイロットのカスタム漆です。このカスタム漆を収納するケースがなく困っている人が多いようです。
長寸ペンケースのダグラス革でも入らなくはなかったですが、革の性質上出し入れがしづらかった。シュランケンカーフ仕様だとさすがにそういうことはなく、革の柔らかさもその使いやすさに影響しているようです。
留め具やフタなどのないとてもシンプルな仕様ですが、ペンを取り出す時、収める時など所作にこだわりたくなりそうなペンケースです。
工房楔のペンシル

何ごとも強情を張って無理を通そうとするのは良くない。モノの通りを理解して、自然に行動したいといつも思っています。
筆記具はそれぞれ合った用途があって、使い分けることで作業がスムーズに進みます。万年筆はインクで書く筆記具なので、消すことができない清書用の筆記具ということになります。手紙や葉書、書き残すことを目的としたノート、手帳への筆記がそれにあたります。
しかし、私は今まで万年筆屋をしているということもあるし、万年筆で書くことが好きだということもあるけれど、原稿の草稿のようなものも万年筆でしていました。
でも最近は、無理して万年筆を使おうとしなくてもいいのではないかと思うようになりました。
アイデア書きの道具として万年筆が向いていないのは、手を止めて考えている時間が長いとインクが乾くからです。だから今までギリギリまで考えて一気に書き上げるという、万年筆を使う前提の書き方をしていたのだけれど。
まだ頭の中にあるものを自覚していない時にとりあえず紙に向かうしかない時は、万年筆の出番ではない。万年筆で書くことによって、それが確定したものに感じると言うと大袈裟かもしれないけれど、万年筆のインクが強過ぎるように感じることがあります。
そういう時にペンシルで書いてみるととても気が楽で、はかどるような気がします。
気軽に何でも書けるので没原稿も多くなったけれど、原稿の草稿、下書きを書く時に今はシャープペンシルを使うことが多くなりました。
シャープペンシルを真剣に使うようになって、自分の用途に合ったシャープペンシルを探してみると、なかなかシックリくるものがないことに気付きます。
筆記具を長く扱ってきて、いつも思っていたことはシャープペンシルは学生向きのものが主流で大人向きのものが少ないということでした。
国産の筆記具メーカーのその傾向は顕著だし、輸入筆記具はボールペンがあっても、シャープペンシル自体が輸入されていないモデルがたくさんあります。
手に入る良いシャープペンシルは、カランダッシュ、ファーバーカステル伯爵、ペリカン、ヤードレットなどしか見当たりません。
そんなシャープペンシル不足の中、工房楔はシャープペンシルが充実していて、貴重な存在だと思っています。
0.7mmペンシルは控えめでオーソドックスなデザインだけど使ってみるととても握りやすく、意外と太さも確保されています。
平凡で奇をてらっていないフォルムに好感が持てるけれど、こういうスタンダードなデザインのモノは以外にも少なくなっています。
見栄えもする新デザインで太めのグリップ感が心地いい0.5mmと2.0mmは、すべてのパーツがオリジナル仕様で、工房楔の永田さんが長年温めてきたものを理想を追究して仕上げたものです。
こういったよくできたペンシルが、模様や木肌を見て楽しめ、使い込むと艶が出たり、手触りが良かったりする銘木であるというところに、木の価値よりもペンシルとしての出来の良さが工房楔のペンシルの価値だと思っています。
恒例の工房楔のイベントを今年も9月23日(土)、24日(日)に開催いたします。
ペンシルもたくさん出てきます。皆様にも考える道具としての工房楔のペンシルを手に入れていただきたいと思っています。
日本の万年筆

夏は、特に8月は日本的なものに惹かれます。日本について考える機会が多い月だからだと思います。
原爆によって多くの方が亡くなった日。終戦記念日、お盆など、私たちが日本の過去や亡くなった人たちについて考える機会の多い月です。
外は暑くてカンカン照りなのに、どちらかというと内省的な気持ちになる様々なことを振り返る月だと思っています。
そんな月に、手紙や原稿を黒インクで縦書きして、万年筆を愛用する者なりのやり方で日本的な心を大切にしたいと思います。
冬枯れのインクは書いた後に黒味がスッと紙に沈む薄めの黒なので、ノートいっぱいに書いても暑苦しくならず、今の季節に使う黒としてちょうどいいと思います。名前も涼し気です。
インクの宣伝になってしまったけれど、日本の万年筆について考えたかった。
日本は万年筆王国だと思っています。
良質な万年筆を作る3つのメーカーが健在だから。
それぞれのメーカーの違いは、私は書き味の個性だと思っています。パイロットは筆圧の強弱によりインクの濃淡の出る仕様になっているし、セーラーはスイートスポットをはっきりとさせた仕上げで正しい書き方で書くととても気持ちよく書けます。プラチナはインクの出が一定で、筆圧が変わってもインク出に影響を受けずに均一に書けると思います。
それぞれのメーカーの特長はバラバラですが、共通して目指しているのはきれいな文字を書くことです。思想の違いはあるけれど、国産3社で優劣はなく、書き味の違いのみ存在すると思っています。
国産3社の100年の歴史は日本の近代文房具の歴史そのもので、老舗文具店の歴史もそれと重なる。これだけ長い間、生産と販売の仕組みが続いてきたことはすごいことだと思うし、業界の努力によるものだと思います。
当店はたった10年の歴史しかないけれど、この10年で学習したことは、自分たちのスタイルを変えたくなければ新たな顧客を探し続けなければならないし、同じ顧客に対して商売していきたければ自分たちが変わらなければならない。それだけモノの移り変わりが早いと実感しました。
私も自分のやり方を変えたくないけれど、そんな危機感をずっと持っています。
それにあてはめて考えると、国産3社と販売店などが100年間同じ形態で続いていることは奇跡に近い。
日本という閉ざされた国土にいると世界の動きは感じにくいし、これは私の勝手な思い込みかもしれないけれど、日本の万年筆、文房具が更に100年、200年と永遠に続いて欲しいと思っているからこそ、何も変わらない業界に焦りを感じています。
KWZ(カヴゼット)インク

ホームページに掲載する以前からKWZインクはご来店のお客様によく売れていました。
新しく出たインクのブランドを慎重に見極めようとするよりも、積極的にご自分の好みの色を見つけようとする感じの方が多く、意外に思いました。
新しいものをどんどん取り入れる方も、モノ選びに慎重な方もどちらもこのインクを気に入って使っているので、これはもしかして流行なのかと、錯覚するほどでした。
KWZインクのどこに人気があるのかと考えた時に、私は色作りが支持されているのではないかと思っています。
ブルーでも微妙に違っているものが13色(古典インク、ノーマルインク込み)もあって、色作りが絶妙で、それぞれの色を好む人が必ずいるのではないかと思えます。
KWZインク開発者のコンラッド・ズラヴスキー氏はポーランド・ワルシャワ工科大学の研究者で、熱心な万年筆愛用者であり、実験でも万年筆を使っていました。
ある時、大切な実験データを書いたノートにフラスコの液体をこぼしてしまい、データが消えてしまうという悲劇を経験して、消えないインクを調べているうちに保存性に優れた没食子(IG)インクにたどりつきました。
同じ研究者である奥様とともに試行錯誤して、新しいIGインクを開発して2015年KWZインクを立ち上げました。
KWZインクの興りが、ウォーターマンの万年筆の興りに近いものがあって、失敗が新しい発想の源泉になるのだと改めて認識するエピソードです。
KWZインクの特長は、酸化鉄が紙に定着することで、高い保存性を発揮する古典インク(IGインク)があることと、微妙な色違いで同じ系統の色がいくつもあることです。
KWZインクのブルーの微妙な違いを見て、自分もこの中から自分好みのブルーを選んで使いたいと思いました。
古典インクで#1から#6まで(#4は欠番)、ノーマルインクで#1から#5まで、それぞれのブルーにセンスが感じられ「なかなか分かっている」と唸らされます。
保存性が高いということと、書いた後しばらくすると色が黒っぽく変化するというところに惹かれてIGインクのブルー#3を全ての万年筆の入れて使ってみています。
IGインクで注意しないといけないのは、普通の染料インクよりも酸性度が高いということです。
金ペン先でない万年筆、首軸先端付近(インクが付きやすい所)に金属が使われている万年筆には腐蝕の恐れがありますので、注意して使われた方がいいと思います。
古典インクはどのインクも、出が渋くなるものだと思っていましたが、KWZインクは渋くなりませんでした。
アウロラ、ペリカン、パイロット、ファーバーカステル、どのメーカーに入れても快適にお使いいただけると思います。
インク専門メーカーのインクを使うことは、メーカー純正ではないために自己責任ということになるけれど、私の場合使っていて不具合は起こっていません。
自分好みのブルーをKWZインクによって手に入れることができて、とても嬉しく愛用しています。
KWZインクの古典インク(IGインク)には3種類あります。
IGアーカイブインクは、高濃度のIron Gall成分を含むインクで、最も高い筆記保存性があります。「IGブルーブラック」がこれにあたります。
IGLインク「IGマンダリン」と「アステカゴールドIGL」は、Iron Gall成分を抑えた、色の変化を楽しむインク。
その他のIGインクは、中程度のIron Gall成分を含み、筆記保存性があります。
*KWZ Ink「水性筆記インク」
*KWZ Ink「没食子インク(IG・IGL)」
遊び心を感じるボールペン

万年筆は書くことを楽しくしてくれる筆記具だけど、当店は万年筆だけにこだわっているわけではありません。仕事ではボールペンを使う機会の方が多いという人がほとんどだし、外出先ではボールペンの方がやはり手軽に使える。
ボールペンはその選択によって仕事を楽しくしてくれるものではないかと思っています。
スーパー猛暑と言われる今夏、万年筆だけでなく少し肩の力を抜いて涼しい気持ちで、超定番はなく、当店らしいボールペンの提案をしてみたいと思いました。
仕事の道具として選ばれることの多いボールペンですが、少しは遊び心がある方がいい。
地図が好きで、地名や山河の名前を聞いただけで萌える私ならこういうものを使ってみたいと思い、選んだものがモンテグラッパのボールペンでした。
「ドゥカーレ」は少し大きめのボディで、とても堂々としたボールペンです。
ヴェネツィア近郊のヴェネツィアングラスの産地ムラノ島へのオマージュとして作られたドゥカーレムラノマーレは深みのあるブルーとベージュのアクリルレジンで、ガラスのような輝きのある美しさです。
こんな美しいボールペンをモンテグラッパは作ることができるのだと、衝撃を受けた1本でした。
「フォーチュナモザイク」は、美しいモザイクアートの3つの都市をテーマにそれぞれの都市をイメージしたボールペンです。
モンテグラッパのペンに対して実用的なことについて言及するのは野暮に思えるけれど、丸みのあるボディが意外と手にフィットして、とても使いやすいところも特筆すべきところだと思いました。
「バルセロナ」。美しく区画されたその街の全体像自体がアートのようですが、他のペンでは見られないターコイズブルーのモザイク模様はグエル公園の建造物をイメージしたのかもしれません。
「マラケッシュ」は、モロッコの神秘的な街の風景が目に浮かびます。街中にあるモザイクアートを透明感のあるブルーのモザイク模様で表現しています。
「ローマ」は、モノトーンのモザイク模様で、ローマのモザイク画やローマが舞台となった古い映画をイメージして表現されているのか、とてもピッタリなイメージです。
それぞれのペンを手にして、テーマになったそれぞれの街に思いを馳せる。それもひとつの大人の遊び心で、モンテグラッパの提案する遊びに大いに共感します。
普段の生活や仕事の中に旅をイメージさせるものがある。
ペンならそれをさりげなく取り入れることができると思っています。
モンテグラッパは汎用性の高いパーカータイプの芯を使用していて、好みの書き味の芯を自分で選ぶこともできるので、道具として自分の理想に近付けることができるというところもポイントです。
⇒モンテグラッパ「ドゥカーレ ムラノ マーレ ボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・ローマボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・マラケッシュボールペン」
⇒モンテグラッパ「フォーチュナ モザイク・バルセロナボールペン」
価格に見合った価値のためのペン先調整

イベントで出張販売しました札幌・福岡でも多くの方から求められていると実感したのはペン先調整でした。
それだけ多くのお客様が書けない、あるいは書きにくい万年筆を手にしてお困りなのだと思います。
最近では、万年筆を使われる方の実情に合った、太いペン先を国産万年筆の細字くらいに細くする細字研ぎ出しもかなり多くなっています。
万年筆はけっして安いものではありません。
ペン先が14金で1万円以上もするのに、書けなくていいはずがないし、5万円以上もするのに、ステンレスのペン先の万年筆と同じようにただ書けるだけではいけない。
誰でもそうだと思いますが、私も買い物をする時、そのモノにその値段の価値があるかどうか考えます。
価格に見合った価値があるかどうかは、私の場合高いお金を払ったというマイナスよりもそのモノから享受できる喜びが上回るかです。
お金を貯めてたまに、私としては高い靴を買います。
JMウエストンのゴルフは、とても高価な靴です。
昔はそんなに高くなかったという人も多いけれど、自分にとってその靴が喜びを与えてくれるからそれでいいのだと思います。
これからこの靴を自分の足に時間をかけて馴染ませていくのだという希望のある喜びが履くたびに感じられる。色違いでもう1足欲しいと思う。
私にとってゴルフは値段に見合った価値を提供するものになっています。
使い始めた万年筆が価格に見合っていると思ったらその人はきっと2本目、3本目と万年筆を買ってくれるだろう。
でもせっかく思い切って買った高価な金ペン先の万年筆が、子供用の安価なスチールペン先の万年筆よりも書いていて楽しくなかったら、きっと高い万年筆を買うことがバカバカしくなってしまう。
万年筆を使い始めた人がそう思わないように、当店で販売する万年筆は価格に見合ったものだと思ってもらえるようなペン先調整をしています。
それは特別なことではないし、改造と言われるものでもない。
ペン先をルーペで見て正しい状態にするだけ。そして正しい状態の範囲内で、その万年筆を使われる方の書き方やお好みに合わせる。それは万年筆を販売する店として当然のことだと思っています。
もし前述の靴がいくら上質なモノであっても、お店の人からもう1サイズ大きいものがピッタリだと勧められていたりしたら、今のフィット感は得られなかったので高い買い物になっていた。
万年筆のペン先調整も、お客様にピッタリの靴をお勧めすることと同じだと思っています。