銘木万年筆軸 こしらえ

銘木万年筆軸 こしらえ
銘木万年筆軸 こしらえ

万年筆用銘木ボディこしらえの真鍮金具仕様を新たに作り、先日のイベントでお披露目しています。
真鍮は使い込んでいくと艶が出たり、銘木と近い性質を持っていて、時間の経過とともに色も変わっていきます。
そんな時は真鍮用クロスで磨くとまた元通りの黄金色の輝きに戻るので、手入れする楽しみもあります。
木とのコントラストが鋭い、銀色で硬質なステンレス仕様も良いですが、真鍮仕様にもまた違う柔らかな味わいがあります。
今後こしらえは、真鍮、ステンレス、エボナイトの3種類のパーツで展開していきたいと思っています。

3種類のパーツそれぞれに合うペン先の色があると思って、ペン先とセットでこしらえをご購入いただく場合、それを合わせるようにしました。
今までステンレスのこしらえも、エボナイトのこしらえも、こしらえの名が示すようにペン先は刀身のような存在で、銀色のペン先にこだわってカスタムヘリテイジ912を合わせていました。
しかし、真鍮とエボナイト仕様には金色のペン先の方が万年筆としては合うのではないかと思い始めて、カスタム742と組み合わせるようにしました。
従来通りの銀色のペン先が好みだという方は、インターネットでお買い物の際にコメント欄に「カスタムヘリテイジ912希望」とご記入下さい。カスタムヘイリテイジ912仕様でご用意させていただきます。

その時々で工房楔の永田さんが持っていたり、手に入れた材の中で良いものをこしらえにしてくれていて、今回も良材に恵まれました。
花梨こぶ杢、ブライヤー、キューバマホガニーなどこしらえでお馴染みの素材でも良いもの揃いですが、今回はスネークウッドも製作しています。

しかし、ホームページにスネークウッドは掲載していません。
大変希少で、質量が高く、ズシリとした重量感があり、独特の模様を持った人気のある素材ですが、木の質感をそのまま生かす工房楔の仕上げでは必ず割れてヒビが入ります。
ご購入いただいた後にヒビが入った場合、工房楔の永田さんがきれいに直すことができますが、必ずヒビが入る素材なので、インターネットでの販売はせず、店頭でご説明させていただいて販売しています。
でももし興味がおありでしたら、お問い合わせ下さい。

こしらえは書くことを楽しむだけでなく、銘木を味わうという楽しみもあって、それは万年筆をより大人の仕事と遊びの道具にしてくれます。
当店はこれからもこしらえを育てていきたいと思っています。

⇒銘木万年筆軸こしらえ

ペン先調整人の言い分

ペン先調整人の言い分
ペン先調整人の言い分

インク出は最小限に絞り、使い続けるうちに筆記面ができて、そのポイントで書くとインクがたくさん出て気持ち良く書くことができるような調整が好きです。
そうすると使い込んで良くしていくような楽しみもありますし、ルーペで見たペンポイントの姿が美しいからです。
でもこれは私の好みであって、この調整をすると我慢して使わないといけない期間は2,3年あるし、万年筆を初めて使う人はこのままでいいのだろうかと不安になるのかもしれません。
店でペン先調整を依頼されてそのペンをこのような自分好みにすることはまずありません。
なるべくお客様の意向に沿ったものにしたいと思っていますが、ペン先調整を仕事にしているから、それは当たり前なのかもしれません。

書きにくいペンを書きやすくする、何かご希望があって、そのペンをその理想に近付けるようにしたいといつも思っていますが、そのご意向がそのペンを悪くしてしまうようなものでしたら申し訳ない気持ちで忠告するようにしますし、違う形でそのご意向を実現できるように代案を出すようにしています。

ペン先調整代を払ってよかったと思ってもらえるようにしたいといつも思っています。
私が若い頃のペン先調整をする各メーカーから派遣されてきた人たちは皆職人然としていて、一部の人の間で「~先生」と呼ばれていました。
その仕事はお客様の万年筆の問題解決もしながら、自分の世界観を万年筆に表現するような感じだという印象を持っていました。
そういう調整人(一般的にはペンドクター)の姿をお客様方が求めていたのだと思いますが、明らかに時代は変わり、その役割も変わってきていると思っています。

万年筆の良いところは、紙にペン先を置くだけでインクが出て、筆圧を書けずに書くことができる気持ち良い書き味と、ある程度の制約はあるけれど、自分の好み(書き癖、ペン先の硬さ、インク出の多少など)に合わせることができるというところです。
ペン先調整人は、その万年筆がどんな状態にあるのか、お客様がその万年筆の何を問題だと思っているのか、どのようにしたいと思っているのか、どのように使うのか、どんなものが好みなのか、どんな書き方をするのか察知して、最小限の加工でそれを実現し、合わせなければいけない。

そうするには正しい形を知っておく知識や見識が必要だし、闇雲に削らない理性のようなものとか、自分を出さない慎ましさのようなものも必要で、それはペン先調整に向かった時だけでなく、普段の心の持ち方から心掛ける必要があると思っています。
ペン先調整は、その万年筆をより良い状態にするという、万年筆販売員の持っておくべきスキルで、私たちは商売人であって、職人でも、先生でもない。
そこを勘違いせずに、自分たちの役割を理解しておくこと、ペン先調整が独り歩きしないことがこれからの万年筆販売におけるペン先調整のあり方のポイントのような気がしています。

進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)

進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)
進化する木工家 ~工房楔春のイベント3月26日(土)27日(日)

恒例になっております工房楔春のイベントを明日、明後日開催いたします。
このイベントは2009年から始まっていて、年1回が年2回になり、6年も続けられているのは、たくさんのお客様が毎回ご来店下さっているおかげだと改めて感謝しています。

永田さんは毎回何らかのニュースをこのイベントのために準備してくれていて、今回は真鍮金具の当店オリジナル銘木軸「こしらえ」や、楔オリジナルのチタン製金具の万年筆などです。
普段なかなか見る事のできない銘木のステーショナリーに触れて、作家の話を直接聞くことができるいい機会だと思っています。
思えば初めの頃は代表作であるパトリオットボールペンとカッターナイフ他、数点のステーショナリーしかありませんでしたが、どんどん増えていきペンシルやペンシルエクステンダーなどの筆記具、名刺ケース“ポルタ”、万年筆ケース“コンプロット”など、工房楔のどこを切っても魅力的なものが存在する。
次々と新しいものを作り出し、誰も作っていないもの、誰よりも良いものを作りたいと活動する永田さんの生き方を、少し生き急ぎ過ぎだと思うこともあるけれど、永田さんを突き動かすその情熱があるからこそ、他の木工家よりも良い素材を手に入れることができているのかもしれません。
でもどの作品も銘木だという素材の良さに甘えず、機能面でも使う意義のあるものだということは皆様ご存知だと思います。

それは永田さんが木だけでなく、様々なものに興味を持って使っていることの裏付けです。永田さんを知るお客様が永田さんと言えばオレンジをイメージするほど、オレンジ色の服、オレンジの鞄、靴、時計までオレンジ色という徹底したオレンジ好きです。
そんな永田さんがデルタドルチェビータに惹かれていったのも自然で、オレンジ色のドルチェビータのシリーズをほぼ全種類持っていて、コンプロット10に収めて持ち歩いている。
万年筆に並々ならぬ興味と愛情を持っていて、それらを使うことを楽しんでいるからこそコンプロットが出来上がったのだと思います。

ステーショナリーを楽しむ永田さんの姿を見て、私も木を楽しむことを知りました。
私はウォールナットやチークなど、何でもないように見えながら使ううちに味が出てくるようなものを好み、これらのものをキレイとキタナイの間と言ったりしますが、モノの有り方の中で最上の褒め言葉だと思っています。
それは本当に人それぞれの好みなのかもしれないけれど、工房楔の定番の素材、花梨こぶ杢のように玉杢がビッシリとあるものは華やかだし、黒柿や桑、黄楊は日本的な侘びた風情がある。ブライヤーはダイナミックな模様があるなど、どれも見所があって、味わいが違います。

皆様もたくさんの銘木の中で惹かれる素材があると思いますので、それらを見つけにイベントに遊びに来ていただけたら、そして工房楔と当店の遊びにお付き合いいただけたらと思っています。

工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)

工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)
工房楔春のイベント開催 3月26日(土)27日(日)

工房楔の作品はたくさんありますが、当店のオリジナル企画として発売しているものに「こしらえ」があります。

こしらえはパイロットカスタム742、カスタムヘリテイジ912の首軸から先のペン先ユニットをそのまま使うことができる、銘木万年筆軸です。
書き味も使い勝手も一流のこれらの万年筆を、さらに使い込むことで軸も育てられる楽しみを持つことが出来ます。
銘木の軸は使ううちに木に含まれる油分が表面に出てきて艶を作り、新品の時よりもどんどん良い風合いになってきます。
長い時間使って育てた軸を、ペン先ユニットを差し替えることで違う用途でも使うことができる。それはその万年筆を長く使いたいと思った時有利だと思います。
ペン先も使い込むことで育っていきますので、使い込んで書きやすくなったペン先を違うボディにして気分を変えることもできるという、こしらえには二重の楽しみがあるということになります。

こしらえに使う木軸は様々なものがあり、その時使うことができる良材を工房楔の永田氏が選んで製作してくれています。
花梨はやはり工房楔の代表的な素材で、模様も複雑で面白い。油分を多く含む素材なので艶も出やすいので、楔商品の素材選びに迷われている方には花梨をお勧めしています。
私は「キレイと汚いの間」のような素材感が好きなので、チークや桑、ブライヤーなどが好きですが(あくまでも主観です)、人それぞれの好みが分かれるところです。

こしらえのネジやキャップの内側、キャップのヘリには木以外の素材を使っていますが、ステンレス、エボナイトという順番で発売してきました。
ステンレスは、重量がありバランスのアクセントになって、いつでもきれいな状態にある木との対比が鋭くて良い素材です。
エボナイトは軽いので自然な使用感で、その模様や色合いから木との親和性が高い素材だと思っています。

このたびのイベントでは、新たに真鍮パーツ仕様のものを発売します。
真鍮は磨くとピカピカの金色になり、使ううちに光沢が落ち着いてくる、エージングする木に近い金属だと思っています。
工房楔の永田篤史という木工家の、木を見る確かな目と腕の良さを生かすことができて、万年筆を使っている人の要求を満たしたものがこの「こしらえ」だと思っていて、当店は今後もこのこしらえを永田氏とともにより良くしていきたいと思っています。

永田さんは今回のイベントでチタンパーツの万年筆も仕上げてくれることになっています。
今回も注目するべき新たなネタを持ち込んでくれますので、ぜひイベントに足をお運び下さい。

⇒万年筆銘木軸「こしらえ」cbid=2557546⇒万年筆銘木軸「こしらえ」csid=1″ target=”_blank”>⇒万年筆銘木軸「こしらえ」

オマス追想

オマス追想
オマス追想

ブログでは既に記述済みですが、このコーナーでもオマスの廃業について書いておきたいと思いました。少しお付き合い下さい。

6年前のル・ボナー松本さん、分度器ドットコム谷本さんと行ったドイツ~チェコ~イタリア旅行でボローニヤを訪れたのは、オマスの本社、工場訪問の約束がとれたためで、オマスのおかげでボローニヤやその周辺の街モデナ、パルマを訪れることができたとも言えなくもない。
どの町も古い街並みを持っていて、文具店が何軒もありました。それらを歩いたり、レンタルした自転車で走ったりして巡りました。

6月の始めでしたが、イタリアはアフリカの近さを実感させられるほど、乾いた風と強い日差しで、旅の思い出はその熱い日々とともにあります。
オマスを訪れた時、商品説明の中でパラゴンを「モンブラン149がライバルです」と説明していて、オマス社は本気で打倒モンブランを標榜してペン作りに取り組んでいることが言葉の端々から感じることができて、大いに共感しました。
規模も全く違うし、モンブランはオマスのことをライバルだとは思っていないかもしれないけれど、自分よりはるかに大きなものをライバルだと位置づけてそれを目指すという考え方は好きだと思いました。
大きな力と戦うなら、自分たちの強みや特徴を見極めて、それらを生かした戦略をとらないとまともに行くと歯が立たないに決まっている。
オマス社は自分たちの特長である、歴史的モデルの継承と未来に目を向けたモデルを同時進行させて発売していました。

万年筆の中でもオーバーサイズという範疇に入る大きなボディのパラゴンは、書くことが楽しくなる手応えのある最高の万年筆だと思いましたし、レギュラーサイズのミロードは最もきれいな文字を書くことができる万年筆のひとつだと思っています。私はその派手ではないけれど、万年筆の基本を押さえていた玄人好みなモノ作りにほれ込んでいました。
セルロイドやウッドなどのボディ素材も定番品として作り続けていたのに、自分がそれらを一本も持っていないのがとても残念ですが、もちろん一番残念なのはオマスがもう存在しないということです。
親会社が存廃を検討し始めた時にオマスのスタッフたちは必死になって、新しい引受先を探したそうです。
しかしオマスは譲渡されることなく、工場閉鎖、廃業してしまいました。
昨年90周年を迎えて、記念の万年筆もたくさん発売して活発に活動していると思っていましたので、オマスを失った喪失感は大きい。
タイムスリップしたような古い建物が連なり迷路のような通りを作るボローニャの街同様、オマスも時代に取り残されて存在する役回りを負っていました。

でもその役回りを維持して続いていくことを時代が許さなかったのかもしれず、私はここから何かを学び取らなければならないと思っています。

憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー

憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー
憧れる不良性 モンテグラッパエキストラ1930/エキストラオットー

大人の不良性、というものに憧れることがあります。
言葉遣いや服装など表面的なものではなく、何かちょっとした拍子に垣間見えてしまうもの。
それをわざとらしく演出する言葉遣いや服装、態度をとるということではなく、上手く言えないけれど、その人が醸し出している雰囲気のようなものです。

私は天邪鬼だったけれど、不良性とは程遠い人生を歩んできました。
自分にないものを取り繕っても仕方ないので無理はしないけれど、そういう憧れを抱かせる不良性を持ち合わせたかっこいい大人たちを何人も見てきて、その人たちの仕事には近付きたいとは思います。
その人たちは皆、見た目の取っ付きにくさとは裏腹に優しく、自分の仕事に情熱を持って取り組んでいる大いに語る人たちでした。
何かで怒らせたらものすごく怖いのだろうなと、恐れを抱かせる抑止力のようなものも持っている。

万年筆とは、そういう不良性からは程遠いものだと一般的には思われているけれど、実はそれほど離れているものではなく、そこに近づけてくれたり、その人の生き方、目指すものを投影してくれる数少ないモノのひとつだと思っています。
モンテグラッパエキストラ1930のような万年筆は、不良性を持った大人に似合うのではないかと思いました。

クラシカルなセルロイドのボディに不釣り合いなほど大きなペン先。デザインはそれほど奇をてらったものではないけれど、個性と力強さと色気を感じさせる、明らかに普通の万年筆とは違うただならぬ雰囲気を持っている。
そして、888本の限定で発売されたエキストラ1930の限定版オットーは、クラシカルなエキストラに華やかさを少し加えたもので、こんなにカッコいい万年筆は久しぶりに見たと思いました。

モンテグラッパ。不良性を持ち合わせた大人にこれほど似合うものは他にないと思いますし、自分にない不良性を加味してくれるものでもあると思っています。


⇒エキストラ1930cbid=2557105⇒エキストラ1930csid=3″ target=”_blank”>⇒エキストラ1930

カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~

カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~
カートリッジインクに遊び心~カンダミサコ小長持ち~

海外の万年筆では私は経験がないですが、国産の万年筆はカートリッジインクを差して使う方が書き味が良いのではないかと思うことがあります。
パイロットシルバーンやキャップレスはカートリッジインクでは爽快な書き味を持っているけれど、他社インクではその感動が薄まりますし、コンバーターのインク吸入量が少ないので、頻繁にインクを吸入することになります。

パイロットの極軟ペン先フォルカンも純正インクの粘り強さがあってこそ、その柔らかさを生かせるものだと思います。
プラチナも流れが良く書き味が良くなる黒インク、にじみのないブルーブラックと色によって性格の異なるインクが用意してあって、用途に合わせてインクを使い分けることができますので、色にこだわらなければカートリッジインクの使用の方が便利です。

セーラーは万年筆のインクの中で最も黒い黒インク、くすみのある渋いブルーブラック、発色の良い強め青と魅力的な色をカートリッジインクで用意しています。
これらを考えるとわざわざ国産万年筆でコンバーターを使ってボトルインクを吸入しなくてもいいのではないかと思うこともありますが、そういうわけにはいかないのでしょう。
私が受けている感覚が正しいとすれば、カートリッジインクで万年筆の調子が良くなるのは、それだけ国産メーカーは厳密に自社インクに合わせた万年筆作りをしているということなのだと思います。

考えてみるとカートリッジインクの万年筆へのはまり方も海外のもの、特に大多数を占めるヨーロッパタイプのカートリッジを使う万年筆の場合、浅く、軽くて頼りないような気がします。
それに対して国産メーカーのものはどれも適度な力を込めて差す必要があって、しっかりと差り、抜けてしまう心配のいらないものばかりです。
この辺りも国産メーカーは緻密にカートリッジに合わせた万年筆作りをしていると思わせてくれるところです。

使っている万年筆が国産のもの、海外のもの問わずカートリッジ派という様々な色から好きな色を選ぶ楽しみを放棄している少数派閥の人がいて、私もその一人だと思うけれど、好きなインクの色を選ぶよりも書きやすさや外出時のインク交換の手軽さを優先した人たちに実用一辺倒のカートリッジインクを趣をもって使うことができるものをご紹介いたします。

カンダミサコの小長持ちです。
小さな長いものを運ぶための革小物で、カートリッジインクでなくても、クリップや印鑑なども入れることができます。
素材は使い込んでいくと艶の出るブッテーロ革で、こういう小さなものに上質な素材を使うところがカンダさんらしいと思います。
鞄や大型のステーショナリーとは別に、こういうアイデアの面白いものを本気で作るところは工房楔の永田氏にも感じられる遊び心だと思っています。

⇒カンダミサコ 小長持ちカートリッジケース

特別調整万年筆アウロラスタブ調整

特別調整万年筆アウロラスタブ調整
特別調整万年筆アウロラスタブ調整

昨年6月から始めたペリカンM400細字研ぎ出しは、M400を手帳に使いたいけれど太くて使えないという現状を解決することになり、当店の万年筆としては異例のヒットとなりました。

皆様がいかに太すぎるペン先の万年筆に不満をお持ちで、細くしたいと思っているかということが分かり、大変勉強になりました。
そしてそれぞれのペンの特長を見極め、需要があるのに存在しないもの作り出す、当店のペン先調整、特別調整の考え方に賛同いただけたということにも大きな意義がありました。

そのペン先の特長に合致していて、もっとその万年筆を生かすことができて、使い勝手を良くなる特別調整を施した万年筆として、アウロラオプティマスタブ調整もご提案いたします。
スタブとはペン先を平らなヘラ状に研ぎ出し、縦線を太く、横線が細く書けるようにしたペン先です。

このペン先を生かすように握って、縦横差のある線で文字を書くと特長のある文字を書くことができて、書いていてとても楽しい万年筆になります。
アウロラはペリカンほどインク出が多くなく、程良いインク出が特長でもありますが、スタブペン先だと細くあってほしい横線にキレが出て、縦横差が出しやすくきれいな線を書くことができます。

実は私は、スタブペン先は日本の文字、特に縦書きには向かないと思い込んでいました。
縦が太く、横が細い線アルファベッドに向いていると思っていたのです。
しかし、通っている書道教室の先生が硬筆習字に使う万年筆を私に依頼してくれて、調整について話を詰めていくうちに、縦線が太く、横線が細いスタブ調整に行き当たりました。

漢字は縦線よりも横線の方が多いものが多く、漢字を潰さずにスッキリと書くために横線の細さが必要でした。
アウロラの<F>のペン先、国産では<中細>くらいの万年筆をスタブ調整してみると、金ペンらしい柔らかい書き味でいながら、付けペンのヘラペンのようにキレのある文字を書くことができますので、これは万年筆のひとつの理想的な形なのかもしれないと思っています。

今回スタブ調整のベースとして、アウロラオプティマをピックアップしましたが、同じペン先のアウロラ88も同様のペン先調整をすることができますし、他にスタブ調整に適したものがあればご提案していきたいと思います。

⇒AURORA 新企画”スタブ研ぎ”特別調整万年筆 オプティマ

~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様

~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様
~書道の先生に作った万年筆~ パイロットカスタム743のスタブ仕様

月3回、定休日に書道教室に通っています。
教室は板宿にある積水書道会で、妻と通える書道教室を探していた時に、インターネット上に情報が少ないこの業界において、ホームページを開設していた数少ない教室のうちのひとつでした。
自作されたというホームページから、窪田三奎先生の人柄も伝わってきたし、時流を読んでホームページで情報を発信しているという姿勢も、他の書道の先生と違っていて、この先生から習いたいと二人の意見が合い、通うようになって半年が経ちました。

最初、自分の仕事については話していなかったけれど、先生と話しているうちに、自分が万年筆を仕事にしていることを言わなければならなくなりました。
教室では毛筆を習っているけれど、宿題でペン習字の宿題が出て、次回添削してもらうということをしていて、万年筆での硬筆習字の話になることも多い。

今まで満足して使える万年筆に出会ったことがないと先生が言われるので、試筆できるものを数本用意して、その中から好みに合うものを選んでもらいました。
様々なものを試していただいた中で、先生はパイロットカスタム743<中細>を選ばれました。
フォルカンや細字軟などの柔らかめが選ばれると思っていたので少し意外でしたが、ペン先調整に関しても私には意外なお申し付けがありました。
カスタム743<中細>の縦線の太さは先生のご使用に合うようですが、横線を細くして欲しいと言われました。
縦線が太く、横線が細いスタブ形状のペン先はアルファベットや横書きの文字に向いていて、縦書きの日本字や行書などには向かないと思っていましたので、先生の指示に少し驚きました。
でも今練習している毛筆の楷書も縦線が太く、横線が細くなっていることが多いし、漢字には「壽」のように横線がやたらと多い文字が結構あって、それらの文字をすっきりと書きたいということでした。

パイロットカスタム743<中細>のペン先をスタブにしたものが、窪田三奎先生の愛用の万年筆になり、先生の硬筆書道で必ず使われるようになりました。
硬筆書道においてのカスタム743の良さは、ボディのバランス、持ち応えの他に、柔らかい書き味と、滑りの良さ、そして筆圧を加えたり、抜いたりして文字に強弱がつけられる粘り強さにあるようです。

筆圧を込めて文字を強くすることを先生はペン先を割る、と言いますが、本当にペン先が割れるまで筆圧を掛けてはいけませんが、ペン先を割ってもそれに応えてくれる柔らかさと限界の高さに貢献する粘り強さがこのペン先にあって、これだけのペン先を備えた万年筆は少ない、と私も思います。

窪田先生からのお墨付きをいただいて、カスタム743を真剣に書く人のためにもっと勧めたいと思うようになりました。

⇒パイロット カスタム743

書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~

書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~
書かなければいけない時に~ペリカンM400サイズの万年筆~

本を読みながら頭を切り換えて、すぐに自分の課題について考えることができたら素晴らしいけれど、実際は考えようと思わないと考えることができず、インプットとアウトプットを同時進行させることは私にはなかなか難しいことに思えます。

最近本を読むことよりも何か考えていることの方がはるかに多く、今はそういう時期なのだと思っているけれど、年々その時間が長くなっている。
若い頃は、貪欲に本を読んで自分に色々なものが蓄積できる貴重な時間だったと懐かしく思えます。
自分の中に何もなくても、出し過ぎて空っぽになったとしても、アウトプットし続けないといけない時は必ずやってくる。それまでは何でも詰め込んでその時に備えるべきだという事を、今までの経験で思います。
47歳で、自分の店がひとつのターニングポイントを迎えている私は、家でも、通勤中でも考えないとけないことがいくつもあって、少々手に余るけれど考え続けるしかありません。

考えるということは、書くということが必ずではないけれど伴います。
一巡り考えたり、考えに詰まったりした時にノートに書いてまとめるとまたそこから進展することがあるし、思考を蓄積するためにも、考えたことは書かないといけないと思っています。

最近はノート、メモ帳に大和出版印刷のiiro(イーロ)を使っていてそこに書きだしたものをシステム手帳に清書します。
そんな時に使う万年筆は、大きめのものではなく、ペリカンM400サイズの万年筆で、小さな万年筆で文字の形を気にせずに書きだすのにとても向いていると思っています。
逆に手紙などはある程度大きな万年筆の方が使いやすく、自分なりのきれいな文字が書きやすい。
頭の中にあるものをバーッと書く、あるいはポツポツと書くには手の力で書く小さめの万年筆の方がいいということなのかもしれません。
ノートに書いたものを清書する手帳用の万年筆もあまり大型のものよりもM400サイズの万年筆の方が使いやすいのではないか、多くの人がM400を手帳用に使いたいのではないかと思って、M400の<EF>をさらに細く削り出して、国産細字程度にした「M400細字研ぎ出し」は、先日の蔦屋書店のイベントでも多くのお客様からの反響があり、発売当初から感じていた手応えが裏付けられました。

ノート用の少し太めの<M>か<B>の字幅のM400、手帳用の細字研ぎ出しのM400。この2本が今まで経験して蓄積したものをアウトプットしていかなければならない世代の実務を支えるものになると思っています。
当店にはちょうどM400サイズの万年筆2本収めることができるペンケース、WRITING LAB.オリジナルペンケースピノキオというものがあり、今回のM400サイズの万年筆を2本使うのにぜひ一緒にお使いいただきたいと思っています。

素材はキメが細かく、手触りの良い栃木のサマーオイルを使用しています。使い込んだり、ブラシ掛けなどのお手入れによりかなり艶の出てくるとても良い革です。
2本の小ぶりな万年筆を、コートやジャケットのポケットに入るくらいコンパクトに持ち運ぶことができますので、仕事と関係のない本を読む時間がくるまで、このセットを相棒に、生みの苦しみを乗り越えていただけたらと思っております。