時間の形~オリジナル正方形ダイアリー2016~

時間の形~オリジナル正方形ダイアリー2016~
時間の形~オリジナル正方形ダイアリー2016~

大和出版印刷さん、分度器ドットコムさんとの共同企画のオリジナルダイアリー2016年版が出来上がりました。
ウィークリーとマンスリーの2種類を毎年製作しています。

昨年は2015年版ウィークリーでかなり手を入れてリニューアルして理想の形になっていると思っているので今年は大幅な変更はありませんが、マンスリーダイアリーにも前後の月のミニカレンダーを右下に追加しました。計画を立てる時にさらに便利になったと思っています。

私が仕事をするようになってから持ち続けている、一年間の月の並びに対するイメージがあります。
一年は時計のように円形に並んでいるというものです。
並び方は12時の位置に10月があって、6時の位置に4月があります。
きっと自分のバイオリズムというか、調子のリズムがあってそのように思うのかもしれません。
一年の始まりである1月が3時の位置という変なものですが、その位置が私には1月に相応しいような気がするのです。

4月をピークに、それ以降は毎年調子が悪く上がっていくのに苦労するので、4月が一番低い位置にある。それ以降時間の針は重力に逆らって上がっていかなければならない位置にある。
季節は巡るということを考えると、一年を時計のように円形に捉えることが何となく合っているような気がしていて、これは何年も商売に携わってきて自分の頭の中にできたものです。
でも同じ年は絶対にないので、正確に言うと蚊取り線香のような螺旋形になりますが、そんな形のダイアリーをもしオリジナルで作ることになった場合商売としては大いに心配です。
もちろん1年を違う形でイメージする人もおられて、それはその方のお仕事などと関係があるのかもしれません。

でも一か月の形と言うと、多くの人にとってブロック型のカレンダーの形が馴染があるのではないでしょうか。
オリジナルダイアリーもマンスリーはカレンダーと同じ形にこだわっています。
カレンダーは日曜日始まりのものが多いですが、土日の休みが一般的になっていますので、土日は隣り合っている方が分かりやすく、月曜日始まりとしています。
ウィークリーダイアリーか、デイリーダイアリー(日付なし)か、その年ごとに使うものは違っていましたが、それらと組み合わせて使うマンスリーダイアリーは毎年使っていて、目に馴染んだ形なので、とても使いやすいと自信を持っています。

TO DOリストなどは細々と書くことができるウィークリーやデイリーが使いやすいかもしれないけれど、スケジュール帳を突き詰めると、結局このカレンダータイプに行き着くのではないだろうか。
オリジナルダイアリーを作るということは、時間の形を表現するものだと思っていて、それはとても楽しいけれど、責任の重いものだと思っています。
それでも万年筆を使う人のことだけを考えた理想的だと思うものに仕上がっていると思います。

オリジナルダイアリー用の革カバーをル・ボナーさんが現在製作してくれていて、11月には出来上がってくる予定になっています。
当店で発売しています写真冊子「手帳のある風景」には、オリジナルダイアリーをお使い下さっている方々の机上の風景を掲載していて、大いに刺激を受けました。

来年私はシングルのカバーにマンスリーとデイリーダイアリーを入れて使いたいと思っています。
ぜひ一緒にオリジナルダイアリーをお使いいただき、内容や使い方についてご意見を伺えたら、と思っています。

⇒オリジナルダイアリー2016(Pen and message.オリジナルトップへ)cbid=2557112⇒オリジナルダイアリー2016(Pen and message.オリジナルトップへ)csid=1″ target=”_blank”>⇒オリジナルダイアリー2016(Pen and message.オリジナルトップへ)

8周年に

8周年に
8周年に

今月、当店は創業8周年を迎えます。

直接的な言い方で大変不躾ですが、当店で商品を買って下さるお客様がおられたからこそ、存続してくることができたわけで、本当に感謝しています。
誠にありがとうございます。

この店が始まってから、月並みでつまらない言い方ですが、あっと言う間に年月が過ぎてしまいました。
時間の経過はあっと言う間でしたが内容は格段に濃いもので、充実していたことも有り難いと思っています。
8年前や、それまでの自分を振り返ると、考えの甘さや未熟な部分が多く恥ずかしいことばかりのように思います。できれば思い出さずに未来だけを見ていたいけれど、創業記念の9月だけは仕方ないと今までのことを振り返ったりしています。

創業記念日の9月23日は祝日ですが、その日は水曜日ですので当店は通常通り定休日です。
祝日だし、特別な日なのにどうして?と言われるけれど、他の日に定休日を振り替え始めると、お客様にも覚えていただきにくいかと思っています。
当店は水曜日が定休日だということを多くの人に知っていただきたいということもあります。

色々変な考え方だということは自分でも分かっているけれど、ついでに申し上げると私は万年筆というもの自体にはあまりこだわっていません。

それよりも万年筆で書く生き方、書くことを大切にした生き方を追究したいと思っています。そして、その生き方を支える、書きやすい、生涯の友とも言える万年筆を提供したいと思っています。

そんな生き方が本当にあるのかどうかは別として、それを追究して示すことに興味があって、おもしろいことだと思っています。
それは万年筆販売店として正しいのかどうか分からないし、本当はもっと万年筆というモノを気軽に楽しむことを追究するべきとも思いますが、私がやると何かシリアスなやり方になってしまう。
8年経ったのに、色々なことがまだまだで、道半ばです。
創業当初から早く「10年になります」と言いたいと思っていたけれど、ただ年月を積み重ねるだけでなく、堂々と10年と言えるような店にしたいと思っています。

皆様今後ともよろしくお願いいたします。

8周年企画~ペンレスト兼用万年筆ケース(7本用・Sモデル)~

8周年企画~ペンレスト兼用万年筆ケース(7本用・Sモデル)~
8周年企画~ペンレスト兼用万年筆ケース(7本用・Sモデル)~

9月23日は当店の創業記念日で、8周年を迎えることになります。(その日は水曜日で定休日なのですが)
今月出来上がる商品やイベントは、8周年記念という特別な思い入れがあります。そして関わって下さった方々も、当店の8周年を盛り上げてやろうとご協力いただき、とても感謝しています。

今月は、今回ご紹介するベラゴの牛尾さんが作るペンケースの他にも、6年目になるオリジナルダイアリーの2016年版の完成や、9月26日(土)27日(日)の工房楔のイベントもあり、盛りだくさんの月となります。

今回の主題「ペンレスト兼用万年筆ケース(7本用・Sモデル)」は、出来上がるまでの経緯も面白いと思います。
このペンケースは当店でデザインしたものではなく、当店のお客様S浦さんを革製品のオーダー製作をされている鞄職人ベラゴの牛尾さんにご紹介して、持ち込んだ依頼から始まったものでした。

S浦さんは当店のペンレスト兼用万年筆ケースを背中合わせに2つくっつけたような、大量にペンを収納できるケースを望まれていました。
その希望を受けてベラゴの牛尾さんが試行錯誤され、デザイン的にも洗練された
このケースを製作されました。
牛尾さんのデザイン的なセンスは、並外れた才能だと思います。
それは彼の鞄作りにも表れてベラゴの特長になっていて、丁寧で細やかな仕事とともにとても信頼しています。

デザインから取り組んだので時間はかかりましたが、S浦さんが「待った甲斐がありました」と言われるものに仕上がっていて、完成品を見せていただいた時から商品化したいと思っていました。
S浦さんの手にペンケースが届いてからしばらく我慢していましたが、S浦さんに了解を得て、やっと商品化することが出来ました。

このペンケースの構造は、後ろ部分が内部が4つに分かれた4本差し、前部分が3つに分かれた3本差しで、1本ずつのスペースは前の方が大きくとってあります。
持ち運ぶ時はフラップを被せて持ち運ぶと脱落防止、キズ防止になります。
机上で使用している時は、フラップを後ろ部分のペンの枕のようにしておけば、開いたままにすることができます。
フラップ周りの構造は、当店の3本用ペンレスト兼用万年筆ケースと同じものですが、これを7本用に上手くリデザインされています。

使用している革は、牛尾さんお勧めのベルーガ革です。
ベルーガは傷もつきにくく粘りのあるとても丈夫な革で、エージングはありませんが、色気のある革だと思います。
内装は柔らかいピッグスエードで、ペンに傷がつきにくくなっています。
外周はミシンで縫製していますが、仕切り部分は手縫いでされていて、牛尾さんの工夫の跡が見られます。

7本もペンを持ち歩く人は少ないかもしれないけれど、このペンケースのデザインや構造を多くの人に見てもらいたかった。
S浦さんのご理解によって、こういうものを8周年の記念に発売できて、誇らしく思っています。

旅に携えた万年筆~オマスパラゴン~

旅に携えた万年筆~オマスパラゴン~
旅に携えた万年筆~オマスパラゴン~

夏季休業で金沢に2泊3日で家族旅行をしてきました。
私は神戸を適度に街で適度に田舎だと思っていて、それが良いところだと思っていますが、金沢も同じようなところがあるのではないかと思っていました。

新幹線の開通によって駅前の再開発は徹底的に行われたようで、古い建物やお店は一切なく、金沢城周辺など公的なお金がかけられているところはとてもきれいになっていました。
しかし公の手の入っていない他の場所とは激しい対比があって、それを見ると寂しい気持ちになりました。
新竪町商店街などは、きっと一度は寂れたのかも知れませんが、とても良いお店がいくつかできていて、また訪れたいと思わせるものでした。
商店街再興の動きはきっと全国で起こっていて、地方の商業が若い人たちの感性で、それぞれの持ち味を生かして甦ってくるのだと思います。

旅をしながら感じたことなどを書き留めるために、万年筆を携えたいと思っています。
最近は写真も一生懸命撮っているので、書いてばかりもいられないけれど、旅先で見たものから受けた刺激で何か書きたいといつも思っています。

旅の途中は立ったまま書く事も多いので、ラミーサファリでメモしたりしていて、サファリは私のそんな用途にぴったりな万年筆だと思います。
でもホテルに戻ったらより書き味が気に入っている万年筆を使いたい。だから一番大切に思っている万年筆も持って行きます。

今回の旅行にも、オマスパラゴンを持って行きました。
私が持っている万年筆の中では、オマスパラゴンがインクもたくさん入りタフなので、一番旅に合っていると思っています。道中はサファリでメモして、パラゴンでシステム手帳に清書したり、原稿の下書きを書いたりしています。オマスのEFの字幅だと、1本で様々な用途に使えるところも旅向きだと思います。

私はある時から、ある程度重さのある万年筆でないと使いにくく感じるようになりました。
軽い万年筆は手帳やメモ帳に少し書くくらいならいいけれど、きれいな文字を書くには重量のある万年筆の方がいいと思っていて、自分が持っている万年筆の中でも、オマスパラゴンを使うことが多くなりました。

一番気に入っている万年筆を旅先にも持って行くようにしたいと思っていて、今回はパラゴンと旅をしたい気分でした。

幸せな仕事~ローラーアンドクライナーインク~

幸せな仕事~ローラーアンドクライナーインク~
幸せな仕事~ローラーアンドクライナーインク~

新しいインクを扱い出しました。
ローラーアンドクライナー社のインクです。
正直に告白すると、当店ではインクの色はもう一通り揃っていると思っています。
あと当店のインクのコレクションに追加するものがあるとすれば、色名やラベルなどのセンスに惹かれるもの、その色や色名から場所などがイメージできるものだと思っていたので(インクには少々荷が重いですが)、そんなインクをいつも求めていました。

ローラーアンドクライナーのライティングインクは、独特の色や色名を持っていますが、混色できるというところにも魅力を感じました。
セピア、スカビオサ、サリックスはできませんが、他のインクは混ぜることができるので、使う人の好みに合った無限のカラーバリエーションを実現できます。

個人的には、ライプツィヒアンブラックを使用していますが、光沢紙のような紙にも書くことができる顔料インクらしい特性と、ブルーを煮詰めて黒にしたような色が気にいっています。
ローラーアンドクライナーのインクは、顔料インクだというところも特徴的なところで、それが発色の良さにつながっているようですが、使用した感じでは詰まりやすくもなく、比較的サラサラした性質のように思えました。

ローラーアンドクライナーのインクを魅力的に感じるのは、インクから小さな工場でハンドメイドされている背景をイメージできるからでもあります。

幸せな仕事というのは人それぞれ定義があって様々だと思うけれど、私が思う幸せのひとつの形として、自分が世の中から与えられた役割を迷いなく果たし、その役割の中で精進して、より良い仕事をすることだと思っています。

自分の役割がはっきりと分かっていると、自分が持っていないものを欲しがることもなく、自分が今持っているもので満足して、自分の居る場所に満足できていたら、それは幸せなことだと思います。
1829年に創業して4世代にわたってドイツ中部の片田舎ツェラメーリスでインクの生産に従事してきたローラーアンドクライナー社にそんな幸せな仕事のイメージを持っています。

ル・ボナーの松本さんたちとドイツを旅した時、ニュルンベルグ郊外の町を訪れました。
静かで美しい町並み、。町に住む人は自分の町に誇りを持っていて、ここでの静かな暮らしに満足して、楽しんでいる。そんな印象を持ちながら、手入れの行き届いた清潔な通りを歩きました。
パン屋には大きな円盤型の硬そうなパンがたくさんあって、車で乗り付けた人がそれを買って、後部座席に放り込んで走り去っていく光景をいくつも見ました。
静かで、慎ましくも幸せな暮らしがイメージできる町の風景を見てから、ドイツと言えば大都会のベルリンやフランクフルトではなく、田舎町をイメージするようになりました。

ローラーアンドクライナー社も私たちが訪れた町からそう遠くない町にあって、きっと同じように静かだけど、清潔で、美しいところなのだと思っています。
ローラーアンドクライナーについてそんなイメージが膨らんでから、このインクをぜひ使いたいと思うようになりました。

様々な商品があって、インクの色はもう出尽くしていると思っているけれど、自分が使うなら、幸せな仕事において誇りを持って作られたものを使いたいと思います。

⇒ローラー&クライナーボトルインク

アイデアが湧くノート

アイデアが湧くノート
アイデアが湧くノート

持つだけでアイデアが次々と湧いて、文章がスラスラと出てくる万年筆を探しています。
万年筆を使いだして20数年間、ずっと探しているけれど未だに出会えていません。
バランスの良さとか、インク出やペン先の硬軟など、私が皆様にリポートしていることと別の次元にあるような、まだ気付いていないところにあるのではないかと、ずっと探して求めている。

でも本当はそんな万年筆はないことも分かっています。
書けるものは結局自分の頭の中にしかなくて、万年筆が書かせてくれるわけではありません。
万年筆にできることは、何か書きたいと思わせてくれることと、書くことを楽しくしてくれるということなのだと思います。

それと同じように、その紙面に向かったら頭の中が整理されて、アイデアが次々と湧いてくる紙製品を探している。
本当はそんなものがないことは分かっているけれど、当店で扱っている紙製品に、私は希望を持っています。
閉店後、一人で店の中をウロウロしながら、次はこれを使ってみよう、あれも使ってみようと、色々考えたりしています。
そうやって見ていると、どの紙製品も何か応えてくれそうな気がしてきます。
当店の紙製品の中でアイデアを記す助けになりそうなものを4つのタイプに分けてみました。

・素材感のあるメモ帳
ライフ国産黒毛和牛の革を使っている「情報本革多目的カード(5×3)」と、ライティングラボの「サマーオイルメモノート」は、素材感が楽しめて、使い込むと艶が出てくるエージングが楽しめる表紙を持っています。

ライフが5×3サイズ、サマーオイルメモノートがA6ハガキサイズという、昔から使い続けられているサイズというところもポイントで、携帯しやすく、書き溜めても整理しやすいサイズです。
粗削りで、素材感溢れる外装も魅力ですが、使い方次第で化ける可能性のある自然に使えるものだと思います。

・古典ノート
昔ながらの質の良いノートは、大和出版印刷の上製本ノートと、ライフサニーゴールド手帳です。
しっかりとした製本と書き味の良い保存性の高い紙の、優れたノートに求められる要素を兼ね備えています。
これらはいつも携えていたい趣きのようなものがあり、それがクリエイティブな気持ちを盛り上げてくれるかもしれません。

・ニューエイジ
これは使ってみたい、何か良さそうだと思えるのが、大和出版印刷のグラフィーロスタイルと同じ大和出版印刷のイーロです。
どちらも何となく女性を意識したスリムなサイズで、デザイン性の高いスマートな仕上がりです。
グラフィーロスタイルは、極上の書き味を持つ紙とどのページも平らに開く優れた製本で、たくさん書き込みたい方に、イーロは軽くかさ張らないものを好む、鞄を軽くしたい方に向いています。

・文豪式
と勝手に命名していますが、とにかくたくさん書くという方にお勧めのバラ紙を使用する方法です。
チラシの裏やミスコピーを使うわけではなく、リスシオ紙やグラフィーロ紙のA4用紙や原稿用紙など、保存する気にさせる良い紙に、思いついたアイデアや計算などを書きつけて、それを分類してファイルに保存していくというものです。
ある程度太いペン先の万年筆で豪快に書く気持ちよさと、ノートを持ち歩かなくていい(仕事場に紙を置いておけばいい)メリットがあります。
これはかなり実践的な、実際に研究職の女性の方から聞いたやり方です。

何かひとつこれだと思う製品と出会って、それさえあれば大丈夫という方法があればいい。早くそれに出会って、自分の仕事の仕方を固めたいと思っている反面、私は気分を変えるために、いろいろなものを使おうとしているのかもしれないとも思っています。

それは万年筆を違うものに持ち代えてみる、インクの色を変えてみるということと同じようなことなのかもしれず、代えることで、アイデアが湧いてきたり、文章が次々と浮かんでくることにつながるのだとも思うのです。

日本的な万年筆

日本的な万年筆
日本的な万年筆

お墓参り、迎え火、送り火など日本的な行事があるからか、今の季節は日本的なものに心惹かれる季節であると思っています。

万年筆も同様で、日本的なものに黒インクを入れて原稿用紙などに書きたいと思います。
万年筆で最も日本的な万年筆は、国産のものであることはもちろんですが、その中でもパイロットカスタム845だと思っています。
この万年筆ほど、日本的な美意識を感じさせる万年筆はないのではないか。
アメリカではプラスチックが開発されていて、万年筆も効率よく大量生産できる時代に突入していた頃、日本の万年筆はまだエボナイト使っていました。
それは職人さんが1本ずつ削り出さないと万年筆にすることができませんでしたが、当時の日本はプラスチックで大量生産をする機械初期投資よりも、人の手の方が安かったのか、エボナイトで万年筆を生産しているメーカーがほとんどでした。

エボナイトは、質量も低く、熱伝導率も低いので万年筆に適した素材ですが、紫外線にあたると茶褐色に変色するという欠点がありました。
これに漆を塗ることで克服したのがパイロットで、80年以上も前にこれを完成させています。

カスタム845のボディは、普通のプラスチックのボディに見えながら、実はエボナイトのボディに漆塗りという仕様になっているというこだわった仕様になっていて、そのさりげなさも含めて、日本的な美意識のある万年筆だと思います。
エボナイトに漆塗りということで、私が生まれるよりもずっと以前に万年筆製作に携わっていた職人さんたちや、日本の万年筆の歴史の中に存在したであろう人たちに思いを馳せたりしています。

カスタム845が日本的な美意識を感じさせる万年筆なら、当店オリジナルのこしらえはもっと直接的に日本らしさを表現しています。
こしらえは当店と工房楔のオリジナル企画で、パイロットカスタムヘリテイジ912、カスタム742などの首軸が入る、銘木の万年筆用ボディです。
こしらえはその名前からも非常に日本的なものですが、もちろん名前だけではありません。
万年筆のペン先を名刀の刀身に見立てて、キャップとボディを鞘と柄に見立てました。
ペン先は使い込むうちに育ち、そのペン先とともに育つ、相応しい外装があって然るべきで、それが工房楔の永田氏が厳選し、高い技術と細心の注意を払って削り出す銘木の万年筆用ボディこしらえです。

こしらえは使っていくうちに、用途が変わってしまっても、育て上げた銘木のボディはそのままに違うペン先をつけることができるし、同じペン先で気分を変えたいと思った時にも代えることができる。
刀身(ペン先)とこしらえ(ボディ)は一対のものではなく、独立した、それのみを育て上げることが可能なものだというところが、既存の万年筆と違うところです。

こしらえに数あるバリエーションの中から選んだペン先をつけて書くとき、私は日本的なものを手にしていると実感できる。
万年筆というと欧米発祥のものだけど、それが日本という国で日本の文化に触れて、構造は同じでも全く異なる日本独自のものになっていると思っています。

⇒パイロット カスタム845
⇒Pen and message.オリジナル工房楔「こしらえ」cbid=2557546⇒Pen and message.オリジナル工房楔「こしらえ」csid=1″ target=”_blank”>⇒Pen and message.オリジナル工房楔「こしらえ」

イタリアの侘び寂び ~アウロラオプティマ365ブラウン~

イタリアの侘び寂び ~アウロラオプティマ365ブラウン~
イタリアの侘び寂び ~アウロラオプティマ365ブラウン~

各万年筆メーカー、それぞれが美意識を持って万年筆作りをしています。
イタリアの万年筆メーカーは特にデザイン性が高く、遊び心に溢れたものを作っているイメージがありますが、その中でもアウロラはより高度なデザインへのこだわりがあるような気がしています。

私はよくアウロラのペンを「バランス感覚に優れたもの」だとお伝えしてきましたが、もうひとつモノに奥行きを持たせている「侘び寂びのような感覚」も持っているのではないかと思っています。
いわゆる日本の美のあり方である侘び寂びとは違っていて、光と影とでも言えばいいのか、上手く表現する言葉が見当たりません。

特に最近のものにこれを持っているものは少ない。
派手なものは派手、地味なものは地味にシックになっているけれど、派手な中に一筋の暗さのようなものがあるのがイタリアの美だと思っています。

アウロラ365が発表された時、ただきれいで派手なだけではない、奥行きのある魅力を持った万年筆が出たと思いました。
新しい限定品だけどクラシックな魅力のあるもの。
複雑な色合いを持つブラウンマーブルのアクリルレジンのボディ、旧型アウロラのキャップリングに万年筆にロマンを感じていた90年代の記憶が蘇ります。
通常かなり硬めで、馴染むのに時間があかる14金ペン先ですが、柔らかい18金ペン先がこのモデルには奢られていて、差別化されています。

オプティマは独特な万年筆だと思います。
キャップを閉じた時にはシャツのポケットにも差せるくらい短いのに、キャップを尻軸につけるとそれなりの長さになります。
ペン先はおろしたての時はカサカサした書き味で、万年筆の気持ち良いヌルヌルした書き味とは程遠い。
自分がオプティマをお使い込んでヌルヌルした何物にも代え難い書き味になった経験がありますので、当店で販売するオプティマはそのような書き味にしてからお渡ししたいといつも思っていて、ペン先調整次第で始めからそのような書き味にできることが分かりました。
だから私はアウロラに特別なこだわりを持っているのかもしれません。

365というのはきっと日常を意味していて、華やかさや喜びだけではない地味さや暗さのようなものを併せ持ったものだというアウロラのメッセージがこの万年筆に込められています。
365本限定で、キャップにシリアルナンバーが刻印されています。マーレアドリアなど華やかで、誰をも黙らせる美しさを持った万年筆もアウロラは作ることができるけれど、オプティマ365のように少しシリアスな部分も併せ持った万年筆にアウロラらしさを感じています。

イタリア的モノ作り

イタリア的モノ作り
イタリア的モノ作り

私はイタリアの感覚的なモノ作りが好きで、信じている。
それはきっと万年筆というものが、イタリア人の感覚的なモノ作りに合っているからだと思っていて、見た感じ、触った感じ、書いた感じなどのフィーリングが重視される万年筆だからこそ、イタリア人の感覚と相性が良いのだと思います。

独特なバランス感覚で、様々な要素で絶妙な均衡を保っているイタリア人の美的感覚を顕著に表しているアウロラ、イタリア人のオシャレなマニアックさが万年筆に表れているオマスなど、タイプは違うけれど、イタリアらしすぎるほどイタリアらしい万年筆だと思っている。

特にオマスの定番品アルテイタリアーナなど12角形でいかにも作るのに手間がかかりそうですが、それがこの万年筆最大の特長になっていて、そのひと手間かける感じがオマスの魅力だと思います。
先日発売した限定品などこの12角形と吸入機構が見える透明ブルーのボディと極端に柔らかい14金ペン先としっかりとした18金ペン先で書き味も選ぶことができる、美しくもマニアックな万年筆に仕上がっている。

オマスの12面体つながりではないけれど、革でも角を出すのは難しいと思いますが、イルクアドリフォリオの久内夕夏さんが作っているライティングラボオリジナルインクケース“CADDY”は本当によくできたと今でも感心しています。

革をオリジナルインクの瓶の形に合わせて八角形の筒型にしたもので、革をこのように精巧に作り上げるのは本当に難しいと思います。
でも久内さんはお得意の木型を使っての絞り技法と根気強さでこれを実現してくれました。
日本人なのに、その作風はイタリアらしさに溢れている。

オリジナルインクは、海外のブームが来ていて、日本中で売れすぎるくらいに売れている。当店も世間並みに売れて、ほとんどのオリジナルインクが品切れしている状態で、来年1月完成予定のものの予約を承っている状態です。
話を戻すと、もう一人イタリア的なフィーリングを重視する職人さんを知っています。
工房楔の永田さんがそうだと言えば、納得されるお客様もおられるかもしれません。
工房楔の、見た感じ、触った感じを大切にするモノ作りはまさにイタリア人のそれに近いと思っている。

パトリオットボールペンや0.7㎜ペンシルやこしらえなど、1本1本が微妙に太さが違ったり、素材によって、表面の滑らかさが違うのは、それぞれの材質の違いやそれぞれの材の個体によって仕上げ方を変えているからで、永田氏は木目の見え方や材質による手触りの違いを大切にしているからこういうやり方になります。
こういうイタリア的な感覚の職人の仕事は、同じものをたくさん作る大量生産に向かないし、1つずつの価格がどうしても上がってしまいます。
ですが、万年筆やその周辺のものに私たちが期待する逸品なのだと思います。

メモ書きの道具~工房楔のシャープペンシルとコンチネンタルA7メモカバー~

メモ書きの道具~工房楔のシャープペンシルとコンチネンタルA7メモカバー~
メモ書きの道具~工房楔のシャープペンシルとコンチネンタルA7メモカバー~

万年筆店をしているので、何でも万年筆で書くのですか?と聞かれることがあります。
他の方よりも万年筆を多く使っているのは当然ですが、それが不思議に感じられるようです。
本当に万年筆ばかり使っていて、字を書く用事ほとんどを万年筆で書いていますが、中にはそうはいかないこともあります。
そのひとつが複写伝票への記入です。
当店の伝票は少ないのですが、お客様からお取り寄せを承ったり、修理品をお預かりした時に書く伝票が複写式になっています。
その時は筆圧をかけなくてはならないので、仕方なくボールペンを使います。

実は個人的に万年筆がどうしても使えない場所がもうひとつあって、それは家のソファの上です。
ちょっとしたメモや、原稿の下書きなどをソファに座って楽に書いたりしていたのですが、万年筆で書きながら居眠りしてしまい、ペン先がソファに触れて大きなインクのシミを作ってしまったということが2回ありました。
それ以来、我が家ではソファの上での万年筆の使用が禁止となっています。

それからはソファでのメモ書きは鉛筆でするようになって、シャープペンシルを使うようになりました。
工房楔の0.7mmのペンシルは万年筆を使えないシーンでの愛用品となっています。
パトリオットボールペンと比べると細身に見えるけれど、握ってみると適度な太さで、とても楽に書くことができる。
私は通勤の電車の中でもよく書き物をしていますが、そういった場面でも今はこのシャープペンシルをよく使うようになっていて、下書きをシャープペンシル、清書には万年筆という使い方に落ち着いています。

そういえば、シャープペンシルの芯はなるべく値段の高いものを使った方がいいということをずっと思っています。
その時実感したのは、200円と300円の芯の違いで、100円の違いでこれほどまでに書き味が滑らかになり、紙に黒色が付きやすくなるのかと感心したことがありました。
100円均一で売られている芯と比べるときっとそれは雲泥の差だと思います。
万年筆のインクもシャープペンシルの芯のようにグレードがはっきりしていたらどんなに売りやすいだろうかと思うことはあります。
値段が高くなるほど書き味が良くなって、発色が良くなるなどの内容の違いがあればいいけれど、実際はインクの性質や色くらいで、値段の違いは瓶の違いだと思っています。
でもそういう曖昧で大らかなものの方が私は好みなのかもしれないと思っています。

話が少し反れてしまいましたが、道具はそれぞれの適正に合ったものを使うべきだと思うようになって、それが筆記具の場合はメモや下書きは、気負わずに何でも書くことができるペンシルがいい。
それに対して万年筆は清書の道具で、書いたものを定着させるには簡単に消すことができないインクで濃くはっきりと書き記す。

ペンシルと同じく、カンダミサコのA7メモカバーもメモの道具ですが、シュランケンカーフで製作してくれていたものとは別に、味の出る革ダグラスで製作していただいたコンチネンタルA7メモカバーが出来上がりました。

サラッとしたシュランケンカーフとはまた違ったネットリとした色合いと手触りの色気のあるこの手の革がとても好きで、小さなメモ帳カバーとして個人的に欲しいと思っていました。
何度も、何度も言っていることですが、メモは全ての仕事の第一歩で、メモという言葉に非常にロマンを感じ、最も大切なステーショナリーはメモ帳だと思っています。

今回もメモ書きを支える、素材感が溢れ、ロマンが感じられる二品をご紹介いたしました。

⇒A7メモカバー(Pen and message.仕様)コンチネンタル
⇒工房楔 0.7mmペンシルgid=2125792″ target=”_blank”>⇒工房楔 0.7mmペンシル